曲の佳境
この物語は、十三歳(中学生)の橘スズちゃんが、パイロットとしての存在を自問しながら、平和維持組織のノヴァ日本支部の室長の青年や、パイロットたちと協力する話です。
「久遠さんって、どういう人なんだろ」
スズがぽつりとつぶやいたとき、カエデが呼びかけた。
「スズ?」
「え? 何?」
スズはカエデが今の言葉を聞き、何か尋ねてくると思ったが、カエデの反応は彼女が予想していたことと違った。
「やりましょう」
「ああ、うん。私と真白さんの番だね」
スズは言いながら立ち上がり、数歩歩く。
「いえ。私とあなたよ」
「え?」
彼女は、ピタリとその足を止める。
「さっき、カエデに難しいステップの見本を頼まれたの。だから、彼女の代わりに私がその場所を踊ることにしたのよ」
「で、私も必要?」
「ええ。隣に相手がいないと難しいもの」
「あの——」
スズは、カエデの姿を探したが、彼女は部屋のどこにも見えなかった。
「あれ? 真白さんは?」
「休憩よ。そのついでに、私たちに飲み物を買ってくるって、さっき」
カエデは、練習部屋の自動扉を見る。
「ああ、そっか。じゃあ、やろうよ。久遠さん」
カエデの折りたたみ式の携帯電話から、音源が鳴る。彼女の携帯電話の色は、紫色だ。
右手と左足を同時に上げた二人は、今度は、左手と右足を上げ、右手を下げ、左斜めに手のひらを向ける。
スズは、カエデを横目で見ると、位置を変えてカエデの左肩に手を添えて右手を差し出そうとしたが、カエデは、目を見開き、バッとすぐに彼女から離れる。
スズは、その場で立ち止まった。
音楽だけがスズの黒い携帯電話から響く。ちょうど、曲の佳境に入っているようだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
スズちゃんは、みんなのことを知りたいと思いながら、ほかのみんなは、他人にあまり話せない秘密を持っていたりするので、新米のスズちゃんに話すべきなのどうなのか、そこの調整が難しいんです……。
一方、スズちゃんも、他人には話せない過去がありますので、本人も悩んでおります。
一見、優秀な登場人物でも、実はとても悩んでいたり……など、人間関係の難しさを表せられたらいいな、と思っております。




