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天然の治療師は今日も育成中  作者: 礼依ミズホ


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36/205

昨日の今日ですが 2

登録ありがとうございます。前回に引き続きロイ目線です。

 「ほら、サーラちゃんも飯食いに行くぞ。ミリルがお店の財布持って行っちまったから、俺達もミリルを追いかけないと。」

「えっ?」


サーラちゃんはミリルが慌ただしく出て行ってしまったのに驚いているようだ。俺とミリルの遣り取りはいつもこんな感じだから、そのうちサーラちゃんも慣れてくれると助かるんだけどな。


「サーラちゃん、俺達もマシューの店へ行こう。ミリルは王都で用事を済ませることになっているから、ミリルが食事を終えるまでに追い付かないと、俺達は自腹で昼飯を食べなきゃならなくなる。まずはミリルを追いかけようか。」

「・・・はい。分かりました。」


 俺は呆気に取られていたサーラちゃんの肩をポンポンと叩き、サーラちゃんと一緒に裏口へ向かった。エルデ様に言われた通り、表に『準備中』の札を掛けてから戸締りをして店の前の通りへ出ると、そこにはもうミリルの姿はなかった。やれやれ、ミリルは随分と先へ行ってしまったようだな。マシューの店へ着く前に追い付かないと。


 俺がかなり慌てて歩いてしまったため、気付いた時にはサーラちゃんとの距離が随分開いてしまっていた。一瞬立ち止まって振り返ると、サーラちゃんが小走りで俺を追いかけて来ているのが見える。


 サーラちゃんを走らせてるなんて、何やってんだよ、俺。


ひとまず自分に突っ込みは入れたが、まずはミリル(おさいふ)に追い付くことを優先させた。俺は後ろから走っているサーラちゃんを気にしながらも、先を急ぐミリルを追いかける。後ろから俺の声が届く距離まで追い付けた所で、ミリルに声を掛けた。


 「こら、ミリル。照れるのもいい加減にしろよ。ミリルがもの凄い勢いで店から消えちまうから、サーラちゃんが走って追いかける羽目になっちまっただろ。」


俺の声に気付いたミリルが漸く立ち止まってくれた。


「ええっ?私そんなに慌てて歩いてしまったかしら。」

「ほらミリル、後ろを見てみろよ。サーラちゃんが走ってるって。」


俺はそのままゆっくり歩いて行くとミリルの隣に立ち、後ろを振り向いて俺達を追いかけて来るサーラちゃんを待った。


 「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」


ようやくミリルに追い付いたサーラちゃんはその場に立ち止まり、息を整えるので精一杯だ。全く、俺達の方が魔法屋で長く働いているのに、ミリルも俺も、二人揃って何やってるんだか。


「サーラさん、急がせてしまったようでごめんなさいね。」

「ミリルもサーラちゃんに気を遣って、ここから店に着くまではゆっくり歩いてやってくれよ。」

「わ、分かりましたわ。サーラさん、そろそろ動いても大丈夫?」

「は、はい・・・・・・な、なんとか、だい、じょう、ぶです。」


俺達はサーラちゃんのペースに合わせてゆっくりと歩いた。サーラちゃんに少し話ができる余裕が出てきた頃、マシューの店に着いたのは何よりである。


「さ、入ろうぜ。今日の日替わりは何かな~。」

「そうね、ここでお昼を頂くのも久しぶりね。私も楽しみだわ。サーラさん、行きましょう。」

「は、はいっ。」


 俺はマシューの店の扉を開けて店の中に入った。カララン、と店の扉に付いたベルの良い音が俺達を明るく迎えてくれる。


「いらっしゃい!」


威勢のいい声でマシューが声をかけてくれた。


「よう、マシュー。三人だけど、空いている席ある?」

「ああ、ロイさんいらっしゃい。そこなら空いてるよ。」


マシューがカウンターの左横の丸テーブルを示してくれた。俺が先頭でミリル、サーラちゃんの順でそちらへ向かう。


「いらっしゃいませ。あらぁ、ロイさんお久しぶりです。エルデさんもお変わりありませんか?ミリルさんとサーラさんも、早速うちの店に食べに来てくれて嬉しいわぁ~。」


マーサがニコニコしてメニューをテーブルに置きながら声をかけてくれる。


「はい、エルデさんも相変わらずですよ。」

「昨日の今日で、早速お邪魔しに来ちゃったわ。」

「ご注文がお決まりになりましたら、呼んで下さいね。」


俺とミリルがマーサと話していた横で、サーラちゃんがぺこっとマーサに頭を下げていた。ああ、昨日の昼食はマシューに店まで配達してもらうようミリルが王都へ行くついでに頼んでくれたのか。マーサに今日の日替わりが何か聞こうと思ったが、マーサは他のテーブルの客に呼ばれたようで「は~い。」と良く通る声で返事をしながら俺達から離れて行った。


俺達はマシューに言われたテーブルに陣取ると、テーブルの上に置かれたメニューを取って眺めた。あれ、サーラちゃんってメニュー読めるのか?


「サーラちゃん、メニューで分からない所があったら俺に聞いていいよ。」


俺は小声で左側に座っているサーラちゃんに声を掛けた。


「あ、ロイさん、ありがとうございます。何となく・・・分かるみたいです。」


あれ、『何となく・・・分かる』?


 えええっ、サーラちゃんって、エルヴァトラ語が読めるのか?

後でその辺もエルデ様に確認しておこう。


「おおい、マシュー。今日の日替わりは何か教えてくれよ。」


俺は気持ちを切り替えると、大声でカウンターの奥にいるマシューに向かって尋ねた。


「今日の日替わりはウサギのシチューだよ。今日は良い肉が入ったんだ。」


マシューがカウンターの奥から答えてくれた。良い肉か・・・それは楽しみだな。俺はマシューに礼を言うと、テーブルの他の二人に声を掛けた。


「俺は日替わり定食にするけれど、ミリルとサーラちゃんは何にする?」

「私は鶏肉の煮込み定食にするわ。サーラさんは?」

「わ、私はふわふわ卵・・・がいいです。」

「皆決まったみたいだから、注文しようか。」


「マーサ、こっちも注文頼むよ。」


俺は手を挙げてマーサを呼んだ。他のテーブルで注文を受け終えたマーサがこちらまで来てくれた。


「お待たせしました。皆さんご注文はお決まりですか。」

「おう、俺が日替わりでミリルが鶏の煮込み、サーラちゃんがふわふわ卵だ。」

「日替わり一つと鶏の煮込みが一つ、ふわふわ卵が一つですね。三つとも定食でよろしいですか?」

「ああ、定食で頼むよ。それから、俺は大盛りね。」

「畏まりました。日替わり定食は大盛りですね。しばらくお待ち下さい。」


マーサは俺達の注文をカウンターの中のマシューへ伝えると、別の注文を取りに他の客の所へ向かった。


「サーラさん、ここのお店の定食はね。今頼んだ料理にパンとサラダが付くのよ。定食について来るパンも美味しいのよね。あのパンはここで焼いているのかしら。」

「いや、パンは王都のパン屋に頼んで作って貰ってるってマシューから聞いたぜ。それから、定食にパンが付くのは昼だけだろ。確か夜は付かなかったはずだぜ。」

「私はお昼しかこちらには来ませんもの。夜のことは知りませんわ。」


ミリルがつんとしてそっぽを向いた。確かにマシューの店はいい店だが、店のある場所(ここ)は王都の外れだ。俺がミリルを家の近くまで送って行くとはいえ、王都の外れで夜遅くまでミリルを引き留めていたら、エルデ様と俺も愛しの騎士様に何を言われるか分からないだろ。


 俺も騎士団に身を寄せていたことがあるとはいえ、在籍していた時期も所属も異なるため、愛しの騎士様との接点は全くない。俺は仕事柄今でも騎士団に伝手があるから、愛しの騎士様の情報は時折入って来る。愛しの騎士様はエルデ様が魔法屋の経営者かつミリルの雇い主であり、俺はミリルの同僚であるとしか知らないはずだ。はぁ、俺も意外と変な所で苦労してるなぁ。


「ミリル、ほら拗ねるなよ。サーラちゃんの分は俺が勝手に定食にしちまったけど、食べ切れなかったら俺がもらうからサーラちゃんは気にしなくていよ。」

「は、はい・・・。あの・・・ロイさん、さっき大盛りって言ってましたけど、大丈夫なんですか。」

「ああ、全然平気だよ。ミリルを急いで追いかけて来たから腹が減った。」


 しれっと俺に嫌味を言われたミリルが渋い顔をしたのを見て、俺とサーラちゃんは互いに顔を見合わせて笑ってしまった。




 思ったほど待たされることもなく皆の注文した料理をマーサが運んで来た。俺達はとりとめのない話をしながら、それぞれのメニューを楽しんだ。店から配達してもらう食事も旨いんだが、やっぱり店で食べた方が旨く感じる。


 食事が済み、ミリルがお店の財布でちゃんと三人分の会計を済ませてくれたので、店を出ることにした。マシューの店を出て魔法屋へ戻るサーラちゃんと俺は左、王都へ向かうミリルは右と分かれて歩いて行く。サーラちゃんと魔法屋へ帰った後―――


 「ああ、しまった!」


俺は大事なことを忘れていた。


「ロイさん、どうかしましたか?」

「い、いや・・・まあ、大丈夫だ。サーラちゃん、急に大きな声を出しちまって・・・ごめんな。」


サーラちゃんには歯切れの悪い返事をしてしまったが、ミリルがいるうちに今日の夕食を誰が作るか決めておくんだった。今日の夕食作りは俺とサーラちゃんの二人かな。

ロイはエルデと二人きり、もしくはサーラを含む三人だけの時はエルデ「様」、それ以外の人物が周囲にいる場合はエルデ「さん」と使い分けています。

次回から通常運転のエルデ目線に戻りますが、この物語はサーラちゃんが主人公です(一応)。

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