再びの衝撃
金曜日、華にとって3回目の小春庵勤務日だ。
前回は放心しながら帰ったが、親友夢子のおかげですっかり元気になり、今日は、
「おはようございまーす」
と元気に出勤した。
今日も藍子との勤務だ。
「私はいつもは14時までなんだけど、華ちゃんが慣れるまでは15時まで勤務するわね。そのあとは春子さんが厨房と並行して華ちゃんに販売を教えてくださる予定」
「わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします!」
藍子が日本語でも英語でも綺麗な言葉で丁寧に接客するのを見て、今日は華もぎこちないが一生懸命真似をしながら接客をする。
アドバイスをもらい、メモを取りながら、接客にも少しずつ慣れてきた。
いったん客足が途切れ、フォークやお皿を洗いながら雑談する。
「藍子さんって英語がすごくお上手ですけど、英検とか持ってらっしゃるんですか?」
「英検は準1級なら持ってるけどね、でも高3の時に取ったから昔すぎてもうかなり忘れちゃったわ。えーと、18の時だから30年以上前ね」
「え!?ちょっと待ってください!高3で準1級っていうのも凄すぎるんですけど、30年以上って…、藍子さん今おいくつなんですか!?」
「52よ」
「えー!!」
厨房で春子が大笑いする。
「藍子さんの年齢を聞くとみんな腰抜かすよね。私も履歴書見て書き間違いかと思ったもの」
「いえいえそんな、たまたま遺伝的に白髪ができにくい体質なだけですよ」
「髪、地毛なんですか?」
「そうなの、染めたことないの。生まれつきちょっと茶色いのよね、髪も目の色も」
藍子が首をひねって、後ろで1つに結ばれている髪の方を見るので、華もつられてしげしげと見る。
かなりロングなのに毛先まで美しい。
白髪も見当たらず綺麗なダークブラウンで、それを見る瞳はカラコンをしているかのような綺麗な茶色だ。
肌も透き通る白さで、体つきも華奢で、儚げで女性から見ても守ってあげたくなる。
華の母親は51歳だが、太っているし日焼けでシミだらけだし、白髪だらけのゴワゴワの髪は放置しているし、実年齢より少なくとも5歳は上に見えそうだ。
それに比べてひとつ歳上だという藍子は10歳以上若く見えるので、実質15歳分以上の差があるように見える。
そもそも顔のつくりが違いすぎて、藍子は美しく作られた人形のような奇跡レベルの可愛さなので、母とは比べようがないのだけれど。
華がポカーンとなっているところに、納入業者の男性が来た。
「春ちゃんおつかれー。あれ?新顔?」
厨房から春子が出てくる。
「源さんおつかれさま。こちら先週から来てくれてるバイトの華ちゃんよ。華ちゃん、こちらは小麦粉やお砂糖や卵なんかを持ってきてくださってる『源田食品』の源田さん」
華はかろうじて我に返り、
「初めまして。よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。ところでアイちゃん、元気?」
藍子は、
「おかげさまで。ありがとうございます」
と微笑む。
「いやー、今日もアイちゃんの笑顔見れてオレも元気出たよ」
春子は、
「はいはい、藍子さんを困らせるのはその辺にして、来週の注文これよろしくね」
と紙を渡す。
「まいど!じゃあアイちゃんまた来週会いに来るよ。新人ちゃんがんばれよ」
源田が帰ると春子は、
「源さんは私と同じ60歳なんだけど、藍子さんの大ファンなのよ。納入に来てるんだか藍子さんの顔を見に来てるんだか。きっと後者のほうが大事なのね」
とクスクス笑い、藍子は
「そんなことないですよ」と笑った。
勤務を終えた華は帰り道トボトボと歩きながら考える。
華の通っていた高校では在学中に準1級を取る子はほとんどおらず、たまに帰国子女が取ることがある程度だった。
白沢大学の学生の中でも入学時点で既に準1級を持っている学生は少なく、華も夢子も英検は2級止まりだ。
藍子さんが高3で取得したのなら超難関校か帰国子女かもしれないな。
そして52歳であの容姿とは…。そりゃ業者さんもメロメロになるよね。
夢子はどんな男性でも若い方に行くだろうという楽観的考えだったけど、全然違うじゃん。
歳は関係なくやっぱり世の中美人が勝ちなのでは?
でもこのことは夢子には言わないでおこうかな。
藍子さんと会っていない人にこのことを言っても話が通じなさそうだし。
でももし通じたとしたら、真実を知ってしまったとしたら、それはそれで夢子がかわいそうだし。
華は今日もまた放心したように帰宅し、そのままお風呂にも入らず、倒れるように眠ってしまった。
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、フルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




