商業ギルドにて 1
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「え?が、学校じゃなくて、がが、学院でしゅかっっ?」
エリナが噛みまくっている。ギルド内で「微笑みの冷徹」という二つ名のあるエリナがここまで動揺して噛むのは珍しい。
「だ、だだだって、あ、あの王立魔法学院でしゅよ!王立魔法学校ならともかく・・・う、嘘じゃないれすよね!ままま、マ、マスターって・・・い、一応、できる人だったんでしゅね。」
「エリナ。ほら、噛み過ぎだぞ。それになぁ、一応だなんて随分失礼な言い方だなぁ。学院に入ってエルデが飛び級で同じクラスに来るまでは、俺が首席だったんだぞ。エルデが来てからは大体エルデが首席で俺が次席、ほんでもってエルデん店にいるロイが第三席だぜ。」
「ええっ、本当なんれすか?し、信じられましぇん・・・。」
エリナが明後日の方向を見たままだ。まともな滑舌と一緒に一周回って帰ってこない。
「俺だってこの顔のお蔭でここのギルドマスターになったわけじゃないんだぜ。俺は面倒臭い書類仕事が嫌いだから、その辺はエリナに任せっきりだけどな。はっはっは。」
「全く、グラントの面倒臭がりは今も健在なんだな。そりゃあエリナが困るだろう。」
「おう!相も変わらずよ。」
グラントは私に向かって親指を立て、にんまりと笑みを返す。実に清々しく良い表情だ。
「はぁぁ~。そういうところはさっさと変わって下さって結構でしたのに。」
異様に長い一周を回って漸く帰って来たエリナが、じとっとした視線でグラントを見る。
「まあ、自分で仕事を全部抱え込まずに、相手の力量をきちんと見繕って、任せられる仕事を人に任せるのも優秀な証だよ。」
「全く、うちのマスターは・・・。しかし、エルデさん、物は言いようですわね。」
「そうだね。物は言いよう。んふふ。」
俺が笑っている間にエリナが三人分の配膳を終え、私の向かい側に座っているグラントの隣に座った。
「さあ、冷めないうちに食おうぜ。うちのギルドの飯も結構いけるから、エルデもまた時々こうやって食いに来いよ。」
「ああ、また機会があったらそうさせてもらうよ。さて、食べようか。」
「ええ。」
「「「目の前の糧に感謝を。」」」
マシューの店とは違うが、さすが様々な物を取り扱う商業ギルドだけあって、色々な食材を工夫して使っていて旨い。私達三人は商業ギルドの昼食を堪能した。
昼食を食べながら、私はグラントと学院時代の話をエリナにした。私の代わりにロイに商業ギルドへ行ってもらった時は、既にエリナは商業ギルドの受付をしていたらしい。ならば、エリナはロイとも面識があるはずだ。そうエリナに話を振ると、
「そう言われてみれば、そうかもしれません。何となくでしか思い出せないのが申し訳ありませんが・・・。」
と言う。不審人物でもないのに、数年前に一度だけ商業ギルドを訪れた人物をそこまで覚えていれば十分優秀だろう。
話は横道に逸れるが、卒業後に学院の教師から小耳に挟んだ話だと、本来ロイは学年トップに匹敵する実力の持ち主であったが、私とグラントの二人の探究活動の余波で学年三位に甘んじていたらしい。好奇心から暴走する私と、それに便乗して悪乗りするグラントが結託すると、想定外の事態が起こる割合が非常に高かったが、ロイの必死な火消しとフォローにより、私とグラントは在学中大きなお咎めもなく、ついでにロイも含めた三人が優秀な成績で学院を卒業できたのは何よりである。
私はこの話を聞いてすぐにロイにそれとなく確認してみたところ、護衛が護衛対象の私より目立ってしまっては困りますでしょう、と実に良い笑顔で答えられてしまった。ある意味グラントと私の黒歴史になるので、この話はエリナには内緒にしておこう。
閑話休題。
食事を済ませて食後のコーヒーを飲んでいる間に、エリナにワゴンごと食器を厨房へ下げてもらう。実はコーヒーはエルヴァトラ王国では希少品であり、王都の中でもあまり出回っていない。流石はグラントだな。
エリナがグラントの部屋に戻って来た。エリナが席に着いたのを見て私は用件を切り出すことにした。
「今日は大きな話が二つと小さな話が一つあって来たんだ。小さな話は後にするよ。大きな話の最初はうちの店、魔法屋ノーティスの店舗兼住宅の増築についてだ。まずはこの図面を見て欲しい。」
私は持ってきた図面をテーブルに広げた。
「今回うちの店に新しく住み込みの従業員を雇ったことに伴うものなんだが、そもそも、うちの店に隣接する空き地はうちの店舗兼住宅を増築するために使ってよいのかどうかという事と、店舗兼住宅の増築の届け出をどこに申請すればよいのかが分からないので教えてほしい。」
「そうですわねぇ。まず空き地の状況については、王宮の土地を管理している部門に確認を取らないとなりませんわ。ただ、この件に関してはエルデさんが直接王宮へいらっしゃるよりも、王宮の担当者に面識のあるうちのギルド職員が図面を持参して確認しに行った方がスムーズだと思います。すぐに確認に行かせますわ。エルデさん、この図面をお預かりしてもよろしいですか?」
エリナがすっと立ち上がり、図面を持って執務室を出て行こうとした。
「ああ、エリナ。ちょっと待って。この図面は控えをとっていないんだ。グラント、宜しくね。」
「ええ~俺~っ?面倒臭いなぁ~」
「そうそう、たまにはグラントも仕事しなよ。」
私はグラントに向かってにっこり笑った。
「はぁ~参ったな。まぁこれを手書きで写すよりも早いか。エリナ、俺の机の横から図面用の紙を一枚持って来て。」
「はい、わかりました。」
エリナが図面用の紙をグラントに渡した。グラントは私が持ってきた図面をひとしきり眺めると、両手に持っている新しい紙を広げながら目を閉じて眉間に皺を寄せた。新しい紙に図面を複写するときに白い光が紙の上を走る。
「ん~、こんなもんか?」
と言って、グラントはエリナが持ってきた紙に魔法で図面を複写した。
「ほいよ。エリナ、こちらの図面をギルドでは使ってくれ。」
エリナはグラントから受け取った紙と私が持参した図面とを見比べて驚いている。
「ええっ、マスターって、こんなこともできたんですね。ギルドの仕事でその能力をもっと使って下されば、私の仕事も少しは減りますのに。」
と珍しく感心しつつも、グラントに仕事をさせようとする姿勢は潔い位にぶれないエリナである。
「ええっ、嫌だよ。これって便利だけど、かなり魔力を使うから滅茶苦茶疲れるんだぜ。俺の魔力量だと一日に何回も使えるもんじゃない。それこそ何度もやったら他の仕事ができなくなっちまうけど、エリナはそれでもいいか?」
グラントは自慢げな顔でエリナに返事をした。
「そんなに大事な仕事って、マスターにありましたっけ?」
エリナは不思議そうにグラントを見た。
「おうよ、お呼びでないお客様を笑顔でギルドからお帰り頂く仕事さぁ。」
グラントが自慢げに言い切ったが、私にはどう見ても大型犬が褒めて褒めて、と尻尾を激しく振っているようにしか見えなかった。
「ぶぶぶっ。」
「あ~・・・ここのギルドマスターって、そういえばそんな役目もありましたわねぇ・・・。」
私が思わず噴き出した横で、エリナが遠い目で何かを思い出したように呟いた。
「そうだ、エリナ。土地の確認にはどの位かかるのかな。」
私はエリナが現実に返って来れるような質問をした。
「そうですね。これからギルドの者を王宮へ向かわせますので、皆様のお茶の時間が終わりになる頃には使いの者が返事を持って帰って来ると思いますわ。王宮はここからそれほど遠くはありませんし。」
よかった、ちゃんとエリナは現実に帰って来てくれたようだ。エリナがグラントの机の上にあるベルを鳴らすと、ギルド職員らしい若い男性が入ってきた。エリナは彼に先程複製した図面を渡し、用件を伝えて退室させた。
「申し訳ありませんが、増築の具体的な話は、土地の使用状況の確認が取れてから進めるということでよろしいでしょうか。」
「うんうん、相変わらずエリナは仕事が早いねぇ~。感心感心。」
グラントがエリナをべた褒めしている。
「これ位できて当り前ですわっ。」
エリナは照れながらも満更ではない表情をしていた。グラントは人を使うのが上手いな。人たらしなのは学院の頃からか。
「さて、と。一つ目の話は返事待ちになったから、二つ目の話を進めておこうか。エルデ、何の話かな?」
「ああ。ひょんなことから王都のとある店に、うちの店専用の新商品の開発を依頼しようと考えていてね。その際に両方の店に足らない所を商業ギルドで手伝ってほしい。」
「そいつは構わねぇが、一体全体、魔法屋専用の新商品って何を開発してもらうんだよ。」
グラントが真顔で私の目を見て尋ねてきた。ギルド長として私が何を作りたいか見極めるんだろう。
この話は三回で終わる予定でしたが、長くなったので四回に分けて投稿します。
機会があったらエルデとグラントの二人の探究活動について書いてみたいです。




