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ワッフル店『小春庵』の日常  作者: 小春庵


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15/28

取材

12月になった。

紅葉シーズンは終わり、白沢市にも雪がちらつくようになった。

1月になると寒い中でも白鷺園の雪景色を見に来る観光客はある程度いるが、12月はまだ真っ白に積もるまではいかないので、クリスマスまでの期間は閑散期となる。


「おはようございます」

藍子が小春庵に出勤すると、春子がいつになく慌ただしくバタバタと店の掃除をしていた。

「藍子さんおはよう。実は急なんだけど今日雑誌の取材に来られることになったのよ」

「雑誌ですか?」

「そうなの。それもタウン誌とかじゃなくて全国誌。『ChaCha』っていう、古民家カフェやログハウスカフェなんかのナチュラル系カフェが中心に載ってる雑誌、知ってる?あれに載ることになったの」

「『ChaCha』知ってます。あれに載るなんてすごいじゃないですか!」


「先月撮影を途中で辞めた女の子2人組の配信者のこと話したでしょ?あの子たち、若い子の間では結構なインフルエンサーだったらしいの。ルルカちゃんとララカちゃんっていう双子で「ルルララ」っていうコンビ名で知られてるらしいわ」

「あ、聞いたことあります」

「先月ミスがあって動画撮影は中止されたんだけど、そのあとワッフルやお店の外観の写真を、静止画像だけだったけど投稿してくれたんだって。それがChaChaさんの目にとまったらしいの。あの時ミスしたけど誠実に対応して良かったわ」


「そうなんですね、良かったです!で、何時に来られるんですか?」

「10時よ。お客様は少ない時期だからそれほど重ならないとは思うけど、念のため一般のオープンを30分だけ遅らせて10時半にしようか。藍子さん紙に手書きでいいから書いてドアに貼ってきてくれる?」

「承知しました!」


藍子は筆ペンを使ってB4の紙に

「営業時間変更のお知らせ

本日は誠に勝手ながら開店時間を10時30分とさせていただきます。ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願い申し上げます。小春庵」

と流れるような綺麗な字で書き、下の左端にお辞儀をしているエプロン姿の女性を描いた。スタッフの絵は深くお辞儀をしていて顔は見えないが、髪形やスタイルが一瞬で春子だなとわかるくらい似ていた。


藍子が

「こんな感じでいいですか?」

と春子に見せると、

「えー!藍子さんすごい!字も綺麗だけど、絵が私にそっくり!これ私よね?」

「はい、春子さんです」

「藍子さんそんな才能もあるのね。今日の朝だけで剥がすのがもったいないわ。しかも私に似てるけどちょっと若く描いてくれてるのが嬉しいわ。白髪がないもの」

「筆ペンで描いたんで、そんな特別気を遣ったわけじゃないんですけどね」

藍子は笑いながらドアに貼りに行った。


10時ちょうど、ドアが開く。40代くらいの女性と、カメラを抱えた20代くらいの女性が現れた。

「初めまして、ChaCha編集部の中野と申します。こちらはカメラマンの高橋です。本日はどうぞよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします。こんな遠いところの小さいカフェまで来てくださってありがとうございます」

「いえいえ。古民家の良さを最大限残した素敵な外観ですね。ドアの外の看板も素敵です」

「あ、あの看板はこちらのスタッフの手作りなんですよ」

「スタッフさんの手作りなんですか!?」

「ウッドバーニングが趣味ということで、お願いして作ってもらったんです。看板だけじゃなくてこのあたりのプライス札や今月のフルーツの札、あとそちらのお手洗いのドアのところもそうなんです。あと、壁の額縁も」

「木の温かみが生かされた素敵な作品ですね。このお店の雰囲気にピッタリです」

「ありがとうございます」

「ではまず外観と内装の写真を撮らせてもらっていいですか。その後にワッフルをいただくことにします」

「はい、どうぞ。小さいけれど庭もあるんですよ」


2人はいったん外に出て写真を撮り、また中に入ってあちこちの写真を細かく撮っていった。華の羊毛フェルトのフルーツも丁寧に撮られているのを、春子と藍子は並んで微笑みながら見ていた。


「それではワッフルを注文していいですか」

「はい!こちらがメニューです。シンプルな『小春オリジナル』のほかに、白沢名産のお茶を使った『白沢抹茶』、『白沢ほうじ茶』がありまして、あとこちらが店内限定の『小春スペシャル』です」

「わぁ、スペシャルというだけあってゴージャスですね。中身は何ですか?」

「小春オリジナルワッフルに、フルーツやアイスクリーム、ミントの葉、そして白沢名産の金箔をトッピングしています。ミントは私が庭で育てているんですけど、冬は無理なのでこの時期は仕入れたものを使っています」

「あら、もう少し早く伺えば間に合ったかもしれないですね、残念」


「そして今月のフルーツは鹿児島県産の安納芋、石尾県産のみかん『石美』、そしてこちらも石尾県産のりんご『野々山クイーン』です」

「えっと、安納芋はフルーツではないですよね?」

「はい、でもフルーツ並みかそれ以上に甘くてとろけるように美味しいので、10月から12月までの3ヶ月間、バナナの代わりに使っているんです。ワッフルにもアイスクリームにもよく合うんですよ」

中野はボイスレコーダーで録音しつつ、メモ帳にも書きながら聞く。

「どれも美味しそうですね。全部ほしいな。では、白沢抹茶と白沢ほうじ茶をひとつずつ、それと小春スペシャルをひとつ、その3つを2人で分けていただいていいですか」

「ありがとうございます。では小分けのお皿もお渡しいたしますね」

ワッフルを盛り付けて提供し、春子はコーヒーもサービスでつける。


高橋がワッフルをいろんな角度から撮影し、そして2人は小皿に取り分けて食べ始める。

「美味しいです!シンプルな小春オリジナルもサクサクで中はもちっとしていて最高の食感だし、抹茶とほうじ茶もすごくいい香り」

「こちらのスペシャルも、生クリームのホイップじゃなくてアイスクリームなのがこのワッフルとよく合ってますね。みかんとりんごがこの地方の銘柄なのも嬉しいし、色も綺麗。金箔もゴージャスですね」

春子は褒められて嬉しそうだ。

「そのアイスクリームは白沢市内の栄牧場さんのものなんです。濃厚で美味しくて、お客様からも好評なんですよ」

「地元のものを工夫して使われているのが素敵ですね」


そろそろ30分が過ぎる頃で、一般のお客様がチラリと覗くのが見えた。

「あ、一般の方が来られる時間ですね。もし許可が得られたら並んで買われている後ろ姿も撮りたいのですが、よろしいでしょうか」

「お客様にお聞きしてみますね」

春子がドアを開けて貼り紙をはがし、入ってきた2組のお客様に聞いてみると、快く了解してくれた。そして藍子がにこやかに接客している様子を高橋が撮影した。


中野がお客様に質問する。

「こちらにはよく来られるんですか?」

「はい、月に一度くらいは来ます。ワッフルは美味しいし、お店は居心地いいし、スタッフさんもとっても親切ないい方ばかりなんです。あと、スタッフさんの作られる飾りを見るのも楽しみで」

「確かに、看板もフルーツ飾りも手作りで素敵ですよね」


取材が終わり、2人は帰る支度を始めた。

「この記事は2月10日発売のChaCha3月号に掲載するつもりで進めさせていただきますね。内容が整えば先にサンプル数冊をお送りさせていただきます」

「よろしくお願いいたします」


「あと、外のウッドバーニングの看板が本当に素敵なので、こちらに関して後日また別途伺わせていただいてよろしいでしょうか?」

「え?私にですか?」

藍子は驚く。

「はい。カフェの特集でも内装に重点を置く回やスイーツに重点を置く回などいろいろあるんですが、看板というのもかなり人気なんです」

「でもこれは私が作ったと言っても小春庵の看板なので、オーナーに権限が…」

「藍子さん、遠慮なく取材お受けなさい。もしそれで他のカフェから看板作成の依頼が来たとしても、私は歓迎よ。うちの優秀なスタッフが全国に名の知れる看板作家になったとしたら誇らしいもの」

「そんなすごいことにはならないですけど、じゃあお受けしようかしら」

藍子と中野の間で日時の約束がされ、2人は帰っていった。


春子はドアからはがした貼り紙と外の看板を改めてまじまじと見る。

「そりゃ記者さんも興味持つよね。本当に素敵だものね」


午後になり、華が出勤してきた。

「華ちゃんおはよう。今日ChaChaっていう雑誌の記者さんが取材に来たのよ」

「え!ChaChaの!すごいじゃないですか!」

「華ちゃんの羊毛フェルトの作品もカメラマンさんが撮ってたわよ」

「えー!」

華はのけぞる。

「なんか恥ずかしい…」

「そんなことないわよ、褒めてくれてたわよ」

「記者さんも、お客様もね」

春子も藍子も口々に言う。

「うーん、まあでもカメラはちょっと苦手なんで、いない時で良かったです。あれ、この紙何ですか?営業時間の変更?この絵春子さんにそっくりですね」

「今日オープンを30分遅らせて藍子さんに急いで描いてもらったんだけど、この絵が気に入りすぎて、剥がしてからも捨てられないの。記念に置いておこうかと思って、ラミネートしたのよ」

「似顔絵ならいつでも描きますよ」

藍子が言う。

「いいなぁ、私も描いてほし…」

華は言いかけてから、しまった、別に自分の顔の絵なんていらなかったと思ったが、取り消すのも失礼なので、固まったまま黙っていた。不自然に途中で止まった華を見て藍子は数秒黙ったが、ためらいがちに

「…いつか描くわね」

と言った。華はちょっと考えたあと、

「実物より可愛らしい感じでお願いします」

と言い、みんなでワッと笑った。

「いやーChaChaの発売楽しみですねぇ、小春庵全国レベルで有名になりますよねー」

はしゃぎながら流し台に向かう華を見て、春子と藍子はホッとしたように顔を見合わせて微笑んだ。


この物語はフィクションです。作中に登場する人名や地名、校名、お茶やフルーツの銘柄などはすべて架空のものです。一部実在の名称と同じものも混在しますが、実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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