逃げる
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
カエデは無言で、そのまま壁際に座り込む。
スズも、カエデとの間を一人分離れて座った。彼女がちらりとカエデを見ても、彼女は無言だった。
スズの耳に、壁時計が静かに秒針を動かしている音が響いている。スズにとっては、時計の秒針が、やけにうるさかった。
カエデは体育座りをしている。しかし、座り込んだ際に、カチャッと、頚部のチョーカーの金属音が鳴った。
スズには、赤い線が入った、艷めく黒いチョーカーが、何か一種の美術品のように思われた。それが彼女には、美しく、そして恐ろしいものに見えた。
スズは美術品は詳しくなかったが、黒と赤のそれが、『オフィーリア』の絵画、という言葉を彼女の脳裏に思い起こされたのだ。『オフィーリア』の絵画は残酷だが、どこか目が離せないほどの美しさを持っている。
「そのチョーカー、前にサクラさんが確認してたよね」
スズがダメもとで尋ねると、カエデは彼女に応えてくれた。
「いつもの作業よ。もう、慣れたでしょうね」
「慣れる?」
カエデは、まるで思い出を振り返るようだった。
「最初、彼女は慣れなかったもの」
スズはうなずく。
「そうなんだ」
「むしろ戸惑っていたわ。私たちを〝クロス〟に閉じ込めたほうが、こうするよりもずっと楽なのに」
カエデはため息をついた。
「でも…………いつも逃げたかったわ」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




