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監視郷(かんしごう)――屋敷神郷の失踪者に関する中継記録  作者: 青餅猫
一 杉谷喜一に関する中継記録

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01. 屋敷神郷へようこそ

 【青喜原あおぎはら新聞 平成21年1月1日(木)】


 屋敷神郷(やしきがみごう)教育実習生死亡事件 

 死亡後数時間にわたり、定点ライブカメラにて遺体が放映されていたか


 平成20年12月25日午前3時頃、××県勝乃木(かつのぎ)(ぐん)屋敷神郷にて、都内教育大学の実習生一名が行方不明となった。

 青喜原内の警察と消防で波笛神社付近を捜索し、同日の午前9時頃に神社内の神木付近にて遺体を発見した。

 警察によると、遺体は神木に設置されたライブカメラの前にうずくまるような状態で亡くなっていたという。

 遺体には顔面に集中して複数の裂傷が確認されており、青喜原警察署は事件と事故の両面から捜査を進めている。


 また、遺体は発見に至るまでの数時間、波笛神社の神木に設置されたライブカメラによってインターネットに映像が放映されていた可能性があるという。

 青喜原警察署は各機関への映像に関する報道自粛要請、および転載や再配布を控えるよう呼び掛けている。


 映像の詳しい内容について同署は「捜査上の理由により公表できない」としており、詳細は明らかにされていない。


 ――――――――――――――――――――


 【青喜原新聞 平成21年1月2日(金)】


 屋敷神郷(やしきがみごう)教育実習生死亡事件に急展開

 同日行方不明となっていた女子中学生一名の遺体発見


 12月25日に××県勝乃木(かつのぎ)(ぐん)屋敷神郷にて発生した屋敷神郷教育実習生死亡事件において、青喜原警察署は1月2日、同日より行方不明となっていた屋敷神郷内在住の女子中学生一名が昨日さくじつ死亡していたことを明らかにした。

 女子中学生の遺体は波笛神社付近の山林内で発見され、死因は窒息死であったことが分かった。

 また捜査関係者によると、司法解剖の結果、遺体の体内からは神木に設置されていたライブカメラとみられる破片の一部が発見されたという。

 青喜原警察署は事件と事故の両面で捜査を続けている。


 また、現場周辺には同じく屋敷神中学校に通う女子中学生一名が重傷を負った状態で保護されており、警察は両者の間に何らかのトラブルがあった可能性もあるとして捜査を進めている。


 二人の生徒は死亡した教育実習生と親しい関係にあったとみられ、事件当日も接触していた可能性があるという。

 青喜原警察署はこれらの事件の関連について、慎重に調べている。


 なお、同署は保護された女子生徒の供述内容について「捜査上の理由により公表できない」としており、詳細は明らかにされていない。



――――――――――――――――――――




『おはようございます。平成20年10月22日、朝のニュースをお伝えします。』


 ……んぇ。

 テレビから聞こえてくるニュースの音で、僕は微睡からようやく目を覚ました。

 …まさか、いつの間にか寝てしまってたのか?

 机からゆっくり顔を上げると、部屋には授業で使用する殴り書きメモの束が積み上げられていた。

 テレビは電源が付きっぱなしで、部屋の電気も灯ったままだ。

 身体は思ったより疲れが溜まっていたようで、作業をしている間に眠っていたらしい。

 窓をがらりと開け、僕は屋敷神郷(やしきがみごう)の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。

 夏のピークがとうに過ぎたこの郷の朝は、もうすっかり冷んやりとした空気が漂っている。

 緑溢れる自然と、木造の古い家々が立ち並ぶ風光明媚な(さと)

 それが、僕が現在教育実習で訪れている屋敷神郷なのだ。

 

勝乃木かつのぎ(ぐん)で行われている地域活性化プロジェクト。今年は平成20年を記念し、大規模なものになりそうです。』


 ローカルニュースをラジオ感覚で流しながら、急ぎ足で朝食の準備をする。

 ホカホカのご飯、焼き鮭、味噌汁、そして漬物を不器用ながらに拵えると、それらを口いっぱいにかき込んだ。

 ……うむ、我ながらいい出来である。

 これぞ日本人の食卓! といったラインナップの朝食で、モリモリと元気が湧いてくるな。

 粒の立ったご飯を、焼き鮭の塩気とともにかき込む。

 それからこの郷の名物、屋敷漬けを白米にダイブさせていただくのだ。

 唐辛子の効いたきゅうりの漬物だが、これは全人類に食べてもらいたい。

 この郷を訪れなければ、出会うことが無かった逸品だ。


 郷に来てから朝食を欠かしたことが無いという事実は、我ながら驚くべきものだった。

 少し前まではプロテインバーを胃にぶち込んで大学の授業に出席するという日々を送っていたというのに……不思議なもんだ。

 そのおかげで今の僕は健康そのもの。

 痩せ型であった身体には、薄っすらと筋肉まで付いてきたような気がする。

 

「よーし。今日も飯が美味い。そして屋敷神郷やしきがみごうは平和ソノモノ。問題ナシ!」


 新聞をパラパラと高速で捲りながら、スーツに着替えて出勤の準備をする。

 今日は祥太郎(しょうたろう)、スイたちと一緒に登校することになっているので少し急がねばならない。

 教育実習生と生徒が待ち合わせをして登校するなど、都内の中学校ではありえない光景なのだろう。

 下手すりゃロリコン変態教師として指をさされ、一発アウトだ…。

 しかし、この人口四百人程度の郷ではそれが許される。

 というか、あいつらからすれば僕も生徒や友達の延長線上みたいなものなのだろう。

 それはそれでどうなのだろうとは思うが……楽しく充実した日々であるということに代わりは無いのでオッケーだ。


 そんなことを考えている間に……もう待ち合わせの時刻が迫ってきている!

 僕は慌てておかずを味噌汁で流し込み、歯磨きをして家を飛び出そうとしたが。

 …危ない危ない、またテレビの電源を切り忘れるところだった。

 昨今では電気代も馬鹿にならないのだから、気を付けないと。


『長年協議が続けられている青喜原(あおぎはら)村と屋敷神郷を結ぶ勝乃木群新道路(しんどうろ)計画について、西城寺さいじょうじ家の西城寺大地(だいち)当主は、改めて青喜原旧家(きゅうけ)と屋敷神旧家同士の話し合いを開く方針を示しています。』


 こういう地域ならではのニュースも、ローカルの醍醐味だよな。

 東京では、やれ商品の値上げだの殺人事件が起きただの、気が滅入るニュースしか流れ込んでこなかったから気が楽だ。


『この方針に対し、屋敷神郷の住民からは依然として不満の声が上がっており、反対運動も続いている様子です。今後の動向に注目が集まっています。』


 この郷に来てから半月程しか経っていないので、まだ知らないことも沢山ある。

 新道路計画とやらの情報も、断片的にしか知らない。

 そもそも、知る必要もないだろう。

 もう既に僕は、この郷で何不自由ない最高の生活を送れているのだから。

 今日も元気に授業をこなし、充実した一日を送るとしますか!

 そう意気込み、テレビを消して部屋を飛び出した。


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