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ワッフル店『小春庵』の日常  作者: 小春庵


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再会

「ChaCha」の3月号が発売された。

書店では入口を入ってすぐのところにドンと平積みされ、

「SNSで話題!白沢市のあの人気店が雑誌に載りました!」

と大きなポップが飾られている。その下には、

「古民家ワッフル店『小春庵』の素敵なインテリアや焼き立てサクふわワッフルが紹介されています」

とカラフルな字で書かれている。


あれから春子やスタッフ、仲間たちは手分けして、美容室、理容室、ホテル、観光案内所の他に、ネイルサロン、内科や整形外科に歯科、コインランドリーにもChaChaを置かせてもらった。この中には源田と若旦那が自ら買って配ってくれたものや、店舗が自主的に買って置いてくれたものなども含まれる。


真冬に観光客が減ってしまうマイナスの分と、雑誌の効果でプラスになる分では、プラスがわずかに上回ったようで、2月後半のお客様の数が春秋より微増だったのは、春子にとっては嬉しい驚きだった。

お客様の中には雑誌を見て来たという方がたくさんおられ、常連の方々は

「ChaCha、買いましたよ」

と嬉しそうに報告してくれた。


藍子ファンの常連客佐藤氏は、早々に焼き芋の差し入れと共に来てくれ、前川氏も雑誌発売の翌週に浜松パイ持参で来てくれた。

「大山さんは来てくれるかしらねぇ」

と春子とヒカルの間では話題になっていたが、親子は2月中には現れなかった。


3月に入った。

小春スペシャルのフルーツは、バナナ、石尾県産のイチゴ『ロージーベリー』と、熊本県産のデコポンになった。華の羊毛フェルトはデコポンのボコボコが見事に表現されている。

「華ちゃん腕前上がったわねぇ」

「わ、そうですか?ありがとうございます」


今日は藍子が早番、華が遅番の勤務の日だ。

平日なのに午前中から多くの人が訪れ、ワッフルを買っていった。

午後から華が来てからも、初めての来訪と思われるお客様が次々と来店する。

藍子はお客様が途切れるまで少し退勤を遅らせることにした。

華が、

「お待たせいたしました」

と次のお客様のほうを向くと、そこには小柄な大学生大山伸一がいた。

「あ!」

華がびっくりして固まっていると、藍子が、

「あら、いらっしゃいませ。大山様ですね」

と声をかける。


「こんにちは。こちらのお店が雑誌に掲載されたそうで、おめでとうございます。父からもよろしくとのことです」

と藍子をまっすぐ見ながらハキハキと話した。藍子は

「ご丁寧に、ありがとうございます」

とお辞儀する。

伸一は華のほうに

「上園さんお久しぶり」

と笑顔を向けた。

藍子はスーッと下がり、次のお客様に声をかける。


華はやっと口がきけるようになった。

「お久しぶりです」

「お正月にも父と来たんだけどね、君はお休みだったよ」

「ごめんなさい、実家に帰っていたの」

「そう、それは良かったね。ゆっくりできた?」

「めちゃくちゃくつろいできました」

華は実家で食べてはごろ寝して3kg太ったことを思い出し、ちょっとお腹を引っ込めた。

「お正月に来た時は、母が好きな抹茶ワッフルを多めに買って帰ったから、機嫌を損ねずに済んだよ」

華は想像上の伸一の母がワッフルを前に、

「まあ許す」

みたいになっている姿を思い浮かべ、口元がほころんだ。


「じゃあ今日も同じく、白沢抹茶を2つ、白沢ほうじ茶と小春オリジナルを1つずつ、持ち帰りでお願いします」

「はい、かしこまりました」

華は半分笑い声が混じりながら答える。

お会計を済ませ、ワッフル4つを包んで紙袋に入れ、渡しながら

「ワッフル効果でまたお母さんご機嫌だといいですね」

と渡した。

「ありがとう。君の笑顔久しぶりに見れて安心したよ。バイトがんばってね」

と帰っていった。


華は、藍子を見てデレデレしない男性って初めて見たなぁと思った。まあ10代の大学1年生だから主婦にデレデレしないのは当たり前かもしれないが、年齢に関係なく藍子にメロメロになる男性を今まで多く見てきたので、伸一の堂々とした態度はちょっとした驚きだった。

伸一は美人を見ても動揺しないし、しっかりと目の奥まで見つめて、人の中身や本質まで見ながら話しているという風に感じられ、それでいて不快感はなく温かい空気感なので、不思議な人だ。


客足が途切れたので、藍子が帰る準備を始めた。

春子が出てくる。

「藍子さんお疲れさま。遅くまで残ってくれてありがとう」

「いえいえ」

「ところでお二人とも来週か再来週の水曜日、お昼前後はご予定空いている?」

「はい、私は空いています」

「私も空いてます」

「良かった。藍子さんと華ちゃんとヒカルちゃんと私の4人で、送別会を兼ねたランチ会をしようと思ってるのよ」

「送別会ですか…」

「聞くだけで寂しくなりますね…」

「そうね…。じゃあ来週の水曜日、11時半にここに集合でいいかしら?」

「はい。わかりました」

「ありがとうございます」


とうとうお別れの時が近づいてきたのか…。華は退勤後、寂しい気持ちでトボトボと歩く。

「でも春子さんがせっかくランチ会を開いてくださるんだから、楽しい会にしよう」

準備しておくものを思いつき、立ち止まって

「うん!」

自分に頷くと、あとはしっかりとした足取りで帰っていった。



この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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