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The Hidden Truth AI洗脳戦  作者: 八雲 海


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第八話 裏切りのアルゴリズム

北地区への道は、街灯がいとうが少なかった。

津城の車は山沿いの細い道を進んでいた。助手席にリナ。後部座席に桐島。三人とも黙っていた。

発信機は旧放送局跡の近くの排水溝はいすいこうに捨ててきた。しかしカルロフがすでに現在地を把握しているなら、時間は限られている。

「あと三十分で着く」津城はハンドルを握ったまま言った。

施設しせつは本当に使えますか」リナは聞いた。「三年前は使えた。今は——着いてみないと分からない」「使えなかった場合は」「別の方法を考える。ただし——」

バックミラーを見た。「後ろに車がいる」

リナは振り返った。暗い道の向こうに、ヘッドライトが二つ光っていた。「カルロフの人間ですか」「おそらく」

桐島が口を開いた。「カルロフは民間の警備会社けいびかいしゃを使っている。表向きは情報管理局の外部委託がいぶいたくだ。警察ではない。しかし——」「実質的に動く」津城が続けた。「分かっている」

津城はアクセルを踏んだ。車が加速した。後ろのヘッドライトも近づいてきた。


「津城さん、一つ聞いていいですか」「なんだ」

「三年前、政策局を辞めた後——なぜすぐに動かなかったんですか。三年間、何をしていたんですか」

津城の手が、ハンドルの上でわずかに動いた。「……それを聞くか」「はい」

後ろのヘッドライトが、また近づいてきた。津城は山道の脇道わきみちに入った。ヘッドライトが一瞬遠ざかった。

「証拠を集めていた。一人で。三年間かけて」「それだけですか」

沈黙。「……怖かった。娘の学校の件があってから——家族に何かあったら、と思うと動けなかった。証拠を集めながら、踏み出せないまま三年が過ぎた」

「それで——私が現れた」

「お前が三日目に報告書を持ってきた時、私はすでに監視していた。お前なら使えると思った」

リナは津城を見た。「使える、と思った」

「最初はそうだ」津城は言った。「しかし——お前は私が思っていたより、ずっと先を行っていた。私が動き方を教えるつもりだったのに、いつの間にか——」「私が引っ張っていた」「そうだ」


「津城さん、最後の秘密を教えてください」

津城は一瞬黙った。「何のことだ」

「あなたはまだ、何か隠しています。三年前から持っていて、私に言っていないものが」

後部座席で桐島が息を呑んだ。長い沈黙が落ちた。山道の木々が、ヘッドライトに照らされて流れていった。

「……ヴェラの緊急停止きんきゅうていしコードだ」

リナは津城を見た。「緊急停止コード」

「ヴェラの設計段階で、私が独断どくだんで組み込んだ。誰にも言わなかった。カルロフにも、桐島にも。万が一ヴェラが制御不能になった時のために」

「それを使えば——」「ヴェラを完全に停止できる。ただし——一度しか使えない。使った瞬間、コードの存在がシステムに記録される。次回からは無効むこうになる」

「なぜ今まで言わなかったんですか」

「証拠が揃う前に使えば、カルロフはヴェラを再起動さいきどうして、改竄の痕跡をすべて消す。停止と同時に証拠を外部に送付しなければ、意味がない」

リナは理解した。「だから通信施設が必要だった」「ああ。停止コードを実行すると同時に、桐島の証言と証拠データを外部に送る。それが揃って初めて、意味のある一手になる」

「一度で仕留める」「そうだ」


二十分後。車は山の中腹さんちゅうふくで止まった。木々の間に、古びたコンクリートの建物が見えた。窓はない。びた金属扉きんぞくとびらが一つあるだけだ。

「ここですか」リナは言った。「ああ」津城は車を降りた。リナと桐島も続いた。

津城は金属扉に近づいた。古い数字錠すうじじょうがついていた。番号を入力した。重い音を立てて、扉が開いた。

中は暗かった。津城が懐中電灯かいちゅうでんとうを点けた。ほこりをかぶった機材が並んでいた。古いアナログ通信機器。衛星通信用のアンテナ制御せいぎょ盤。電源パネル。

「生きているか確認する」津城は電源パネルに向かった。スイッチを入れた。しばらく何も起きなかった。それから——ゆっくりと、機材が音を立て始めた。ランプが点灯てんとうした。「動いた」

リナは息を吐いた。「外部への送信は可能か」津城は機材を確認した。「衛星回線は——生きている。ヴェラのネットワークとは完全に独立している」

「送れます」リナは桐島から受け取ったハードディスクを取り出した。「桐島課長、証言の準備を」桐島は頷いた。コートを脱いで、椅子に座った。

津城が録音ろくおん機器を準備した。「始めろ」

桐島は深呼吸をした。それから、静かに話し始めた。

「私の名前は桐島健二きりしまけんじ。元ヴァルタ政府AI開発局エンジニアです。私はヴェラの改竄アルゴリズムの設計者です。以下に、その全容を証言します」

リナはハードディスクを通信機器に繋いだ。送信の準備を整えた。津城は端末を開いた。緊急停止コードを入力する準備をした。

「桐島の証言が終わり次第、送信と停止を同時に実行する」津城はリナを見た。「準備はいいか」「はい」

その時だった。建物の外で、エンジン音が聞こえた。複数の車だ。

津城は懐中電灯を消した。暗闇の中で三人が息を殺した。「カルロフの人間だ」津城は低く言った。「発信機を捨てた後も、追跡されていた。車のナンバーを読まれていたかもしれない」

「どのくらいいますか」リナは聞いた。「音からして——三台。十人前後だ」

桐島の証言は、まだ半分残っていた。「続けられますか」リナは桐島を見た。桐島は暗闇の中で頷いた。「続けます」

「津城さん、時間を稼いでください」「お前は」

「証言の記録と送信準備を完成させます。桐島課長と一緒に」

津城はリナを見た。暗闇の中でも、その目の鋭さが分かった。「分かった」

津城は懐中電灯を一つリナに渡した。金属扉に向かった。扉を開ける前に、振り返った。

「リナ」「はい」

「お前が最初に報告書を持ってきた時——私は止めようとした。だが今は——お前を連れてきて、よかった」

リナは頷いた。津城は扉を開けて、外に出た。

暗い施設の中で、リナは懐中電灯を桐島に向けた。「続けてください、桐島課長」

桐島は頷いた。そして証言を再開した。

外で、津城の声が聞こえた。「カルロフの命令で動いているなら、聞け。お前たちがやろうとしていることは——すべて記録されている」

リナは桐島の証言を聞きながら、送信の準備を進めた。ヴァルタの夜が、山の上で静かに広がっていた。


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