魔法屋の増築 2
今年も皆様が楽しめるよう精進致しますので、引き続き宜しくお願いします。
モリスは少し驚いたが、サーラの方を見てにんまりした。
「嬢ちゃん、良く見えてるじゃないか。新入りなのに凄いねぇ。」
モリスの言葉を受けて、先程の場所にもう一度土魔法を流してみた。確かに先程に比べて魔法がすんなり通る。
「あれ?さっきは全然ほぐれなかったのに、ほぐれやすくなってるぞ。」
ロイも驚いた表情をして、土魔法をかけている。
「おーい、今日は一部屋ずつ作業するから、隣の部屋の壁を少し超えた所で一旦ほぐすのを止めてくれ。」
私とロイは指示された作業がひとまず終わったので外壁から手を離し、声を掛けてきたモリスの方へ移動した。
「モリスさん、次はどうするんですか?」
私はモリスに次の作業の指示を仰いだ。
「ここに新しく作る部屋は今ある隣の部屋の両側の壁を伸ばす要領で石を継ぎ足したいから、継ぎ足したい壁の部分の石が見えるまで組んである石を一度外すんだ。それから、壁の石と新しい石を繋いで広くしたい分だけ石を組んでいく。くれぐれも今使っている壁の石は壊さないように気をつけてくれ。」
「モリスさん、今まで壁だった所に新しく扉を付ける場所はどうするんですか?」
「うーんと、新しく扉を付けたいってのは、これのことかい?」
「ええ、ここですね。」
私はモリスに図面を見せながら答えた。
「ここには開き戸をつけるのか?」
「いいえ、ここの部屋はしばらく倉庫として使いたいので引き戸にしたいのですが。」
「まぁ倉庫なら引き戸の方が便利だねぇ。扉の大きさは決まっているのかい?」
「特に大きい物をしまう予定もないので、お店の扉と同じ大きさにしようかと。」
「う~ん、そうか。それならエルデさん、このチョークで扉を付けたい場所に印をつけてくれるかい?」
「モリスさん、『印』と言いますと?」
「ああ、俺の言い方が悪かったな。ここの壁の扉を付けたい場所に、このチョークで扉を書いて欲しいんだ。扉は原寸大、実際の大きさで頼む。」
「ああ、なるほど。分かりました。では、チョークをお借りしますね。」
私はモリスから白いチョークを受け取ると、扉を付けたい場所にチョークで扉を書いた。
「ふむ。大きさと形はこれで良かったかね?」
モリスが扉の詳細を私に確認してきた。
「ええ、大丈夫です。」
「そうか、それならちょっと失礼。」
モリスが私に声を掛けて壁の方へ向かった。ああ、あれはもしかして・・・モリスが私がチョークで書いた線を指でなぞっている。
「ええっ?」
私は何となく予想がついたので驚かなかったが、ロイがモリスの様子を見て驚いている。モリスが壁を指先でなぞった通りに壁に切れ目が入っている。
「モリスさん、私も反対側を手伝いましょう。土魔法だけで大丈夫ですか?」
「土魔法と水魔法で比率は八二だ。」
「分かりました。土が八で水が二ですね。」
私はモリスに声を掛けるとモリスと反対側の線を指先から魔法を出しながらなぞり始めた。最初は手間取ったが、慣れてくると針金でチーズをゆっくりと押し切るような要領で石の壁が切れていくのが分かって意外と面白い。モリスと二人でそれほど時間を掛けずに扉を作る壁面に、扉の形に切れ目を入れ終わった。
「さすが魔法屋の皆さんは飲み込みが早いですね。作業が捗って助かります。」
モリスは魔法を使って暑くなったのか、額の汗をハンカチで拭きながら言った。
「モリスさん、ここの壁を切った断面と扉にする部分の石はどうするんですか?」
「まず壁側の切断面を土魔法で固定するんだ。石を取り出す時に壁が崩れずに安全に石を取り出せるようにな。扉にする部分の石は、他の壁材に使ったり隙間を埋めたりするのに使うから、崩さないように頼むよ。」
「なるほどね。ロイ、宜しく。」
「土魔法ですね。承知致しました。」
ロイは大きな体躯を生かして、扉の両脇になる左右の壁に両手を当て、両側から土魔法を一気にかけていく。勢いよく土魔法をかけたのか、壁の切断面に魔力の走る様子がよく分かった。
「いやぁ、みなさん素晴らしいですなぁ。この調子なら、あっという間に作業も終わってしまいそうですねぇ。」
モリスはサーラだけではなくロイが魔法を使う様子にも感心していた。うちは魔法に関しては少数精鋭だから当然だろう。まぁ、サーラが魔力の結び目のことを指摘したのは私も予想外だったけどね。
「モリスさん、取り出した石はどこに置きますか?」
ロイが土魔法の境目の石を何個か慎重に外すと、モリスに尋ねた。
「そうだねぇ、他の部屋でも使えるから外にまとめて置いておくか。」
「分かりました。」
作業に慣れてきたロイは手慣れた様子で石を壁から外していった。
「あ、あの・・・これはこの辺に置いて・・・よかったですか?」
ええっ?サーラが何個も積み重ねた石を片腕に抱え、涼しい顔で運んでいる。サーラ位の体格の女性なら、普通は一個を両手で持ち上げるだけでも精一杯の重さのはずだ。
「サーラちゃん、そんなに一度に積んで運ばなくても、って言うよりそんなに沢山の石を一度に持って、重くないの?」
「え?これ重いんですか?」
ロイに声を掛けられたサーラが何事もなかったかのようにその場に立ち止まると、片腕で運んでいる石を少し抱え直した。そして自分が運んでいる石の一番上に乗せてある小さめの石を一個片手で取ると、ぽんと軽く投げて何事もなかったかのように受け止めた。小さ目の石とはいえサーラの片手よりも大きく、子供の頭くらいの大きさはある。
「「うええぇっ?!」」
モリスとロイが驚いて互いにしがみつき、大声を出した。魔法屋の建物に使っている石は、そんな片手でぽいっと投げ上げられるような重さの代物ではない。サーラが投げたあの石だって普通に片手で受け止めたら、身体を鍛えているロイですら手首を痛めてしまうだろう。
「サーラは無意識に重い物を軽く感じるようにする魔法でも使ってるのかな?」
私はいささか動揺したのを悟られないように微笑んでサーラに話しかけた。
「へ?」
サーラはきょとんとしている。
サーラ自身も無自覚なのか。しかし、無意識に重い物を軽く持ち上げられる魔法やそれに類したものを使っているのだろう。そうでなければ十六の若い娘があんな大きな石を片手で投げて遊ぶような真似など、普通は、しない。
「ああ~びっくりした。サーラちゃんがこんな細っこいのに、物凄い怪力の持ち主なのかと思って焦ったよ。魔法を使って持ち上げているのなら俺も納得だわ。」
「ええ、本当ですとも。」
我に返ったロイとモリスはそれぞれ互いの体から手を離した。ロイは一つ溜息をつき、モリスはサーラの様子に驚いて冷汗をかいたらしく、禿げた頭をハンカチで擦るように拭いていた。
「あの~・・・これは・・・」
石を持ったままサーラがモリスの方を見て困っている。
「ああ、嬢ちゃん、言い忘れててすまないね。この石はここに置いてくれるかな。」
モリスが今朝運んできた材料の隣を指し示すと、サーラはそこに石を置いた。サーラがせっせと石を運んでくれるのなら、と残りの男三人で増築する広さの分だけ、壁を伸ばして石を積んでいく。石を積んでいる間に、残りの石もサーラがあっという間に運び終えてしまった。
「こんなに広いんですね・・・。」
サーラが軽く目を見開いて新しくできた部屋の広さに驚いている。
「サーラの部屋も壁はここと同じ長さになるけれど、、部屋の広さはここよりも少し広くなる予定だよ。まぁ部屋の中にベッドや家具を置くから、ここまで広くは感じないと思うよ。」
「私の、部屋・・・ですか。申し訳ないです・・・。」
「サーラちゃんを雇ったのはエルデ様ですから、責任を持ってこれ位準備するのは雇い主として当然です。これでも最小限なのだから、サーラちゃんがそんなことを気にすることはないんだよ。ここは遠慮したらだめだからね。」
ロイがサーラに向き直り、サーラが気を遣う必要のないことを説得している。ここはロイに任せておこう。
「ロイさんもミリルさんと同じことを言うんですね。」
「そりゃそうさ。住み込みで働くんだから、夜しっかり休めないと仕事にならないだろう。」
「は、はい・・・。」
「ところでエルデさん、増築する部屋の床は石にするのか板にするのか決まってるかい?」
「ここと隣の二部屋は板で、残りは石にする予定です。」
「それなら持ってきた板で十分足りそうだねぇ。床板は後でもできるから、先に壁だけ作ってしまおうか。」
「窓はどうするんですか?」
「窓のデザインは決まってるかい?」
「ええ。お店の入り口の左側にある窓と同じ形にしたいですね。こちらの部屋の窓はもう少し大きくしたいんですが。」
「それなら、アーチ形の窓なら壁と窓を作りながら石を組んで行けばいいね。窓のアーチはさっき扉を作る時に切り出した石を細かく切って使うとしよう。」
「サーラは石を組むときに使う粘土を塗ってくれるかな。」
「はい、わかりました。」
モリスが頭の汗をしょっちゅう拭くところが意外と好きなんです。




