表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
89/152

19話 清算と赤字と

前回のあらすじ

・【はなさかじいさん】探索

・モブを倒す

「大丈夫、ですか?」


 気が付けば、ユウキは志乃にそう声をかけていた。

 銃口は震え、障子越しに悪いお爺さんを狙えているのは、ただ無理やり己を殺して創り出した殺意のおかげに他ならない。限界に近かった志乃は、その声掛けに目を丸くして顔を上げた。


 突然銃を下ろした志乃に、ユウキはハッとして謝罪する。


「ご、ごめんなさい! 邪魔になってしまいましたよね」

「い、いいえ。大丈夫、です」


 謝るユウキに志乃は声を震えさせながらそう答える。

 その表情は真っ青でありながら、額には冷や汗が滲んでおり、おおよそ冷静ではなくなっていたことがわかる。志乃はひきつった顔で銃口を下げ、視線を櫻木の方へと向けた。


 手を頭の後ろで組み、荒れた屋敷の壁にもたれかかっていた櫻木は、志乃の視線に小首をかしげる。そして、悪戯っぽく笑って問いかける。


「何? 無理そう?」


 その問いかけに、志乃は小さく息を飲んだ。怖い。モンスターとは言えども、人型の生命体を殺すのが。この引き金を引けば、一つの命を奪うのだという実感を改めて得てしまうことが。


 虫一匹殺せない、とは決して言わない。櫻木によって強制転移させられた【妖精の森】では、ゴブリンを何匹も撃ち殺した。このダンジョンに入ってからも、虫を重火器で殺した。姿かたちは違えども、命を奪えないわけではない。ただ、人のようなものから命を奪うことには、まだ抵抗があった。


 何も言うことができない志乃をよそに、櫻木は特に何も声をかけることもせずに、鼻歌混じりに天井を見上げる。あくまでも、回答と決定は志乃に託されていた。


 ライフルを握り締めた志乃に、ユウキは少しだけためらった後、声をかけた。


「その、僕らがやらなくちゃいけないのは、できるだけ苦しめないように、モンスターを殺してあげること、だと思います」

「……何でですか?」


 ゆっくりと区切り、かなりためらいがちに言葉を紡ぐユウキ。志乃は、視線を荒れた畳の上にうつして問いかける。その言葉に、ユウキはまっすぐと志乃の方を見て答えた。


「あの、僕たち探索者は、あくまでも加害者だから。ダンジョンに探索に入るってことは、わざわざモンスターに襲われに来ているってことで、だから、僕たちはモンスターを殺している。どんな姿であれ、僕たちはダンジョンから素材を奪うために探索をしているんだ」

「……。」


 ユウキの言葉を志乃はただうつむいて聞く。櫻木とアキは特にユウキの言葉に口を挟まず、それでも興味深そうにユウキの方を見ていた。


「僕が倒した……って言っても、ほとんどコハクのおかげだけど……ドルイド僧も、僕が僕の欲しいものを手に入れるために殺したんだ。自分の意志でダンジョンに挑んだのだから、僕たち探索者は加害者に他ならないよ。

 でも、同時に僕たちがモンスターを殺すことでほんの少しでも助けられている人がいる。……ダンジョンのモンスターは、ずっと殺されていないと、いずれダンジョンから出てきて人間を襲うから。それを未然に防いでる……っていう役割も果たしてる、と思うよ」


 だからその、と、ユウキは少し言いにくそうに言葉を濁す。いつまでも曇天の空から日が差し込むことはなく、湿った風だけがこちらへ吹き込む。


「あんまり気負わないでいいと思う。ただ、その、負い目があるなら、できるだけ痛くないように一撃で仕留めたほうが、いいと思う……かな?」


 そんなユウキの言葉に、志乃は少しの間口をつぐむ。そして、そっと畳の床にライフルを置いた。

 それを見て、櫻木はライフルを拾おうともたれかかっていた壁から体を起こす。しかし、その次の瞬間、その行動は止められた。


 志乃は、両頬をパン、と手で挟む。そして、床の上に置いたライフルを拾い上げ、きっと隣のあばら家を見た。


「……ありがとうございます、ユウキさん。交代していただかないでも大丈夫です」


 再度、ライフルを構え、あばら家の向こうの意地悪爺さんを見やる。銃口は、震えてはいない。驚くユウキをよそに、櫻木はいかにも面白そうに口元を歪める。


 スコープを覗き込み、照準を合わせる。引き金に添えられた指が、そっと惹かれる。静寂な空気を切り裂き、円錐形の弾丸は射出された。


 高らかな銃声。どこぞのダンジョンから産出された謎合金の鉛玉は、意地悪爺さんのこめかみを射抜き、断末魔の悲鳴を上げる猶予すら与えず、その頭蓋を破裂させた。

 あんまりな光景に、スコープを覗き込んですらいないユウキが小さく息を飲む。飛び散った脳漿はあばら家の木製の柱を、破れた障子を、玄関の土間を汚し、血の海はボロボロの畳に広がっていく。スコープのレンズ越しにその光景を見た志乃は、それでも悲鳴ひとつあげることなく、ただぎゅっとライフル銃をきつく握った。


 そんな志乃に、櫻木はニコッと笑って言う。


「はい、ボス討伐お疲れー。こんな風に、重火器はかなり便利だけど、使い方変えれば普通に人間殺せるし、銃扱っている君自身が死ぬ可能性も普通にあるから、気を付けて使うようにねー」

「……はい」


 こくんと頷きながら返事をする志乃。そして、隣で志乃の様子を見守っていたアキは、思い出したようにユウキに向かって問いかけた。


「ねえ君。キミも確か、生き物殺すの苦手だったよね。キミだったら、ボスをどうやって討伐するのー?」


 その問いかけに、ユウキは少しだけ視線をさ迷わせる。そして、かなり目を逸らした状態で答えた。


「その、建物がかなりボロボロなので、柱を撃って建物を倒壊させようかな、と思っていました……」


 ユウキのその返答に、櫻木はあきれたように言う。


「それだと、帰還用の魔法陣も埋まるじゃん」

「はい……あと、狙撃とかやったことがないので、接近しないなら的が動かない柱狙ったほうが確実なので……」


 目を逸らして言うユウキ。重火器の取り扱いに才能のある志乃や探索者として経験を積んだアキたちとは違い、ユウキ自身重火器に触れるのはこれで三回目である。近距離ならまだしも、遠距離の狙撃の練習はほとんど詰めていないのが現状なのだ。生き物に銃口を向けられるか否かよりもまず先に、的をねらって打てるかどうかすら定かではない。そんな状況では、意地悪爺さんを狙って外すよりは、建物を狙ったほうがよっぽど効率的だと思えたのだ。


 ユウキの弁明に、多少は理解ができるところがあったのか、櫻木は少しだけ不満そうに唇を尖らせつつも、さっさと志乃からライフルを受け取り、悪いお爺さんの家を指さす。


「そろそろ回収できるもの回収して帰ろうか」


 そんな櫻木の言葉に、ユウキと志乃は顔を見合わせ、ほぼ同時に首を縦に振った。


__リザルト

攻略ダンジョン:【浦島太郎ダンジョン】

討伐したモンスター:害虫、悪いお爺さん

総討伐数:76体(害虫75匹、悪いお爺さん一人)

採取物:魔石(単価500円)×40、魔石(単価1000円)×27、魔石(単価4500円)×8、魔石(単価10000円)×1、目つぶしの灰(100グラムあたり1700円)×2.5キログラム、大百足の肝(50グラムあたり2500円)×0.8キログラム

死者数:0人

補足事項:重火器講習のため、4人パーティで探索。



 ダンジョンから出た後、楽鳥羽町の探索者協会に移動し、現在の末端売却額で500グラムほど目つぶしの灰を購入したところで、志乃はそろそろ帰宅しなければならない時間になってしまい、残った櫻木とアキ、ユウキの三人で換金と清算を行うことにした。


 流石は二級探索者というべきか、アキは大百足の解体方法を熟知しており、漢方の素材として売却できる大百足の肝を採取することができていた。一匹当たり約100グラムほどの肝が採取でき、魔石以外の採取物が増えた。

 タブレットの計算機を適当に弾き、アキは今回の採取物の売却額を言う。


「魔石の価格が9万3千円、目つぶしの灰が4万2千5百円、肝が4万の合計17万5,500円。櫻木を除いて3人で分配すると、一人当たり5万8500円。入場料が本来は8万だから、普通に赤字だねー。モンスターの討伐要請も無いから、ボランティアで殺しただけだし」


 その言葉に、ユウキは少しだけ肩をすくめる。大抵一人と召喚獣のコンラ、コハクとともに探索しているため、入場料は一人分で済む。それでも、今回の場合は櫻木を除いて3人分の入場料は通常通り支払わなければならないため、黒字にはならなかった。これは、パーティで探索を行うときの欠点でもある。

 人数が多ければ、安定した探索を行うことができるが、その分収益は下がる。5級帯のダンジョンで二人以上のパーティを組むと、まあまあ起きる事態だった。


 さらに、側でタブレットをいじっていた櫻木も口を挟む。


「入場料だけじゃなく、今回は重火器を使ったから、弾代考えると大赤字じゃないかな。ライフル銃の弾丸は一発1000円、普通に使ってた銃弾も最安値の一発500円だから、まあ、大赤字もいいところだよね」


 そう、日本の重火器はダンジョン以外での乱用を防ぐため、基本的に弾の値段がかなり高めに設定してある。一説には拳銃を使って探索しても利益が出るのは、3級以上と言われているほどなのだ。特5級ダンジョンごときで銃を使えば、まあ、結果は見えていることだろう。


 タブレットを操作し終えた櫻木は、パッと画面をアキとユウキに見せる。


「今回使った銃弾の数は、ライフル一発、拳銃85発。流石は二人というべきか、メインガンナー二人はかなり球数少なく仕留められていたね。志乃とかはまだ初心者だし、一匹に最低2発は使うかと思っていたけれども、後半はほぼ一撃必殺だった」

「うんうん、狙撃外さなかったし、問題ないのじゃないかなー?」


 タブレットで計算結果と戦闘記録の録画を再生しながら、櫻木はユウキに問いかける。


「今回の探索、赤字額はいくらぐらいになると思う?」

「えっと……」


 そう問いかけられたユウキは、タブレットを取り出して計算を始める。


「今回の収入が17万5500円、入場料が3人分だと8万×3で24万円、銃弾が500円×85発で4万2500円、ライフル弾が1000円で、10万8千円の赤字ですね。あとは、これに消耗品と移動費がかかります」

「そうそう。正直、入場料が馬鹿らしいのはさておき、銃弾の費用もぶっちゃけ高値だよね。だから、基本的に重火器は使いどころを選んで使う必要があるんだ」


 「まあ、一級帯になると、ただの銃で殺せるモンスターほぼいなくなるけど」と付け加えながら言う櫻木。その言葉に、アキは「あー、そうだよねー」という表情を浮かべる。


 そんな二人の言葉に、ユウキも小さく頷く。


 ダンジョンは、高難易度になればなるほど、人間の手で討伐するのが難しくなる。一般的に、人類の製造できる装備で探索できるのは、準二級、もしくは二級までと言われる始末なのだ。それ以上のダンジョンは、基本的にはダンジョンの採取物を用いてどうにか攻略することが推奨されている。

 そういえば、と、ユウキは櫻木の方を見る。


「その、一級探索の時には、どんな武器を使っているのですか?」

「うん? 普通にその時支給された武器を使っているよ。どこぞのダンジョンヤクザみたく秘密主義ってわけでもないけど、それ以上に特別なものは使っていないかな?」

「アキもそんなに特別なものは使っていないかなー。高難易度挑戦する時だけは合金弾もっていくよ。あ、キラの刀はヒヒイロカネ合金られたやつだよー。研ぐのが大変だって愚痴ってたー」

「ヒヒイロカネかー。ぶっちゃけ手入れダルいから、あんまり使いたくないな」

「錆びないし切れ味持続するから、中長期の探索向きなんだよねー。それなりの設備が無いと手入れできないけど」


 キラが砥石で手入れしてたら砥石のほうが真っ二つになっちゃった、と、けらけらと楽しそうに笑いながら言うアキ。ヒヒイロカネは、金属としては軽量でありながら、合金にすると金剛石(ダイヤモンド)よりも頑強になるという逸話のある金属である。また、まったく錆びないという逸話もあり、なるほど、武器にするには最適なように思える。……その分、手入れが大変なのかもしれないが。


 現状、真っ先に目指すべきは4級昇格であり、その後の目標は三級で特三級をひたすら探索し続けるか、2級昇格後2級帯ダンジョンでポーションを探すかのどちらかである。

 コンラという強力な召喚獣と契約を交わしているユウキだが、できればもう少し戦力が欲しかった。具体的には、良い武器が欲しかった。


 召喚の時にコンラが持っていた鋼の剣はかなりの業物ではあるが、正直、このまま装備更新をしないで済むかと問われれば、首をかしげるほかない。

 ユウキ自身がコンラの足を引っ張るのが嫌で重火器を手に入れようとはしているが、コンラでも躓くような難所に至った時に、良い武器や良い装備があれば、少しは変わるかもしれない。幸いにも、今はそれなりに金銭はある。だからこそ、今のうちにそう言った武具の知識を仕入れておきたかったのだ。


 そして、続いて質問をしようとしてところで、櫻木のタブレットに着信が入る。タブレットを一瞥した櫻木は、そのまま通話に出た。


「もしもしー?」

『こっちの講習は終わった。楽鳥羽探索者協会に向かっているが、そっちは大丈夫か?』

「大丈夫、終わってるよ。今日は面白いもの見れたし、何か奢るよ」


 通話相手はどうやら篠原であるらしい。篠原の業務連絡に、櫻木はずいぶん機嫌よさそうに言う。奢られることがあまり好きではないらしい篠原は、少しだけ言葉を濁したが、通話口の向こうで、ふと何やら声をかけられたらしい。


『……なるほど。()()()寿司が良いと言っているが、寿司でいいか?』

「……えっ?」


 篠原のその言葉に、ユウキは思わず間の抜けた声を上げる。そして、櫻木の隣に立っていたアキの方に目を向ける。この場にいるのは確かに、ロングレンジライフルのバッグを持ったアキである。

 にもかかわらず、篠原の方にも、アキがいる……?


 茫然としているユウキをよそに、この場にいるアキはさも楽しそうに櫻木に言う。


「寿司良いね! 回ってないやつがいいなー」

「回ってないやつね。いいよー。第二新宿にでも寄ってく?」


 そんなたわいもない話をしていると、一台のワゴン車が町役場の前に止まるのが役場のガラス戸越しに見えた。風林火山のロゴマークの入ったワゴン車から降りてきたのは、返却用の大荷物を抱えた篠原と、ライフルのケースを持った()()だった。


「やっぱり、今日はどっちもアキだったのか。いい加減、キラの方も銃を使えるようにした方がいいのじゃあないの?」


 肩をすくめてそう言う櫻木に、今櫻木の隣に立っているアキは首を振っていった。


()()は銃を使わないよ。ずっとそうやって役割分担してきたから」


 そう言って、()()は、ぐっと髪の毛を引っ張る。すると、ずるりと髪の毛が抜けた。否、かぶっていたショートカットのカツラが脱げた。

 カツラを脱ぎ、ロングレンジライフルを櫻木に押し付けた()は、ガラス戸を押し開けて、アキの方へと駆け寄る。


「アキー、大丈夫だった?」


 そう問いかけられた篠原の隣にいるアキは笑顔で頷くと、彼にぎゅっと抱き着き大きく頷いた。


「大丈夫だよ。キラ、そっちはサクラギの馬鹿が余計なことしなかったー?」

「馬鹿って酷いな。今日はそこまでおかしなことはしていないだろう?!」


 アキの発言に、心外だと言いたげに櫻木は唇を尖らせる。

 ユウキはただ、目の前の状況が理解できず、目を丸くするばかりだった。

【二級探索者 キラ&アキ】

 二級探索者の中でも有数の実力者。双子で、キラは接近戦を得意としており、アキは遠距離戦を得意としている。基本的に悪戯好きで、様々な人を驚かせるのが好き。

 二人そろった実力は一級探索者に筆頭するが、特二級探索でトラウマを負い、それ以来一級昇格を諦めた。年齢はおおよそ20代だが、詳細は不明である。


 気に入った相手にはかなり懐を許すが、気に食わない相手や初対面の相手にはそれなりに距離を置く。同じ風林火山では、篠原のことを気に言っている。ちなみに、櫻木のことは実力は認めているが、人間性はゴミクズだと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ