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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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7話 (人類)初心者向け講習会

前回のあらすじ

・篠原と会話

・野良の召喚獣

・キラアキ「シノハラはすごいんだよー!」

 部屋に戻れば、先に帰っていたコンラがスーパーのお惣菜を片手に、炊飯器を見つめながら椅子に座っていた。訳の分からない光景に、一瞬ユウキは目を見開くも、苦笑いをしてコンラに言う。


「冷凍ご飯、もうなくなってた?」

「ああ。……せっかく麻婆豆腐を買ったから、どうせなら米と一緒に食べたくてな」

「へえ、いつもみたいにお肉とかじゃなくて総菜買ったんだ。珍しいね」


 そう言うユウキに、コンラは小さく肩をすくめて、「【アリババ】ダンジョンの宴で香辛料のたっぷり使われた料理を見てな」と言って、ようやく間の抜けた炊飯完了の音を奏でる炊飯器の蓋を開けた。


「僕の分ある?」

「ああ。何か今日中に使わなきゃいけない食材とかあったか?」

「いや。特になかったら魚解凍しようかと思ってただけ」

「そうか」


 聞いているのか聞いていないのか今一つわからない返事をしたコンラは、総菜を電子レンジの中に突っ込み、丼に炊き立ての白米を盛り始めた。それを見たユウキは、慌てて確認する。


「今日何合炊いた?」

「ん? 5合しか炊けなかったな。もう少し大きい炊飯器はどこで買える?」

「業務用の炊飯器でも欲しいの……? 冷凍ご飯に回す分は残るかな」

「……晩飯食い終わったら追加分炊いておく」

「ごめん、ありがとう」


 一人でのダンジョン探索でかなりカロリーを消費していたのだろう。炊飯器のほぼ半分の白米を丼によそったコンラは、そっと目を逸らして言う。


 レンジで加熱された麻婆豆腐はそれぞれの器に分けられ、ついでに加熱したモヤシを副食のナムルにして箸を手に取る。そして、両手を合わせて「いただきます」とつぶやくユウキを横目に、コンラは軽く目を閉じて祈りの言葉をつぶやく。

 そして、二人はささやかな夕食を始めた。


「コンラ、ダンジョンはどうだった?」

「金銭的な成果はタブレットに送った通りだ。が、歯ごたえが無さすぎてつまらなかった。しばらく鍛錬してから帰還したが、特5級ってあんなものなのか?」

「うーん……まあ、その、ダンジョンで入手できる採取物の危険度と出てくるモンスターの危険度から決められているものだから、特五級は全ダンジョンの中では比較的安全な方だから……あくまでも比較的だけど」


 ごま油と塩で味をつけただけの簡易的なナムルを頬張りながら、ユウキはそっと目を伏せる。麻婆豆腐の辛さが足りなかったのか、ラー油を追加しているコンラは、少しだけ不満そうに肩をすくめ、口を開いた。


「【狂宴の女王】の印象が強くてな。対人戦になると聞いていたが、あんなお粗末なカカシどもをいくら倒しても、対人戦を経験したとはならないだろ」

「……そんなにひどかったの?」

「酷いなんてもんじゃないな。あんな戦い方スカサハ叔母さんの前でやったら、みじん切りじゃ済まねえ」

「基準が分かりにくいなぁ……」


 スカサハの名前を自分で出しておきながら、遠くを見るような目をするコンラ。戦闘の心得のあるコンラにしてみれば、事前資料アリの場合たかが準五級の【アリババ】はぬるすぎた。

 食事中はタブレットを見ないようにしているため、ユウキはコンラからの報告書を思い出しながら、麻婆豆腐をご飯の上に乗せる。


「換金処理までしてくれたのだっけ?」

「ああ。特に持って帰ってまで欲しいものはなかったからな。消耗はゼロ、交通費含めて赤字なしってくらいだ」

「ありがとう。明日ははなさかじいさんの探索?」

「いや、探索してみて改めて思ったが、五級では難易度が低すぎる。明日はスカサハ叔母さんのところへ行って鍛錬してくるつもりだ」


 コンラはそう言って、やや過熱しすぎてしまった麻婆豆腐をハフハフと口の中で冷ましながら食べる。クー・フーリンもそうだが、彼らスカサハの元弟子たちは、彼女の修業を嫌いながらも、どこか彼女を信頼しているところがある。……もちろん、戦闘センス皆無のユウキが修行に参加すれば、間違いなく死ぬため、絶対に参加することはないのだが。


 つるんとした絹ごし豆腐は口の中でほどけ、程よい辛みと肉のうまみを口に広げる。かなり当たりの総菜だったようだ。ユウキは嬉しそうに「またこれ買おう」とつぶやきながら白米を口に運ぶ。


 そして、ユウキは思い出したように今日あったことをコンラに話し始めた。


「重火器講習は今日は一級の人がいなかったらしくて、二級の人が講師をしてくれたんだ。一階の篠原さんで、凄いわかりやすかったよ」

「そうか。シノハラ……シノハラか。手合わせしてもらうことはできるか?」

「それはちょっと僕にはわからないな……」


 相変わらず強くなることに貪欲なコンラに、ユウキは思わず苦笑いを浮かべる。なんだかんだ言ってキラアキ兄妹(双子だが)の押しに弱い彼なら、頼みこめば了承してくれそうな気もしないでもないと思ってしまったのだ。


 辛みを足した麻婆豆腐を食べながら、コンラはユウキに問いかける。


「報酬は?」

「今回の探索の利益は記録した後、税金ひいて全部コンラの報酬になる。月末に支払いあるから、そこで計算したやつを確認してほしい」

「了解した。……とはいえ、生活に必要なものはお前持ちだから、金があったところで何に使えばいいんだ?」

「うーん、娯楽品とか、嗜好品とか……っていっても、コンラはまだ書類上未成年だから、お酒もたばこも買えないけど……」

「嗜好品、嗜好品か。ふむ、なら、蜂蜜か果物でも買うか?」

「あー、そう言えば、ケルトの時代って生の果物はほとんど入ってこなかったのだっけ」

「親父の国ではな。影の国ではそうでもなかった。……まあ、そう頻繁に食べられるものでもなかったが」


 あっさりと答えるコンラ。アルスター物語群を出典とするコンラは、基本的には古代ケルトの生活習慣と常識を身に着けている。島国であり北の地アルスターでは、果樹は育たず、果物や果物を原料とするワインなどはほとんど輸入だよりで、平民や戦士では口にすることさえできなかったという。

 ユウキの家に来てからは時々バナナなどを口にすることはあったが、リンゴやブドウなどはそもそもあまり購入する機会がなく、食費を考慮した結果そこまで頻繁に食卓に果物が出ることはなかった。


 少しだけ考えたあと、ユウキはコンラに言う。


「別に果物はそこまで値段が張るものでもないし、食費から出そうか?」

「……そう言えば、俺は武器以外のものの価値についてそこまで深く知らんな。しかし、そうなれば、俺は何に金を使えばいい?」

「うーん……とりあえずは貯金、かな?」


 迷いながらも、ユウキは答える。コンラは、武器の予備としてナイフやら短剣やら投石器やらを所持しているが、基本的に使っているのは、召喚の時に持っていた片手剣である。コンラはかなり丁寧にその片手剣を手入れしているため、新しい武器を欲しがっている様子はない。重火器には興味を示したものの、結局近距離戦の方が性に合っているらしく、特に欲しがるような様子はなかった。


 子ネズミのコハクに関しては、自由気ままにしており、時折どこから持ってきたのか、花や木の実をくれたりしてくれる。……野良猫に襲われないか不安で仕方がないが、とりあえずは餌と水と住処代わりの布のほかに欲しがるものはなさそうだ。


 ユウキは少しだけ考えたあと、言葉を続けた。


「買いたいものが本当になかったら貯金すればいいし、服とか化粧品とか買ってみるのもいいとは思うよ。まあ、借金したり、無理な探索をしないといけなくなるほど荒く使わなければ、何に使ってもいいと思う」

「服、か。そう言えば、気になっていた化粧品があったが、そう言ったものも少し勉強してみるか。あとは、単調になりがちな探索用のパーカーも柄のあるものに変えたい」


 いつの間にか麻婆豆腐を食べきっていたコンラは、緑茶をすすりながらつぶやく。髪の毛を金髪に染めていたり、服装も派手なものを好んだりと、コンラは割と身なりに気を使っているふしがある。

 暇だからという理由で由美叔母さんの家業を手伝っていることもあり、結構な金銭を所持しているコンラは、考えたあと、先に食卓を立ち、タブレットを片手にリビングのソファに座った。


 ささやかな日常に、ユウキはそっと右手の医療用手袋を見る。今は七分袖の服を着ているため、手袋のつなぎ目が見えていた。


__視界も大分戻って来たし……講習会と並列して四級試験も勉強しないとな……


 心の中でそう呟きながら、ユウキは山椒の香る麻婆豆腐を口の中にかきこんだ。




 翌朝。朝食だけ食べて朝早くからスカサハの元へ向かったコンラを見送り、ユウキは楽鳥羽探索者協会へ向かう。

 昨日よりは緊張もなく、さらに吉本も今日は別の仕事があったのか、カウンターにはいなかった。少しだけ安堵をしながら、ユウキは講義室の扉を開ける。


 そして、目を丸くした。


「あれ?」


 教室の中には、双子と志乃がいる。昨日の男女三人組は流石に講義30分前ということもあり、まだいない。そして、講師は……なぜか、篠原ではなく、短い白髪の男性が爆笑しながら電子ボードに落書きをしていた。今時小学生でも書かないような雑な大便の絵をかいたり、へのへのもへじをかいたりしている。


 訳が分からず茫然としているユウキに気が付いたのだろう。志乃は安堵に目を見開き、逃げるようにユウキの側へやってくる。ユウキは困惑しながらも、志乃に挨拶した。


「えっと、おはよう。あの、篠原さんは……?」

「おはようございます、長嶋さん。篠原さんは……」


 志乃がそこまで言ったところで、教壇に立っていた白髪の短髪男が小さく感嘆の声を上げてユウキに声をかけた。


「へえ、君が長嶋裕樹? 思ったよりもチビで弱そー」

「?!」


 突然の言葉に、目を丸くするユウキ。

 トレンチコートとどこかのファッション雑誌で見たことのあるジーンズをはいた白髪男は電子ボードのペンを放り投げ、高級そうな革靴を鳴らしてユウキの側へ歩み寄る。


 困惑しているユウキをよそに、彼は少年を頭のてっぺんからつま先まで一瞥し、もう一度口を開いた。


「うーん、弱そうっていうか、ぶっちゃけ雑魚だよね」


 謝罪どころか、追い打ちの一言。流石のユウキも、その言葉に表情を引きつらせることしかできなかった。

 茫然とするユウキをよそに、ムッとした表情を浮かべた志乃は、男に向かって言う。


「ちょっと、突然失礼ではありませんか?! 彼は私の命の恩人なんです!」

「それとこれは関係ないよ。だって実際彼クソザコじゃん。こんなちんちくりんがイレギュラー攻略したとか、ホントなの?」


 男はそう言ってがっかりしたように肩をすくめた。そんな彼に反論をしたのは、意外にもキラアキ兄妹だった。


「ちょっと、サクラギー、言いすぎ。その子はいい子だよー」

「そうそう、言いすぎサクラギー。だからサクラギは実力は信頼できても人として尊敬できないんだよー」


 少しだけ不満そうな表情を浮かべて文句を言うアキと、ごくごく普通に失礼なことを言うキラ。そんなキラとアキの言葉に、男はきょとんとした表情を浮かべ、首を傾げた。


「あれ? キラアキたちキャラ変えた? 君たち初心者のこと庇うような人間性じゃなかったでしょ?」

「そう言うサクラギはついにミジンコ並みの人間性さえダンジョンに置いてきたのー? ユウキ君はいい子だよー」

「サクラギが初対面の人に対して失礼極まりないことは知ってるけど、今回は言い過ぎー。ありえなーい」


 ぶーぶーと文句を言うキラとアキ。彼等はお気に入りの先輩である篠原の努力を理解できているユウキに、そこまで悪い感情は抱いていない。だからこそ、初対面からド失礼な態度をとった男性が気に入らなかったのだろう。

 サクラギと呼ばれた男性は、想定外の反応に少しだけ目を丸くしたものの、すぐに視線を逸らし、もう一度ユウキを見る。そして、訳が分からないというようにつぶやいた。


「……でもザコじゃん」

「強くはないと思うけどどこかの誰かみたいに人間性腐ってないもん。サクラギも爪の垢を煎じて飲ませてもらえば?」

「シノハラのいいところわかってくれるいい子だもん。お気に入り相手にからかう以外の選択肢見出せないサクラギも見習ったら?」


 1を言えば最低でも2以上が返ってくる現状に、男は分が悪いと判断したのだろう、さっさと尻尾をまいて教壇に戻った。そんな男の背中に向けて、キラとアキはべーと舌を出す。争いのベクトルが小学生のようだった。


 そんなことをしている間に残りの三人組も講義室に到着し、後は講師の篠原を待つだけとなる。そう判断したユウキは、少しだけ居心地悪いと思いながらも志乃の隣の席に座る。


__庇われてしまったばかりで、何一つ言い返せなかった。


 そっと目を伏せ、ユウキは不甲斐なさを噛み殺す。ムスッとした様子の志乃はジトッとした視線で白髪男を睨んでおり、キラとアキはもう気持ちを切り替えたのか、二人で楽しそうに笑いあっている。それでも、互いの刀の入った筒状のケースと銃のしまい込まれたスーツケースを手元に抱えており、どこか何かを警戒している様子が見て取れた。


 男は手元のスイッチをいじり、落書きまみれだった電子ボードを一旦白紙に戻す。そして、ニッといたずらっぽく笑って口を開いた。


「僕は櫻木(さくらぎ) (かい)。現役の一級探索者だよ。__じゃ、講習会はじめよっか」


 そして、彼はポケットの中から手鏡を取り出した。

 次の瞬間、ユウキたち受講者は、見ず知らずのダンジョンの中に強制転移させられていた。

【キラ&アキ】

 双子の二等級探索者。かなりそっくり。国籍は普通に日本人。キラが男性、アキが女性である。

 探索者事務所『風林火山』所属で、篠原の後輩にあたる。もちろん、櫻木は上司である。櫻木に関しては実力は信用しているものの、人間性はかけらも尊敬していない。人としてちゃんとしているからキラアキは篠原を先輩として尊敬している。……なお、探索者としての実力は篠原よりも上である。


 気に入ったものや興味あるもの、尊敬できるものには対応が比較的優しいが、それ以外には基本排他的。櫻木に指摘されたように、二人とも二人がいればそれで完結してしまうため、結構クズな人間性をしている。

 特二級ダンジョンに挑戦し失敗したことがトラウマになっており、それ以降特二級の挑戦をしてはいない。公式情報では、キラは日本刀を使うのが得意であり、アキは銃による狙撃が得意であるということになっている。

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