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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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所長室にて 3

登録ありがとうございます!

 「あらぁ、大丈夫でしょう。アーク、あなたが寄越してくれたベルクでさえ浮遊魔法と隠蔽の魔法を使えるんだもの。あなたもエルデも、二人共とっても優秀な魔法の使い手なんだから、これっぽっちも心配なんかする必要はないわ。」

「まぁ、シャルがそこまで言うのなら、そういうことにしておきます。」

「だって、当たり前じゃない。私とシグの子供だもの。んふふ。」


シャルはにっこり笑って私に言い切った。自分の両親のことながら、夫婦仲が良過ぎて呆れる位である。


 「まずはエルデ自身が学院の教本をどれだけ持っているかをエルデに確認しないとなりませんね。」

「そうねぇ、それはアークがあの子に聞いておいてくれる?王立図書館の方は私が聞いておくわ。」

「分かりました。それでは、そのように。」


 それから、シャルはとても良いことを思いついたと言わんばかりの笑顔で私に恐ろしいことを言った。


 「アーク、エルデに手紙を出す時に私にもお茶を送って頂戴、って一言添えておいて。」

「ええっ!?」


驚きのあまりしばし言葉を失った私は、深呼吸をしてからお茶を一口飲んだ。


「シャル。いくら私と言えどもエルデにそれは頼めま―――」


と言って私は断ろうとしたが、シャルはキラッキラとした笑顔で私の顔を見ている。

どうやら私はシャルの視線に負けたようだ。


「はぁ、仕方がないですねぇ。私から一応頼んでみる()()()しておきましょう。頼んだところで、送ってもらえるかどうかは分かりませんよ。私に期待しないで下さいね。頼んではみますけど。」


―――私はエルデの手紙に一文を添えるだけしかやりませんからね!


私は思わず口から零れそうになった心の声を、何とか口内で阻止できた自身の理性に心の中で乾杯した。


 「それなら、エルデに伝えといてね。それからこのお茶って、エルデのお店では売ってないの?」

「ええ、売るつもりは全くないそうですよ。そもそも量も自分が楽しむ程度しか作っていないようですし。エルデも採取に行って材料が揃って気の向いた時に、一気に色々試しながら作っていると言っていました。」

「これ王宮でとても流行ると思うんだけどなぁ。エルデも意外とケチなのねぇ。」

「シャル、エルデの仕事はお茶作りではないのは覚えていますよね。彼は仕事の合間に、自分自身が楽しむためだけに作っているんです。いくら店をやっているからとは言え、茶葉(これ)で儲けようなんて露程も思っていないんですよ。珍しいからと言って、王宮でエルデの茶葉を広めようなんて真似は、()()()やめて下さいね。」


 これは大事なことなので、しっかりシャルに釘を刺しておく。


「ええ~。今度のお茶会の目玉にしようかと思ったのに。私、そんなにあの子に嫌われてるのかしら。」


シャルが物凄く残念そうな顔でカップをテーブルに置いた。


「エルデのお茶を王宮で広めようとしたら、確実に嫌われるでしょうね。彼の本業はお茶作りじゃないんですよ。シャル、分かってますよね。」


大事なことなので二回言い、私はシャルを軽く睨みつけた。


「ええ・・・。それは、分かっているわ。私だって研究所(ここ)の一員なのですから。」


私はシャルがエルデに無理難題を押し付けようとしなかったことに安堵した。


「エルデからの手紙には、父上やシャル、私達兄弟のことを気遣う内容も時々書かれています。ただ、エルデは貴族社会(おえらいさん)のやり方を押し付けようとすることに極度の拒否反応を示しますから。」

「誰かがやらかしちゃった、ってことよねぇ・・・。」


シャルが遠い目をして溜息をついた。まぁ、今となっては昔の話だ。


 「それにね、シャル。どうやらこのお茶には王宮へは持ち込めない材料が含まれているかもしれないのですよ。」

「え、そうなの?」

「はい。ファルドの森で採取した植物や我々が普段毒草とみなしている植物も材料に使うことがある、と手紙に書いてありました。」

「でも、お茶を飲んだ時に毒の味は全くしなかったわよ。」


 立場柄、シャルも私も毒物に耐性を付けるために微量の毒を口にすることはあるし、自分が口にした物に毒物が混ぜられているかどうかという判断は問題なくできる。


「勿論、お茶として調合する前にで毒として作用する成分を抜いているそうですから、このお茶に毒は入っていませんよ。このお茶はあくまでも嗜好品で、毒に耐性を付けるために飲むためのお茶ではありませんからね。」

「そう・・・。あの子も随分厄介な材料(もの)を使うのねぇ。この豊かな香りと素晴らしい風味からは、そんな材料が入っているなんて全く想像がつかないわ。」

「確かに何も言われずに出されたらそうでしょうね。毒草と言われている植物から毒以外の効能を探すのも、彼の研究という道楽の一つなのでしょう。不定期ですが研究成果は研究所(こちら)にきちんと報告されていますよ。内容が内容だけに閲覧できるのは私が許可を出した者のみですが。」

「そうだったのね。全然知らなかったわ。アーク、後で私にも見せて頂戴。」

「分かりました。後程ベルクに届けさせましょう。毒物を扱っているため、王宮内では禁書扱いになります。研究所以外への持ち出しは禁止されておりますのでお忘れなきよう。」


 私は頭の中でベルクに持たせるエルデの報告書を幾つかピックアップした。後で資料室から取って来よう。


 「分かったわ。報告書はソフィーに渡しておいてもらえるかしら。毒草の無害化だったら、申請すれば研究所(ここ)でいくらも研究できるのにねぇ。ここの方が予算も場所も潤沢だと思うんだけど。」

「うーん。申請するのが面倒だというのもあると思いますが、そもそもエルデはここに来ること自体が面倒なんじゃないんですか。」

「ああ、そういうことね。全く、誰に似たのかしら・・・。」


 アークの言葉に甚く納得したシャルは、額に掌を当ててげんなりした。公的な場では辣腕を振るいながらも実に細やかな気配りを見せる彼女の夫が、私的な場では息子達も含む彼女に関すること以外に全く興味を持っていないことをシャルは知らない。そして自分が興味を持っていること以外は悉く無関心、という彼の残念な性質は彼の息子達に遺憾なく受け継がれているのである。



 「アーク、長くなったから私もそろそろ行くわね。それから、エルデに手紙を出す時に魔力検査をしたかどうかも確認しておいて。」

「ええ、そうしておきます。それではまた。」

「そうね。また近いうちに顔を合わせることになるわね。楽しみだわ。」


シャルは私に微笑みながらそう言うと席を立った。私は防音結界を解くと、シャルをその場に待たせたまま所長室の入り口へ向かう。私は所長室の扉を開けると、外で待機していたベルクに声をかけた。


「ベルク、ありがとう。話は終わったのでシャルの先導を頼む。行きと同じように移動中は隠蔽の魔法を必ず掛けておいてくれ。」

「あら、浮遊の魔法も使って行くわよ。」

「隠蔽の魔法と浮遊の魔法ですね。それではアークはこちらの確認を。指示は出しておきましたので、内容の確認だけで大丈夫です。」


ベルクは預かっていた文書を数枚、私に渡した。やはり入口でベルクを待機させておいて良かった。防音結界を張ってあるとはいえ、研究所内には私を含め読唇術に長けた者がそれなりにいるからな。


「シャルはどちらまで?」

「そうねぇ、王宮図書館まで行こうかしら。」

「畏まりました。それでは王宮図書館まで先導致します。」


シャルは早速、王宮図書館に赴いてくれるようだ。


「アーク、後は宜しくね。」

「はい、エルデからいい返事が来ることを祈るばかりです。」

「アーク、そこはオウちゃんに頑張ってもらいましょう。うふふ。」


使い魔が頑張るのは手紙を運ぶことだけなのでは?と思ったが、シャルは笑顔と共に好奇心に満ち溢れた瞳をこれでもかと言わんばかりにキラキラとさせている。それとも、シャルはここにいる間にこっそりエルデの使い魔に何かを吹き込んだのか?


 そうこうしているうちに、シャルはベルクの先導で所長室を去って行った。


 私は所長室の執務机に戻ると、引き出しから便箋を取り出した。弟からの手紙に返事を書かねばならない。書く前に、伝えなければならないことを整理しようか。


・教本は魔法の才能のある者には無償で配布されるので、サーラの分の教本代は不要。

・エルデも魔法を人に教える必要上、教本を一式持っていた方が良いと思うが、学院を飛び級しているため一部の教本を持っていない可能性がある。手持ちの教本のリストを送付されたし。

・エルデが未所持の教本は指導者用として扱うため費用が発生するが、教育の記録を提出することで指導用教本代の支払いが免除される。教育の記録の提出をしない場合は素材やポーション類等との等価交換でその費用を相殺できる。

・教本は通常図書館で使用する本人の魔力を流す必要があるため、サーラが図書館に来る必要がある。

・サーラの身の上に事情があることと、その容姿が学校の図書館では非常に目立つと思われるため、王宮図書館の書庫を人払いして、そちらで教本を渡すことになる予定。王宮図書館の都合の良い日の中から都合の良い日にちを連絡して欲しい。

・サーラは変装してくる予定はあるか。

・サーラの魔力検査は済んでいるか。


まあ、ざっとこんなもんか。

これで今年、2020年の投稿は最後です。来年2021年最初の投稿は通常通り、2週間後の1/12(火)12時予約投稿の予定です。ストックが減ってきたので書き進めないと・・・


私事ですが、学生時代の友人が亡くなりました。喪中はがきでそれを知り、遠くから冥福を祈るばかりです。それから、家を出て以来、人生初の帰省しない年末年始を迎えることになりました。普通や当たり前ってそもそも何?と思うことも多々ありますが、今年は色々と今まで当たり前、普通としていたことが普通じゃなくなった一年になってしまいました。現実はともかく、小説の中くらいは穏やかな変わらぬ日常(?)を書き続けられたらと思っています。どうか皆様もご自愛しつつ良いお年をお迎え下さいませ。


今回も最後までありがとうございました。

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