増築準備
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私の声をきっかけに、それぞれが担当する場所へ移動して作業を始めた。私は各自の予定をまとめた紙が無くならないように執務室の本棚に張っておいた。
さて、私も寝室の片付けをするとしよう。増築する壁側は私のベッドが置いてあるので、そこまで苦にならない・・・はずだが、寝室の机に書きかけた手紙や書類の書き損じが山積みになっていたことを忘れていた。他は・・・と思ってベッドの方を見ると、枕元には読みかけの本や魔法書が散らばっている。
はぁ、ロイはこのことを言っていたのか。私は机の上の書類全てに軽く目を通し、内容をざっと確認した。手を止めた時は保管しておくべきだと思っていた物でも改めて見直すと、どれも大したことは書いておらず、処分して良い内容のものばかりだった。
私はこれらの書類をまとめて机の上の灰皿に積む。灰皿と言ったが、煙草を吸う時に使う物ではなく、見られては困る書類を廃棄するための物だ。この一見書類入れのように見える灰皿は分厚い灰色の石でできており、熱を通しにくいようになっている。見た目はどっしりとしているためとても重そうに見えるが、実際はさほど重くない。私は視線を書類の上に落とし、弱い炎の魔法で書類を少しずつ燃やしていった。書類がじわじわと燃えて全て灰になったところで、私は灰皿に氷魔法を掛けて灰皿を冷やす。灰が冷めればあとはゴミ箱に捨てるだけだ。それから、私はベッドの上の読みかけの本を書棚に戻した。残りは私のベッドを壁際からできるだけ離すだけだが、これは明日の朝起きてからすることにする。部屋を出る時に扉を開け、軽く風魔法を部屋全体に回しておき、書類を燃やした臭いを消しておく。これで今夜寝る時は大丈夫だろう。
私は魔法屋へ行き、魔道具とアクセサリー―――これもある意味魔道具だが―――を陳列している棚から種類別に箱へしまった。これらの箱をポーション類の陳列してある棚の近くに置いて私の作業は終了だ。
さて、他の連中の様子を見に行くか。
私は作業場へ向かおうとすると、既に作業を終えていたミリルとサーラが台所で夕食作りを始めていた。
「ミリルもサーラも、もう終わったのかい?」
「は、はい・・・。」
「エルデ様、作業場で移動する必要のある物はそれほどありませんでしたが、壁際の簡易シャワー室と洗い場は動かしようがありませんよね?」
「ああ、そうだね。そこは結界で何とかするよ。教えてくれてありがとう。ミリル、今日の夕食は私とサーラの二人分で構わないけれど、明日の朝にも食べられるように少し多めに作って貰えるかな。」
「畏まりました。食材も手配したばかりですし、サーラさんも手伝って下さっていますから問題ありませんわ。」
私は少しだけサーラが料理をする様子を部屋の隅から眺めていた。記憶が無いながらも、サーラはやはり料理をしたことがあるような手つきだった。料理の経験があるということは、それなりの身分、即ち周囲の者に身の回りの世話をして貰うような立場ではなかったということだろう。
いつまでも台所で二人の様子を見守っているだけだとミリルに文句を言われそうだったので、私は静かに台所から移動した。作業場を覗くと誰もいなかったので資材置き場へ向かう。私は資材置き場で作業をしていたロイに声をかけた。
「ロイ、そちらの具合はどう?」
「材料が沢山あるのはいいんですが、エルデ様が採取に行ってこられたばかりなので、これらをどうまとめようかと。」
「そうだね。種類別に麻袋に戻すほうがいい?」
「袋に戻すと材料の痛みが酷くなるので、なるべく袋には入れたくないですね。」
「何ならティスの部屋に置かせてもらう?」
「いえ。ティスの部屋に元々置いてある藁と混ざってしまいますから、それはしない方がよろしいかと。」
「そう。それなら、ティスの部屋へつながるここの扉の鍵を掛けてこちら側に全部材料を持って来ようか。それでここにある材料は全部何とかなりそう?」
「ええ、そうですね。それなら何とかなると思います。」
「そう、それじゃよろしくね。私はティスにも声をかけて書斎へ戻るよ。ここの作業が終わったら、お店の棚を動かす手伝いを頼む。」
「畏まりました。」
私はティスの部屋へ行くと、大きな柵付きの窓から外を眺めているティスに声をかけた。
「ティス、ちょっといいかな。急な話だけれど、明日一日でここの建物の増築をするよ。」
ティスが「ん?」といった感じで私の方を振り返った。
「先程紹介した通り、サーラはここで住み込みで働いてもらうけれど、サーラが寝起きするための場所が今のままだと足らなくてね。それでこの建物の部屋を増やそうってことになったんだ。商業ギルドのマスターのグラントの所へ相談しに行ったら、とんとん拍子で話がまとまってね。明日一日モリス建築のモリスという人が手伝ってくれることになった。」
「それでね、今ロイが明日の準備のために奥の資材置き場を片付けてくれているんだけれど、私が採取に行ってきたばかりだから材料が意外と多くてね。悪いけどティスの部屋から奥の資材置き場に通じる扉に鍵を掛けされてもらって、こちら側に採取した材料を全部移動して結界を張ることにした。明日の作業は私と一緒にロイとサーラも立ち会うから、明日はいつもよりも賑やかになると思う。」
「それから、作業が終わったらモリスにここの建物の図面を建築屋さんの様式で引いてくれるように頼んだから、モリスが私と一緒に一通りこの建物の中を見ることになっているんだ。勿論ここにも来るからね。宜しく頼むよ。」
ティスは分かったと言わんばかりにフン、と鼻息を一つ鳴らすとふいと身体の向きを変えて窓の外を再び見始めてしまった。ティスに話したところで、明日のことをオウにも話すのを忘れていた。オウにも話しておかないと。
私は再び店へ戻ると、いつもの場所にいるオウへ声をかけた。
「オウ、ちょっといいかな。急な話だけれど、明日ここの増築をすることになったよ。」
オウは私の声にぐるっと首だけ回して私の顔を見た。
「さっき紹介したサーラがここで住み込みで働くためだよ。流石に私の寝室に未婚の女性であるサーラのベッドを一緒に置くわけにはいかないからね。サーラの部屋を作るついでに思い切って他にも部屋を作ることにしたんだ。ロイが資材置き場を片付け終わった後で、ここの魔道具とアクセサリーを置いている棚をロイと一緒に少し動かすよ。商品の魔道具とアクセサリーはさっき私が箱にしまったから大丈夫。」
「明日はここの棚の壁の向こうに部屋を増やすんだ。モリス建築のモリスと私とロイ、サーラが立ち会って作業するから明日は多少賑やかになると思う。お店の中がうるさかったり、人がウロウロしたりしてオウが落ち着かない様だったら、ティスの部屋にでも避難しててよ。ティスの部屋は何もする予定はないし、ティスの部屋の隣の資材置き場の奥に新しく部屋を作る予定だから、恐らくここよりも静かだと思う。」
「それから作業が終わったらモリスがここの建物の図面を引くために、一通り建物の部屋全部を見て回る予定になっているから宜しくね。それと、ミリルは明日休んでもらうことにしたからここには来ないよ。明後日はサーラの部屋に置く家具を注文するために家具職人が店に来るから、その時にミリルはサーラと一緒に打ち合わせに出てもらうことにした。」
「そんな訳で、明日は久しぶりに魔法屋自体がバタバタするから宜しくね。」
私は一気に用件を話すと、オウが分かったと言わんばかりに一声鳴いた。オウは返事をするためだけには念話を使わないようだ。
私は書斎を抜けて台所へ行くと、夕食が出来上がりつつあった。早めに店の棚を動かしてしまおう。資材置き場にいるロイを呼びに行こうとすると、丁度ロイが資材置き場から出て来るところだった。
「ロイ、材料の移動は何とかなった?」
「はい。部屋の角から置いて行くことで何とかなりました。作業場から資材置き場へ入る出入り口は通れるようにしておきましたよ。」
「ありがとう。それじゃぁ店の棚を動かすのを手伝ってくれるかな?」
「はい、畏まりました。」
私とロイは作業場から店へ移動すると、二人掛かりで魔道具が入っていた棚を持ち上げてカウンターの側に寄せて置いた。これで明日の準備は私のベッドを壁際から動かすだけとなった。
「ロイ、ありがとう。ロイの仕事はもう終わったかな。」
「はい、終わりました。」
「そう、ありがとう。ミリルも仕事が終わっているようだったら、ロイもミリルを送りがてら帰っていいよ。」
二人で話しながら台所へ向かう。台所へ入ると、ミリルとサーラの食事作りは大体終わったようだった。
「ミリル、食事作りは終わったのかい?」
「ええ、あともう煮込めば終わりですわ。」
「そう。後は私とサーラでやるから、ミリルはロイと一緒に帰るといい。マシューとオーランへ伝言するのを忘れないでね。明後日はいつもの時間に来たら書斎まで来て。」
「分かりました。それでは、お言葉に甘えて今日はこれで失礼致しますわ。サーラさん、後は宜しくお願いしますわ。」
「は、はい・・・。」
ミリルはサーラに声をかけてから私に一礼すると台所を出て行った。
「ロイ、ミリルを頼んだよ。」
「畏まりました。エルデさん、私も今日はこれで失礼致します。」
ロイも一礼して台所を出て行った。これで、台所にいるのは私とサーラの二人だけだ。
次回も予定通り二週間後の12/31(火)12時の予約投稿で年内最終掲載の予定です。
いよいよ魔法屋の増築が始まります。お楽しみに!




