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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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22話 人質と足手まとい

前回のあらすじ

・四級昇格試験

・会場にシンジ、ユウキ、ツバサ、志乃の四人が合流

・今回の試験官は、一級探索者の長瀬龍治郎だった。

 高級車から降りてきた長瀬龍治郎の姿に、シンジは盛大に舌打ちをする。突然不機嫌になった……いや、原因は目に見えているのだが……シンジの気配に、ユウキは肩をびくつかせて慌てて周囲を確認する。


 いくつかの高級車は既に町役場を囲むように駐車されており、一部分でも切り開かなければ逃げ場はない。そして、今目の前にいる長瀬龍治郎が、そんなことを許すとはまるで思えなかった。


 今までほんの数回ではあったものの、シンジのパシリをしていたうえであの強者と対面したことはある。だからこそ、ユウキは彼を恐れていた。


 何の感情も宿していない黒の瞳。短い黒髪は整髪料で整えられており、紺色の和装の襟もとにさらされる首上の深い傷跡は白い肉が埋めて消えることのない負傷であることを意味していた。

 ユウキが彼を恐怖する理由は、単純にその見た目がシンジに似ているからということのみではない。彼のその目が……長瀬龍治郎の傲慢さと虚無を溶かした黒の瞳が、何の感情も写さないからこそ、恐れているのだ。


 ユウキは、彼のことを「果てしなく効率主義ですべてに飽きた怪物」だと思っている。眠れる竜の方がまだ起こさなければいいだけであるため、対応が楽だ。対する長瀬龍治郎は、どんな対応をしたところで場合と運によっては逆鱗を踏み抜くはめになる。特に、シンジと一緒に居ることになると。


 緊張のせいか、ぎゅっと右手を握り締めていたユウキは、ハッとしてスカサハの方を見る。彼女はしばらくの間長瀬龍治郎のことを見ていたが、すぐにつまらなそうに目をつぶった。

 あの男は、基本的にはシンジに対しては放置、もしくは無関心を貫いている。しかして、シンジの周りに集まる人間に関してはその無関心の対象外になるらしい。……そして、その興味の方向性は、基本敵対や排除の方向性になる。


 龍治郎の宣言を聞いた部下たちは、車の中から一斉に大きな段ボールを持ち出し、広場に並べていく。段ボールにはそれぞれ「医療用品」、「武器(刀剣類)」、「消耗品(食品類)」など直接油性ペンで記入されている。その上で、町役場に向かう方向に長机がいくつか並べられ、その前に『四級試験スタッフ』というゼッケンを着た五人ほどのいかにも堅気には見えない男が着席する。


 あっという間に準備がなされたところで、腕を組んだ龍治郎が低い声で宣言する。


「今から探索するダンジョンの発表と班の割り振りを行う。身体能力上探索不可能なダンジョンである場合は申し出ろ。割り振りに関しては班員の変更は不可能なものとするが、遅刻者、欠席者がいる場合にはこちらから召喚獣の貸し出しを行う。

 班と攻略ダンジョンの確認ができ次第、一時間の猶予を与える。その間に探索に必要となる物品の用意を行うように。持ってきたはいいが不要だと判断した物品は役場のロッカーにしまうこと。準備を終えたら手荷物検査を受け、その際に持ち込むと宣言していない物品の持ち込みがダンジョン内で発覚した場合、減点もしくは即刻失格とする。

 その他注意事項は現時刻を持って送信したメールにて確認するように。疑問点はスタッフのゼッケンか腕章をつけた者に行え。以上」


 龍治郎はそう言うと、ポケットの中から『四級試験スタッフ』と書かれた腕章を取り出し、安全ピンで適当に止める。どうやら、彼も質問を受け付ける予定であるらしい。……まあ、周りの受験者を見ても質問しようとする人間は皆無なのだが。


 ユウキは龍治郎の言葉通り送信されてきたメールを確認する。そこには、遅刻者として失格となった数名の名前と事前連絡アリの欠席者として二名の受験番号が掲示され、その下に班分けの表があった。

 電子機器を持っていない志乃は、少し視線をさ迷わせた後、思い切ってスキンヘッドのゼッケンを纏ったスタッフに声をかける。


「すみません、私は両親の教育方針でタブレット類を持っていないのですが……」


 志乃のそんな言葉を聞いた後頭部に傷跡のあるスキンヘッドのスタッフは、簡易的な貸し出し場となった段ボールの山の前にいるスタッフに声をかけ、志乃に言う。


「安全確保のため探索に位置情報の収集できるタブレットが必須になるため、貸与します。探索が終了次第返却してください。使い方は大丈夫ですか?」

「あ、は、はい! ただ、探索用の緊急通報などのアプリは……」

「探索に必要と判断されるアプリは一通り入っています。ダンジョンによってはタブレットそのものが使用不可能になることもありますが、今回探索に当たるダンジョンではタブレットの電波も通じますので、気にせずに使用してください」


 スキンヘッドのスタッフは丁寧な口調でそう言うと、腕に就けるタイプのタブレットを一つ、志乃に貸し出し自身のタブレットを操作してユウキら受験者たちに送信されたメールを転送する。メールを確認できた志乃は、短く礼を言うと、ユウキたちのいる場所へ向かって走って近づく。


「見てください! コマーシャルでやってた新しいタブレットです! 空間画面拡大機能付いてるやつですよ!!」

「あー、それ、結構バッテリー長持ちするタイプだね。プロデューサーが初期購入合戦負けたって嘆いていましたよ」


 嬉しそうに報告する志乃に、ツバサは目を輝かせて言う。どうやら彼も、新しい機器を見ると楽しくなる人種であるらしい。

 そして、そんなやり取りをしながら、再度届いたメールを確認し、班を確認する。


 そして、班分けの表を見て、ユウキは思わず首を傾げた。


「あれ、僕たち四人全員同じ班……?」

「そうみたいですね。顔なじみになるように振り分けているのですかね……?」


 そう首をかしげる志乃に向かって、シンジは苦虫をかみつぶしたよな表情を浮かべ、小声で言う。


「違う。全員俺の足手まといか人質になるように配備されてやがる」

「えっ?」


 シンジのその言葉に目を丸くしたのは、探索する予定のダンジョンを確認していたツバサだった。

 いまだに状況が理解しきれていない志乃に、シンジは吐き捨てるように言う。


「ヨワキとそこの女はもれなく足手まといだ。ついでにてめえは名前がでかい。緊急避難だとしても手前を置いてダンジョンから脱出すれば、俺は世間的に殺される。そうじゃなくとも万一のことがあっても、てめえさえ無事なら、他の名前がかすむ」

「あ、足手まとい」


 シンジの言葉に、眉を下げた志乃。あまりな言い方に眉を顰めたユウキをよそに、シンジは言葉を続ける。


「お前とヨワキが知り合いだってことは俺も知らなかった。まあ、ぼっちで参加した誰かならだれでもよかったんだろ。ついでに性別が女ならより足手まといになってよかったって程度だ」

「ちょっと、シンジ……」


 あまりにもひどい言い方に、ユウキは思わず口を挟む。その瞬間、ユウキは恐怖で動けなくなるのを自覚した。

 シンジはただ、その黒の瞳をユウキに向けただけだ。ただ、その殺意が、気迫が、己の首につきつけられていると理解できてしまっただけなのだ。


 冷や汗が背中を伝う。恐怖が喉を乾かす。

 この状況で真っ先に動いたのは、召喚獣のコンラだ。


「止めろ。くだらないマネをするな」

「……ヨワキとてめえ含めて足手まといだっつってんだ」

「あ?」

「コンラ止めて!」


 雑に売られた喧嘩を買いそうになったコンラを、ユウキは慌てて止める。そして、後ろを振り返らずに目だけで背後の男の姿を確認する。琥珀色の透明感ある美しい皮衣を身に纏ったやくざ者は、こちらの班の様子を観察しているのか、腕を組んだ姿勢のまま、シンジの方を見ていた。

 こみ上げる恐怖を唾液ごと飲み下し、ユウキは改めてグループメンバーである三人に言う。


「とにかく、足手まといだとか人質だとかの議論はおいておこう。__目下の問題は、提示されたダンジョンの難易度だから。たとえ理不尽な難易度だったとしても、上限は特五級だよね? 対策すれば、何とかなるはず」

「……そんなわけねえだろ」


 ユウキの言葉に対し、あっさりと言い切るシンジ。

 その反応に業を煮やしたのは、先ほどからずっとやり取りを聞いていたクー・フーリンであった。


「いい加減にしろよ面倒くせえな。さっきから何だ。つーかそもそも、俺と師匠が居りゃ、3級くらいまでは余裕だろ」


 しかも俺の息子もいるしな! と言葉を続け、全力でコンラにそっぽを向かれたクー・フーリンに、シンジは小さく舌打ちをして攻略する予定のダンジョンの資料をタブレットに表示させた。

 そして、そのダンジョンを見て、ユウキもまたかすかに目を見開いた。


「攻略予定ダンジョンは【ミノスの迷宮】。等級は5級だ」

「……? どういうことだい?」

「あん? ミノスっていうと……ギリシア神話か? その程度で何でビビってんだ?」


 シンジの言葉を聞き、ほぼ同時にそう言うツバサとクー・フーリン。しかし、二人の疑問点は、明確に異なっていた。

 事態を理解し始めたらしいツバサは、サッと顔を青ざめさせ、小さく息を飲んで疑問の続きを口走る。


「ぼく、そんな名前の五級ダンジョン、聞いたことがないのだけれども……?」


 ツバサのその言葉に、志乃とクー・フーリンは目を見開く。スカサハは依然として興味がないのか、適当に支給品の段ボールを覗き見ている。

 この事態を正確に把握しているのは、この班で二人。長瀬龍治郎の息子であるシンジと、ダンジョンの研究を重ね、龍治郎が何をしてこようとしているのかおおよそ予想でき始めてきたユウキだった。


 握り締めた拳を左手でほぐしながら、ユウキは言う。


「……そりゃそうだよ。だって、【ミノスの迷宮】は、正式な等級が制定されていないダンジョンだから」

「連中はいわゆるダンジョンマフィアだからな。……今回の試験に使われている五級帯ダンジョンは、全て等級未制定の自称五級帯ダンジョンだ。ついでに、今回はもっと面倒な可能性が高い。例えば__俺たちが探索するのは、イレギュラーが起きている、だとかな」


 ユウキの言葉を続けるようにして、吐き捨てるように言うシンジ。その言葉に、スカサハを除く全員がその表情をこわばらせた。

【等級未制定ダンジョン】

 詳しく知りたい人は『15話 敗戦処理と情報共有』を読み直してね。

 ダンジョンマフィアが良く行う手法で、わざと等級を低く見積もり、入場料の差分を採取物で補う。もちろん、等級を低く見積もったところでダンジョン自体の難易度が変化するはずもないため、難易度をサバ読みされ等級に見合わずかなり危険なダンジョンである可能性が高い。


 また、一般的な探索者が未制定ダンジョンを探索することは少なく、ダンジョンに関する情報が極端に少ないこともその危険度を上げる一因となっている。

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