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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
90/152

20話 煮え立つ悪意

前回のあらすじ

・【はなさかじいさん】ダンジョンをクリア

・重火器を多量に使ったため、探索自体は赤字

 ユウキや志乃が重火器講習を受けていた頃。楽鳥羽町から離れた第二新宿区で新たなホテルを借りなおしたシンジは、つい先ほどメールで届いた通知に舌打ちをしていた。


 母の遺産と彼自身の個人的な資産のおかげで少しお高めの、セキュリティのしっかりとしたホテルの一室。その部屋は一人用の部屋にも拘らず、三つの個室があり、ちょっとした料理も可能なリビングダイニング、その隣にどこかのダンジョン産のものだという美しい絨毯の敷かれたベッドルーム、そして、小さな和室があった。

 シンジはもっぱら和室の座椅子にもたれかかってタブレットを片手に思案していた。


 メールの内容は、今週末に迫った四級昇格試験に関するものである。

 当然、こういった試験の内容に関しては、守秘義務があるため通知が来るはずもない。それでもこうしてメールが来たのには、理由があった。


「……実技試験の内容変更、か」


 不本意だという表情を隠すこともせずに、シンジは吐き捨てるように言う。和室の座椅子側に置かれたお盆には、ホテル側のサービスなのか、初夏の果物を模したらしい和菓子が緑茶とともに添えてある。しかし、あまりの事態にシンジはそんな菓子に手を付ける気にもならなかった。


 探索者協会の設定する四級昇格試験に関しては、市販の教材や対策本も存在するように、内容は大きくは変わらない。そして、当然試験であるため、命にかかわるような項目はほぼ存在しない。

 近年の傾向だと、実技試験はもっぱらモンスターの解体技能を試すものや、応急手当の実技、協会側が用意した武器の口頭試問などが頻出項目であるとされている、とユウキが言っていた。シンジ自身は筆記試験の項目を流し見ただけで、実技に関してはほぼノータッチであったのだ。


 戦闘技量に関する実技試験があるのは、所謂本業探索者を名乗れる三級資格からであり、あくまでも副業や趣味の範囲内である四級探索者資格に関しては試験の前提条件……5つの五級帯ダンジョンの攻略と1つの指定された特五級ダンジョンの攻略……を済ませていれば、比較的安易に昇級できる。さらに、探索者資格試験の優良合格者は合格してから半年以内であれば4級昇格試験の筆記試験の免除が可能である。

 つまり、五級資格の試験をフルスコアで合格したシンジは、筆記試験をパスし実技のみで四級昇格を挑むことができた。


 だからこそ、四級昇格試験に関しては、さほど気を付けるべきことは無いと高をくくっていたのだが……その予想は悪意をもってして裏切られる結果となった。


 先ほどから何度もかけられてくる非通知の通話要請をスワイプして黙殺し、シンジは改めてメールの文面に目を落す。


『第1031回四級試験 受験者各位

 長瀬慎二様

 四級探索者試験の受験予定日が近づいてまいりました。試験の準備はお済でしょうか?

 今回の試験に関して、急なことながら一部試験内容の変更が発生しましたので、メールにて通知させていただきます。変更点は下記のとおりです。


                記

・筆記試験・・・変更点なし

・面接試験・・・イレギュラー対策に対する口頭試問の追加

・実技試験・・・記録媒体を有した状態でのダンジョン探索(探索するダンジョンに関しては試験時に発表、対策は配られる資料で時間内に行うこと)

以上


 最近頻発するイレギュラー事案や、一部探索者の問題行動により、受験者に確かな探索技術があるかの確認のため、探索の様子を録画し、その映像を提出していただくことが科目として追加されました。

 安全のため映像は逐次AIが観察し、協会側で探索続行が危険であると判定された場合は通告いたします。また、受験者自身の判断による棄権も可能です。

 受験者の棄権における撤退は探索者協会のスタッフが救出に向かいますので、安心していつも通りの探索を行ってください。

 試験となるダンジョンは準五級、もしくは五級ダンジョンとなります。入場料は探索者協会負担となりますので、試験費用の増加はございません。探索に必要となる携帯品に関しては、探索者協会にて当日の貸与もありますが、できるだけ受験者自身が持ってくるようにしてください。

 実技試験には召喚獣の同行も認めますが、召喚獣のみが探索していると判断された場合には減点対象となりえます。受験者自身の探索技術を確認する項目であるため、できるだけ受験者自身が主体となって探索を行うようにしてください。


 直前の連絡となってしまったことをお詫びいたします。

 探索者協会 等級管理部門』


 改めてメールの文章を読みなおしたシンジは、緑茶の入った茶碗に手を伸ばす。

 追加されたのは、面接試験の質問項目と、実技試験のダンジョン探索。正直なところ、面接試験に関しては気にすべきことはない。問題はダンジョン探索の方だ。


 こんなに突然、かつ、わざわざ通知を入れての試験内容の変更。これは、あまりにも不自然過ぎた。


「しかも、召喚獣アリと来たか……」


 緑茶をすすり、ギリと奥歯を噛みしめたシンジは、小さくつぶやく。

 正直なところ、5級資格の探索者でダンジョン探索に有用な召喚獣を持っている割合は5パーセント以下とも言われている。その理由としては、そもそも5級帯のダンジョンに召喚獣を呼べる召喚術式がほぼないこと、それに、5級程度のダンジョンでは召喚獣を手にしたところで養っていけるほどの収入が無いことがある。手ぶらで行けるお子様用のハイキングコースにプロの登山家が使う装備を用意したところで金を無駄にするだけであるのと大差ない。


 だからこそ、試験に『召喚獣アリ』を意味する記述があることに違和感しかなかった。本当に公正に探索の技術を見るだけなら、むしろ召喚獣なしの方がいいに決まっている。その上、武器の持ち込みアリというのも受験者によって差が出てしまう可能性が高い。


 シンジは、この通知を持って探索者協会がおおよそ公平に試験を行う気がないことを理解した。そして同時に、これが()()のゴリ押しのせいでこうなったと理解できた。


「六割……いや、八割方クソ親父のせいか……?」


 それなりに質のいい茶葉の緑茶をすすり、シンジはつぶやく。そして同時に、ユウキが回収してきてくれた数少ない私物の段ボールをそっと一瞥し、座椅子から立ち上がる。


 箱が変わっていることからも、中身が一度出されたことは理解できている。それでも、重要なのは中身であるため、別に多少荷物があれたとしても気にする気はなかった。

 シンジは荷物の中から今着るには一回りは小さいカーディガンを一枚引きずり出し、その網目を確認するように指でなぞる。かなり質のよさそうなカーディガンだったが、シンジはこれが手作りのものであると理解していた。


「……クソ親父が」


 吐き捨てるようにそう呟き、シンジは青灰色のカーディガンをぐっと握る。……彼の母が生前作った、そのカーディガンを。




 重火器講習を終え、家に帰ったユウキは、コンラやコハクと一緒に探索者協会から送られてきたメールを確認していた。メールの文面を見たコンラは、不思議そうに首を傾げ、ユウキに問いかける。


「こいつは……随分不公平な話じゃないか? 五級程度召喚獣がいれば無策で攻略出来るだろ」


 夕飯に使う予定の餃子を包みながら、コンラはぐっと眉根をひそめて小さなスプーンを肉餡の入ったボウルに突き立てる。かさまし……もとい、冷蔵庫整理のために魚のミンチ肉も含まれた餡を市販の餃子の皮で包みながら、ユウキもまた困ったように口を開く。


「うーん……一応そう言う場合は減点対象なんじゃないかな……? でも、公平性はあんまり感じられないよね」


 そう同意の言葉を言うユウキのすぐ右隣には、おやつ代わりにヒマワリの種をかじるコハク。スプーンを持つことさえできないコハクは餃子づくりでは流石に戦力外宣告をするほかなかった。

 不安そうにチュウチュウと鳴き声を上げるコハクをよそに、コンラはガシガシと頭をかいてユウキに言う。


「とりあえず、どこのダンジョンに行くかはわからないが、基礎的なダンジョン探索の用意だけはしておくか?」

「うん、そうしておこうか。消耗品で足りないの、ある?」


 ユウキのその問いかけに、コンラは包み終わった餃子を平皿の上に置き、少し悩んだような表情を浮かべた後、答えた。


「特には無いが……そうだな、個人的に催涙弾に近いものが欲しい」

「ちょうど手元にあるけど、何に使うの?」

「職場にまで押しかけて来たクソ親父(クー・フーリン)にぶん投げる」


 「何が今日はオフだ、俺は仕事中(オン)なんだよ」と恨みのこもった声で言うコンラの瞳には、確かな怒りが込められていた。そんな彼に、ダンジョンで「目つぶしの灰」を入手したとは言う気になれず、ユウキはそっと諦めたように微笑んでいった。


「……うん、探索に必要なものだけ、教えてほしいな」


 肉餡が多めに包まれたコンラの餃子と、バランスよく餡の包まれたユウキの餃子は、少しずつその数を増やしていった。

【シンジの母】

__この項目は一級探索者資格を持つ者により削除されています。



 __誰かのタブレットに残された調査資料より引用

【長瀬龍治郎の愛人に関する調査】

 本資料は長瀬龍治郎(以下長瀬)が何を理由として探索活動を継続するかを調査したものである。本人のインタビューでは2×××年5月時(今からおよそ13年前の年月日である)までは探索活動継続の理由として「愛人」の存在を口にしていたが、先月関東抗争が収束して以来、以前まで話していた「愛人」の話題を一度たりとも出すことがなくなった。

 7月23日、「愛人」の話をしない長瀬に対し、同じく一級探索者である櫻木廻(以下櫻木)が疑問を呈し質問をしたところ、探索者協会第二新宿支部の事務所が半壊するほどの戦闘が発生。奇跡的に死者は発生しなかったが、事務所スタッフ複数名が負傷、双方全治二週間前後の負傷をし、櫻木、長瀬の両名には厳重注意がなされた。

 以来、長瀬に対し「愛人」の話題を振るのは禁止事項となり、「一級探索者に対する業務連絡の心得」にその事項は追加された。


 しかし、長瀬の「愛人」に関する情報は限りなく少なく、長瀬組の組員にもかなり厳しい緘口令が課せられているようだった。2×××年時点で判明した長瀬の「愛人」に関する情報を下記に記す。


・とても美しい女性である

・長瀬自身以外誰の目にも触れさせたくない

・器量が良く、特に手芸が得意で服飾などの作成が趣味である

・長瀬の運命の相手であり、「愛人」のためならばいくらでも探索活動に協力できる

・「愛人」は妊娠している、もしくは、既に子供がいる


 また、気になる事項として__


 ……血の付いたタブレットに残された情報は、ここで途切れている。

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