つらい思いを心の奥底に閉じ込めて
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
スズがどこかへ向かったあと、ユキが口火を切った。
「どうしてスズは、私のことを、嬉しい、なんて言うの?」
「そんなこと聞いてどうするんだよ……多分、そう思ったからとか?」
ハルトは立ち上がったが、また、ユキの近くに座る。
「ユキは、あいつのことどう思ってるんだ?」
「……会いたいけど、会いたくなかった。スズに謝りたいの」
「それ、謝ればいいんじゃないか?」
ユキは、ふるふると首を振る。
「スズには言えない……まだ、〝実験〟のことを思い出すって、サクラが言ってた」
ユキの呼び方に、ハルトは、あっ、となる。それから彼は、少し顔をうつむかせる。
「なあ、ユキ。苦しかったら言えばいいのに、って思うことないか? なんでみんな、何も言わないんだ? スズも、ユキも、カエデも……」
「自分のつらい思いを心の奥底に閉じ込めてしまえば、楽だから」
ユキはハルトに顔を向けた。
ハルトの顔は見えなかったが、彼女の心はどこか暗くなった。
「さっき、言ってたこと——それは、あなたもなの?」
ハルトは、眉をひそめて言う。
「なんでそこで、俺が出てくるんだよ?」
「さっきスズに話しかけたのは、心が暗くて苦しくなったから? スズが過去に深い傷を負って、それを思い出したから?」
ユキに問われたハルトは、驚いたあとで再びうつむいた。
「俺は、あのとき、助けに行っていれば死ななかったんじゃないか、って何度も考えた」
ハルトは、拳をぎゅっと握って床に押しつける。
「ごめんなさい……私のせいでみんなが……」
ハルトはユキの言葉を遮る。
「やめろ」
ハルトは深いため息をついてから、無言でユキの頭を撫でる。
ユキは少しの間従っていたが、やがて、ぽつりとつぶやいた。
「温かい……あの二人も、よくこうして私の頭を撫でてくれた」
「本当に、優しい人たちだったな」
ユキはハルトの頭を撫でる。
ハルトは眉をムッとさせたが、ユキは撫で続ける。
やがてハルトは、少し眉を下げ、いつもの不満そうな表情ではない顔を覗かせた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




