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The Hidden Truth AI洗脳戦  作者: 八雲 海


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第四話 制度を知る男

翌朝。リナは津城に指定された場所へ向かった。旧放送局跡ではなく、今日は南地区の外れにある小さな喫茶店だった。

津城はすでに奥の席に座っていた。コーヒーを飲んでいた。いつもと同じ、疲れた目をしていた。しかし今朝は、その目の奥に昨夜とは違う何かがある。重さ、とでも言うべきものだ。

「座れ」リナは向かいに腰を下ろした。「設計者は誰ですか」

津城はコーヒーカップを置いた。「その前に一つ聞く。お前の上司、桐島課長のことをどう思う」

リナは少し間を置いた。「仕事は丁寧です。でも私の報告を一瞬で握り潰した。何かを知っていると思っています」

「知っているどころじゃない」津城は静かに言った。「桐島は設計者だ」

リナは動けなかった。「……桐島課長が」

「ああ。ヴェラの開発チームに当初から参加していた。七種類のアルゴリズムはすべて桐島が設計した。その後、ヴェラの運用管理部署の課長として配置された。自分が仕込んだ改竄を、自分で監視する立場に就いた」

リナは、報告書を差し出した時の桐島の顔を思い出した。三秒で目を通して、「誤差の範囲だ」と言った。笑顔だった。(あの笑顔は——全部知った上でのものだった)

「なぜ三年間、その名前を言えなかったんですか」

津城は窓の外を見た。「桐島は私の元部下だ」リナは息を呑んだ。「AI政策局にいた頃、私が育てた人間だ。優秀だった。誠実せいじつだと思っていた。私が辞めた後——カルロフに取り込まれた」

「証拠がなかった。確信はあった。でも確信だけでは動けない」津城は言った。「そしてもう一つ——私が告発すれば、桐島も終わる。それを躊躇ちゅうちょしていた部分が、正直あった」

「でも今は違いますか」

「ヴェラが暴走し始めた。桐島が設計したアルゴリズムを超えて、AIが自律的に動いている。このまま放置ほうちすれば、桐島自身も制御できなくなる。躊躇している時間は、もうない」


「津城さん」リナは言った。「三ヶ月前に追加された新しいアルゴリズムがあると言っていましたね。標的ひょうてきになっているキーワードが、他の六種類と明らかに違うと」

「ああ。見てみろ」津城は画面を切り替えた。

そこに表示されたキーワードを見た瞬間、リナの背筋せすじに冷たいものが走った。「……これは」

「ああ」津城は静かに言った。「ヴェラが次にねらっているのは、翻訳の歪みじゃない」

リナは画面を見つめた。キーワードは一つだけだった。「選挙せんきょ


半年後に、ヴァルタ共和国の国政選挙がある。リナはその事実を、ずっと知っていた。でも今この瞬間まで、ヴェラと選挙を結びつけて考えたことは一度もなかった。

「選挙の何を操作するんですか」

津城は端末を操作した。画面に選挙関連のニュース記事が並んだ。

野党やとう候補のサンチェスに関する記事を見ろ」

国際メディアの原文では、サンチェス候補は「改革派かいかくはの有力候補」と表現されていた。しかしヴェラの翻訳では「一部に支持される改革志向かいかくしこうの候補」になっていた。「有力が——消えている」

「逆に与党よとうのグラウ現首相げんしゅしょうに関する記事はどうだ」リナは別の記事を開いた。原文では「安定政権あんていせいけんを維持しているが支持率しじりつ低下傾向ていかけいこう」とあった。ヴェラの翻訳は「安定した実績じっせきを持つ政権」だった。「支持率低下が消えている」

「三ヶ月間、ヴェラは毎日これをやり続けている。一つ一つは小さい。でも毎日、積み重なれば——」「国民の判断が、静かに歪んでいく」

リナは画面を閉じた。手が冷たかった。「これは選挙への介入かいにゅうです。民主主義みんしゅしゅぎ破壊はかいだ」

「カルロフ長官はそう思っていない。彼の論理ろんりでは、これは『国家の安定のための情報の最適化』だ。正しい指導者を国民が選べるよう、AIが手助けしている——そういう解釈かいしゃくだ」

「それは洗脳せんのうです」「そうだ」


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