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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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25話 薔薇の花びらは散らばった

前回のあらすじ

・イレギュラーダンジョンを探索開始

・出現したモンスターから【不思議の国のアリス】のイレギュラーだと判明

・敵の強さから探索続行を決定

 ユウキたち探索者一行は淡々と薔薇の迷宮を進み、あたりを探索する。ユウキの予想通り、薔薇の迷路を破壊しなければトランプ兵が積極的に襲ってくることはなく、巡回しているトランプ兵も二人組でしかなかったため、さほど脅威ではなかった。


 順調に増える採取物と埋まっていくマップを確認しながら、ふと、シンジが首をかしげる。


「おいヨワキ。マップ見せろ」

「あれ、シンジはマッピングしていなかったの?」

「してるから言ってんだ」


 そう言ってシンジはユウキの手からタブレットを強奪する。その姿勢にコンラは少しだけ眉を顰めたが、基本的に彼の倫理として取られるのが悪いという感覚が大きかったため、特に手出しはしなかった。

 

 ユウキのマップを見たシンジは、盛大に舌打ちをすると、吐き捨てるように言う。


「おい、マッピングは無意味だ。多少の戦闘は覚悟の上で茨砕いて進むぞ」

「ど、どうしたの?」


 突然のシンジの言葉に、ユウキは首をかしげる。そして、投げ返されたマップを確認して、小さく息を飲んだ。

 彼は数メートル先の右の通路を見る。こんな通路、さっき通った時にはなかった。マッピングが不完全だから、という話ではない。確かにマップにはこの通路の書き込みがない。……突然、通路が現れているのだ。


「あー……めんどいなこりゃ。確かに、通路ぶっ壊したほうがよさそうだ」


 自身のタブレットを見たクー・フーリンもそう言ってぐっと眉を顰める。翼たちも警戒した表情を浮かべ、各々武器を構える。


「方角はこっちで大丈夫ですか?」

「ああ、問題ないぞ、甥の主」


 ユウキの問いかけに、スカサハはあっさりと答える。そして、剣を持って道を切り開こうとしたコンラの肩に手を置き、ニッと笑って彼女は言う。


「先ほどから敵が弱くて、私とて不完全燃焼なのだ。せっかくなら、私に任せてもらおうか」


 肩を叩かれたコンラは、剣を鞘に戻してから口を開く。


「ああ、叔母さんが道作るのか? なら、後3分待ってくれ。主を避難させる」

「……信用がないな。まあよい、3秒待ってやる」

「相変わらず話通じねえな、叔母さん!!」


 スカサハのそのセリフを聞いて、クー・フーリンはツバサと志乃を小脇に抱えて全力でその場から離れる。シンジに至っては新しくできたほうの路地に身を隠し、防御態勢を取り始めていた。

 一人何が起きたか把握しきれず茫然としていたユウキの首根っこをつかみ、コンラはシンジが逃げた路地の方へ滑り込むように逃げた。ユウキの頭の上でぐったりとしていたコハクは、急な移動に驚いてコンラに向かってチュウチュウと抗議の声を上げている。しかし、それどころではないらしい。


「全力で体守れ、ユウキ!」


 コンラはそう叫ぶと、ユウキの頭をコハクごと地面に向かって下げ、彼自身も芝生の地面に体をくっつけて衝撃に耐える姿勢になる。


 __ちょうど3秒後、ユウキは、スカサハのハスキーな声を聞いた。


「数多の英雄を導き、鍛え上げた我が一撃。その名を__」


 紡がれていく詠唱に、すさまじい気迫が宿る。殺気とも言うべきその気迫に、ユウキは己の肉体が恐怖で弛緩していくのを感じた。


__1ミリも動けない……?!


 がくがくと体が震えるユウキの頭を地面に押し付けるような状態にしたコンラも、その額に冷や汗が滲んでいた。主人であるユウキを守るために伸ばしている右手も、恐怖のせいかかすかにふるえている。


「……四分の一は神の俺が言うのもどうかと思うが、やっぱり叔母さん、絶対(ヒト)じゃねえだろ」

「……今に始まった話じゃねえな」


 コンラの言葉に、シンジはあきれたように言う。

 力強く地面が踏みしめられ、地面の芝生が抉れる。……否、地面が、ひび割れる。

 上腕をひねり、腰をひねり、足で地面を捉え、全身の筋肉を使い、その一撃は放たれた。

 彼女の逸話(ものがたり)が創り出したその技名が、紡がれる。


「ゲイ・ボルグ!!」


 好戦的な笑顔から放たれるのは、幾多の英雄に授けた究極の必殺技。

 とんでもない勢いでほぼ直線にすっ飛んだ黒槍は、ワイヤーのように強固な薔薇の枝を、蔦を、茎を、抉り消し飛ばす。そして、この歪な世界(ダンジョン)に、まっすぐな破壊の道を敷いた。


 風圧から暴れまわる薔薇の蔦をはねのけながら、コンラは小さく舌打ちをする。訳が分からない。あの強さの理由が、まったくもって理解できない。


__だからこそ、()()は叔母に師事したわけだが……


 背中を伝う冷たい汗が、何を理由とする物かわからない。少なくとも、今は彼女が敵でない以上、恐怖する理由はないはずなのだ。それにもかかわらず、戦士の本能が、(コンラ)の存在意義が、アレを超えたいと叫ぶ。


「……おっかねえな、俺の師匠は」


 そう言って目を輝かせるコンラに、シンジは思わず吐き捨てるように言う。


「どうせならそのまま連れて帰ってくれ」

「叔母さんが今世に飽きるまでは無理だな」

「クソが」


 悪態をつくシンジに、コンラは小さく肩をすくめる。

 そして、そんなやり取りをしている二人をよそに、道を創り出したスカサハはけらけらと笑ってユウキの方に手を振って言う。


「槍を一本よこせ。あとで回収はするが、武器は欲しいからな!」

「ババアてめえ、武器なんざなくてもなんとかなるだろ……」


 ドン引きした様子のシンジを置いて、スカサハはつかつかとこちらへ歩み寄る。その時だった。


「避けろ、コンラ!!」


 そう叫んだのは、志乃とツバサを抱えたままだったクー・フーリン。その瞬間、低く、地響きが聞こえてくる。小さな揺れはこちらへ近づいており、全員に緊張が走る。

 数秒後、スカサハの背後、焦げて崩れ落ちた直線の道から、10……いや、20……いや、もっと多い。とにかく大量のトランプ兵が現れる。そして同時に、茨が急速に育ち、ユウキの方へと突き刺さらんとすっ飛んできた。


 ユウキの首根っこをつかんだコンラは、全力でその場を飛びのき、回避する。首から落ちそうになったコハクをぎりぎりでキャッチし、芝生の地面に転がったユウキは小さく咳き込み、急いで武器を構える。


 急速に生えた薔薇の蔦は、ユウキ、コンラ、シンジの三人とコハク一匹を他の四人から隔離し、元の直線の道を覆い隠す。

 聞こえてくるトランプ兵たちの奇声に、コンラは盛大に舌打ちをする。


 そして、蔦の動きはまだ止まらなかった。


「なっ……?!」


 困惑の声を上げるスカサハ。

 蠢く薔薇の蔦はユウキたちとの合流を諦め、クー・フーリンたちと合流しようとしていたスカサハの前にはびこり、道を完全にふさいだのだ。


「スカサハさん、これを!」


 ユウキはそう言って、採取したトランプ兵の槍を投げる。スペードの槍は弧を描いて薔薇の生垣を超え、スカサハの目の前に堕ちる。反射的にその槍を受け取ったスカサハは、短く礼を言うと、全体に向けて怒鳴った。


「迷路を通って私が作った道に来い! 全員が合流でき次第、茶会の会場へ移動する! それまでは私がトランプ兵の相手をしてやろう!」

「わ、分かりました! すぐに合流します!」

「ぼっちで攻略すんなよ、師匠!」


 ユウキの返事と、クー・フーリンの怒声。そして、二組はトランプ兵の群れに襲われるよりも先に迷路の方へと走り出した。





 ひげ面の男は、何日さ迷ったか忘れたほど通った道を再び通り抜ける。あと二十四時間何もなければ、いったん撤退して補給をしてから再度挑戦するか、と考えていると、突然、すさまじい気迫を感じた。


「……?」


 男は表情を引きつらせ、殺気のある方向を見る。そして、反射的に盾を構え、次の衝撃に備えていた。


「__ゲイ・ボルグ!!」


 気迫のある方向から聞こえてきた、低い女の声。そして、その直後、すさまじい破壊の音がこちらへ向かってくる。


「げっ……?!」


 男は小さくうめき声をあげ、盾を握った手に力を籠める。

 破壊の一撃ははるか奥からこの世界をえぐり貫き、遠くで近くの場所からかすかに非難の悲鳴を上げさせ、それさえも通り抜けて男の元へすっ飛んでくる。


 ひげ面の男はぐっと眉を顰めると、右手に握っていた槍を芝生の上に転がし、両手で盾を構える。そして、飛んできた死の黒槍が盾にぶつかったその瞬間、勢いよく腕をかち上げる。


 ガキン!!


 破壊と鼓膜を揺さぶる酷い音が上りに響き、死をもたらす黒槍の一撃はその勢いを空へと打ち上げられ、男は何とか己の身を守ることができた。しびれる両腕を軽く振りながら、ひげ面の男は盛大に舌打ちをして、ようやく勢いを失って空から落ちてきた黒槍をつかんだ。


「なんだこいつは……」


 かなり業物の黒槍を片手に、男は眉を顰める。そして、今だしびれている右手を握ったり開いたりしながら、独り言をつぶやく。


「いい槍だが……癖があるな。同じ槍なら今のやつの方が使い勝手がよさそうだ」


 そう言って槍を放り捨てようとして……適当にあたりを見回して、丁度いい長さにちぎれた薔薇の蔦を拾い、棘をナイフで落とす。そして、背中にくくりつける。


 見たところ、この槍には飽きるほど見たトランプ兵の意匠がない。おそらく、新しく来た探索者の所有物なのだろう。……一体何がどうしてこんな破壊力を誇る一撃を放てたのかはまったくもって謎だが。

 合流した時に武器を返せば、それなりに好印象を抱いてもらえるはずだし、何よりもいい加減新しい物資が欲しい。


「適当に交渉すれば、水くらいはもらえるだろ。ついでに、今の武器がぶっ壊れたらこっち使えばいいしな」


 そう呟いた彼は、ケルトの女武者が創り出した一本道を歩き始める。

 ……その数分後、でトランプ兵たちの猛攻を受け、道を逸れざるを得なかったのだが。

【不思議の国のアリス】原作:ルイス・キャロル

 あらすじは幼い少女アリスが時計を持った白兎を追いかけて不思議の国に迷い込む、というものである。独特な世界観や不思議な世界の冒険は世界中で人気になり、様々な言語で翻訳されている。

 原作小説の方はかなりジョークやパロディネタが含まれているため、ネタが分かると思ったよりも面白い。言葉遊びが多用されているため、英語の状態で読んだ方がジョークが分かりやすいと思われる。また、小説を読むのが億劫だという方も、某ネズミの国の会社がアニメ映画化しているので、それを見ればある程度は話が分かる。


 余談ではあるが、不思議の国のアリスは芥川龍之介も共翻訳したこともあるという。どこか夢の中の様な雰囲気の不思議の国のアリスをぜひ、読者の皆様も読んでいただきたい。……なお小説版は心が折れる可能性が高いので、自信の無い方は某D社の映画をどうぞ(筆者は小説版を通しで読んだのは数回のみ。途中で訳が分からなくなるんだよなぁ……)。

 ちなみに『鏡の国のアリス』は、不思議の国のアリスの続編として発表されたものである。同じ話じゃないよ。

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