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ワッフル店『小春庵』の日常  作者: 小春庵


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衝撃の出会い

華は翌週の火曜の午後、小春庵に第2回目の出勤をした。


ここでは何時でも挨拶は「おはようございます」だそうだ。


「おはようございます」


華がスタッフルームからフロアに出ると、そこには小柄で華奢な女性が後ろを向いて立っていた。


サラサラのダークブラウンのストレートロングヘアがひとつに結ばれて背中で揺れている。


華と同じカフェエプロンを着けているのだが、華奢な腰はすっぽり覆われており、華と違ってお尻は全く見えていない。


「初めまして、華ちゃんね。私は村雨藍子です。どうぞよろしく」


パッと振り返って挨拶してくれた女性は、目はパッチリくっきり二重で、まつ毛は長くカールしていて、肌は透き通るように白く、見とれてしまうほどだった。


奥から春子が出てくる。


「華ちゃんおはよう、今日もよろしくね」


「よろしくお願いします」


「こちらの藍子さんはこの店のオープンから3年間ずっと働いてくれてる主婦さんなのよ。月から金まで早番で入ってるから、遅番の華ちゃんと重なるのは少しの時間だけど、ベテランさんで何でも知ってるからいろいろ教わってね。藍子さん、指導よろしくお願いします」


華は、世の中にはこんなに可愛い主婦がいるのかと驚いた。


失礼ながら故郷の自分の母や母の友人などを思い浮かべ、まるで別世界の生き物だなと思う。見た感じ40歳ぐらいだろうか。


華があっけにとられているところへ西洋人夫婦がドアを押し、楽しそうに会話をしながら入ってきた。藍子はにこやかに


「Hello.」

と声をかけ、


「Would you like to dine in, or take away?(店内で召し上がりますか、それともお持ち帰りですか)」

と聞くと、男性が


「Here, please.(店内でお願いします)」

と答える。


しばらくメニューを見てから

「Which one is the most popular flavor?(どれがいちばん人気ですか?)」

と聞き、藍子は


「This one , Koharu's original, is the most popular flavor.(こちらの小春オリジナルが最も人気です)」

と指を揃えててのひらで指し示す。


男性はしばらく考え、

「What do YOU recommend?(あなた自身はどれがオススメですか)」

とYOUを強調するように聞く。


藍子が

「Me? My favorite is this one, Koharu's special.(私ですか?私はこちらの小春スペシャルがお気に入りです)」

と言うと、


「OK, I'll take this one. Just one.(じゃあそれをひとつお願いします)」

と男性が微笑む。


藍子が

「Would you like to share?(お二人で分けて召し上がりますか)」

と男性と女性を交互に見ながら聞くと、


「Yes, please. Thank you.(お願いします。ありがとう)」

と答える。


その後のお支払いも英語でやり取りしつつスムーズに済み、やり取りが聞こえていた春子が奥で手際よく準備し、小春スペシャルと取り皿、ナイフ、フォークとスプーン2本ずつがすぐに提供された。


会話は全く早口ではなくゆっくり丁寧だったが、それでも華は実は会話の半分も聞き取ることができなかった。


「あの…英語がほとんど聞き取れなくて…。どんな会話をされていたんですか?」


藍子は微笑み、

「まずお持ち帰りか店内飲食かを聞いたの。ここに『For here or to go?』の札があるでしょ?これを指さすだけでも大体は通じるんだけどね。これは学校の教科書に載ってる言い方よね」


「はい、習いました」 


「to goはちょっとアメリカぽい表現なので、さっきはtake awayを使ったの。今のお客様は最初に入ってこられた時の会話の発音がオーストラリアっぽかったから」


「あの瞬間に…!?」


「たまたまよ。毎回分かるわけじゃないけど、何となく雰囲気で使い分けてる感じかな。でもそもそも私の英会話は文法ガチガチで堅苦しい喋り方のクセがあるから、全然真似しなくていいのよ。この札を指さして聞くだけでじゅうぶん通じるからOK」


「…はい」


「あと、いちばんよく売れるのは?って聞かれたんだけどね、それに対してはいつも小春オリジナルと答えるんだけど、その後にあなた自身のオススメは?って聞かれたのね。そういう時は今みたいに小春スペシャルって答える時もあるし、お持ち帰りの場合なら白沢ほうじ茶って答える時もあるし」


「すごい…。ただ単に言われたのを販売するだけじゃなくて、そんなに配慮なさってるんですね」


「配慮っていうほどじゃないけどね、本当に私は白沢ほうじ茶のワッフルが好きだし、小春スペシャルは本当に美味しくてオススメだしね」


「確かに美味しいですよね」


華は春子のワッフルに愛情を持ってほしいという話を思い出す。


「小春スペシャルは量が多いから、カップルだとひとつをシェアされることもあるのよ。その場合は追加のフォークや取り皿も用意するの。でも難しいことではないから華ちゃんもやっているうちにすぐ慣れて自然に対応できるようになるわ」


華はこれほど可愛い主婦の存在自体にまずびっくりしたのに、その驚きが収まらないうちに、自分が全然聞き取れない会話を藍子がスラスラと目の前でこなしたので、衝撃はかなり大きかった。英語にはそこそこ自信があるはずだったのに。


その後も日本人外国人いろんな客が来店したが、藍子は日本語は美しい敬語で、英語は流暢に、そしてどちらの場合もエレガントな仕草で接客し、その都度華にも優しくやり方を教える。


完璧すぎる藍子に圧倒され、早番の藍子が先に退勤したあともわけがわからないまま動いているような感じで、その日は勤務が終わると放心したように帰った。

この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、フルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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