医務室の会話
医務室の自動扉が開いた。
スズが、その方向を見ると、スーツ姿の青年が立っていた。彼は、カエデとスズに向かってくる。
彼は、スズの隣にパイプ椅子を運ぶと座った。右手首に、銀ベルトの腕時計を着けている。彼が着けている腕時計は、白いアラビア数字に、青い文字盤の高級そうなものだ。
ハルトだ。
その彼の声は静かで、穏やかだった。
「まだカエデは寝てるのか? スズ」
彼女はハルトを見て、うなずく。
「あ、うん」
「そっか」
スズはカエデを見て、首肯する。
「うん」
ハルトはベッド脇の茶色いチェストに、何かを置いた。
それは文庫本だ。二冊ある。表紙がB5サイズでそろっている。しかし、その横幅は、分厚いものから薄いものまであった。
「ハルト。本好きなの?」
「まあ、俺も読むな」
彼は、腕時計の銀ベルトを調整していた。彼の手首には、ベルトの締め具合がきつかったのだろうか。
「けど、こういうの、専ら好きなのはカエデだよ。置いておくと、いつの間にか、読まれて返ってくる。スズは? 本好きなのか?」
「うん。好きだよ」
「最近は、どんな本を読んだんだ? ミステリー? それか、純文学? ホラーなのか?」
「ホラーなんて、好きじゃないよ。ハルト。怖いもの」
ハルトは吹き出したが、いまだにカエデが起きないので、笑いをこらえていた。
「俺もだよ。怖いよな」
スズは図書室にいるように静かにしながら、もろ手を口に当てて驚いた。
「ええー? そうなの? 怖いものないかと思ってた」
「怖いものか。急に大きな音とか、後ろからお化けがでてくるとかか? ほかに怖いって言えば……」
彼は考えるように、あごに左手を当てた。




