旧友との再会
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私が向かっているのは王都にある商業ギルドだ。私が営む魔法屋ノーティスも王都の中にあると言えばあるのだが、端的に言うと王都の一番外れにある。魔法屋が食事面で何かと世話になっているマシューの店も、どちらかと言えば王都の外れにあるが、私がこれから行く商業ギルドとは方向が異なる。
ここ王都サーティスは王城の中央にある尖塔が王都の中心になるように作られており、王都の中からはどこでもその尖塔が見えるようになっている。そのため、王都で道を尋ねると、自分のいる場所から目的地が塔の右側か左側と説明することが多い。その例に習って説明すると、魔法屋から見てマシューの店は塔の右側、商業ギルドがあるギルド通りは塔の左側にある。
午前中の話し合いの様子だとロイ達三人はマシューの店へ昼食を取りに出かけるだろう。私も商業ギルド内にある食堂で済ませてくればいいだけのことだ。私の用件は、商業ギルドのギルドマスターになったグラントと一緒に食事でもしながら相談ができればいいと思っている。
昨日、一昨日とこの二日間は本当に色々あったなぁと久しぶりに考え事をしながら歩いている間に、商業ギルドへ着いた。商業ギルドの入り口の扉を開けると、相変わらず中は人が多くて活気に溢れている。久しぶりに見たギルド内の様子に圧倒されつつも、私は人々の様子を少しだけ観察した。ああ、生き生きと商売ができるなんて、王都は平和なんだなぁとしみじみ思った。
ギルド内の人々の様子をもう少し観察することにも心を惹かれたが、私は自分の用件を果たすべく左奥にある受付へ向かった。
「こんにちは、エリナ。」
「エルデさん、こんにちは。お久しぶりです。」
受付のエリナがにこやかに応対してくれた。
「グラントはいるかい?」
「はい、グラントなら執務室におりますわ。可愛らしいお使いを立てて頂き、ありがとうございました。」
「いやいや、いつも直前の知らせで申し訳ないね。ところで、エリナはもうお昼の休憩を済ませてしまったかい?」
「いいえ。エルデさんから連絡を頂いて、私もエルデさんがいらしてから休憩することにしました。」
「さすがはエリナ、話が分かるね。それでは、エリナも我々と一緒に食事ができるかな?」
「はい。ですが、今の時間帯は奥の食堂が混み合っておりますし、食堂の個室も満室でして―――申し訳ありませんが、お食事はグラントの部屋でもよろしいですか?」
「ああ。私も周りに他の人がいない方が有難いから、グラントの部屋の方が助かるよ。それでは、食事を三人分グラントの部屋までお願いできるかな?」
「畏まりました。本来ならば私がグラントの客人であるエルデさんをグラントの部屋まで案内することになっておりますが、エルデさんにはその必要はございませんね。私は食堂に食事の用意をするよう言付けて参りますので、エルデさんは先にグラントの部屋でお待ち下さいませ。受付カウンターを通れるようにしておきましたので、このまま突き当りの階段をお上がり下さい。」
エリナがギルドの奥に併設してある食堂へ向かうのを横目で見つつ、私はギルド二階にあるグラントの部屋へ向かった。執務室は代々のギルドマスターが使う部屋なので、濃い茶色の木製の扉は重厚な作りで、その装飾も豪華である。私は強めに扉をノックすると部屋の奥にいるだろうグラントへ声をかけた。
「おい、グラント。中にいるんだろう?入るよ。」
私は声を掛けながらドアノブに手を掛け、部屋の中の人物の返事を待たずに扉を開けて中へ入った。
「おいおい、エルデよう。久しぶりにいきなり来たと思ったら、相変わらず随分なご挨拶だな。それと、今日はエリナも一緒に食事ってのはお前にしては珍しい話じゃないか。」
グラントは書類を手にしたまま視線だけを私の方へ向けて声をかけてきた。グラントの上目遣いで見られる三白眼は、気の弱い者が見たら卒倒しかねないものだ。私は学生時代の頃から見慣れているので至って平気である。
「ああ、今日は相談したいことがあってね。できたら商業ギルドの力を借りたいと思ってる。」
「ギルドに助けを求めるなんて、お前にしては珍しいな。」
「ははは、俺だって分不相応なことはしないさ。ギルドに助けてもらえると知りながら、自力で何とかするよりも、ギルドに助けてもらった方が人手の少ないうちの店にとっては都合がいいだろう。」
「・・・まぁ、素直に自分から助けが求められるようになっただけでも、学院にいた時より随分ましになったな。」
グラントが読みかけの書類を机に置くと、私の顔を見てしみじみと言った。
「グラント、お、お前っ・・・。」
久しぶりにグラントの不意打ちを受けて私も一瞬たじろいでしまう。
「まぁそんなことはどうでもいいか。とりあえずエルデはそこに座りなよ。」
グラントはにっと笑って自分の机の前にある、打ち合わせ用のテーブルの椅子を勧めてくれた。私は部屋に念のため防音結界を張っておく。
「ありがとう。それじゃぁ私はここに座らさせてもらうよ。それからグラント、話はもう始めてしまった方がいいのかい?」
「うーん、打ち合わせ中に食事を挟むと俺が色々忘れちまうからな。先に飯を食おうぜ。」
「わかった。エリナさんが食堂へ行ってくれたから、もう少ししたら戻って来るんじゃないか。」
私はグラントと近況報告を交えながら世間話をした。詳細は省いてサーラを雇うことになった話もした。
「お前が住み込みで人を雇うなんてなぁ・・・しかも年下の若い女性だろ。世も末だぜ。全く、何があったんだよ。」
「世も末とは失礼だな。成り行きだよ、成り行き。」
相変わらずグラントは口が悪いが、私自身がロイ以外にこういったやり取りができる相手は限られているので、それはそれで心地良い。
「ちなみに、その、エルデん所で住み込みで働くことになった女の子ってさぁー、髪の毛何色?」
「お前は相変わらず髪の毛にしか興味が無いのか。銀色だよ。腰までゆるく波打っている感じかな。」
「銀色たぁ随分珍しいな。どこの出身だ?」
「ここだけの話、本人の記憶が曖昧だから出身は不明だ。まあ、王国に身寄りや伝手が全くないらしいから、俺は王国の出身ではないと見ている。」
「う~ん、訳ありの銀髪さんかぁ。俺、久しく銀髪なんて見かけてないから拝ませてくれよ・・・。なぁエルデ、今度ここまでそのお嬢ちゃん連れて来てくれない?」
「銀髪を見たいだけだったら、魔法屋に客として来ればいいだろう。」
私は少し呆れた顔をして答えた。
「お前に訳ありの人物を保護するなんて、博愛精神があるとは思わなかったねぇ。」
グラントはひゅうっと口笛を吹いて冷やかしてきた。
「博愛精神って何だよ!あれだけの力の持ち主は王国中を探してもそう簡単には見つからないんだぞ!価値の全く分からない連中に託すなんて勿体なさすぎるだろ。」
私は思わずグラントの冷やかしに対してムキになって言い返してしまったが、それを聞いたグラントが溜息をついて苦笑した。
「な~んだ、結局はそこかよ。エルデの魔法好きも相変わらずだな。」
「髪の毛フェチのお前に言われたくはないわ!」
「・・・まぁ、お互いに、好きな物は昔も今も変わらないってことか。」
「違いねぇ!」
グラントと二人で顔を見合わせて大笑いした。ああ、やっぱり学生時代の友人は気を遣わなくていいな。
コンコンコン。ノックの音が聞こえた。
「失礼します、お食事をお持ち致しました。」
エリナがワゴンに三人分の食事を載せて運んできてくれた。
「まあいいや、エルデ。与太話はこの辺にしとくか。エリナが飯を持って来てくれたから、先に三人で飯を食おうぜ。」
「マスター、エルデさんへの言葉遣いが酷過ぎます。失礼極まりないですわ。」
エリナがグラントを諫めている。いい受付嬢兼サブマスターだ。
「エリナ、いいんだよ。グラントは私の学生時代の数少ない友人の一人なのだから。」
私もグラントを援護しておこう。
「ええっ!エルデさんってマスターのご友人なんですか?あの、エルデさん・・・まさか、騙されてるんじゃないですよね。どう見てもマスターとは同い年ではなさそうですし。」
エリナがワゴンから取ったお皿を持ちながら目を剥いた。
「勿論、私とグラントは同い年ではないよ。あれ、エリナはグラントから聞いていないのかい?」
「まぁ、エルデも滅多にここには来ないから俺もエリナに説明するのが面倒でな。はっはっは。」
「が、学生時代っていうと・・・?」
エリナがこれ以上開かないだろうと言う位目を見開いたまま、ギギギと軋んだ音がしそうな感じで首を動かしてグラントを見た。
「ああ、エリナには話してなかったが、俺とエルデは学院の同級生だよ。」




