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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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秘密の近道

登録ありがとうございます!今回はベルク視点です。

編集が長引いてしまい、いつもより1時間遅れでお届けします。次回はいつも通り12時にお届けしたいです。

 アークが普段執務を行っている所長室は研究所の最上階にある。皆が所長室へ行くために普段使う階段は機材の搬入もできるようそれなりの広さがある。持たざる者達の妬みや嫉みも多少織り込まれているからか、変人奇人の巣窟とも言われる研究所も()()王立施設であるが故に、簡素だが良質の材料を用いて作られている。


 アークから白い封筒を受け取った俺は所長室を出ると、通路の奥の非常口へと静かに足を進めた。非常口はその名の通り非常用の階段のため目立たない通路の奥にあり、普段はほとんど使われていない。


 俺は念のため周囲に誰もいないことを確認しながら、音を立てずに非常口の階段の踊り場まで下りた。階段を下りるついでに周囲に変な魔道具が設置されていないかどうかも確認しておく。ここは所長室に近い所だから、色々注意し過ぎる位で丁度いい。どうやら今日も問題はなさそうだ。


 俺は周囲の安全を一通り確認し終えると、自身に隠蔽の魔法を掛けた。よし、これで俺の姿と気配は認識されないはずだ。アークも急ぎだって言ってたし、今日は天気がいいから回廊から適当な所で屋根に登って、屋根伝いに歩いて行くか。雨が降ってたら王宮の隠し通路を通って行くんだけどさ。


まあ、俺が王宮の隠し通路を使っているのをアークも薄々感づいているみたいだけどね。俺がどの通路を使っているかがアークにばれると、アークは立場上そこを封鎖しなきゃならないらしいから、俺も知らんぷりしてる。アークも俺が隠蔽の魔法を使った時しかそれを使わないのを知ってるから、そのまんまにしてるって感じかな。俺だって命がおしいから、隠し通路を使ってる時に本物の密偵や刺客達に出くわしたくないから、ちゃんと隠蔽の魔法を掛けてるんだ。


 ―――ああ、俺?


 俺はベルク。縁あって王立魔法研究所で働いている。ここの所長、アークの使い走りみたいなもんだ。研究所風に名乗ってみたけど、俺は根っからの平民だから下の名前なんて物は、元からある訳がない。王国は王制だからそれなりに身分制度はあるはずなんだが、研究所や学院、学校といった魔法絡みの所は、身分よりも魔法の力そのものが重要視されてるから、俺もこの仕事にありつけたんだろうと思ってる。


 実は今の仕事に就く時に、アークから身分が欲しいならアークの伝手でとある貴族の養子に入ることもできると言われたんだけど、俺は自分の家族を誇りに思ってるし、貴族になると色々と面倒臭そうだから断っておいた。


「研究所だって学院と同じで、仕事するのに身分は関係ないだろう?」


俺がこう言ってアークに養子縁組の話を断った時、アークは「まぁ確かに、そうだよな。」と苦笑していた。アークも学院で初めて出会った時は年下の癖に随分生意気な奴だなぁと思ってたけど、良く話してみると悪い奴じゃなくて、すげぇできる奴だった。その時からの付き合いだから、もう今となっては腐れ縁ってとこか。


 これ本当は内緒の話なんだけど、アークの奴って普通なら俺なんかがおいそれと会うことのできるような人じゃないんだぜ。だから俺や他の平民連中とも普通に話せる学院とか研究所を作った人はすげぇなあと思うよ。多分アークとしては、自分の傍にいる俺にも貴族という同じ立場に立って欲しかったんだろうなぁ、と思う。でもその話を聞いた時、俺は素の自分が変なところで出てしまい、アークの足を引っ張る自分の姿しか思い浮かばなかった。学院の寮に入るまでずっと平民として暮らしてきたんだ。どう考えたって俺には貴族同士の(そういう)付き合いは無理だ。それに、俺は身分が欲しくてアークの手伝いをしている訳じゃないからな。


 そうそう、俺の仕事って何?と聞かれると「色々」としか答えようがない。アークから頼まれた厄介事を片付ける他にも、アークが仕事をしている時は執務室の警固、そうでない時はアークの護衛。あ、アークの護衛と警固はアークの仕事が終わるまでね。さすがに俺も寝ないと身体が持たないから、俺がいない間は他の人に頼んでるってアークが言ってた。それから、俺の隠蔽の魔法を利用して密偵紛いのことをさせられたり、今みたいにただのお使い(メッセンジャー)みたいなこともさせられる。アークは滅茶苦茶人使いが荒い(おれをこきつかう)が、その分待遇もいいし給金も弾んでくれるから、王都にいる俺の両親や弟妹(ちび)達には楽をさせてやれてると思う。


 え、思うだって?俺は仕事柄アークの傍にいることが多いから、王都に家があっても中々家には帰れないからさ。家の細かいことはよく分からないんだってば。


 なら今俺はどこにいるのかって?今の仕事の「お試し」みたいなのは学院の時からやってたけど、学院の時は寮に入る決まりがあったから普通に寮にいたんだよね。学院を卒業して寮は追い出されたから荷物は家に持って帰ったけど―――まあ俺が居座っても、後から学院に入って来る奴らが困るから仕方ないよな。


 アークも研究所の所長になったらすっかり仕事馬鹿になっちまってさ。アークが夜遅くまで仕事してるから、アークの仕事が終わらないと俺も自分の仕事が終わらないってことになる。で、研究所から俺ん家は近いんだけど、仕事が終わって夜遅くに家に帰ると、家が狭いからお袋や弟妹達が起きちゃうんだよね。流石に何度もそんなことがあるとお袋に悪いなぁと思って、しばらくは所長室のソファーで勝手に寝てたんだ。でも、アークもいつも所長室で仕事をしてる訳でもないし、アークも朝仕事に来た時に俺がソファーで寝てるのを見るのは嫌だ、ってなって、アークがあれこれ書類を作ってさ。アークの居場所の近くにいくつか俺が寝るための部屋を用意してくれたんだよね。まぁ、その書類を全部持って行ったのは俺なんだけどさ。


 着替え?ああ・・・着替えねぇ。俺ん家はそこまで裕福でもなかったから、俺自身、服は着れればいいやって感じ。今はほとんど仕事が終わると寝るだけの生活だから、荷物もそんなにないからね。アークの仕事で王宮なんて凄い所にも行かないとならないけど、研究所のローブを着てさえすれば、これが驚いたことに王宮も普通に入れるんだよ。学院の頃から話としては聞いてたけど、実際に俺も初めてローブ着て王宮に行って、すんなり入れた時はおお~って感動したぜ。


 つい最近までローブの下は学院に入る時にお袋が用意してくれた服を勿体無いからそのまま着てたんだけど、アークが俺の立場も考えろって言ってきてさ。研究所に入ってしばらくしてから―――ちょうど俺の寝る場所をアークが手配してくれた頃か?―――ローブの下はアークが手配してくれた服を着るようになった。どうやらこれって王宮の連中が仕事の時に着る服らしい。誰かが寝る部屋に着替えとしてきれいなのを幾つか置いて行ってくれてるからね。学院の時と違って自分で洗濯しなくていいから、有難く着させてもらってるよ。


ん?お袋が作ってくれた服?ああ、もちろんまだ着れるから休みの時に着てるよ。アークにもこの服は絶対に捨てるなってきつく言ってあるから大丈夫。洗濯は誰かがやってくれてるけどな。


 風呂は寝る部屋についている所もあるし無い所もあるけど、部屋に風呂がない時は研究所か騎士団の訓練所でシャワーが使えるから別に困ることはない。着替えだけ持って行けばタオルやなんかは向こうにあるから大丈夫。食事も王宮で働く人が使う食堂でいつでも食べれるから自分で作らなくていい。仕事はきつい時もあるけど、生活面ではかなり楽させてもらってるから、まぁ働いてお金を貰うってのはこんなもんなんだろうな。


 時々お袋から研究所に手紙が来て、俺のお蔭で随分暮らしが楽になった、弟や妹たちも安心して職業学校へ通わせられているとよく書いてあるから、実際そうなんじゃないか?まあ研究所にお袋からよく手紙が来るってことで、手紙のベルクなんて研究所内で有名になってしまうとは思わなかったけどな。学費はいらなかったとはいえ学院に進んだから、一番上の俺が働いて家に金を入れられるようになったのが遅れた分の利子ってことで諦めてる。手紙の返事?ああ、家に仕送りをするときに一応返事まではいかないが、一言は添えるようにしてる。アークから頼まれた仕事をしてると、言っちゃならねぇことばかりだ。だから元気に働いてる、みたいなありきたりの事しか書けないんだけどな。


 それから、なぜか分からないけどアークは時々旨い物を俺にくれるんだ。それこそアークからもらった菓子を家に持って行ったらお袋や家の弟妹達も喜ぶんだろうが、アークってば王家御用達のすんげぇ高い奴もさらっと分けてくれるんだよな。前に一度お袋に食わせようと思って高級な菓子を持って帰ったら、お袋は食べずに弟妹達に全部やっちまったらしいからな。それからは、こんな贅沢な物をあいつらに食わせたら、お袋が普段の食事を作るのに困るんじゃないかと思って、お袋には悪いが俺が全部消費することにした。こういう良い物は、自分で稼げるようになってからお金溜めて買えばいいんだ。本当はお袋に食わせてやりたいのに食わせてやれないのが申し訳ないけどな。


 アークとの付き合いはさっき言った通り、学院で俺が隠蔽魔法を使っているところをアークに見つかってしまったことから始まった。


 俺の隠蔽の魔法は自分の姿と気配を隠すためのもので、周囲の人は俺と接触しても何もない所でぶつかったように感じるらしい。これは学生の時に俺が使っているこの魔法について興味を持ったアークが、ごく一部の限られた人物だけにしか知られないようにしつつ散々試した結論だ。アークの無茶振りもあって、俺は学院にいる間に俺ともう一人だけなら隠蔽魔法で姿と気配を隠せるようになった。


 アークの話だと、アークが学院にいる時に上の連中(おえらいさんたち)に掛け合って、この隠蔽の魔法は魔法の研究成果として公表しないことになったらしい。それから、隠蔽の魔法は知っている人も限られるが、使える人物も限られるってことだ。アークは使えるけどね。これまたアークから聞いた話だけど、アークが隠蔽の魔法を教えた時は、教えた人全員が使えるようになった訳ではないらしい。アークは習得率のとても低い魔法だと思ってるって言ってたな。まぁ誰もが簡単に使えるようになったらまずい魔法だなってのは、使ってる俺自身だってそう思うよ。


 俺の昔話をしながら歩いてるうちに、シャルのいる部屋も近くなってきたな。今日はここの隠し扉から、そろそろ建物の中に入るか。




 俺は隠し通路から王宮の人通りの少ない廊下へと出た。廊下の隅で周囲に人の気配と監視用の魔道具が無いことを確認してから、隠蔽の魔法を解く。王宮内で誰かに会おうとする時に、取り次ぎ無しでいきなり本人の目の前で姿を現したら、それこそ刺客と間違えられて俺が捕まるからな。普段はいい加減な俺でも、その辺はアークの為にもきちんとしておかないとまずいのは分かっている。俺をこき使っているアークは一応、あれでも王立魔法研究所の所長様だからな。


 さて、お使いベルクとして俺も一仕事するか。


 俺はシャルがいるであろう部屋の前に行くと扉の脇に立つ護衛に声を掛け、アークにから渡された封筒をシャルに渡すように頼んだ。護衛が白い封筒を持って部屋へと入って行く。俺は返事が来るまで扉の前(ここ)で待機だ。しばらくすると、静かに部屋の扉が開き、さっき封筒を渡した護衛が出てきた。中から小柄な女性が俺を手招きしている。あの背格好は・・・ソフィーではなく、シャルだ。俺は部屋の中に入るとシャルの前へ進み出て一礼した。

ベルクってこんな人だったんだ・・・と書いてびっくり。ベルクは両親共に平民の家庭で生まれ育ったため、素では今回のような砕けた口調になります。文体も彼の砕けた口調に合わせて砕けておりますのでご容赦下さい。


次話の前に急遽この話を入れることにしたのですが、ベルクが思いの外饒舌で予定よりも長くなりました。話も長くなるし、前回シャルも登場しますと予告した割にはシャルは一瞬しか出て来ないし、ソフィーも名前だけここで出てくるとは思わなかった。ソフィーは次回も出てきますが、登場は少しだけの予定です。次回はシャルとアークに注目ですよ!

最後までお付き合い下さりありがとうございました。

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