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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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6話 講習会の帰路

前回のあらすじ

・重火器講習会

・双子と篠原は二級探索者

・志乃は補助員志望

 帰り道は志乃は両親が迎えに来ると言っていたため、ユウキは徒歩で自宅へ向かう。そんな彼に声をかけたのが、同じメゾン・ラローズに住む篠原だった。

 プロの探索者である篠原の全身を覆うしなやかな筋肉のおかげで、移動に足音が伴わない。動きも滑らかで、普段の歩き方からも意識をしているのだろうことが見て取れた。


 ユウキはそっと自分の腕を見る。当然、腕は細く、戦闘に適した筋肉はまだついていない。脳裏にはコンラの姿がよぎるが、彼は戦士の体つきであり、篠原のように探索のために最適化された特殊部隊のような肉体ではない。

 少しだけ迷った後、ユウキは隣を歩く篠原に質問する。


「その、すみません。探索のための体力づくりって、どうやっていますか?」

「ん? 体力? あー……俺は基本的にプロのトレーニングで鍛えているからな。申し訳ないが、そこまで詳しくはない。戦闘の継続体力や探索継続なんかは積み重ねと経験としか言えないが……」

「そうですか……トレーニング、調べてみようかな」


 そう呟くユウキに、篠原は思い出したように口を開く。


「そう言えば、君、召喚獣と契約していなかったか?」

「あ、はい。ただ、ちょっと、僕自身が不甲斐なさすぎるので、鍛えたほうがいいと思って……」

「なるほどな。コンラさん……だったか? 時々挨拶することがあるが、彼はなかなか優れた戦士に見える。探索に向いているかどうかはともかくだが」


 篠原はそう言って、何かを思い出したのか、少しだけ唸る。

 傾いた太陽はそろそろ山の奥へ帰ろうとしている。カラスの鳴き声は開発されきった山の中へ飛んでいき、もう夕暮れというには遅すぎる時間になり始めているのだと理解できた。

 そして、少しだけ困ったように肩をすくめユウキに問いかける。


「召喚獣が危険な言動をしていたりはしないか? 召喚獣は場合によっては反旗を翻すこともある。最近は召喚回りで物騒なことが多くてな。届け出のされていない召喚獣がうろついていたという話も聞く」

「へえ……いや、凄く恐ろしい話ですね。大丈夫なのですか、それ?」


 召喚獣は、契約者によって一定の縛りをうけるものの、それを加味しなければ実力はダンジョンから出てくるモンスターと同様である。コンラしかり、スカサハしかり、確率自体は低いものの、強力な召喚獣は神話のごとき力量をそのままに地球へやってくることもあるのだ。

 だからこそ、召喚獣の登録は義務であり、違反すれば罰金どころか実刑は免れない。高額な税金が支払えないとしても、国有の召喚獣として届け出る必要がある。


 つまり、届け出ていない召喚獣がいるということは、一時期のスカサハのように届け出を出されるより前に契約者を簀巻にして脱走をしたか、元々犯罪目的で召喚獣と契約し、届け出を出さずに秘匿したかのどちらかである。


 ユウキが心配をしていると思ったのだろう。篠原は小さく肩をすくめて言葉を続ける。


「場所的におそらく長瀬組周りだと思う。一級探索者の中ではまだ話ができるほうなのだが、彼等も彼らのルールで生きているからな……」


 そう言って篠原はオレンジ色に染まった空を見上げて目を逸らす。二級探索者である彼は、何度か一級の人間とかかわりを持ったこともあった。実際、櫻木一級探索者は己の上司に当たり、業務上の会話はする。……それもあまり通じていないように感じるときはあるのだが。


 長瀬組の名前を聞き、ユウキは少しだけ目を丸くする。


「長瀬組、ですか」

「うん? ああ、そうだ。まあ、気にしなくてもいい。俺たちには関係ないことだからな。連中は風林火山に所属しているわけでもないし」

「……あ、はい」


 曖昧な反応を返すユウキに、篠原は少しだけ首をかしげるものの、特にそれ以上は深入りしてこようとはしなかった。

 出てきた長瀬組の名前に、ユウキは、なんとなく胸騒ぎを感じた。


__確か、4月にシンジが実家が危険だから東京に来たって……


 そして、最近になってシンジの父、長瀬は最新の特級探索から生還している。タイミング的には長瀬が特級探索のメンバーに選ばれてから、シンジの命に差し障りが出るような行為が行われるようになったと考えられる。入学式の体育館爆破事件などはその例の一つに過ぎないのだろう。

 そんな状況に、プラスして未登録の召喚獣。……スカサハに師事している(させられているともいう)シンジでも、危険な目に遭いかねない……かもしれない。


 ユウキはそっと目を伏せて、心の中でつぶやく。


__僕ごときが心配することじゃないよな……


 それよりも、ユウキには少しだけ篠原に聞いておきたいことがあった。


「すみません、こんな質問するのもどうかと思うのですけれども」


 そう前置きしたユウキに、篠原は「ああ、何でもいいぞ」と笑顔で返す。その言葉にありがたみを感じながら、ユウキは質問した。


「人間が食べられる野山羊の肉って買えるところありますかね……?」

「うーん……オオカミ用の山羊肉なら伝手はあるんだが……食肉はちょっとな。ああ、大阪のダンジョンにモブでがでかい山羊が出るところがあったぞ」

「すみません、ありがとうございます。コンラ、狩猟民族だったから、家畜の肉よりもジビエ系の肉が好きらしくて。鹿とか羊とかならまだしも、山羊って中々売っているところが見つからなくて……」


 苦笑いで返事をする篠原。もう少し深刻な質問が来ると思っていたらしく、肩透かしを食らってしまったらしい。

 そして、少しだけ考えたあと、タブレットを取り出して店を検索する。


「たしか、北欧系の召喚獣とその契約者がやってる料亭があったはずだ。多分ケルト神話系ではなかった気もするが、もしかしたら君の召喚獣の故郷の食事も提供してくれるかもしれない」

「へえ、そんな探索者もいるのですね……」

「ああ。彼女個人は3級探索者なんだが、よくわからないが召喚獣の運がやたらいい人でな……元風林火山所属だったが、本格的に店をやるっていうんで探索者はもうほとんど引退状態だ」


 そう言って篠原は旧新宿街近くの店舗を紹介する。どうやら、一部の食材はダンジョンから採取しているらしい。オーナーが動物好きらしく、召喚獣もペットもオーケーの店であるという。……まあ、立地が立地だけに来る人間はかなり限られているようだが。


__コハクは大丈夫かな?


 ユウキは自分のタブレットに店の名前をメモしながら、そんなことを考える。ユウキもコンラも、さほど料理は得意な方ではない。イレギュラー攻略や最近の探索は黒字続きのため、かなりの大金を保有してはいる。だがしかし、これからかかる召喚獣保持税や重火器の購入費用、維持費用などを考えると、毎食外へ食べに行けるほどの余裕はない。


 とはいえ、ユウキとて美味しいご飯は食べられるならぜひ食べたい。県外から東京へ来たため、この近辺の美味しい店はそこまで知らないのだ。食事処の紹介は普通にうれしかった。

 後で行こう、と小さくつぶやいて、ユウキは嬉しそうに微笑んだ。


 そんな話をしているうちに、メゾン・ラローズの整えられた植樹が見えてきた。外観のため……もとい、土地の何割かに植樹や花を植えることで発生する補助金のための緑は、割としっかりと手入れされているらしく、立夏も過ぎて夏に近づこうとする気候に追いつこうと、青色の葉っぱは競うように暮れ行く太陽に向かって真っすぐと伸びていた。


 一階に住んでいる篠原とは、階段前で別れる。

 その時、ユウキは思い出したように、篠原に問いかけた。


「その、答えにくかったら大丈夫なのですが」

「どうした?」


 夕焼けというにはやや暗すぎる太陽と、人工的な光に照らされた篠原。そんな彼を見て、ユウキは少しだけためらったものの、しかし、興味の方が勝ってしまった。


「あの、一番最初に会ったとき、かなり追い込まれているみたいな状態でしたけれども、何かあったのですか?」


 その質問に、篠原は驚いたように目を丸くする。そして、小さく息を飲んだ。篠原の視線が泳ぐ。全身を鍛え上げられた鋼のような筋肉が覆っているにもかかわらず、どこか体を縮め、決まり悪そうに言った。


「その、だな。あの日は特二級探索を失敗させてしまってな。予定よりも一日早く切り上げて、撤退をしたんだ。だから、日付を間違えてしまってな」

「特二級……一級を目指しているのですか?」

「ああ。だが、やはり特二級の壁は高くてな。ボスモンスターを拝む前に撤退してしまったよ。……もう五回も挑戦しているというのに、不甲斐ないな」


 そっと目を伏せ、つぶやくように言う篠原。そんな彼に、ユウキは目を丸くして言う。


「五回も挑戦しているのですか……?!」

「……ああ。一度もクリアできてはいないが」


 不甲斐ない、と言いたげに肩をすくめる篠原。しかし、ユウキはむしろ驚きを隠せなかった。


「五回も特二級に挑戦して生きて帰っているのですか? それ、めちゃくちゃすごいですよね」

「うん? ああ、そうも考えられるのか。いや、だが、クリアできてはいないからな……」


 言葉を濁す篠原。その時だった。


「「そうそうそうそう!! わかってるね、君!!」」

「うわぁぁぁぁあああ?!!」

「うおっ?!」


 突然両方の背中を叩かれ、悲鳴を上げるユウキ。流石の篠原も驚きを隠せずにびくりと肩を震わせた。ユウキの後ろには、いつの間にか双子のキラアキが立っていた。


 長筒を抱えたキラは、目をキラキラとさせてユウキの右肩をしっかりとつかんだまま言う。


「すごいんだよシノハラは! キラもアキと一緒に特二級行ったことあるけど、もう一度行けって言われても行かないもん!」

「がんばってるんだよシノハラは! 同じダンジョンだって、入るタイミングが違えば、状況全然違ってくるのに、絶対生きて帰ってくるんだもん!」


 左肩をつかんだアキも黒のアタッシュケースを片手に嬉しそうに目を輝かせて言う。突然両耳からかけられた興奮気味の声に、ユウキは視線をさ迷わせて凍り付く。突然の出来事過ぎて何をすればいいのか全くわからない。

 完全に驚いてしまっているユウキを見て、篠原は一瞬あっけにとられる。しかし、すぐに我に返り、冷静になって、顔を真っ赤にした。


「帰れキラアキ!! そんなこと言うんじゃねえよ!!」

「わー、シノハラが恥ずかしがってる!」

「ほんとのことなのにねー。あ、そうそう、今日泊まろうと思ってた旅館、部屋埋まっちゃったからシノハラの部屋借りるねー」

「おま、ちょ、どっから合鍵何て作った?!」


 篠原の部屋のものらしい鍵を右手に持ったアキ。双子はキャラキャラと妖精のような笑い声をあげて、家主の返事も聞かず、篠原の自宅、102号室にかけこんでいく。そんな双子を追いかけるように、篠原もまた自室へ急いだ。

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