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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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17話 キラとアキは双子である

前回のあらすじ

・【はなさかじいさん】探索

・子ネズミのコハクがついて行きたがる

 ユウキと志乃、そして、子ネズミのコハクがダンジョン前のさびれた農機具入れの前で待っていると、少し遅れて『風林火山』のロゴマークが印字された社用車が到着する。車を運転しているのは、どうやらマネージャーの人間であるらしく、胸元のネームプレートには『牧田』という文字が印字されていた。


 ダンジョンの前に車を止め、後部座席から二人が降りてくる。

 そして、降りてきた人物を見て、ユウキと志乃はほぼ同時に首を傾げた。


「おまたせー。二人とも時間をちゃんと守っていて真面目だねー」

「うんうん、いい子いい子―」


 最初の言葉は相変わらず軽薄そうな見た目の櫻木。そして、次の言葉は……


「あれ? アキさんって、篠原さんの班じゃ……?」


 首を傾げた志乃は相当かける。そう、櫻木とともに車から降りてきたのは、ライフルのケースを持ったショートカットの女性。つまり、双子のアキだった。

 彼女はいかにも楽しそうに社用車から降りると、牧田に手を振る。志乃のもっともな質問に答えになっていない答えを言ったのは、櫻木の方だった。


「まあ、あんまり気にしなくてもいいよ。さっさと探索終わらせちゃおうか」


 櫻木は手をひらひらと振ってそう言う。その言葉に、ユウキは首を傾げた。

 一応、近距離が得意であるらしいキラ用の作戦も伝えていたはずだが、遠距離狙撃が得意なアキがくるなら、もっと効率の良い手法があるはずだ。しかして、もう作戦を組みなおすだけの時間はない。予定通り、銃と殺虫剤を組み合わせた探索を行うほかない。


「そうそう、今日は暇だし、虫網持ってきちゃったー。ヒスイアゲハ見つけたら生きた状態で捕まえられるよ」


 安っぽい緑色の虫取り網を振り回し、マニアに高値で売り払える、といかにも楽しそうに言う櫻木。プロが使うにしてはあまりにも安っぽいため、適当な百均かコンビニかで購入したのだろう。カーボンプラスチックの柄にくくりつけられた緑色の網はかなりぐらついている。そんなに振り回したら網が壊れてしまいそうだ。


 そして、櫻木は思い出したように拳銃のケースをユウキと志乃に手渡す。そして、ユウキの方を一瞥すると、小さく肩をすくめて言った。


「ぶっちゃけ、今回のダンジョンで拳銃を使うメリット1ミリもないけど、研修だからね。動く的に当てる練習だとでも思って確殺以上を狙ってほしい」

「あ、サクラギの馬鹿の言うことは気にしないでね。基本拳銃使えばオーバーキルになるとはいえ、素人なんだからとりあえず百発百中を目指すくらいで十分。虫って痛み感じてないから殺しても殺しきれないこと割とあるからねー。弾丸ケチって死ぬのが一番馬鹿馬鹿しいから、一発で殺せなくても当たってればオッケーってくらいでいいよー」


 櫻木の言葉に重ねるようにそう言い切ったアキ。そして、軽く櫻木の脇腹を小突く。どうやら、かなりの無理難題を言っていたらしい。櫻木はべっと舌を突き出すと、そのまま何事もなかったかのようにダンジョン【はなさかじいさん】の方を見る。

 その態度に、志乃はあきれたように眉を下げた。


 ユウキはそっと業務用の殺虫剤に手をかけながら考える。


「百発百中……難しそうだけど、大丈夫そうですか、志乃さん?」

「うーん……動いている相手に発砲するのは、前回の【妖精の森】でやりましたけれども……虫ってどこを狙えばいいのですかね……?」

「虫によって違ってくるとは思いますけれども……とりあえず頭を狙っておけば安牌ではないですかね」


 そんな話をしながら、ユウキたちの班は【はなさかじいさん】に挑んだ。




 櫻木が3人分の入場料を余分に支払い、古ぼけた扉の奥の重々しい金属製のゲートは開かれる。扉の奥は、枯れ木の立ち並んだ農村だった。冷たい風が吹き抜け、空は重々しい鈍色の雲に覆われている。

 初夏の気候だった外に対してダンジョン内のあまりの変わりように、志乃は少しだけぐっと唇をつぐんだ。


 さびれた農村には、ボロボロの農具入れやらもはや使えるのかわからない古井戸、それに、崩れかけたあぜ道が少し残っている。ボスである意地悪爺さんは、農村の奥、2軒ある家のうち、空き家ではないほうの家にいる。空き家は良いお爺さんの家であった場所であるらしく、家財一式は何一つ残されていない代わりに、虫も入ってこない。ボス前の安全地帯なのだ。


 このダンジョンが準5級指定なのは、虫がモブという点ももちろんあるが、それ以上にボスエリア直前に安全地帯があることも大きい。もし道中で負傷しても、休憩を挟んで治療を行ってからボスに挑戦できるためだ。そのため、昇給のための準5級ダンジョンとして攻略を選択する初心者探索者も多い。


 防弾パーカーのフードに入り込んだコハクは、新芽ひとつ生えていない枯れ木を見て、少しだけがっかりしたような声を上げる。竹藪ダンジョンではもっぱらタケノコを食べていたため、コハクは植物性の食物がかなり好きだったのだ。

 そんなコハクをよそに、櫻木は鼻歌混じりに自分の武器であるライフル銃を取り出し、弾丸を装填しだす。そんな櫻木を見て、ユウキたちもまた慌てて銃の点検と装弾を始めた。銃はダンジョンの外では弾丸を入れることは基本禁止されているのだ。


 引き金を引けば発砲できる状態にまで拳銃の発砲準備を整えると、二人は改めてダンジョンに向き直る。まだ入ってすぐの場所であるため、モンスターは居ない。しかし、少し進めば間違いなく害虫が現れるのだ。油断するわけにはいかなかった。


 全員の準備が整ったところで、ユウキたちは探索を開始した。


「えっと、今回は契約しているコハクが来てくれたので、僕が前衛として偵察を行いながら進みます。長射程のライフルを持つアキさんは後衛、志乃さんは中衛で戦闘時には前に出てきてください」

「あれ、サクラギは?」

「櫻木さん……? あれ、彼はふつうに指導役なだけですよね?」


 きょとんとした表情を浮かべるユウキに、櫻木は大げさに悲しがるそぶりを見せ、わざとらしいウソ泣きをしながら言う。


「探索させてくれないの?」

「普通、指導者を戦力とはカウントしないと思いますけれども……」


 あきれたように言うのは、あらかじめ打ち合わせを済ませていた志乃。元の作戦は近接戦の得意なキラとユウキが前衛のはずだったが、その時にも櫻木は戦力としてカウントされていなかった。

 それでも、櫻木は不本意だったらしく、駄々をこねる。


「いいじゃん、僕だって虫取りしたい!!」

「みっともないよ、サクラギー。一人でやってればいいじゃん。銃弾くらい避けられるでしょー?」

「虫さん死んじゃうじゃん!!」

「アゲハ以外毒虫じゃん。捕まえてどうするのー?」

「……うーん、牧田にあげようかな?」


 その言葉を聞いたアキは、呆れたようにため息をつくと、黙ってライフルを横なぎにふるい、安っぽい虫取り網をへし折った。

 高らかな破壊音と、櫻木の間抜けな悲鳴が、さびれた農村の曇り空に吸い込まれて消えた。



 駄々をこねる櫻木を放置して、3人と一匹は探索を始める。

 枯れ木は桜の木であるらしく、節くれだった木目は痩せこけて土埃を被っていた。畑はどれほど放置されていたのか枯れはて、崩れかけたあぜ道の土の上は白くひび割れている。そんな寂れた農村を警戒しながら歩いていると、ふと、フードの中からコハクが高く鳴き声を上げた。


 その声を聞いて、ユウキはぐっと拳銃を握り締める。


「警戒してください、来ます!」


 その言葉に、志乃は即座に銃口を上げる。そして、小さく声を上げた。


 ひび割れた畑の地面から、ずるりと大きな百足が這い出る。その頭の大きさはバスケットボール大、全長は優に3メートルを超えている。胴体の節から出た節足はぎちぎちと耳に触る音を響かせる。あれこそが、大百足だ。

 こちらの足音を聞いて畑から現れた大百足は、太く固い顎をギシギシとならしながら、3人に向かって突進してくる。


「撃ちます!」


 大百足の挙動を見た志乃は、そう宣言をすると即座に拳銃の引き金を引いた。

 高らかな銃声が一発。志乃の拳銃から放たれた鉛玉は、空気の抜けたバスケットボールのような平べったい頭の眉間を射抜く。人類の兵器は、生物学的には異常な存在である大百足の甲殻を容易に貫き、その進撃を食い止めた。


 しかし、その銃声につられて、ずるずると害虫たちが畑から、地割れの影から、枯れ木の根から、うろから、這い出る。異常な羽音に、カチカチ、がさがさと、大量の虫のさざめきが、あたりに広がる。


 黒々とした巨大な虫たちが群れを成してあふれ出るさなか、恐怖で脈拍を早めながらも、ユウキは想定していた作戦を決行する。


「殺虫剤撒きます!」


 ユウキはそう言って持ってきていた業務用の殺虫剤を手に取る。コハクは慌ててフードの底へもぐりこんだ。


 殺虫剤は巨大な虫の中でも効果は抜群である。空を飛び獲物であるユウキらを仕留めようとその顎をがちがちとならしていた虻蜂やら気味の悪い芋虫やらは、殺虫剤の白く濁った霧を浴び、その命を枯らしていく。

 重火器講習であるにも拘らず、ほぼ重火器を使う気はないユウキは、薬剤を吸い込まないようマスクをしっかりつけなおし、虫たちの様子を確認する。体が大きく、殺虫剤が効くまで少し時間がかかるモンスターは、志乃とアキがスナイパーライフルで仕留めている。


 ユウキの様子をしばらく静観していた櫻木は、思い出したようにユウキに向かってアドバイスをした。


「あ、その殺虫剤使い捨てにしていいなら、銃使う練習できるよ。お手本に、殺虫剤一本もらうね」

「は、はい!」


 櫻木はユウキの腰に固定してあった殺虫剤を一本、スリ盗るように入手すると、蓋を開けて虫の群れの奥の方へ放り投げる。殺虫剤の缶は重力に従って弧を描き、そのまま虫の群れへ飲み込まれようとしていた。

 その瞬間、櫻木はライフルを発砲した。


 ライフルの弾丸は殺虫剤の缶のロゴマークをあやまたず撃ち抜く。そして、一拍遅れて缶が破裂した。缶の中身は圧縮された空気と殺虫剤である。そのため、ライフルで射抜かれた結果、爆破したのだ。


 金属の割れるすさまじい音に、志乃とアキは驚きで肩を大きく震わせ、ついで櫻木を睨んだ。


「もっと他にやりようがありましたよね?! 突然やめてください!」

「うるさーい!!」

「えー、酷いなー。結構倒せたのにー」


 ブーイングの声を上げる志乃とアキ。そんな二人に、櫻木は肩をすくめて悪びれもなく言う。たしかに、砕け散った間の破片やまき散らされた殺虫剤によって、多くの虫が殲滅されている。さらに、缶を奥に投げてから発砲したため、殺虫剤の噴霧距離よりも明らかに遠い箇所にもその殺虫効果を発揮させることができていた。


 何も宣言せずに缶を爆破させたのはよくないが、それでも、手法自体はとてもいい。ユウキには、そう思えた。


「……やってみます!」


 ユウキはそう言って、予備の殺虫剤を手に取り、できるだけ遠くへ投げる。

 流石に櫻木のように、缶が地面へ着地するまでの間に発砲することはできず、荒れ果てた畑に転がった缶は石か何かにぶつかって高く跳ねる。からんからんと転がった殺虫剤の缶の毒々しい色を目視しながら、ユウキは拳銃を手に取った。


 狙いを定め、引き金を引く。

 直線を描く弾丸。それは、殺虫剤の缶の赤色文字を射抜き、火花を散らす。その瞬間、破裂音とともに、殺虫剤が振りまかれた。


 一発で当たった、と、安堵するユウキに、櫻木はさも楽しそうに言う。


「やっぱり、君は生き物に対して銃口向けるよりは、無機物を狙ったほうが命中率が安定するっぽいね。これに関しては、手榴弾だとかシンプルに火薬の塊だけでも同じことができるから、命中率上げる練習しておくといいよ」


 そう言って、櫻木は壊れた虫取り網の柄の部分だけを手に取り、あぜ道で死にかけてぴくぴくと痙攣している大百足をツンツンとつつき始めた。訳が分からない言動に少しばかり恐怖を感じつつ、確かに身になるアドバイスに、ユウキはぐっと拳を握り締めた。


 櫻木に言われた通り、虫に銃口を向けるよりも、缶を狙ったほうが明らかに引き金を引きやすかった。缶を撃てば、当然多くの虫の命を奪うとは分かっている。それでも、直接殺すよりは、断然心持が違った。


 ユウキは小さく息を吐くと、拳銃をおろし、殺虫剤の缶を手に取る。そして、缶を投げず、そのまま普通に殺虫剤の噴霧を再開した。

 そんなユウキの行動を見て、櫻木はぐっと眉根を寄せる。そして、ベッと舌を突き出して言う。


「つまんないの、殺虫剤全部投げたら笑ってやろうと思ったのに」

「えっ」


 櫻木の衝撃的な言葉に、ユウキは思わず声を裏返らせ、櫻木の方を見る。悪びれた素振り一つ見せず、志乃にアドバイスを始める。

 茫然としているユウキに、アキは小さく肩をすくめて言う。


「サクラギの言うこといちいち気にしてたら日が暮れるよ。あのバカ、ホントにゴミクズみたいな性格してるよねー」

「聞こえてるからね?!」


 アキの流れるような罵倒に、櫻木は「うわーん」と大声で泣きまねをする。作戦開始20分、モブの殲滅は、完了した。

【スプレー缶が爆発する】

 殺虫剤でなくとも起こりえる。今回の場合は特に、前章で主人公が簡易火炎放射器代わりに使っていたものと同じ殺虫剤であり、可燃性ガスを含んだスプレー缶であるため、火気厳禁である。

 また、スプレー缶には圧縮した気体を詰め込み、そうして中身を噴霧するため、強い衝撃が加わり缶が破損されると、破裂する恐れもある。流石に缶自体がかなり頑丈にできているので、少しの衝撃では流石に大丈夫だが、まだ中身がたくさん入ったスプレー缶やより可燃性の高い気体の押し込められたスプレーを捨てる場合には、ぜひとも気を付けていただきたい。


 なお、本作の使用方法はやべー方法です。良い子も悪い子も絶対にマネしないでね。

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