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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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所長室にて 4

登録ありがとうございます!

今年初めての投稿です。今年もよろしくお願いします。

 私は便箋に必要なことを一通り書き終えると、ふう、と溜息をついた。自分でぬるめのお茶を淹れて一気に飲み干す。手紙の内容を見直し、伝えたいことを書けているかを確認する。


 一応、この一文を入れておかないとシャルに怒られる。


 追伸:シャルがお前の茶葉を欲しがってたぞ。


よし!書くべきことは、書いた。俺の仕事はここまでだ。


 例えエルデがシャルの申し出を断ったとしても、こればかりは致し方ない。材料の都合もあるだろう。エルデのことだから、材料に王宮で持ち込めない物を使っている可能性もある。今回はシャルの要望をエルデに伝えるだけに徹しよう。


 私は弟の使い魔に声を掛け、小さな干し肉の塊をお湯でふやかした物が入った皿を目の前に置いてやる。オウは可もなく不可もなくといった表情で皿の中の肉を啄み始めた。


「オウ、エルデにこれを渡してもらえるかな。返事は今日じゃなくてもいいけど、できたら早めに欲しいなぁ。」


オウが肉を食べ終わった頃を見計らって私はそう言うと、私は弟への手紙を丸め、オウが足首に結びつけていたリボンに結び付けた。


「お主の手紙はちゃんと運んでやるが、エルデからの返事は期待するなよ。」


オウは私を振り返り念話でそう言い残すと、ザッと羽音を立てて窓から飛んで行った。


 使い魔から己の主に期待するな、とはねぇ―――全く、あの主従はどうなっているんだ。


使い魔とは契約者のいう事を従順に聞くものではないのか?私は弟の事をぼんやりと考えながら、しばし窓辺から彼の使い魔が飛び去った王都の変わらない風景を眺めていた。






       ********************************************************






 シャルを王宮図書館へ先導したベルクが所長室へ戻って来た。心なしか、ベルクがげんなりしているように見える。


「ベルクお疲れ。一緒にお茶でも飲もうか。そこに座りなよ。」


私はベルクに声をかけ、彼を先程までシャルが座っていた場所に座らせた。茶葉を入れ替え、ベルクにお茶を勧めると私もベルクの向かい側に腰を下ろす。


「何か食べる?」


 私は戸棚にしまっていた焼き菓子の袋を出すと、袋ごとベルクの前に置いた。ベルクはさっと菓子の袋に手を伸ばすとすぐに封を開け、袋を抱え込んで中の菓子をむしゃむしゃと食べ始めた。


「流石のベルクも、王宮内で隠蔽の魔法を立て続けに使うのはそれなりに疲れるか。」


ベルクはひとまず口の中の菓子を私の淹れたお茶で流し込み、口を開いた。


「アーク、せめて一仕事後の菓子位ゆっくり食べさせてくれよ。どちらかと言ったら俺は隠蔽の魔法よりも浮遊の魔法の方が遥かに疲れるかな。シャルが速過ぎて、先導する俺がシャルに追いつかれないようにするのが大変だったよ。」


そう話しながらもベルクの手は菓子の袋の中と口元を往復していた。


「ああ、シャルはあれを使ってしょっちゅう王宮を抜け出しているからな。おいベルク、今ここにある食べ物はこれしかないんだ。全部食べるなよ。」


私は焼き菓子の残り具合を心配してベルクを牽制した。ベルク、俺の分も残しておけよ。


「やれやれ、お偉いアーク様の食い意地も大したもんだねぇ。後で俺が王都で同じものを買って来るから、悪いがこれは全部俺にくれ。」

「おい、サロン・ド・マーゴのカデシロップ掛けだぞ。似たような名前の店や菓子が沢山あって紛らわしいんだから、()()()間違えるなよ。ついでに同じ種類のマルローの皮入りも買ってきてくれるならいいよ。あれも後味が爽やかで実に旨いんだ。」

「日持ちするんならまとめて買って来てやるよ。アーク、軍資金はあるんだろう?」


私はポケットから数枚銀貨を取り出すと、親指で弾いてベルクへ渡した。


「三枚とも表か。」


ベルクは掌で順番に硬貨を挟むように受け取ると、呟いた。それから銀貨を上着のポケットにしまうと―――


「アーク、何があった?」


と言って私の顔を見た。ベルクは察しも良いし、今後私が表立って動けない所で彼に動いてもらうことも多くなるだろうから、この情報は共有しておいた方が良いだろう。私は弟からの手紙をテーブルにばさっと置き、ベルクに読むように促した。


「良いのか、アーク?これ報告書ではなくて私信(てがみ)だろう?」


ベルクはもう一度私の顔を見て尋ねてきた。私はゆっくりと頷く。


「ああ。私の代わりにベルクに動いてもらうことが増えるから、ベルクも知っておいた方がいいと思う。読んでくれ。今後もこういうことが増えると思うはずだ。」


ベルクは軽く一礼して弟からの手紙にさっと目を通した。彼は手紙を読んでいる間に一度大きく目を見開いただけで、声一つ立てなかった。


「流石ベルクだな。私は大声を出してしまいそうになって必死で口を押えたのに。シャルはこれを読んだ時に大声を出して驚いていたよ。シャルらしいと言えばシャルらしいけどな。」

「そうですか。外で待機していた俺には全く聞こえませんでした。防音結界のお蔭ですね。」


ベルクは微笑むとお茶を一口飲んだ。大声を出して驚くシャルを思い浮かべたのだろう。


「そう。それなら良かった。」


私はお茶を飲み干すとカップをテーブルに戻し、ベルクの顔を見た。


「一つ付け足すと、今、研究所と王宮内でこの件を知っているのは、私とシャル、ベルクだけだ。」


ベルクは目を見開くと、はぁ、と大きな溜息をついた。


「アーク。そんなに俺の事を買い被られても困るんだけど。」

「いや、私がこういった用件でで頼れるのはベルクだけだからな。」

「全く・・・。そう言えば、俺がアークの思い通りに動いてくれると思ってるんだろう?」

「そうだね。」

「ええっ?」


私が素直に返事をしたことにベルクが驚いていた。そんなに驚かなくてもいいのに。


「何だ、珍しくいつもと違って素直だな、アーク。」

「ああ。どうせベルクは端からお見通しなんだろう?」


私は肩を竦めると、ベルクに向かって微笑んだ。


「全く、相変わらず性質(たち)の悪い坊ちゃんだな。貴方が動くと立場上差し障りがあり過ぎるから、目立たないよう俺が代わりに動くしかないんでしょうが。」

「うん、そうとも言うねぇ。」

「何だよ、そのにやけた顔に緩み切った返事。そんな呑気な話だったか?」

「呑気・・・とまでは言えないけど、物騒な話ではないんじゃない?さっきまでシャルと話してたからシャルの口調が移ったんだと思う。」


ベルクはがしがしと両手で頭を掻きむしると溜息をついた。


「はぁ・・・全く、振り回される方の身にもなってくれよ。」

「だって、ベルクなら大丈夫だろ?」

「アーク、何が大丈夫なんだよ!俺だって大変なんだぞ?!」


激昂するベルクを見て、こういうベルクも久しぶりだなぁ・・・と思ってしまった自分が何だか面白い。


「ベルク、落ち着こう?それなら、先程買ってくるように頼んだ菓子、ベルクの分も俺と同じだけ買ってきていいよ。」

「おまっ・・・アーク、また俺を食べ物(えさ)で釣ろうとしてるだろう!」

「私は()()()()()ベルクに報いたいと思っているからね。何ならサロン・ド・マーゴの新作も付けようか?」

「何っ?サ、サロン・ド・マーゴの新作っ・・・くうっ、いや、でも、俺の勘だとそれだけでは割に合わなさそうな気がする。やっぱりアークの分の新作は無しだな。」


エルデの手紙を読んだだけでこう来たか。相変わらずベルクの勘は鋭いな。


「おい、いくら買いに行くのがベルクだからとはいえ、お金を出している私の分が無いのは有り得ないだろう。ああもう、仕方がないなぁ。」


私は追加で銀貨を二枚親指でベルクの方へ弾いてやった。今度は表裏を判別することなくそのままベルクは銀貨を受け取った。


「アークの分もサロン・ド・マーゴの新作を買って来て欲しいってこと?」

「折角ベルクがサロン・ド・マーゴへ買い物に行ってくれるんだ。当たり前だろう。」

「アークの分の新作も買うんならお金が足らないってば。あーあ、お坊ちゃまは人の使い方だけでなくてお金の使い方も知らないのかねぇ。サロン・ド・マーゴは高級店なのにそこそこ混んでるから買いに行くだけでも大変なんだぞ。お駄賃位上乗せしてくれよ。」

「駄賃はお前の分の菓子でいいだろうが。」


私は舌打ちをすると、もう一枚ベルクに向かって親指で銀貨を弾いた。ベルクは満面の笑みを湛えて銀貨を受け取ったが、そのまま笑みを浮かべたままである。


「・・・ったく。ついでに王都で好きな物でも食べて来いよ。」


私は更に一枚追加してベルクに銀貨を弾いて渡した。ベルクはしたり顔で銀貨を受け取ると、


「これはどうも。話の分かる上司(おかた)で何よりです。それではアーク様御所望の甘い物を早速入手しに参りましょう。」


銀貨を上着のポケットへしまったベルクはその場で立ち上がると胸に手を当てて優雅に一礼した。ベルクの変わり身の早さに唖然とした私をそのままに、ベルクは颯爽と所長室を出て行った。

アークは今の所使い魔を持っていません。アーク達の話はここで一段落です。次回からは魔法屋でエルデ達の話になります。


今回も最後までありがとうございました。

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