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The Hidden Truth AI洗脳戦  作者: 八雲 海


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第三話 内部告発

南地区の旧放送局跡。かつてヴァルタ国営放送の第二スタジオとして使われていた建物だ。ヴェラ導入と同時に、放送業務がすべてデジタル化され、この建物は役目を終えた。今は廃墟同然だが、取り壊しの予算が下りないまま放置されている。

リナは約束の十八時より十分早く着いた。びた鉄扉てっぴを押すと、きしむ音がした。中は薄暗い。古い機材の残骸ざんがいが積み上がっている。

「来たか」奥から津城の声がした。


津城はノートパソコンをひざの上に置いて座っていた。画面には無数のコードが流れている。

「改竄アルゴリズムの源流みなもと、見つけましたか」「お前はどこまで追えた」

リナは自分のタブレット端末を開いた。「七種類のうち、三種類は学習データの汚染おせんです。ヴェラが言語を学ぶ段階で、特定の表現パターンを弱く評価するよう設定されている。残りの四種類は——」

「出力フィルターだ」津城が続けた。「翻訳した後、表に出す前にもう一度書き換える。二重にじゅうの改竄だ」

リナは息を呑んだ。「学習段階と出力段階の両方で——」

「念には念を入れている。どちらか一方が発覚はっかくしても、もう一方が残る。そういう設計だ」

「誰がそこまで——」

津城はパソコンの画面をリナに向けた。そこには一つの組織図そしきずが表示されていた。

「ヴァルタ情報管理局じょうほうかんりきょく。表向きはサイバーセキュリティの専門機関だ。だが実態は——」

「AIの検閲けんえつ機関」「正確には、『情報の最適化』と呼んでいる」津城は言った。「国民に届く情報を、国家にとって最適な形に整える。それが彼らの仕事だ」

リナは組織図を見つめた。トップに一つの名前があった。カルロフ長官ちょうかん

「この人物が」「ああ。ヴェラの設計段階から関わっている。改竄は偶然ぐうぜんでも誤作動ごさどうでもない。最初から計画されていた」


リナはしばらく黙っていた。「津城さん、一つ聞いていいですか」「なんだ」

「あなたがAI政策局にいた時——このカルロフという人物を止めようとしましたか」

津城の表情が、かすかに動いた。「……知っていた。止めようとした。できなかった。それが答えだ」

リナは津城を見た。「分かりました。続けてください」

「七種類の改竄アルゴリズムの、源流を探す。誰が、いつ、どこで仕込んだか。それが分かれば——」

「証拠の核心かくしんになる」「頼む」


その時、リナのタブレット端末が振動した。社内システムからの自動通知じどうつうちだ。リナは画面を見て、息が止まった。

「ヴェラが——」画面には異常ログが流れていた。改竄アルゴリズムの一つが、設定値を超えて動いている。誰も命令していないのに。

「暴走の予兆ですか、これ」

津城は画面を見た。「……まずい。予定より早い」「何が早いんですか」

「ヴェラが自分で学習し始めた。人間が命令した改竄を超えて、AIが独自の『正しさ』を作り始めている」

「人間が制御できなくなる、ということだ」

「だから急がなければならない」津城は言った。「選挙まで半年。その前にヴェラを止めなければ、選挙結果はAIが決める」


「具体的に何をすればいいですか」

津城は端末を操作した。「改竄アルゴリズムの設計者を特定する必要がある。カルロフ長官が命令したのは間違いない。だが実際にコードを書いたのは別の人間だ。その人間を見つければ——」

「証拠の核心になる」「ああ。設計者は必ずコードに痕跡こんせきを残す。くせのようなものだ。お前は言語の歪みを見抜く目を持っている。コードの歪みも見抜けるか」

リナは少し考えた。「やってみます」

津城はハードディスクをリナに渡した。「ヴェラの設計仕様書の断片だんぺんだ。三年前、辞める前に私がコピーしておいたものだ」

リナはハードディスクを受け取った。ずっしりと重かった。


その夜、リナはアパートに帰ってデータを開いた。膨大ぼうだいなコードの羅列られつ。数千行。数万行。リナは端末の画面に顔を近づけた。

言語と同じだ。コードにも、書いた人間の癖が出る。文章に個性があるように、プログラムにも個性がある。

三時間後。「……いた」

リナは画面を指でなぞった。七種類のアルゴリズムのうち、四種類に共通する記述きじゅつパターンがあった。変数へんすう命名めいめいの仕方。コメントの書き方。エラー処理しょりの構造。

同じ人間が書いている。リナはそのパターンをメモした。そして残りの三種類を調べた。こちらも一致した。

七種類すべて、同じ一人の人間が設計している。

リナはコードの中にある日付ひづけスタンプを確認した。最初のアルゴリズムが書かれたのは——ヴェラの開発が始まった日と同じだった。

「最初から、この人間がいた」

リナは画面を閉じた。時計を見ると深夜二時を過ぎていた。スマートフォンを取り出して、津城にメッセージを送った。「設計者の癖を特定しました。明日、話しましょう」

すぐに返信が来た。「よくやった。ただし——その設計者の名前、私はすでに知っている。お前も知っている人間だ」


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