初出勤
日曜日、華の小春庵での初勤務の日が来た。
メニューを思い出しながら店まで歩く。
ワッフル3種類と、店内飲食限定の「小春スペシャル」。
あと、飲み物はホットとアイスのコーヒー、ホットとアイスのカフェオレの計4種類。
店に到着し、春子からもらった新しいカフェエプロンを着ける。
これは腰から下に着け、巻きスカートのようにして前で紐を結ぶタイプのエプロンで、ふくよかな体型でもパツパツにならないので、華にとっては非常に助かるデザインだ。
ただし後ろ姿はジーンズのお尻がエプロンからはみ出して見えているだろうけど、それはまあ仕方がない。
フロアに出ると、若い女性がいた。
「初めまして、上園華と申します」
「華ちゃんね。わたしは羽田ヒカル。白沢大学の4年生よ」
「よろしくお願いします」
「よろしくね。私はここでは2年半バイトしているの。体育会系陸上部に入っていて、練習とバイトばかりの毎日だけどね、でも就職は無事に決まってるので今年もしっかりバイトはできそうよ。じゃ、今日は一緒にがんばろう」
「はい!」
この日はヒカルが主に接客をこなし、横で春子がざっくりと流れを説明してくれた。
お客様が来られると、店内飲食かお持ち帰りかを聞き、注文を取る。
店内飲食の場合は木の皿にワックスペーパーを敷いてワッフルを乗せ、小さいナイフとフォーク、ペーパーナプキンを添えて提供する。
お持ち帰りの場合はワックスペーパーで包み、紙袋に入れてお渡しする。
コーヒーメーカーは、ダイヤルをコーヒーまたはカフェオレに合わせてボタンを押し、ホットカフェオレの場合は抽出している間に牛乳を温め、カップに注ぐ。
華は春子の説明を聞き、持ってきた小さいメモ帳に走り書きで出来るだけ細かく記していった。
「だいたいざっくり流れはこんな感じよ。初日なので今日はこのくらいで終わりましょうか。次回からは本格的に接客も担当してもらうわね」
「ありがとうございました」
「おつかれさま」
初日はあっという間に終わった。
ほとんど見学していただけだが、それだけでも人生初バイトとしては頭の中が大渋滞で、できるかなという不安と、楽しそうという期待の入り混じった気持ちになった。
スタッフルームでエプロンを外し、バッグを持って帰ろうとしていると、納入業者の大柄な男性が来た。
「こんにちは、太田園です」
「あら若旦那さん、こんにちは。ちょうど良かったわ。こちらうちの新しいバイトの華ちゃんよ。華ちゃん、こちらは『白沢茶太田園』の太田さんよ。白沢の製茶会社の中でも有名な老舗の美味しいお茶屋さんなの。先代にもお世話になっていたんだけど、今はこちらの若旦那さんが引き継がれているの」
「よろしくお願いします」
2人は挨拶を交わす。
太田氏はおとなしそうな男性だ。
注文のお茶を納品し、次回の注文書を受け取ると、特に雑談をすることもなく帰っていった。
何となく華は見送る。
「若旦那さんは確か30歳前後で独身なんだけど、上品でおとなしくて、いかにも若旦那って感じでしょ」
春子とヒカルはくすくす笑う。
「他にもいろんな納入業者さんが来るんだけど、なかなかのキャラが揃っていておもしろいわよ。追々紹介するわね」
「よろしくお願いします」
華は今日の出来事をひとつひとつ思い返しながら、家に帰っていった。
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、フルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




