約束
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
カエデは、誰かのか細い声を、まどろみの中で聞いた気がした。誰——?
彼女は、まぶたをうっすらと開けてみる。…………スズ?
「ス——」
カエデのベッドの向こうで、スズは眠っている。だが、彼女が何か夢を見ているのか、彼女の枕が少し濡れた。
「私、怖かったの。私、お姉さんが……」
カエデはハッとしてその言葉を聞くと、スズのベッドに向かい、彼女を慰めるように、その背中に手を回した。私……何をしてるの?
彼女の両親——ソウマとナギサのことは、よく知っている。
彼女は、優しいヒトたちだと、彼らのことを思っていた。自分には、とてももったいないくらいだ。その娘のスズも、謙虚な性格で、人柄がいい。
遠い昔の記憶の中で、忘れられない約束がある。
彼女の母は、太平洋が見える展望台のベンチで笑っている。その笑顔は、出会った当初から何も変わらない、ヒトを穏やかな気持ちにさせる笑顔だ。彼女は、優しいそよ風のような声で言った。
「カエデ。自分のために生きて。私との約束よ」
ナギサは、スズを自分に、そして、みんなに託してくれた。
そのときのナギサは、少し困ったような顔をした。
「それと、お願いしてもいいかしら? ……スズのこと、頼んでもいい?」
そして、彼女は、微笑みを浮かべた。カエデが出会ったときと変わらない、春風のような笑顔だった。
「かわいいのよ、あの子。きっと、みんなが好きになるわ」
カエデは、枕を涙で濡らす眼前の少女を眺めていた。その彼女の面差しは、幼い頃に戻ったみたいだった。
「あのヒトたちが残してくれたあなたを、みんなと一緒に、私が護る」
カエデは、まぶたを閉じた。
たとえ、私の存在が消えても。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




