聖女のお墨付き
ユニを除いて唯一、天界に干渉できる人間──マリア。
必然的に彼女は世界中のあらゆる人間より天界を知っており、そこに住まう天使たちについても同様ではあるのだが。
彼女は今、『背後の天使』とフュリエルを呼称した。
つまり、フュリエルを知らないという事になる。
もちろん白翼や光輪の数、何より天界の支配者に最も近いとされる聖なる神気を纏うその姿から、フュリエルが熾天使の一角であるという事そのものは流石に理解できている筈。
もしそうであるなら、フュリエルだけが例外で他の熾天使には会った事がある可能性もなくはないし、『ユニ様以外の下等生物には興味がありませんので』と常日頃からそう曰っているフュリエルがマリアを知らなくても納得はできるが。
ここに至るまでの道中でフュリエルがマリアを認識している事は知っていた為、おそらくフュリエルだけが一方的にマリアの存在と特異性を把握していた、という事なのだろう。
「彼女はフュリエル、熾天使だよ。 天界におけるNo.2の天使なんだけど、色々あって今は私に仕えてくれてるんだ」
「熾天使を従者に……相変わらず規格外ですね」
だからか随分と無愛想な様子のフュリエルを尻目に他己紹介した後、『そんな事より』とユニはすぐさま話題を変え。
「君はさっき、サレスを何て呼んだ?」
「……〝死神〟、と」
「何故?」
「何故と言われましても……」
マリアが気にしていたもう1つの存在、サレスを初見で死神と呼んだ理由を問うたところ、『うーん』と唸ってから。
「……あまりに私と正反対だから、でしょうか」
「と言うと?」
「【墓荒らしの女王】のように冥界へ干渉できると言われても納得しかねないほどの濃密な死の気配が、そのまま人間の形をしている──……私には、そうにしか見えないのです」
「なるほど」
巷でよく彼女の〝対照的な存在〟として比較されるSランクの死霊術師にして、まさにマリアの正反対である〝冥界へ干渉する術〟を持つ竜狩人──フェノミア=ポルターガ。
かの【墓荒らしの女王】に限りなく近く、しかし似て非なる〝狂気〟を感じ取ったがゆえの呼称だったと語るマリア。
僅かな罪悪感も見えるが、ユニにとっては僥倖だった。
(【輪廻する聖女】のお墨付きってわけだ)
人間でありながら天使クラスの神気を帯びる彼女が警戒するという事は、それだけの脅威に育ち得るという事だから。
「で、だ。 私はこの子をリュチャンタに連れて帰って正式に暗殺者として首狩人登録させるつもりなんだけど、その為にはいくつかの条件を達成しなきゃいけないんだよ。 その内の1つに〝救助対象以外の犠牲者を出さない〟ってのがあったんだけどね、あいにくこの子以外は全滅しちゃってさ」
「その幾人かも蘇生させろと仰るのですか?」
そんな確信も相まって勢いそのままにサレスの移籍条件を満たすべく、8人の護衛たちの蘇生をも任せようとしたが。
「……危険かと。 その少年は人間にとっての〝厄災〟です」
「私でも引くぐらいの狂いっぷりだからねぇ」
「そうだね、だから──」
残念ながら、それはきっぱり断られてしまった。
当然と言えば当然だろう、初見で〝死神〟と呼んだ少年を蘇らせなんてしたらどんな〝厄災〟に見舞われるか解らないし、レイズもそんな彼女の危機管理能力を後押しする始末。
……しかし今、2人の前に居るのは【最強の最弱職】。
誰にも媚びず、顧みず、己の意思だけを通す──怪物。
だからこそユニは、にこりと微笑んで──。
「──呑まないなら、君たちを〝人質〟にするしかないね」
「……はっ?」
「あ〜……そうなっちゃうのかぁ。 嫌だなぁ怠いなぁ」
「えぇ……? もう、何が何だか……」
「返事は?」
「……はい。 では、もう一度……」
マリアにとっては全く要領を得ない、しかしレイズにとっては可能性の1つだった代替案を提示され、レイズの様子から厄介ではありつつも確実な方法なのだろう事を察してしまったマリアに気がついたユニからの追い討ちに、マリアは頷かざるを得なくなり、またもアルテミスを構えるのだった。
(やっぱ怖いねぇユニは。 さっさと迷宮出て引っ込もっと)




