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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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13話 ××××の英雄

前回のあらすじ

・月曜日の朝ご飯

・シンジ「帰りに荷物を回収して来い」

・ユウキ「えっ」

 シンジが早退していったこと以外は平穏に時間は過ぎ去り、放課後。帰りの荷物をまとめたユウキは、困ったようにタブレットを見つめていた。


 シンジから教えてもらったホテルの場所は、バスで数分の距離にある駅前のそこそこいいホテルである。彼の言葉から、本当にマズい状態になっているのは重々理解できた。さらに言えば、コンラさえもシンジが襲撃されているところを目撃できたのだ。襲撃者がなりふり構っていないのだろうとは容易に予想できる。


 とはいえ、だからと言って彼の言いつけに逆らって荷物を放置しておけば、明日学校で何があるかわからない。さらに、自分の保身以上にシンジがどうなってしまうか、という不安もあった。


「うーん……」


 しばらく悩みながら、ユウキはホテルの住所と彼の部屋番号を確認する。そして、一つの結論を出した。


「コンラと一緒に作業すれば、まだ安心できるかな……?」


 そして、ユウキはタブレットの電話アイコンに指を伸ばした。




 コンラに電話すると、どうやら今日の朝に言っていた作業はもう終わっていたらしく、荷運びの件をあっさりと了承してくれた。……まあ、シンジの荷物を運ぶというところで嫌な声は上げていたが。


 バスに乗って楽鳥羽駅前に移動したユウキは、コンラとの待ち合わせ場所に行く。すると、駅前のベンチのところに少しの人だかりができているのが見えた。

 どこかの高校の制服を着た女子たちが、盛んに誰かを指さしてきゃあきゃあと歓声を上げている。何事かと思ったユウキだが、ベンチに座っている人物を見て、納得した。そこには、何故か季節の花束を抱えたコンラが座っていたのだ。


 訳が分からず、ユウキは首をかしげながらコンラに近づき、声をかける。


「えっと、お待たせ……? そ、その、花束、どうしたの?」

「待ち合わせ時間に俺が早く着きすぎただけだ。気にするな。これはついでに下の花屋の荷物を運ぶのも手伝ったらもらった」

「あー、うん、なるほど?」


 コンラの返答に、ユウキも困ったようにそう言うしかなかった。

 花束を抱えた美男という非現実に、良くも悪くもない一般人が近づいたため、興味を失ったのだろう。ギャラリーたちは徐々に離れて駅に向かったり、目的地に行くためにバス停に移動したりし始める。


 タブレットの入ったリュックサックを抱えたユウキは、退屈そうに花束のリボンをいじくりまわしていたコンラに言う。


「今日だけで何度も荷運びさせちゃって申し訳ないけれども、早めにシンジの荷物回収して帰ろっか。晩御飯はコンラの好きなものでいいよ」

「なら、今日はソウメンの気分だ。昼に食べさせてもらったが、美味かった」

「素麺二食続いてもいいの? なら、帰りに何袋か買おうか」


 そんなことを言いながら、ユウキとコンラは駅前のホテル、『楽鳥羽ラウンドホテル』に移動した。




 花束を抱えた美男と明らかに学校帰りの少年というちぐはぐな組み合わせがホテルの広いロビーに入る。平日の昼下がりということもあり、ホテルのロビーにはさほど人がいなかった。

 白を基調とした、整ったホテルのロビー。入り口にはドアマンというべきなのか、警備員というべきなのかよくわからない人がきっちりとアイロンのかけられたワイシャツと制服を身に纏っていた。


 どこか場違いな感覚を覚えながら、ユウキはホテルの柔らかな絨毯の上を歩いてカウンターに移動する。白とクリーム色と紺色の三色で複雑な模様を描いた敷物は、ホテルのロビーに高級感を与えると同時に、さりげなくホテルの順路を描いていた。


 カウンターで何やら書類をかいていたフロント係は、制服を着たユウキを見て、少しだけ眉を動かしたものの、流石はプロと言ったところか、笑顔で対応する。


「こんにちは。ご宿泊でしょうか?」

「あ、いえ、シンジの……いえ、友人の荷物を引き取りに来ました。僕は長嶋裕樹と言います」

「長嶋様ですね。お話は伺っております。ご友人様のお名前とお部屋番号のご確認をしてもよろしいでしょうか。また、身分証明書の提示をお願いいたします」


 ポニーテールのフロント係はそう言ってカウンターの下から一枚の書類を取り出す。どうやら、荷物を受け取るための証明書のようなものであるらしい。

 ユウキは少しだけビックリしつつも、ホテルとしても見ず知らずの訳の分からない人間に客の荷物を盗られないようにするなら、これくらいしなければならないのだろうと納得し、財布の中から学生証と健康保険証を取り出し、フロント係の出してくれた小さなプレートの上に置く。

 フロント係は「失礼いたします」と一礼すると、二つの身分証明書をカウンターの中へ持ち込み、タブレットを操作する。それを確認しながら、ユウキは手渡された書類にカウンターの上に置かれていたボールペンで書き込みを行う。


 受領証明書には、受取日と時間、名前、荷物の持ち主の名前、部屋番号などの欄があった。丁寧に漏れがないように記入を済ませたころには、フロント係の女性がそっと学生証と健康保険証をユウキに返却した。


「身分証明書のご提示、ありがとうございました」

「あ、す、すみません、受領証明書かけました。こちらもお願いします」

「はい、ご記入ありがとうございます。少し確認しますね」


 声をかけられてビクッと肩を震わせたユウキに、フロント係の女性はにこやかな笑顔を浮かべると、そう言って一度スタッフルームに移動する。

 そして、三分と立たずにカウンターに戻ってくると、「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」と定型の謝罪をする。そんな彼女の後ろから、台車を押すスタッフの姿が見えていた。


「こちらが1020号室のお客様のお荷物になります」

「あ、はい」


 そう言ってスタッフから手渡されたのは、6本入り2リットルペットボトルが入るくらいの大きさの段ボールが1箱。ポカンとしていると、フロント係の女性が言う。


「おいて行かれた荷物が衣類と少しの雑誌類だけでして。お荷物はこれだけです」

「あ、ありがとうございます。えっと、では、失礼しますね」


 衣類ばかりなのか、重さもそこまでない段ボールを受け取ったユウキは、少しだけ釈然としない表情を浮かべながらも、その箱を抱えてカウンターに背を向ける。


 そんなとき、フロントの扉が開いた。

 入ってきたのは、整った顎髭の男性。黒色のシャツの上にチェック柄のしわ一つないジャケットを身に纏い、手には高そうな時計を身に着けている。洗練された立ち居振る舞いや堂々たる出で立ちからも、彼が上流階級であるように見えていた。


 どこかの会社の社長が宿泊に出も着たのかな、と思ったユウキだったが、後ろでかすかにコンラが目を見開いたのに気が付いたため、口を閉じた。


「えっと、知り合い?」

「アイツは、昨日の襲撃者だ。__見られると面倒だ。行くぞ」


 コンラはそう言ってさりげなくひげ面の男から顔が見えないように立ち位置を変え、顔のあたりをたまたま持っていた花束で隠す。ユウキは少しだけ困惑しながらも、すぐに歩き始めた。


 顎髭の男は、ホテルのロビーを一瞥した後、ちらりと制服姿のユウキを見る。しかし、すぐに視線を逸らし、カウンターの方へ足早に移動した。

 柔らかな絨毯が足音を吸い込むため、三人の足音はさほど大きくは聞こえない。ただ、二人と一人は何もないかのようにロビーの中ですれ違う。すれ違うその一瞬、顎髭の男が、段ボール箱を持ったユウキをその灰色の瞳で一瞥した。


 ユウキは、できるだけひげ面の男の方を見ず、ひたすら入り口に向かって歩く。決して走らず、決して焦らず、できるだけ、できるだけ普通に、普通に、歩く。

 背筋に、冷たい汗が流れる。コンラはともかく、ユウキはまだ話したことすらないにもかかわらず、何故か、とてつもなく緊張していた。


 普通に、普通に歩いて、歩いて、歩いて、ユウキとコンラはひげ面の男とすれ違う。すれ違った後、男は何か考えるかのように視線を逸らすと、そのままカウンターの方へ歩いて行った。


 緊張の糸がほどけ、ユウキはひゅっ、と、短く息を吐く。そして、恐る恐るコンラの方を見た。すると、コンラは何かぐっと眉根をよせ、つぶやくようにユウキに対して問いかけた。


「おい、おそらくアイツは召喚獣なんだが、誰だかわかるか?」

「えっ、召喚獣なの? 普通に人だと思っていた……」

「いや、アイツがスカサハと善戦できていた時点で、人だったとしても一般人の枠組みからは確実に外れる。……ていうか、俺の勝手な予想だが、あれはどこかの国の王族だ」


 コンラはそう言って花束をぐっと握る。

 仮にでも王族である父クー・フーリンや、影の国の女王であるスカサハが身近にいたため、あのひげ面の男の立ち居振る舞いから彼が王族だと予想した。同時に、優れた戦士であることも、先日の戦いからわかっていた。


 コンラは肩越しにカウンターへ向かったひげ面の男を流し見ながら、ユウキに問いかける。


「どうだ、誰だか分ったりしないか?」

「いや……その、物語で王族で強い人っていうと、ちょっと人数が多すぎて、判断できないかな……クー・フーリンやフェルグスじゃないっていうのは見た目でわかるけど……」


 コンラの質問に、ユウキは申し訳なさそうに眉を下げる。直接会話したわけでもないのだ。あの男性の正体を看破するには情報が少なすぎた。そんなユウキの言葉に、コンラも納得したのだろう。小さく肩をすくめて足早にホテルの扉を開けた。


「なら、とっとと帰るぞ。……どうせなら敵方の大将の弱点が分かれば有利に動けそうなもんだが」

「後で調べてみるよ。でも、王族か……どこの物語の王族かわかれば話は早そうだけどね」


 そんなことを話ながら、ユウキはコンラが開けてくれた扉から、楽鳥羽ラウンドホテルの外に出る。

 その時だった。


「こんにちは、お嬢さん。ナガセ シンジの父の部下でね。彼の荷物を回収するようにお願いされたんだ」


 ひげ面の男が、にこやかに微笑んでフロント係の女性にそう声をかける。そう言われたフロント係の女性は、きょとんとした顔で首を傾げ、返答した。


「はい……? えっと、長瀬様のお荷物でしたら、先ほどご友人様がお荷物を持っていかれましたが……?」


 その言葉を聞いたコンラは、即座にユウキに言った。


「マズい、逃げろユウキ!」

「……!」


 その瞬間、ひげ面の男が勢いよく入り口の方を振り返り、ユウキと目が合う。小さく息を飲んだユウキは、即座に駅の方へ向かって走り出した。

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