魔法屋の増築 1
登録並びに評価ありがとうございます!この話は5回連続の予定です。
昨夜は夕食をサーラと二人で食べた後、サーラ、私の順で風呂に入った。ロイが言った通り、脱衣所に二人分のタオルを残しておいてもらっておいて正解だった―――最も、忘れていたのは私だけだったようだが。そして今朝は少し早めに起きて身支度をし、サーラが切り分けてくれたパンと、夕べの残りのスープを温め、サーラと二人で食べた。自分のベッドは増築する壁側から離し、なるべく部屋の中央に来るように移動してある。ベッドを動かした辺りから、部屋の奥側が汚れないように結界を張っておいた。
「サーラ、今日はサーラも外で増築の作業に立ち会うから、作業着でいようか。作業着を着る時は、作業着の中に魔法屋の服を着なくていいからね。作業中に魔法屋の服が汚れる場合があるから、という理由はミリルから聞いたかな?」
「は、はい・・・。ミリルさんが普段着の上にそのまま着てしまっていいと。」
「ええと、そろそろロイが来る頃だし台所で着替えるのも何だから、サーラには脱衣所で着替えてもらおうか。ここの片付けは私がしておくから、サーラは着替えに行っていいよ。」
「はい、分かりました。それでは着替えてきますね。」
サーラは衝立の向こうのベッドの脇に置いてある箱から私服と作業着を取り出すと、脱衣所へ向かった。サーラが着替えに行っている間にロイが出勤してきた。
「エルデ様、おはようございます。」
「ああ、おはよう、ロイ。」
私はロイの全身を一瞥した。ロイは魔法屋の服に着替えてきている。ああ、昨日打ち合わせをした時にはミリルには服装のことを伝えたけれど、増築作業に立ち会う人の服装は何も言わなかったな。
「あー、せっかくお店の服に着替えて来てくれた所で悪いんだけど、ロイも今日は作業着に着替えてもらえるかな。今日の作業で多少は服が汚れるだろうからね。脱衣所は今サーラが着替えに使っているから、更衣室で着替えて来てよ。」
「畏まりました。作業着ですね。着替えて参りますので少々お待ち下さい。」
ロイは頷くと、台所を出て着替えに行った。ロイが着替えに行ったのと入れ違いで作業着に着替えたサーラが戻って来た。作業着の下の服は空色のワンピースのようだ。先程まで着ていた魔法屋の服はベッドの上に畳んで置いてテーブルに戻って来る。
「サーラ、ロイも着替えに行ったし、もうすぐモリスも来るだろうからお茶にしようか。」
「は、はい・・・。あの、向こうの・・・書斎ではなくて、いいのですか?」
「ああ。今日は一日、作業が終わるまで食事や休憩は全て台所でする。作業が始まると全員どこかしら汚れるだろうからね。汚れた作業着のまま書斎に入ると、掃除が面倒だろう?」
「は、はい・・・。」
「ああ、それからカップは四人分準備を頼む。サーラはロイとミリルからお茶の淹れ方を教えてもらっているとは思うけれど、まだ一人でお茶を淹れるのは不安?」
「はい・・・。」
サーラが少しためらいながら肯いた。
「そう。それならロイが着替えて戻ってきてから、ロイと一緒に淹れてくれるかな。サーラもそのうち一人でお茶を淹れられるように覚えてね。」
「はい・・・わかりました。」
作業着に着替えてきたロイが戻って来るのが見えたので、私はロイに声をかけた。
「ロイ、サーラと一緒にお茶を淹れてくれる?モリスの分も入れて四人分ね。」
「エルデ様、モリス様はまだこちらにお見えではありませんが、よろしいのですか?」
「うん、もうすぐ来る頃だから大丈夫。」
「畏まりました。サーラちゃん、こっちで一緒に準備しよう。」
「は、はいっ・・・。」
ロイがサーラと一緒にお茶を淹れる準備を始めた。ロイは意外と面倒見が良いので、サーラにお茶の淹れ方を事細かに説明している。
「おはようございます、モリス建築です~。」
「ほらね。」
モリスの声に私はにんまりと笑った。
「モリスさん、おはようございます。まずはあちらでお茶を飲みながら作業の段取りを確認させて下さい。」
「そんな悠長にお茶を飲んでいる時間なんてあるのかい?」
「それほど時間はかけませんから大丈夫です。まだ早いので荷物はこのまま店の前で結界を張っておきましょう。モリスさん、まずはこちらへどうぞ。」
私はモリスが引いて来た荷馬車に結界を張ると、魔法屋の入り口で待っていたモリスを店中へ招き入れ、書斎を通って台所まで案内した。店の中を通った時にオウの姿を探すと、いつものお気に入りの止まり木ではなく、オウ専用の出入り口の窓辺からこちらの様子を伺っていた。モリスの事が気になるのだろう。
「モリスさんはこちらへお掛け下さい。まずは今日一緒に作業に立ち会う者を紹介致しましょう。まずは、モリスさんの向かい側に座っている男性がロイと申します。私と一緒にここの建物を建てた者です。」
「モリスさん、はじめまして。ロイと申します。今日は宜しくお願いします。」
私の紹介に合わせてロイが立ち上がってモリスさんにお辞儀をした。
「そしてモリスさんの右側に座っている女性がサーラと申します。彼女が急遽一昨日からここで住み込みで働くことになった従業員です。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、彼女も魔法の勉強の一貫として作業に立ち会わせて下さい。」
「は、はじめまして・・・サーラです。よろしくお願いします。」
サーラもロイにならってその場で立ち上がり、ぴょこっとお辞儀をした。
「ほう、サーラ嬢ちゃんは魔法の勉強かね。」
「は、はい・・・。」
「ここに住み込みで働き始めたばかりなら店が休みだからって、一日王都で一人ぶらぶら時間を潰せるような所がある訳ないよなぁ。それに一昨日ここに来たばかりなら、店を放り出されても迷子になるのが落ちってもんか。いい歳こいて迷子もお互い困るわなぁ。まぁ、くれぐれも怪我のないようにしておくれよ。」
「はい、わかりました。」
「それからモリスさん、増築作業は通りに面した部屋から始めたいのですが大丈夫でしょうか。今頃はまだ人通りが少ないので、人通りの少ない間に通りに面している場所は終わらせておきたいんです。」
私は昨日商業ギルドでモリスさんに見せた店の図面を、もう一度モリスさんに渡した。
「ふむ、その方が良さそうだねぇ。道に面したお店の隣の部屋から順番にやるとしよう。ところでエルデさん、一旦壁を取り払う部屋の中にある物はどうするんだい?」
「手直しする部分は必要最小限に留めたいので、私が作業前にその都度結界を張る予定です。私の寝室は既に結界を張ってありますが。」
「それなら、人通りが多くなる前に道に面した部屋はさっさと終わらせてしまおうか。」
「そうですね。私達も作業前にお茶を飲んで身体が十分温まりました。血の巡りと共に体内の魔力の巡りも程良くなった方が作業が捗ります。それではモリスさん、今日は一日、宜しくお願いします。」
「「宜しくお願いします。」」
私達三人はモリスに向かって頭を下げた。
「それなら始めるとしよう。まずはお店の外側だったね。」
私達は店の外壁の前に来た。魔法屋の建物は白っぽい石組みの壁に赤茶色の薄い石を重ねた屋根でできている。
勿論、私は外に出る前に店の中にきちんと結界が張れたことを確認した。オウは私達が店の外に出たのを見ると、飛び去って行った。恐らくティスの部屋に行ったのだろう。
「まずはここの壁だけ緩めようか。土魔法かな?」
「ええ、そうですね。ロイ、一緒にここの壁に手を当てて。」
「畏まりました。」
私とロイの二人は両手を軽く広げて店の外壁に触れ、石と石を固定している粘土を土魔法を流すことでほぐしていく。
「うん、その調子だ。そのまま続けてくれ。」
モリスは私達の様子を見て微笑んだ。
「あれ?ここは何でほぐれないんだろう?」
ロイが外壁に両手を当てたまま、不思議そうに壁の一部を見ていた。
「えっと、どれどれ・・・。ああ、ここはこの壁の向こう側に壁があるからじゃないかな?」
私は部屋の境目に当たる部分の外壁に手を当てて、どのような状況か更に感じ取ろうとした。
「あ、あの・・・」
「サーラちゃん、どうしたんだい?」
ロイが外壁に手を当てたまま顔だけサーラの方を振り返った。
「あの・・・ここ、魔力の結び目がぐちゃぐちゃになっていますよね。」
サーラが部屋の境目の部分を指して言った。
「え?」
私は唐突過ぎてサーラの言ったことがよく聞き取れなかったので、サーラに問いかけた。
「サーラ、今何て言ったの?」
「えっと・・・ここの魔力の結び目がぐちゃぐちゃだから、魔法を流してもほぐれないんじゃないかと。」
「サーラは魔力の結び目が見えるの?」
「は、はい・・・ここの魔力がこんがらがっているのは見て分かります。うーんと、こことここの結び目がほどければいいんじゃないかな。ちょっと待ってて下さいね。」
サーラが、彼女の言うところの魔力の結び目に右手をかざした。手をかざしたまま、サーラは軽く目を閉じて何かに集中している。しばらくすると、サーラは目を開けて壁から離れた。
「たぶん・・・もう大丈夫です。少し広めに魔力の結び目をほどいてしまったので、後でしっかり結び直さないと。」
確かに、壁の辺りの先程よりも魔力が薄くなっている。
2019年の投稿はこれで最後になります。2020年も2週間後の1月14日(火)12時の予約投稿で掲載を始めます。
今年もご愛読ありがとうございました。皆様どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。




