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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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9話 ささやかなる復讐

前回のあらすじ

・4級ダンジョン【妖精の森】に強制転移させられる

・篠原「ふざけるなクソ上司」

 櫻木たちが監視しているとはつゆ知らず、ユウキたち講習会の参加者は迫りくる妖魔たちへの対応を強いられた。暴発した銃で負傷した茶髪の少年の応急手当てをしながら、ユウキは必死に周囲の状況を読み取ろうと頭をフル回転させていた。

 死ぬわけにはいかない。それでも、自分自身が拳銃をうまく使える保証などどこにもない。


 思考がまとまるよりも先に応急手当の方が終わりを迎える。しっかりと破片を除去し、できるだけ清潔な状態にしてからおそらく5級のポーションをかける。キラアキからの配給品ではあったものの、こんな講習会に出てくるようなポーションではない。用意してあった時点でそもそも危険地帯に行くことは確定していたのだろう。


 まだ拳銃が暴発したことで茫然としていた茶髪の少年の肩を強くたたき、ユウキは言う。


「戦闘継続するなら、銃の手入れをして! しないならキラさんとアキさんのところに行って!」

「ひ、はい!」


 少年に指示をすると、発砲音とともに人のものではない鈍い絶叫が響き渡る。驚いたユウキがあたりを見回すと、なんと、志乃が拳銃でゴブリンをしとめたのだ。

 最初は生き物を殺してしまったことに動揺していた志乃だったが、森の奥から他のゴブリンたちが来るのを見て、慌てて銃身に次の弾を込める。そして、次々にゴブリンを屠り始めた。


「すごいねー、彼女。1時方向ゴブリン二体。レッドキャップ三体10時」

「すごいねー、あの子。おっけー」


 日本刀と狙撃銃をそれぞれ持ったキラとアキは、志乃の狙撃を見ながらそう言い合う。銃が乱射されている今前線に出るのは危険だと判断したキラは、スコープ片手に敵影をアキに伝えている。その指示でアキは次々と銃弾を放ち、妖魔たちをしとめていく。

 何発か無駄打ちしてしまう志乃とは異なり、アキの射撃は一撃必殺である。銃声が一発なるごとに、一体の妖魔が死んでいく。どの妖魔たちも額に一つの穴をあけ、そのまま息絶えているのだ。


 恐ろしいほどの命中率に、ユウキは小さく息を飲んだ。

 顔色一つ変えず、むしろどこか愉しそうにモンスターをしとめていく。その姿こそ、一流探索者である彼らの姿なのだろう。

 ある程度モンスターが減ったところで、志乃は残りの銃弾が少なくなってきたのだろう。補給するために背後を警戒しながら、キラとアキの方へ走り出す。


「ナイスショット!」

「ナイスキル!」


 双子はそう言って志乃を迎える。三人組のうち残り二人も、そろそろ銃弾が尽きたのだろう。小さく悲鳴を上げながら合流する。

 スコープを覗き込み、次々モンスターをしとめていくキラアキ。だからこそ、反応が遅れたのだろう。


 本当に、たまたまだった。そもそも、遭遇することさえ稀な敵だった。


 それが志乃の背後にいることが気が付いたユウキは、気が付けば拳銃を構えて志乃の方へ駆け出した。


「……へ?」


 突然銃口を向けられ、困惑する志乃。同時に、遅れてスコープで周囲の監視をしていたキラがユウキの凶行に気が付く。


「ちょ、君?!」


 キラは慌ててスコープを放り出してユウキを制止するために駆け出す。が、しかし、ユウキの行動の方が早かった。

 拳銃を構え、ユウキは志乃に叫ぶ。


「志乃さん、伏せて!!」

「ひっ!!」


 反射的にユウキの指示に従い、転ぶように伏せた志乃。次の瞬間、ユウキはそれに向かって引き金を引いた。

 銃声は4発。一発は地面に、二発目はそれの腹に、三発目は森の方へすっ飛び、四発目、銃弾はそれの足を捉えた。


 目を丸くする志乃。返り血が飛び散り、ユウキの頬を汚す。

 拳銃の反動で、手がびりびりと痛む。それでも、ユウキは志乃に声をかけた。


「大丈夫、志乃さん?」

「は、はい」


 驚きながらも返事をする志乃。そんな彼女の真後ろには、痛みでびくびくとあたりに転げまわる二足歩行の猛犬、クー・シーがいた。

 白色の体毛を出血で赤く染め、のたうち回るクー・シーをみて、志乃は慌てて距離をとる。まだクー・シーは死んでいなかった。


 ユウキが志乃に向けて銃を撃とうとしたわけではないことを理解したキラは、安堵したようにため息をつくと、低い声で唸るクー・シーを一瞥し、申し訳なさそうに志乃に言う。


「ごめん、真後ろにいたみたいで、気が付けなかった。クー・シーいたんだね……」

「ちゃんと見ておいてよ、キラー。スコープ越しだと周り見えにくいんだからー!」


 ブーブー文句を言うのは、安全のため狙撃銃の銃身を地面に下げたアキだった。二級探索者として(不本意ではあるものの)現場監督者を任された彼らは、できるだけ参加者たちを守る義務があった。死角からのクー・シーの襲撃は、最悪の場合致死もありえる。

 キラは少しだけ眉を下げて「ごめんごめん」と軽く謝罪すると、白銀の刃でまだ生きていたクー・シーの首を撥ねる。ギャインと耳に残る断末魔の悲鳴を上げたクー・シーは、生首になった後も数秒間ぴくぴくと痙攣し、そのまま永遠に命を失った。


 刃に浮いた血油を布で拭い去り、キラは刀を鞘に戻した。そうすると、突然キラのタブレットに着信が入る。日曜7時の国民的アニメのオープニングが間抜けにダンジョンに響き、キラは不機嫌そうにタブレットを取り上げた。


「アキ、サクラギからの着信だけど、どうする?」

「うーん……正直無視したいけど、出ないとじゃないかな? サクラギ、あれでも一応上司だし」


 キラとアキはそんなことを言いながら、タブレットを通話モードに切り替える。そして、ついでと言わんばかりにスピーカーモードに切り替えた。


『もっしもーし、とりあえず、これで講習会は一旦切り上げるよ。篠原に場所教えたから、ダンジョンから出れば迎えが来るから、ボス殺してダンジョンをクリアするか、出口から普通に出るかして待機しててね』

「ねえサクラギ。今日のはよくないと思う」

「ねえサクラギ。今日のは許せないと思う」


 間の抜けた声でそんなことを言うサクラギに、キラとアキはニコニコと笑ったまま額に青筋を浮かべて言う。二級の二人だけなら、多少装備がそろっていなくとも、事前調査ができていなくとも、4級程度のダンジョンなら無傷で生還できる。しかし、今回の講習会参加者5人は全員5級である。準備もできていない状態で無理やりダンジョンに挑まされれば、そうとはいかない。


 前々から櫻木の講習会はダンジョンに突貫で行かされることがあると知っていたキラアキは確かに準備をしていた。それだってせめて、講師である櫻木が責任もってついてくると思っていたからだ。責任さえも丸投げされるとは欠片も思っていなかった。


 いつも通りにこにこと笑った二人は、吐き捨てるように言う。


「「しばらく夜道に気を付けてよ、うっかり襲っちゃうかもしれない」」

『あっはっは、面白い冗談だね。君たち二人がかりでも僕に傷一つ負わせられないでしょ。他の一級連中は確かそれぞれ仕事あったはずだし』


 櫻木はそう言って口笛を吹く。それがさらにキラアキの二人の怒りを誘うのだが、本当に彼は気にしていないらしい。吹き抜ける爽快な森の風に、怒気が混ざりこんで志乃とユウキは本能的に恐怖を感じた。

 しばらく押し黙っていたユウキだが、その視界にまだ現状が理解しきれておらず、茫然とした様子で拳銃を握り締める三人組が目に入り、たまらずに口を開いた。


「この講習会の講師は今日、櫻木さん、貴方でしたよね?」

『ん? ああ、君か。そうだけど、どうしたの?』

「ダンジョンで講習会をするというのはまあ、百歩譲っていいとしましょう。そのダンジョンに準備もなしで無理やり転移させたというのも、一億歩譲って許します。__それでも、責任者である櫻木さんが一緒にこのダンジョンにいないというのは、話が違うのでは?」


 至極冷静に、至極感情を抑えて、ユウキは淡々と言葉を紡ぐ。感情的になってはいけない。感情的に怒った双子はにべもなくやり過ごされてしまったのをつい先ほど見たのだ。

 だからこそ、ユウキは必死に怒りを噛み殺す。暴発した拳銃で少年が負傷したことを、クー・シーに襲われかけて志乃が怪我をしそうになったことを、ユウキは、許してなどいなかった。


 しかし、電話と監視カメラ越しではユウキの怒りに気が付けなかったのか、櫻木は無神経にも言い切る。


『やだな、ちゃんと二級探索者の二人を同行させただろう? ついでに僕は仕事を放棄したわけじゃない。ちゃんとモニタリングしているさ。__まあ、イレギュラーダンジョンをクリアしたって噂の初心者君が、思ったよりも雑魚でがっかりしたけど』


 その言葉に、今回含め二度も命の危機を救ってもらった志乃はついに怒りが頂点に達する。つかつかとタブレットに歩み寄り、拳銃を握り締めた彼女は、口を開く。


「いい加減に__!!」

「待って、志乃さん」


 そんな彼女を止めたのは、ユウキであった。

 剣呑な瞳をしている双子と、激高した志乃。放心した三人組。もちろん、ユウキも冷静にはなれないほどに怒っていた。

 それでも、たった一つ。彼にはたった一つの切り札があった。強者だからこその切り札ではない。今現在の立場だからこその、切り札だ。温厚な彼ならまずそんなことはしなかったが、流石にユウキも何度も自分を馬鹿にし、さらには参加者全員を危険な目に合わせた櫻木を許せるほど寛大ではなかった。


 うっそりと笑みを浮かべ、ユウキは至極冷静に二人の探索者に確認をした。


「アキさん、キラさん、探索者協会か探索者事務所【風林火山】か警察のどれかに緊急通報しても大丈夫ですか?」


 その言葉に、キラとアキは互いに顔を見合わせ、少しの間首を傾げ合う。

 この講習会を主催する探索者協会には参加者を保護する責任があり、櫻木の所属する事務所『風林火山』は所属探索者である櫻木を管理する責任がある。そして、今回の場合では危険な採取物をユウキたち相手に使ったということもあり、刑事事件にもなりかねない。


 今この場で生殺与奪の権を握っているのは、実力があり、権力と経済力もある櫻木ではない。被害者であり、弱者である二級以下の探索者である受講者たちであった。つまり、櫻木は既に詰んでいたのだ。


 気が付けばたった一言で盤面をひっくり返されていた現状に、初めて櫻木は表情を引きつらせた。ほぼ自由業とはいえ、事務所に所属している以上警察にお世話になるのはまあまあマズい。しかも、今回の件はほぼ櫻木の独断でユウキの実力を見たいがために行った行為だ。事務所も流石に庇いきれない。サッと自分の顔が青ざめていくのを櫻木は感じ取っていた。


『やっべ……』


 通話口の向こうから、櫻木の小さな声が漏れる。そして、がたがたと何かを動かす音が聞こえた。

 当然、新大阪どころかはるか遠くの東京都にいる櫻木の表情など見ることも想像する気もないキラアキは、ここでようやく楽しそうな笑みを浮かべ、話し合う。


「うーん……ねえアキ。ぶっちゃけ事務所的にしてほしくないけど、それくらいしないとあのバカ学ばないと思う」

「そうだねー……ねえキラ、正直してほしくないけど、一回ガチで怒られないとあのアホ治らないと思う」

『タイムタイムタイム、上司兼センパイを売るつもり? 考え直そうよキラアキ!』


 みっともなく後輩に命乞いをする櫻木。

 しかして、その短い談議で結論が出たのだろう。にっこりと笑って二人同時に親指を立てると、ユウキに言った。


「「サクラギのやつに一回社会的に痛い目に遭わせたいから、()()やっちゃってユウキ君!」」

「あっ、はい」


 その返事を聞いた直後、突然、ユウキのタブレットに着信が入る。志乃とユウキは互いに目を丸くして顔をも合わせた。ディスプレイに表示されたのは、見たこともない番号だったのだ。

 少しだけ考えたあと、ユウキはその着信をとった。


「えっと、もしもし?」

『ごめんごめん、通報は流石にやめてもらえるー? 事務所からめちゃくちゃ怒られるんだよね』

「は、はい?」

『金ならいくらでも支払う。示談しようじゃないか』


 名乗りもせず、用件だけを伝える通話口の向こうの声。この声は、つい先ほど聞いた櫻木の声そのものだった。

 あまりに身勝手なその言葉に、志乃は額に青筋を浮かべて淡々と口を開いた。


「__黙って聞いていれば、貴方という人は……! いい加減にしてください、櫻木さん! ユウキさん、この馬鹿者を通報してください。いくら出資先の稼ぎ頭だとしても、知ったことではありません!」

「そうだよクソ馬鹿上司ー! 一回反省しろ―!」

「そうだよアホ馬鹿上司ー! 一回怒られろー!」


 そう言ってキラアキは笑顔でユウキからタブレットを取り上げると、さっさと通話を終了させた。そして、手早くユウキのタブレットの設定をいじり、櫻木の電話番号を着信拒否に設定する。

 猫のような残酷な笑顔を浮かべたキラとアキは、スッとユウキにタブレットを返却し、視線で通報を促す。ゴブリンたちは実力差とすさまじい殺気を感じ、いつの間にか森から姿を消してしまっていた。




「マズい、着拒された……!」


 監視カメラの動画を写す電子ボードを背中に、櫻木は額に汗を滲ませてうろたえる。今回は特級探索直後にも拘らず興味優先でずさんな計画を練ってしまったため、ろくに保身材料を用意していなかった。


 今までも割と好き勝手な講習会を開くことはあったが、それでも、まあ多少は擁護できる点を用意していた。が、しかし、今回はマズい。


「イレギュラークリアしたって言っていたし、こんなダンジョンくらい瞬殺だと思ってたのに、ここまで弱いとは思わないじゃないか!」


 櫻木はそう逆ギレしながらも、鏡に手を伸ばす。このままだとマズい。武器を扱う探索者にとって、社会的信用は必須だ。……まあ、一級の社会的信用など最底辺すれすれの人間が多いのだが、それにしたって前科はよくない。


「1級以上の素手縛りは流石に死ぬ……!」


 罰則の重火器及び刀剣の一時使用禁止を恐れた櫻木は、表情を引きつらせて適当にタブレットをひっつかむと、「悪戯妖精(いたずらようせい)の手鏡」を使ってダンジョンへ移動した。

【免許停止】

 銃刀法の改正により、一般人でも講習や許可証、資格試験を受ければ銃や刀剣類などを保有、使用できるようになった。しかし、当然、重火器類などを凶悪犯罪に用いられる場合も多数存在する。そのために、重火器等の許可証は法律を侵すと、一時的、もしくは永久に停止される可能性がある。

 とはいえ、そもそも凶悪犯罪に重火器を用いれば死刑になる可能性の方が高いため、多くは銃の関わらない小犯罪や重火器所持等許可証の届け出忘れ、木っ端みじんの違反行為……駐車違反などで停止にされることが多い。


 ちなみに、今回櫻木がやらかしたことは、免許無限停止どころか禁固刑以上の実刑判決を喰らうものである。ほぼ殺人未遂だから仕方ないね。

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