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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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14話 荷運びと逃走

前回のあらすじ

・コンラとともにシンジの荷物を回収しに行く

・ひげ面の男に見つかった

 ひげ面の男と目が合った瞬間、ユウキとコンラは急いで駅の方へ逃げ出していた。


「一度電車に乗ってまこう! タブレット持ってきているよね?!」

「ああ、持っている! その荷物よこせ! てめえが持って走るよりは俺が持っていた方が速い!」


 コンラはそう言ってユウキの手から段ボールを受け取り、代わりに花束をユウキに押し付ける。無茶苦茶な動きで力の加わった花束は、残念なことに花弁が歪み、元の美しい花の造形を欠いている。


 足が遅いながらに必死に走るユウキを横目に、コンラはちらりと背後を確認する。すると、丁度ひげ面の男がホテルの扉を乱暴に開くところだった。


 距離は100mと少し。路地を曲がるところは見られたため、まっすぐにこちらを追いかけてくることだろう。そして、何よりも相手はスカサハから足止めをできるほどの実力者。身体能力はおそらくかなり高いはずだ。

 戦士としてそこそこ訓練を積んできたコンラならともかく、運動能力の低いユウキでは間違いなく追いつかれる。となると、どうにか頭を使ってあのひげ面の男から逃げる必要があった。


 基本的にゲッシュのせいで『逃げる』……つまり、『挑戦から逃げる』ことをしてこなかったコンラは、お世辞にも逃亡に長けているわけではない。第一、逃げている最中に道を間違えれば、『道を変えてはいけない』というゲッシュに抵触する可能性もあった。相手に挑発されていない以上、現状ではユウキの指し示す道に従うという名目で敵前逃亡も可能となっていた。


「どうする、ユウキ」

「……ふう、ふう、駅に、最短距離で行っても、……多分、追いつかれる、から……ゲホゲホっ!!」


 走りながらしゃべったために、ユウキは盛大にむせた。そんなあまりにも情けないユウキに、コンラは少しだけ呆れた表情を浮かべた。

 ユウキは背中を暴れる学生カバンに苛立ちながら、できる限り全力で走り、思考する。


 このまま最短距離で駅へ向かえば、間違いなく追いつかれる。捕まったらどうなるかなどわかりはしないが、シンジに頼まれた荷物を紛失すればどうなるかは予想できる。……一発殴られるだけでは済まない。

 姉のためにも、両親との約束のためにも、また死ぬわけにはいかない。というか、現状完全にコンラを巻き込んでしまっている以上、安全に、この職務を終わらせなければならない。


 脳内で駅周辺の地理を思い出し、ここからの距離をひたすら考える。この路地をまっすぐ進めば、駅構内に向かえる。コンラに足止めを頼んで、駅員に相談する? そうしたところで、追手に目をつけられてしまっている以上、シンジと荷物の受け渡しができなくなってしまう。

 どうすれば良い。どうしたらいい。


 ユウキは息荒く走りながら、必死に酸素を脳に回して思考する。


__今朝のコンラの話から、長瀬組の狙いはシンジの生体認証と、何らかの所有物……荷物の受け渡し……駅……追手……


 そこまで考えたところで、ユウキは、右目の奥がちり、と痛む。その痛みで、ユウキは思いついた。

 咽ないように言葉を区切りながら、段ボールを持って全力で走り続けるコンラに言う。


「駅前の、ビル! あそこなら、人も多いはず!」

「わかった、そこで撒くんだな?」

「そう、だけど、そうじゃない!」

「……は?」


 ユウキの言葉に、首をかしげるコンラ。それでも、体力の限界が近いユウキはぜえぜえと息を切らして足を動かす。そして、駅前のデパートの入ったビルにかけこんだ。


 まだ何をするかわかっていないコンラは、不安そうに眉を顰め、背後を警戒した。





 ユウキたちが駅前のデパートに入っていったのを見たひげ面の男は、不愉快そうに舌打ちをすると、ポケットからタブレットを取り出した。そして、さっさと指紋認証を済ませて与えられた部下たちにデパートの周囲を固めておくようにチャットを送る。

 来たこともないこのデパートにいくつ出入り口があるかは知らない。それでも、この板で調べれば、いくつ出入り口があるかは容易にわかる。


 召喚獣としてこの世界に呼ばれてから、ある程度扱ったことでタブレットの使い方と利便性は十分に理解していた。


__こいつがあれば、ギリシャに勝てたか……? いや、神どものえこひいきがある以上どれだけ優位に立ちまわっても和平がせいぜいか。


 そんなことを考えながら、男は二人が入っていったデパートの名前を検索エンジンに打ち込み、地図を確認する。デパートからの出口は全部で7か所。ただ、他にも職員専用の裏口もあるだろうが、よほどの伝手が無ければ使うことはできないだろう。

 そう判断した彼は、通話モードにしたタブレットで部下たちに指示を下す。


「坂上、立木は駅に直接つながるカフェテリア前出口。荻原は二階立体交差点前出口塞げ。正面入り口は目立たねえ前沢が行け。東口は田中、西口は佐藤、屋上駐車場は近藤、裏口は野田。坊ちゃんの荷物の回収が最優先だ。素直に渡してくれなきゃ一、二発ぶん殴っても構わねえ」


 男の指示を聞いた部下たちは、チャットで短く応答する。その返答を確認した男は、満足そうに小さく頷き、悠々とデパートの中に足を踏み入れる。

 その時、細い紐でまとめた茶髪が風に揺れる。ふと、何か悪い予感を覚えた男は、小さく舌打ちをして、追加の指示をタブレットに書き込んだ。


__もしも坊ちゃんが直接荷物を回収しに来たら、交戦は避けて呼び出しに徹すること。


 そこまで書き込み、送信ボタンに指を伸ばしかけた男だったが、すぐ彼の脳裏に浮かんだのは、己の契約者であり、上司である『長瀬龍治郎』の面であった。

 シンジと長瀬はあまりにも似ている。しいて言うなら、龍治郎よりはシンジの方が若干運がいい程度であり、精神性やその在り方に関してはそう大きく違っているようには思えなかった。


 つまり、いかに大切な荷物だったとしても、パシリにその荷物を回収させている以上、わざわざそのパシリを助けることなどはないはずだ。


__なら、この胸騒ぎは何だ?


 ただがた同級生のパシリ相手だ。追手に気が付いて逃げ出すだけの知恵があっただけで、足もそう速いようには見えなかった。それでも、何故か不安が拭い去れない。


「クソ……今は神どもに妨害されていないはずだよな……?」


 何故だか引っかかる。何故だか心のどこかでもう過ちを犯したとささやく。祖国の城壁を背中に布陣をした時のような、もう後戻りのできない失敗に気が付いてしまった感覚に襲われた男は、スッと目を細めて足早にデパートの中を進んでいく。


 ……実のところ、男のシンジが助けに来ないという予想は当たっていた。ただしかし、助けが来ない理由を、彼は勘違いしていた。シンジがわざわざユウキを助けに来ない理由は、役立たずだから切り捨てるわけではない。『この程度のことならできる』と一定の信頼があるからなのだ。

 だからこそ、男はユウキ(パシリ)の力量を見誤っていたのだ。


 そんな決定的な失敗の理由に気が付くことはできず、ひげ面の男はデパートを下の階から順番に探して歩いていく。

 平日ではあるとはいえ、放課後の時間帯になったデパートにはかなりの人数の人がいる。海外の俳優のような見た目の男に人々の視線が集まるが、彼は全く気にすることなく堂々と歩く。……というよりも、生前から視線を集めることには慣れていた。


__服屋が多いな……服を変えて逃げるつもりか? それでも面は覚えたし、顔を見ていないほうは金髪で目立つはずだ


 タブレットを片手に、男は思考する。この建物を包囲した以上、後は時間さえかけてしまえば荷物は回収できる。とはいえ、あまり目立つと警察や探索者協会が介入しかねない。

 多少のことならば長瀬組に所属している事実で何とでもなるが、あまりくだらない失敗を繰り返せば、組長から脚切りを喰らいかねない。ただでさえ国有召喚獣保護施設でへまをしてしまったのだ、これ以上ミスはしたくない。


「……二階か? あまり遠くに逃げられると面倒だが……」


 男は小さくつぶやきながら、足を進める。二階はどうやら家具や雑貨の置いてある店が多いらしい。在庫の商品は段ボール箱に収められたまま店の壁に収納されている。その性質上、空き段ボール箱もかなりあるらしく、通路の隅、従業員用の出入り口の前には持ち帰り用の段ボールがまとめて置かれていた。


 金髪の男はともかく、少年の逃げ足はそこまで速くはない。だからだろう。2階の少し奥まった場所にある雑貨屋の前で、謎の品ぞろえで置かれたシャンデリアもどきのような照明器具が無駄に明るく照らす金髪の男の後頭部を見つけた。


 金髪の方の男の手には、段ボール箱が一つ。彼の側には、息を切らした少年が壁に手を付けて咽ている。どうやら、二階まで逃げて少し安心しているらしい。

 そんな彼らの様子を見た男は、口元を平静に保ったままこらえきれずニッと目元だけ笑う。これなら、一人が逃げたとしてももう一人を人質としておけば必ず荷物は回収できる。


 鼻歌でも口ずさみたくなるような気持になりながら、男は二人の方へと歩み寄る。

 先に男に気が付いたのは、後ろを向いていたはずの金髪の男だった。


「チッ、ユウキ、後から追いかけてこい! 荷物は俺が__」


 コンラがそこまで言いかけたところで、男はにっこりと微笑み、ユウキの肩にポンと手を置いて言う。


「オジサン、そんなことはしないほうがいいと思うけど。そこのお友達が東京湾に沈んでもいいならそうしてもいいけどさ」

「……。」


 昼下がりのデパートに男の物騒な言葉が沈む。声を無駄に張っていないため、彼の声はそう大きくは反響しなかった。それでも、言葉ににじむ迫力が、ユウキの肩に置かれた手の握力が、決して脅しなどではないと伝えている。


 ユウキは怯えた素振りを見せながらも、ぐっと奥歯を噛みしめ、コンラに言う。


「……ごめん、コンラ。僕の足が遅くて……」

「……こいつを張り倒して逃げればいいとは思わねえのか?」

「こんなところで乱闘騒ぎを起こしたら、捕まっちゃうよ。週末に試験あるから、それは困る。……シンジに土下座して謝るね」

「俺はあの野郎に頭を下げたくねえ」

「大丈夫、謝るのは僕だけだよ……死にたくないなぁ」


 悲哀に満ちたユウキの言葉。その言葉に、男は少しだけ同情する。それでも、荷物を回収しなければ折檻されるのは己だ。武器なしでダンジョンにぶち込まれるのは一度体験すればもう二度目は十分である。

 不満そうな表情の金髪の男……コンラから段ボール箱を回収した男は、悠々とデパートを後にする。


 そんな彼の背中を見て、ユウキは、湧き上がる冷や汗を必死にこらえ、そして、つぶやいた。


「……なんとか、なったかな?」

「……てめえの棒演技、本当に何とかしねえと次はねえぞ」

「君も人のこと言えないだろ」


 そんなことを言い合いながら、緊張の解けた二人は顔を合わせる。そして、雑貨屋のテーブルの下から、一つの段ボール箱を引っ張り出す。それは、この雑貨屋のシャンデリアに似た照明器具の箱だった。


「これ、1ついくらだった?」

「9800円だな」

「うーん……貯金はあるけれども、あんまりうれしい出費じゃあないね……不要な出費もいいところだし……」


 ユウキは複雑な表情をしながら、シャンデリアの段ボール箱を開けた。その中には、シンジの衣類やちょっとした文房具などが雑にしまい込まれていた。


 そう、ユウキは足の速いコンラに雑貨屋のシャンデリアを箱付きで購入してもらい、ホテルから持ってきた段ボール箱と中身を入れ替えたのだ。金銭の支払いはタブレットで済ませることができるため、コンラにユウキ自身のタブレットを預ければ、工作はあっという間に終わった。


 男らしく……というよりも、時間がなかったため、シャンデリアの空き箱の中の衣類はすっかりぐしゃぐしゃになってしまっていた。一度箱を空けても、ガムテープは無料で配っている段ボール箱置き場のあたりに設置されている。丁寧に張りなおせば、一度見ただけならわからない程度には偽装できた。


「……ちなみにコンラ。何で君、シャンデリアなんて買ったの?」

「一番目立って面白い見た目だったからだ。家の照明、あれにしないか?」

「君の部屋だったら別にいいけど……リビングは止めてね」


 ユウキはそんなことを言いながら、深くため息をついた。

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