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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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弟からの手紙 2

前回の続きです。

 私は弟からの手紙にさっと目を通したが、その内容に驚いて思わず大声を出しそうになってしまった。


「ぐむぅぅ~っ。」


 思わず左手で口元を押さえたが、変なうめき声が出てしまった。慌てて窓辺を見たが、弟の使い魔のオウは何事もなかったかのように静かに眠っている。ああ、口の中に何も入っていなくて本当に良かった。口にお茶を含んでいたら、持っていた手紙がお茶で台無しになっていたことだろう。


 私は慌てて手紙を机の上に置くと、右手も自分の口元に当てた。今にも叫び出しそうな気持ちを落ち着かせようと両手を口元に当てたまま鼻から大きく息を吸って深呼吸をする。いつもの定期報告のように何もないだろう、と高を括っていた自分もまだまだだな、と反省した。



 ―――嘘だろ、おい。



 弟が報告してきた内容は、彼の性格を知る私にとって「ありえない」としか言いようのないものだった。





       ********************************************************






 サーラ・ファリュージャという名前持ちの女性をファルドの森の中で保護した。

年齢は十六。髪は銀色でゆるくウェーブがかかっており、肌は白く瞳は紫色。目はぱっちりとしている。こちらの言葉は通じるようでエルヴァトラ語での会話は問題なくできている。保護した時点で名前と年齢しか記憶が無い模様。


 また、ファリュージャという名前は王国内には存在しないことと、国内および近隣諸国ではあまり見かけない髪色のため、他国出身者と思われるが出身地は不明。


 魔力量が非常に多いと思われたため、二つ目の名を伏せることを条件に保護を兼ねて魔法屋にて住み込み従業員として雇うことにした。魔法屋の増築も王宮に許可を得た上で実施済み。魔法屋増築の折、強固な魔力の結び目を難なく解いて自力で結び直していたことと、重い建材を軽々と運んでいたことから、訓練を積めば相当な使い手になると思われる。また、名前持ちとしては年齢の割に表情を取り繕わないことと、料理の経験があるらしいことから、名前持ちではあるが庶子扱いもしくは平民として暮らしていたと推測される。


 魔法を試しに教えてみたが魔力の制御にむらがあり、魔力の制御が緩むと魔法が暴走することがあった。魔力の結び目が見えている割には、我々が普段用いている魔法の使用経験が少ないと思われる。このため魔法屋の従業員皆で話し合った結果、サーラには段階を踏んで基本的なことから魔法を教えた方が良いだろう、という結論になった。


 という訳で、サーラに魔法を初歩から教えるため、王立魔法学校並びに王立魔法学院で使用している魔法の教本を一式購入したいが、研究所経由で購入することは可能だろうか。また、教本が購入可能な場合はサーラ用に一揃いと、自分用に学校の教本を一式購入したい。それから教本にかかる費用の支払い方法についても相談したい。






       ********************************************************







―――これ、本当にエルデ(おれのおとうと)からの手紙だよな?


二度目は目を皿のようにして読み、三度目は所長室に防音結界を張ってから音読してみた。その後も何度となく執務机の周りをうろうろしながら読んでみた。何度読んでも差出人が私の知る(エルデ)とは信じ難いことが書いてある。筆跡は確かに弟の筆跡(もの)なのに、内容が衝撃的過ぎて弟からの手紙だとは思えない。私は椅子にどっかりと腰を下ろすと、どっしりとした背もたれにもたれた。


 はぁぁぁぁっ~

 

私は手紙を執務机に放り投げ、大きな溜息をついた。途中から防音結界を張ったままにしておいて本当に良かった。


 しかし、なぜファルドの森に人がいる?あそこはエルデが好んで素材採取に行く場所だが、普通の人間で自らあのような所に行くような物好きはいない。


それこそ、「という訳で」で片づけられる話題じゃないだろう!!



何から何まで突っ込み所満載だろうが!!



 私は気分を改めようと姿勢を正し、お茶を一口含んだ。


ぬるいっ。


 私はお茶の入ったカップに手をかざして炎魔法でお茶を少し温めると、残りをぐっと一気に飲み干した。


はあ。


今度は溜息ではなく深呼吸をして何とか気持ちを落ち着けようとした。だめだ、表情は何とか引き攣りつつも取り繕えているだろうが、一回ばかり深呼吸したところで気持ちが落ち着く訳がない。落ち着かないが、そろそろ室内の防音結界を取るか。気休めにもう一杯お茶でも飲んでおこう。


 私は二杯目のお茶をじっくりと味わうことで無理矢理気持ちを鎮めようとした。少しはましになったが、久々に感情を強引に揺さぶられた気がする。


 私は執務机の引き出しから小ぶりの封筒とカードを出した。カードは非常に書き心地の良い白い紙で作られており、好ましくない知らせを書かねばならない時に嫌な気分を紛らわしてくれる私のお気に入りの一品だ。


 

「至急こちらまでご足労願いたし」



カードには紛失や盗難に遭っても困らないよう、また、誰かに見られても困らないよう必要最小限の情報だけを書くことにしている。動揺している分、いつもより意識して丁寧にカードに用件を書いてから封筒に入れ、封蝋で封をした。封筒を指で摘んでパタパタさせながら、このカードの宛先を誰にするか少し迷う。


 弟が保護した人物が名前持ちであること故に政治関連の問題とするか、はたまた魔法の力を持つであろう者の故の扱いとして魔法関連の問題とするか。


 私は目を閉じると、暫しどうすべきか考えた。


 とにかく警戒心の強いエルデのことだ。事情が聞きたいから保護したサーラ嬢なる人物を連れて王宮へ来て欲しいと言っても、安全上の理由で呼び出しに応じることはないだろう。それにエルデは既に雇用も兼ねてサーラ嬢を保護している。王宮側で改めてサーラ嬢を保護すると主張しても、出入りする人物の少ない魔法屋で保護した方が安全だからと、王宮でサーラ嬢を保護することを拒否するだろう。秘密裏に事を進めようとしても、どさくさに紛れてサーラの身をを王宮に留めようとする輩も出そうだしな。やっぱり政治関連の問題としてエルデとサーラ嬢を一緒に王宮まで呼び出すのは無理そうだなぁ。


 魔法関連―――この問題なら私も一枚噛むことができるか?それに、手紙には魔法の教育が云々とも書いてあったな。


ここはひとまず魔法関連の案件としてに扱うことにするか。


 私は封筒の表面に「シャルへ」と宛名を書き、机のベルを勢いよく鳴らした。ノックと共にベルクが所長室に入って来た。


「アークがこんな音でベルを鳴らすなんて珍しいねぇ。何かあった?」

「ああ。ベルでも鳴らさないとやってられない気分なんだ。ベルク、母上―――いや、シャルをここに連れて来てくれる?」


私はカードの入った封筒をベルクに渡した。私の視線にベルクは何か感じ取ったようだ。


「アーク、もしかしてこの件は他言無用?」

「ああ。ベルクは察しが良くて助かるよ。」

「まぁ、学院の時からアークと一緒にいれば、それ位は嫌でも分かるようになるって。」

「私がいいと言うまで研究所内へも内密に頼む。」

「げっ・・・なんかやばそうだな。」


ベルクは一瞬後ずさりしようとしたが、身体を後ろにそらすだけで何とか踏みとどまったのを私は見逃さなかった。まあ俺も大変だが、ベルク(おまえ)も頑張れ。


「それは今後の状況にもよるかなぁ。シャルは今頃なら恐らく王宮にいると思う。」

「分かった。なるべく早い方がいいんだろう?」

「ああ、できるだけ早い方が助かる。それから周囲にそうとは悟られないように、シャルをこちらまで連れて来て欲しい。」

「アークにしては珍しいな。そんなに驚くようなことでもあったのか?」

「ああ。久しぶりに私も動揺した。」

「アークが動揺するなんてよっぽどだな。急ぎなら俺の知ってる近道で行ってくるよ。アークはこれから結界の準備でもするんだろう?」

「ああ。やっぱりベルクはよく分かってるな。それならベルク、頼んだよ。」

「了解。任せておいて。」


ベルクは封筒をローブの内ポケットにしまうと、私に背を向けたまま手を振りながら所長室を後にした。


 さて。ベルクを見送ったことだし、私は防音結界の準備でもするとしようか。私は応接セットの周りに結界を張るために自分の魔力を練り始めた。今日は幸い良い感じに魔力が練れている。さあ、あとはシャルが来てから結界を閉じるだけだ。


 シャルを呼んだ自分の判断は正しかったのだろうか。


 私は練った魔力を右の掌に集めると、窓辺で呑気に居眠りをする弟の使い魔を見ながら左手で頬杖をつき、ぼんやりと考えを巡らせていた。


 弟への返事は、母上(シャル)に相談してからでいいだろう。弟の使い魔(こいつ)も、私の返事を持って帰らないとならないし、こんなに気持ちよさそうに眠っているんだ。もう少し寝かせておいてやろう。

今回はベルクと名前だけですがアーク母のシャルも登場しました。この二人は次回も登場予定です。お楽しみに!


最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

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