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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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28話 悪辣なる薔薇迷宮

前回のあらすじ

・ユウキがチェシャネコになる

・シンジとコンラが仲間割れ

・チェシャネコになったユウキは別行動を開始

 薔薇の香りが立ち込める迷宮を歩いているユウキは、よく聞こえる耳をパタパタと動かしながらずっと警戒した様子であたりをきょろきょろと見回していた。一人の探索であり、さらに現状の体が猫のものなのだ。安全をできるだけ確保したいと思って当然だ。

 薄紫色の肉球が、芝生のチクチクとした感触でくすぐったい。柔らかな日差しは太陽光発電向きな気がしないでもないが、所詮ここはイレギュラーダンジョン。そのうちすぐなくなるのに、大掛かりな機材を導入するわけにはいかないのだろう。


 水を持ってくればよかった、という少しの後悔の気持ちと同時に、ユウキはその脳裏にこのダンジョンのマップを思い浮かべる。


「しばらくまっすぐ歩いて右に曲がったら、東の隅っこ……かな?」


 そう思いながら、正確に思い描いた道通りの場所を歩く。そして、右側に、薔薇の蔦でできた壁を見つけた。あんまりにも当然の仕打ちに、ユウキは思わず深くため息をつく。根っこの方の花を見れば、一つだけペンキを塗り忘れた白色の薔薇を見つけたが、現状インクも筆も持っていないし、四足歩行の体では持つことさえできない。


 きゅっと眉を顰め、ユウキは頭を抱える。


「回り道か……でも、戻ってくる道が残ってるかもわからないんだよね……」


 そう、このダンジョンの脅威は、不定期に現れるトランプ兵のみではない。不定期に道の変化が起きることこそが一番の脅威なのだ。

 人間は、水分不足や空腹で死ぬ。死ぬ前に撤退を決意したとしても、体に不足している物があれば冷静な判断力を失う。そんなときに、この可変の薔薇の迷宮で正気を保っていられるだろうか。もしも共同探索者がいれば、理性的な状態で探索ができているのだろうか。

 おそらく、無理だ。


 何なら実際、元々相性の良くないシンジとコンラは殴り合いの喧嘩を始めている。チェシャネコ曰く、察しが良すぎると入れ替わり対象であるらしいのだ。理性的な人間が決定的な探索方法を……白薔薇を探して赤く塗るという方法で、トランプ兵との戦闘を避けながら迷宮探索ができるということを発見したとしても、チェシャネコのせいで台無しにされかねない。

 その結果、底意地の悪い薔薇迷宮が出来上がっているというわけなのだ。


「個人探索の方がしやすいダンジョンなのかな……?」


 ユウキはそう呟きながら、ふと、白色の薔薇を見る。そして、そこで何か、引っかかるような感覚があふれる。


__四足歩行では探索がしにくい……? いや、そうじゃないのでは? チェシャネコは敵だけど、本当に完全な敵なのかな……?


 脳裏によぎる、チェシャネコの台詞。

 実際に奴はユウキの姿に化けて、チェシャネコの姿のユウキを殺そうとしていた。それでも、それなら、何でわざわざ他人に殺させようとした?

 ダンジョン攻略の鍵は、白薔薇だ。変わってしまった道も、白薔薇さえ赤く塗れば元の通りになる。……本当にそうなのか?


 思考がひたすら重ねられる。考えすぎて右目の奥がジリッと痛む。ひきつるような痛みで、ようやくユウキは一つの仮説を思いつく。


「……もしかして……いや、流石にそんな訳は……」


 信じられないような気持で、ユウキはそっと薔薇の木を見る。よくよく考えてみれば、チェシャネコと最初に遭遇した時、アイツは平気で薔薇の木の上にいた。さっきシンジたちから距離をとるために薔薇の木の下を潜り抜けたときも、特に痛みはなかった。

__つまり、チェシャネコの姿なら、薔薇の迷宮を完全に無視して探索が可能なのだ。


 迷路の路地の下をくぐれるだなんて、ただのズルではないか。薔薇の木を乗り越えて行けるのだって、ほぼズルじゃないか。それでも、チェシャネコの体なら、そのズルが可能となる。


 ユウキは小さく息を飲んで、己の仮説を証明するため、薔薇の木に登る。猫の身体能力をもってすれば、薔薇の木にはあまりにも簡単に上ることができてしまった。


 普段の視界よりもはるかに高い視点から、ユウキは改めてこの迷宮の全貌を見る。

 チェシャネコが言っていた通り、四角形のダンジョンの四隅には、あずまやの様な建物が設置されている。あそこに【いいもの】とやらがあるはずだ。


 そして、ユウキの視点は、このダンジョンの中央。狂った茶会の続けられる庭園の方へと向けられる。そして、それを見て、ユウキの猫の手は薔薇の木に叩きつけられた。怒りのあまり、こうするしかなかったのだ。


「こんなのないだろ……! ずるいじゃないか!!」


 そう叫んだユウキの視界には、茶会の行われている広場を囲む迷路。その迷路は、二重の薔薇の路地に囲まれており、どれだけ正確に迷宮を攻略したとしてもたどり着けないようになっていたのだ。

 つまり、スカサハの選択した薔薇の木の路地の破壊こそが攻略の鍵であり、白薔薇を赤く塗ることで路地を切り開くことは、ゴールにたどり着くことにはつながらなかったのである。


 道の変わる迷宮も、白薔薇も、全てがブラフ。狂った茶会をぶち壊すには、トランプ兵に襲われることを了承して、路地を破壊して殴り込みにいくしかなかったのだ!


 あんまりな光景を見たユウキは、しばらくの間怒りのあまり茫然としてしまったものの、すぐに首を横に振って探索を再開する。現状、一番このダンジョンの探索に適している肉体を持っているのは、薔薇の木を登ったり下をくぐったりできるユウキなのだ。元の肉体に戻る方法を探すためにも、今のうちに多くの探索をしておく必要がある。


 決意を固めたユウキは、改めて東のあずまやを見る。まずは、そこに向かう。そして、一つずつあずまやをめぐっていって、他の人と合流する。現状、むやみに薔薇の通路を破壊することさえなければ、【狂宴の女王】の時のように、いつでも死に瀕するような状態ではない。単純に迷宮の仕組みが悪辣で底意地が悪いだけなのだ。それなら、しっかり探索する方が価値あるように思えた。


 トランプ兵に襲われないよう、紫猫は薔薇の木の上を飛び移って移動を始めた。




 ユウキたちが探索を行っているころ。

 ツバサと志乃を小脇に抱えて迷宮を疾走していたクー・フーリンは、一向に減らない追手に焦れて、しきりに後ろを振り返っていた。

 そんな中、志乃がクー・フーリンに言う。


「少し広めの場所で追手を減らしましょう! このままだと未探索の場所にまで来てしまいます!」

「わかった、そうなると、十中八九乱戦になる。自分の身は自分で守れよ、嬢ちゃん!」

「……ぼくには特にそう言うの言わないのかい?」

「野郎なら手前でどうにかしとけ!」


 俵担ぎをされたツバサは、ばっさりと言い切られたクー・フーリンの言葉に少しだけ肩をすくめる。それでも、すぐに決意は固められた。


「三十メートル先を右に曲がると、少し広い場所に出る! そこで交戦しよう!」


 揺れる戦士の腕の中でタブレットの地図を確認したツバサ。このダンジョンに地図などさほど効果はないものと思われていたが、実はそうでもない。何故ならば、変わるのは路地で行ける道のみであり、路地の太さ、広さなどは変化することはないのだから。


 ライフル銃を持っている志乃と、コンラやシンジとは比較にならないもののそれなりに近接戦の出来るツバサ、そして、ケルトの大英雄のクー・フーリン。全員が戦闘可能であるため、事実上戦力外のユウキを抱えるシンジたちのようにわざわざ背後からの攻撃を警戒する必要がなかった。

 ツバサの案内通り、少し広めのコンビニくらいの面積の広場に出たクー・フーリンは、ツバサを芝生の上に雑におろしてから志乃をそっと下ろす。そして、背中に担いでいた朱槍を握ると、背後から追いかけてきていたダイヤの槍兵めがけて横なぎに振り払う。


 赤色の一閃は、一番戦闘で嫌に細い手で槍を握り締めていたダイヤの槍兵の首ひとつだけではなく、後ろで剣を振りかぶっていたハートの兵隊の首も、その後ろでクローバーの斧を持っていた兵隊の首も、撥ね飛ばす。

 一撃で三つの首が吹っ飛ぶ。それでも、そこで戦闘の手を止めず、ケルトの大英雄はすぐに芝生の地面を駆る。


 大群で押し寄せる兵隊たちを前に、まったく臆する気もないクー・フーリンは、そのままトランプの兵隊の群れに単身突っ込んでいく。

 あまりの蛮行に、銃のセーフティを外していた志乃が小さく息を飲み、ツバサの方を見る。しかし、拳銃を片手にしたツバサは、小さく首を横に振って志乃に言った。


「彼のことは気にしなくていい。逸話でも兵士の100人殺しをしたような人なんだ。トランプ兵程度訳ないよ。むしろぼくたちは……」


 ツバサがそこまで言いかけたところで、丁度右手側の通路から、三体ほどのトランプ兵が押し寄せてくる。それを見たツバサは、ためらうこともなく拳銃の引き金を引いた。

 三発の鉛玉は、違うことなくハートのトランプ兵三体の頭蓋を打ち砕き、あたりに赤色のペンキをぶちまける。


 トランプ兵たちはかなり知能が低いらしく、負傷しても逃げることは愚か待ち伏せという手も使わない。それでも単純に、どこからでも現れて倒す優先順位もたてずに数で攻めてくるのは脅威である。いくらクー・フーリンがヘイトをためるような目立つ行為をしていても、そんなことは全く気にせずにツバサや志乃たちを狙ってきているのだ。

 しかして、二人ならばそれなりに広い場所であるため、銃の有効射程距離を生かした防衛ができる。


 大群はなぜだか荒れているクー・フーリンに任せ、二人は自衛を徹底していれば、おそらく敗北することはないだろう。

 ライフルの安全装置を外した志乃も、即座に戦闘に参加する。弾はまだ十分にある。銃弾が尽きるまでは、彼女も優れた射手として戦闘に参加できることを、少し離れたあたりに転がる頭蓋を破壊された死体が証明していた。


 二人が重火器での護身をしている最中、単身でトランプ兵の群れの中に突っ込んでいったクー・フーリンは、全身に赤ペンキを浴びながら、いら立ち紛れに怒鳴る。


「失せろ雑兵どもが! てめえらのせいで、貴重な息子との時間が奪われてんだよ!!」

「そう言えば、君、コンラ君のバイト先のカフェ出禁になったって本当?」

「今答えなきゃいけねえ質問か???」


 出鼻をくじくようなツバサの台詞に、ケルトの大英雄は少しだけ複雑そうな表情を浮かべ、それでも、目の前のクローバーの兵隊の首を槍でもって刎ねた。




 数十分間の交戦は、最後のスペードの槍兵の頭蓋がライフル銃の弾丸で射抜かれたことで終結した。

 全員の緊張の糸がほどけたところで、志乃は深く息をついて残弾数を確認する。


「残弾あと24です。セーブしないと……」

「赤字出ないように、ちょっとだけ魔石回収してから元の道に戻ろうか。僕は3ダースと、銃身に4発。2、3戦したら、ナイフメインに切り替えようかな……」

「前衛二人か……槍の間合いはまあまあ広いから、あぶねえと思うぞ」


 近くのトランプ兵の頭蓋を割り裂きながら、クー・フーリンはツバサに忠告する。頭蓋を的確に撃ち抜かれた死体は、魔石ごと命を失っていることもままあるが、こればかりは仕方ないと言うしかない。いくら胴体を銃弾で射抜いても、体部分はただの分厚い紙であるトランプ兵に致命傷を与えることができないのだ。


 赤色のペンキで手を染めながら、ツバサは淡々とトランプ兵の解体を行う。

 その時、ふと、このダンジョンについてを考えた。


「そう言えば、不思議の国のアリスの原作でトランプ兵が出てくるシーンっていうと、女王のお茶会のために白薔薇をペンキで塗って場面を思い出すけど……トランプ兵の血ってペンキだよね」

「は、はい……体にペンキが流れているのに、どうやって生きているんでしょうね……?」

「まあ、その辺はダンジョンだから、深く考えてもあんまり意味はないのだろうね……。もしかしてだけど、どこかに白薔薇あったりするのかな?」


 そう呟いたツバサ。その言葉に、クー・フーリンが答える。


「あるぞ」

「えっ?」


 真っ赤に汚れた手で近くの壁を指さすクー・フーリン。その言葉に、ツバサは素っ頓狂な声を上げ、彼の指さす先を見る。すると、その薔薇の生垣の下の方には、確かに真っ白な薔薇が一輪、咲き誇っていた。

 目を丸くするツバサに、クー・フーリンはあっさりと言う。


「言われてから改めて探してみたら、割と簡単に見つけられた。俺はそれなりに目が良いしな」

「ありがとう、クー・フーリン。解体終わってから、試してみようか」


 そうして、ツバサたちもまた、白薔薇で道が開かれることを知り、同時に、ゴールにたどり着けないダンジョンの仕組みから遠ざかった。

【トランプ兵】

 このダンジョンにおけるモブ。強さは標準的な準5級ダンジョンのレアモブ程度。不意打ちさえされなければ、一般人でも十分討伐可能。

 しかし、安全に討伐可能なのは、あくまでも一対一の場合のみであり、無限沸きで多対一を常に強いられることになると、それなりに危険。3~5体前後で団体行動しており、薔薇の通路の破壊規模によって呼び出される人数が変わってくる(人が通れるくらいの通路を作ると5体、少し薔薇を傷つける程度だと3体、幹をへし折っていたりすると4体など)。スカサハの場合、人どころか団体が通れる通路を創り出しているため、余裕で100体を超えるトランプ兵が沸いた。

 ハートやクローバーなどのマークのトランプ兵が存在するが、マークや数字には特に意味はない。等しく無限沸きする雑兵に他ならないのだ。


 原作では主に敵の彼等だが、薔薇塗りの場面のように、主人公と友好的な会話をしていた場面もある。そのために、彼等の血は赤色のペンキで出来ているのだ。__白色の薔薇をペンキで塗れば、ゴールにはたどり着けなくとも、ダンジョンから逃げ出しやすくはなるのだから。

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