無駄な時間
ユニは生来、事態や現象に驚き焦る事は殆どなく。
こうしてドライアが彼女の想定にない意義を唱えてきたところで、ユニの意思が揺らぐような事はないと断言できる。
「……確かに今回のクエストは竜狩人協会と首狩人協会が同時に発注した合同クエストだ。 でも達成条件を決定したのはラオークさんだよ? 貴女に大した権限なんてない筈だけど」
「そもそもサレスはすでに竜狩人協会を抜けておるしの」
それゆえの冷静な反論に味方するかのようなラオークの後押しを受け、さしものドライアも口を噤むかと思われたが。
「ユニ、アンタが促した覚醒とやらでサレスはサレスじゃなくなっちまってるじゃないか。 アタシが許可したのは前のこの子であって今のこの子じゃないんだよ、解ってるだろ?」
「……ん? 私の話聞いてた?」
当のドライアは今さっきのユニとラオークの話を全く耳にしていないかのような、まるで脈絡のない自分語りを始め。
「とにかくだ、【最強の最弱職】や【輪廻する聖女】のお墨付きだろうが何だろうがアタシゃ認めないよ。 誰より長くこの街に尽くしてきたアタシの大切な秘蔵っ子を変わり果てた姿にしておいてその態度は何だい? 偉くなったモンだねぇ」
「……」
「「「「「……ッ」」」」」
言いたい事は解らないでもないが、それはそれとして会話する気はあるのか? という疑問をユニが呈してもなお捲し立てるような彼女の弁舌は止まらず、ユニがSランクである事を失念しているのか、それとも解った上で貶めているのか定かでないが、いずれにせよユニの口数は少なくなっており。
マリアとラオーク、そしてサレス以外の全員が物言わぬユニの圧に怯え、今にも爆発してしまうのではと警戒する中。
(……もっと明確に『始末しろ』と言うておくべきだったか)
ラオークだけは、ほんの少しの後悔の念を抱いていた。
彼だけは最初から一貫してサレスを人類にとっての厄災であると認識し、場合によってはクエスト後に始末しなければならないかもしれないとさえ考えていたものの、もしクエスト前にユニへ命じておけば、もしくは数年前に自らの手で始末しておけばこうはならなかったのではないかという後悔。
尤も、後者はまだしも前者は叶わなかった筈。
ユニはすでに、サレスを〝布石〟と見ているのだから。
「……ねぇ、ドライアさん。 1つだけいいかな」
「しつこいね、何を言われてもアタシは──」
そして、ドライアだけが壊れた玩具のように喋り続ける異様な空気の中、痺れを切らしたユニが立ち上がりつつ口を開き、こちらへ近づいてくる事も構わず我を通さんとするドライアの額に、ユニは右手の人差し指だけをスッと当て──。
「──私、貴女が思ってるより暇じゃないんだよ」
「は? 何、を……ッ」
「「「「「……ッ!?」」」」」
微弱でありながらも超高純度の魔力が発生したと思ったのも束の間、ドライアはそれ以上の言葉を紡ぐ事なく失神し。
「……蘇生は不要のようですが」
「あぁ。 今は、だけどね」
それが武闘家の【武人術:通撃】である事に気づいたマリアが仲間たちの制止も気にせず近寄り、身体に触れる事で命までは失っていないと全員に知らせる為だったと理解した狩人たちが安堵する中、ユニはくるりと身体の向きを変えて。
「さて、ラオークさん。 貴方にも1ついいかな?」
「……言うてみい」
次はお前だと言われでもするのかと流石のラオークも身構えてしまっていたが、どうやら全く違うものだったようで。
「──竜狩人協会の頭、挿げ替えてみない?」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「……そう来よるか」
1人の竜狩人による理外の竜狩人協会の長への失脚の催促に、マリアとサレス以外の全員が表情を驚愕で染める中。
ラオークだけは、どこまでも平静な様子を貫いていた。
悪くない──と、まるでそう言っているかのように。




