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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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12話 ささやかな日常……日常?

前回のあらすじ

・櫻木「補助員すれば?」

・シンジ「アレとは戦うだけ無意味だ」

・ひげ面の男「シンジを死なせるわけにはいかない」

 休日も終わり、月曜日。

 夜遅くまで計画書の作成と予習をこなしていたユウキは、大あくびをしながらリビングへ向かう。探索予定日が水曜放課後であり、開始から終了までの時間制限も設けられてしまったため、かなり綿密な計画を立てる必要があったのだ。


 ふらふらと半分寝ぼけた状態のユウキに、いつの間にか起きて朝のトレーニングをしていたコンラはあきれたように言う。


「どうした。ずいぶん眠そうだが……」

「うん。何でもないよ。あ、そうだ。昨日言った気がするけれども、水曜日は晩御飯別だから」

「ああ、昨日言っていたな。間違いなく寝ぼけてるだろお前」


 炊飯器に食パンを持っていこうとしたユウキを制止し、コンラはため息をつく。そして、こんな調子で食事を用意させるのはマズいと判断したのだろう。フェイスタオルで汗をぬぐってから簡単な食事を用意し始めた。

 ふわふわと眠そうに船をこいでいるユウキは、トーストしてもいない食パンをもそもそと食べながら、ぶつぶつとダンジョンの情報をつぶやいている。余程眠たいのだろう。いつもならせめてタブレットを片手に考え事をしているはずなのに、今はテーブルに頬杖をついたまま薄く目を閉じた状態だ。


「ユウキ、目玉焼きは何個いる?」

「一個__あれ、コンラが作ってくれるの?」

「今かよ」


 コンラの問いかけでようやく目が覚めてきたらしいユウキは、瞼をこすりながら顔を上げる。そして、大あくびをしてから席を立って食事の準備を手伝い始めた。


 IHコンロの上にフライパンを乗せ、パネルを操作してフライパンを熱する。フライパンが温まるまでの間にポットに水を入れ、スイッチを入れて湯を沸かす。そして、戸棚から即席のコーンポタージュの粉を取り出し、二人分のマグカップに粉を入れると、机の上を布巾で拭いているユウキに渡す。マグカップを受け取ったユウキは、机の上を掃除してからマグカップにポットの湯を注ぐ。優しい黄色のスープが粘度を伴って表面張力で震えた。


 大分意識がはっきりしてきたらしいユウキは、パンの入った内部だけビニール加工された包装紙をとり、コンラに問いかける。


「パン何枚食べる?」

「とりあえず三枚。今日は下の階のササキさんの手伝いをしてくる。机やらの取り換えをするらしくてな。時々ササキさんのところで勉強をさせてもらっているし、恩義は返せるときには返しておく」

「そっか。怪我しないようにね」


 ユウキはそう言いながら、四分の一ほど食べてしまった食パンと新しい食パンをオーブントースターの中に入れる。そして、自分の箸をマドラー代わりにマグカップのコーンポタージュをかき混ぜ始めた。


 ユウキがそんなことをしている間に、コンラは温まったフライパンに次々と卵を割り入れていく。購入したばかりの卵パックはもう半分以上凹み、白色の頭は数えるほどしか残っていない。


「お弁当に卵焼き作っていきたいから、少しは残しておいて」

「わかった。__しまった、ベーコンを焼き忘れていた」


 コンラはそう言って悔しそうに眉を下げる。どうやら、ベーコンエッグにしたかったらしい。ユウキは少しだけ考えた後、パンをとるための皿を取り出しながら口を開いた。


「なら、オーブントースターで焼いておく? ハーフベーコンだよね?」

「そうしてくれ。俺の分は2パック頼む」

「食べ過ぎだよ……」


 油跳ねに警戒しながらそう言うコンラに、ユウキはあきれたように肩をすくめた。1パック4枚入りのものが4つつなげられた形のハーフベーコンのパックを冷蔵庫から取り出し、2パックだけ切り離す。そして、アルミホイルを戸棚から取り出すと、切り取ったアルミホイルの上にベーコンを並べる。


 高らかな「チン」という音を立てて、トースターは食パンの焼き上がりを知らせる。熱々のトーストをおっかなびっくりに手に取りながら、小麦色に焼けた食べかけの食パンを皿に乗せ、四角の食パンをもう一枚の皿にのせる。


 そして、焼き立てのトーストと入れ替えにベーコンの乗ったアルミホイルをオーブントースターの中に入れてトースターのつまみを回す。ベーコンの脂がはねやすいため、あまりトースターでベーコンを焼くことはない。それでも、今日はなんとなくユウキもカリカリに焼けたベーコンを食べたい気分だった。


 ユウキがそんなことをしている間に、コンラはフライパンに少しの水を注いで蓋を閉じる。そして、焼き立てのトースターを一枚手に取ると、もしゃもしゃと食べながらキッチンに戻っていく。

 むっと眉を顰め、ユウキはコンラに言う。


「立って食べるのは行儀が悪いよ」

「腹減ってんだ、別にいいだろ」

「あと、パンの粉が落ちて掃除が面倒だから、止めてほしい」

「……パン皿よこせ」


 ユウキの指摘に、コンラは小さく肩をすくめてリビングからパン皿を受け取り、立ったままパン皿を受け皿にしてトースターを食べる。行儀は依然悪いが、掃除の手間は増えないため、ユウキは小さくため息をついて諦めた。


 数分経てば、ベーコンが焼きあがるのとほぼ同時位に目玉焼きが完成した。フライ返しでフライパンいっぱいの目玉焼きを切り分け、皿に乗せる。そして、思い出したように冷蔵庫からプチトマトを取り出し、流水で適当に洗って皿に添えた。


「とりあえずできたぞ。さっさと食って学校に行ってこい」

「うん、ありがとう」


 ユウキはあくびを噛み殺しながら礼を言うと、オーブントースターの中でカリカリに焼けたベーコンを火傷に注意しながらアルミホイルごと取り出す。そして、2枚のベーコンを自分の皿にうつし、残りはアルミホイルごとコンラの席において置く。そして、空っぽになったトースターにまた2枚の食パンを入れて、ダイヤルを回す。


 半分以上なくなったトーストを口にくわえたコンラは、半熟……というにはやや火の通り過ぎた目玉焼きをテーブルの上に置く。それを見て、ユウキは驚いたように口を開いた。


「今日は焦がさなかったね」

「うるせえな、直火じゃねえと火加減が分かりにくいんだよ」

「君、海鮮バーベキューした時に直火でも生焼け肉だったじゃないか……」

「別に腹壊さなきゃ何でもいいだろ」


 そんなことを言い合いながら、ユウキは手を合わせ、コンラは短く祈りの言葉を唱え、食事に手を付ける。ちなみに、ユウキは焦がしたり生焼けに成ったりこそしないものの、料理の手つきがおぼつかず、料理に時間がかかりすぎるたちである。普段の作り置きを時間をかけて作る分には問題ないが、手早く朝ご飯を作るなどにはあまり向いていなかった。


 合わせた手をそっとはなし、ユウキは塩と胡椒を目玉焼きにふりかけて食べかけのパンに乗せる。パンの時は半熟もいいが、やはり食べるときに黄身がこぼれないため、食べやすさの面ではよく焼きの方がいい。……もちろん、コンラは意図してよく焼きにしたわけではなく、普通に焼きすぎてしまっただけなのだが。


 カリカリに焼けたベーコンを頬張りながら、コンラは思い出したように口を開く。


「そういや昨日、シンジの野郎が実家の連中に襲撃されていたが……ありゃ何だ?」

「えっ」


 コンラの問いかけに、ユウキは思わずトーストの上に乗った目玉焼きをぽとりと皿の上に落す。その顔は、ひきつって青ざめていた。


 その代わりように、コンラは怪訝な表情を浮かべる。


「何かあるのか?」

「あー、うん、あるっていうか、なんていうか……その、分かるわけがないとは思うけど、シンジのお父さんの方だった? それとも継母さんの方だった?」

「あ? ……たしか、あの野郎は『クソ親父の手合い』つってたな」

「うっわ……よりにもよって長瀬さんの方か……ちなみに、パスワードとか質問されてた?」


 頭を抱えてコーンポタージュの入ったマグカップに手を伸ばすユウキに、コンラは首をかしげる。


「パスワード?」

「うん。それか、怪我させるなとか……」


 その言葉を聞いて、コンラはふと、あのひげ面の召喚獣の言葉を思い出す。


__『主人から坊ちゃんは殺すなって言われてんだよ!! 眼球ひとつ、指一本でもなくしたら俺が殺される』


 かなり必死の形相でそう言っていたひげ面の男は、シンジを殺したくない、というよりは、殺すわけにはいかない、とでも言いたげな様子だった。そして、テレビの側に置きっぱなしだった自分のタブレットを見て、あることを思い出す。


「もしかして、生体認証か?」

「パスワード聞き出そうとしていないなら、多分そうだろうね……」


 コンラの問いかけに、ユウキは渋い表情を浮かべて首を縦に振る。

 男がなくすなと言っていたのは、生体認証に必要な部位だった。そして、生かしておく必要があるのは、おそらく静脈認証か何かだろう。

 しかして、ユウキの首肯を見たコンラは、より不可解そうに首を傾げた。


「あの野郎の生体認証が何に必要なんだ?」

「うーん……それを言い始めると、だいぶ話が長くなっちゃうから、とりあえず学校から帰ったら話をするよ。とりあえず、さきにごちそうさま」


 ユウキはそう言って、食べかけだったパンと目玉焼きを口の中に押し込む。そして、あわただしく身支度を始めた。

 何が起きたかわからず、コンラは困惑した表情を浮かべながら、目玉焼きを大口で食べた。




 いつも通り杉浦学園の教室に入ると、何故か授業開始前までまだ時間があるにも拘らずシンジが席に座っていた。不貞腐れた様子の彼はしきりにタブレットを睨みつけており、何かメッセージを送っては舌打ちをして画面をスクロールするという行為を繰り返していた。


 随分不機嫌な様子のシンジに少しの恐れを覚えながら、ユウキは音を立てないようにこっそりと自分の席に座る。しかし、タブレットとにらめっこをしていたにもかかわらず、どうやらシンジはユウキの存在に気が付いたらしい。

 タブレットをつかんだまま、シンジは大層不機嫌そうに大股でユウキの元へ歩み寄り、低い声を出した。


「おい」

「ひっ、な、何かな?」


 できれば関わり合いになりたくないほどに機嫌の悪いシンジに、ユウキは小さく悲鳴を上げながら顔を上げる。ユウキの悲鳴を完全にスルーしたシンジは、タブレットをユウキの机の上に置き、問いかける。


「クソ親父の追跡がウザい。今まで寝泊まりしていたホテルがバレて荷物が回収できなくなった。帰りに手前が回収して来い」

「……えっ?」


 シンジの命令に、ユウキはきょとんとした反応をする。そして、はっとする。そう言えば、地元を離れたユウキは由美叔母さんのご厚意でアパート暮らしをしている。しかし、シンジはそうではないのだ。


「まって、そう言えばシンジ、今どこに住んで……」

「回収した荷物は楽鳥羽駅のロッカーに入れておけ。ホテルの住所は……面倒だ、見て覚えておけ」


 シンジはそう言ってコツコツとユウキの机の上に置かれたタブレットを指さす。ユウキは慌てて傷を防ぐための薄いカバーのつけられたタブレットを確認した。


「……見た感じ、結構お高そうなところに見えるけど……」

「警備がしっかりしているところを選んだらそこになった。てめえが荷物を取りに行くことは連絡してある。あとは俺の名前を出せば……まあ、問題なく回収できるはずだ。そっからは知らねえけどな」


 ユウキがタブレットの住所を確認したところで、シンジはさっさと自分の席に戻り、学校に置きっぱなしにしていたらしい荷物を回収すると、そのまま教室を出て行こうとする。

 そんな彼の背中に、ユウキは慌てたように問いかける。


「今日、授業でないの?」

「ああ。こんなところでうろついていたら、クソ親父に一発でバレる。というか、もうバレている。呼び出し喰らうよりは潔く帰った方が面倒が少ねえからな」


 シンジはそう言って手をひらひらと振ると、そのまま教室から出て行った。

 不機嫌そうな暴君と入れ替えに教室に入る担任の近藤先生は、教室から出て行ったシンジを不思議そうに見つめ、それでもすぐに教室に入って冷静に授業を始める。


 ユウキは不穏な空気を感じつつ、月曜日の授業を真面目に受けた。

【生体認証】

 近代電子工学で確立した、バイオメトリクス認証技術の一種。

 旧来の技術では、複製された指紋や網膜のデータなどでの突破が可能だったものの、現在技術ではそれも不可能に近い。データさえ作ってしまえば鍵などの複製の必要がないため、近年では金庫など厳重なロックが必要なものに限っては、物理的な鍵よりも安価に作成することができる。タブレットのロック解除から決済、部屋の鍵など、様々な用途に用いられている。

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