雑誌の完成
2月になり、白沢市内にも本格的に雪が降る日が増えた。
白鷺園の雪景色を楽しみにしている観光客は確かに多いし、小春庵の窓から見える銀世界も綺麗ではあるが、さすがに雪の多い日の夕方などはほとんどお客様が来なくなる。
スタッフの帰宅の安全のことも考えて、1月中旬から2月末までは閉店時間を1時間早めて、早番も遅番もそれぞれ勤務を30分ずつ短縮している。
今月のフルーツはイチゴとキウイだ。イチゴの品種は先月の「白鷺娘」とは違い、石尾県産の白いイチゴ「ホワイトスノー」を使っている。キウイは「白沢ゴールド」だ。
それに合わせて華の羊毛フェルトも新しく作られている。
お客様がいない店内で、ヒカルと華がグラスの曇りを磨いていると、宅配便が届いた。華は受け取り、厨房の春子に手渡す。
「あら、これChaChaの中野さんからよ。2月10日発売の3月号のサンプルを早めに送るっておっしゃってたから、きっとそれね」
ヒカルと華は春子の周りに集まる。包みを開くとChaCha3月号が入っていた。
「10冊もあるわ!まずは藍子さんと私に1冊ずつ、そして1冊はお店に置いて、あとは…いや、それより中身を見てみようか」
ページをめくると、真ん中あたりに
「〜温かい木のぬくもり〜古民家ワッフルカフェ『小春庵』」として、見開き2ページを使って紹介記事が書かれていた。外観や内装、白沢抹茶と白沢ほうじ茶のワッフル、小春スペシャルの金箔がキラキラと光るアップ、そして春子がワッフルを焼くところや、藍子が接客する様子の写真も載っている。
「わあ!ワッフルが美味しそうに写ってますね」
「お店の柔らかい雰囲気もそのままよく撮れてるし、味の感想も絶賛されてますよ。厨房の春子さんも素敵」
「ありがとう。ChaChaの中野さん結構気に入ってくれてるみたいだったけど、本当にこうやって見開き使って大きく載せてくれてるってことは、高く評価してくれたんだね。うれしいわ」
みんなでひとしきり感激したあと、
「この日藍子さん取材があるって知らずに来たんでしょう?」
「そうなの。前日に急に決まったから知らせてなくて」
「いつも通り薄化粧で髪も特に凝ったセットもしていないのに、こうやって雑誌に載ってもハッとするぐらい綺麗ですね」
「そうだね、これは本物だね」
写真の藍子は、お客様に向いて優しく微笑む目元が、本当に上品で綺麗だった。
次のページをめくると、見慣れた小春庵のウッドバーニングの看板が大きくドーンと載っている。
「わぁ!連続でここも小春庵のページですよ!というかこれは藍子さんの作品の特集ですね。すごいなぁ」
小春庵の看板、店内や壁に飾ってある小物類の写真の他に、おそらく藍子の自宅にも取材に行ったのだろう、保護メガネをかけて電熱ペンを持ち、木のお皿に絵を描く藍子の写真も載っており、下には
「ウッドバーニングアーティスト 村雨藍子さん」と紹介されている。
真剣な表情、凛とした姿に、華はしばらく言葉も出ない。
「…すごい…。完全に芸術家ですね」
こうやって見ていると、いつも一緒に仕事をしている藍子が遠い存在のような気がしてくる。
そこへ納入業者の源田が現れた。
「まいどーおつかれー。いやぁ溶けかけの雪でぬかるんで走りにくかったよ。あれ?何それ?アイちゃんじゃん!とうとうモデルデビューしたの?」
「違うわよ源さん。藍子さんがここの木の看板作ってくれたでしょ?あれがカフェ雑誌さんの目にとまって取材受けたのよ」
「あーあれか、あれは確かにプロ並みにすごいもんなぁ。そりゃ注目もされるよな。でもこうやって載ったら我らのアイちゃんの美人度が全国にバレちゃうな」
「源さん、1ページ戻ってみて。ちゃんと私も載ってるから」
「どれどれ、お!春ちゃんもワッフル焼いてる姿が載ってる!やるねぇ、これは来月からきっと売り上げ爆上がりだよ。そうなるとオレんとこの納入品も多くなるよな。それに備えて準備しないと」
「源さん気が早すぎ!雑誌に載ったからってすぐに爆上がりはしないし、まだしばらくは閑散期だから、そこまで期待はできないわよ。でもじわじわと効果が出たらいいなとは思ってるけどね」
「きっと効果ありますよ」
「お客様きっと増えますよ。行列になりますよ」
みんなで雑誌を囲み、夢を膨らませる。
「この残り7冊どうするんですか?」
「そうねぇ、商店街の美容室と駅前のホテルのロビーに置いてもらおうか。美容室は2箇所はあるわよね。あと本屋さんにも声をかけて、ポップを置いてもらえると嬉しいわね」
「オレの通ってる散髪屋にも頼もうか?」
「散髪屋に行くようなオジサンがこんなおしゃれな雑誌読むかしらねぇ。まあでもせっかくだからお願いするわ」
「駅の観光案内所に置いてもらうのはどうですか?」
ヒカルが提案すると、
「いいわね、それもお願いすることにしましょう」
華も、
「栄牧場さんにもどうでしょうか」
「あ、それは絶対必要ね!源さんと若旦那にも渡したいなぁ。7冊で足りないわね」
「オレと若旦那は自分で買うよ」
「あらいいの?ありがとう」
「オレ帰る途中に太田園の前を通るから、若旦那に言ってくるし、散髪屋にも届けてくるよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
「あ、いや、やっぱり散髪屋のはあとでオレが買うのを持っていくよ。ここの7冊は他のところに持っていってよ」
「いいの?源さん、本当にありがとう」
みんな次々に提案し、あとは何ができるかなぁと上を向いて考えている。
ヒカルが、
「今日お客様少なめなので、接客をハナに任せて、私もひとっ走り行ってきましょうか?」
「え?いいの?」
「陸上部ですから任せてください。美容室とホテルと観光案内所は行きますよ」
「ありがとう。でもぬかるんでるから走らないでね」
「わかりました。早足で行きます」
「普通に歩いて行ってね。先に私がそれぞれに電話でお願いしておくわね」
「書店には雑誌は渡さなくていいですよね。でもポップは飾ってほしいですよね」
「それは私が後日直接お願いしに行くことにするわ。で、サカちゃんにはこの次来た時に渡したらいいわよね」
着々と段取りが進む。
「発売日が楽しみですね」
春子もヒカルも華も、そして源田までも、目をキラキラさせて、小春庵にお客様がたくさん並ぶ姿を思い浮かべた。
この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。




