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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
二章 エラー【迷宮のティーパーティー】
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1話 戻った日常……日常?

前回のあらすじ

・イレギュラー【英雄無きアルスター】からすぐの休日

 広範囲複合型イレギュラー【アルスター物語群】の終結後の、一番最初の休日。つまり、姉の危篤状態の三日後の土曜日。ユウキとコンラは今日ばかりは探索を休み、書類の申請や貴金属売買のための書類作成などに追われていた。


 探索者の人数で割れる採取品は全て等分し、割れない数の物品はユウキが三等級ポーションをもらったため、ほとんどはシンジやツバサに渡した。それでも、銀食器一枚で入場料金分は回収できたため、ユウキとしてはそれだけで十分であった。


 それ以上に、ツバサが発見した【女王の赤マント】がオークションの結果とてつもない高値で売られたということで、分配金が手に入っていた。

 オークションの落札金額は、何と8000万円。海外の超有名海外セレブが競り落としたのだとニュースでやっていた。俳優草薙翼がイレギュラーダンジョンで手に入れたというすさまじい付加価値が付いた結果の値段だろう。セレブ自身もツバサのファンだと言っていたらしい。


 もろもろの税金や手数料を引かれても、5000万円はこちらの収入になった。三人で話し合いをした結果、税金対策に2000万を楽鳥羽町に寄付し、残りは3000万円を探索者協会の探索者協力制度を用いて三等分し、各自1000万円が手元に残ったのだ。……とはいえ、ここから所得税を支払ったりしなければならないのだが。


 目下の税金問題は、これから絶対に発生する等級上昇による増税である。ペーパー探索者の多い五級探索者は、基本的に探索者協会に1000円前後の協力金を年に一度支払えばそれだけで資格を継続し続けることができる。

 が、副業と認められる四級からは協力金のほかに等級に応じた年会費が必要となってくる。本業探索者なら余裕で支払えるのが当たり前の年会費だが、あくまで本業は学生でしかないユウキには、その年会費が割と重荷になりかねない。

 つまり、大金が手に入ったからといって大盤振る舞いしていると、すぐに自分の首を絞める羽目になる、ということだ。


 タブレットに表示された項目に目を通しながら、ユウキは同じく計算機を使って作業をしているコンラに言う。


「銀食器とかの売却価格、結局いくらになったっけ?」

「一枚10万、俺たちの分配分4枚で40万だな。大きさと装飾が良かったから、結構高値で売れたらしい。あと、ダンジョン産で毒を若干取り除く効果があったのもでかかったみたいだな」

「うーん、そんなものだったか……てっきり一枚12~13万くらいするかと思ってたけど……」

「つっても使用済みだからな。未使用ならそれくらいの値段になるかもしれねえが、まあまあ高値で売り払えただけよかったんじゃないのか?」

「そっか……」


 ユウキはタブレットに指を滑らせて、項目を埋めていく。目は病院でもらった目薬を差せば視力が戻るらしい。それでもまだ若干見えにくいため、やや眉間にしわが寄っていた。


 五月も中盤。旧暦にはゴールデンウィークなる長期連休があったらしいが、残念ながらその文化が現在まで引き継がれている訳もなく、五月は若干祝日が多めにあるだけの普通の月でしかない。

 一応、先週の休みの件は課題さえ出せば公欠扱いをさせてもらえると一部先生から連絡があったため、そのレポートの作成もしなければならない。つまり、やることが多かった。


「赤いヤドリギはどうする? 売らないのか?」

「うーん……できれば姉さんにあげたいかな……フリーズドライにすれば長持ちするかもしれないし」

「そうか。なら、早めに処理しないとな」


 そんな話をしながら、【狂宴の女王】とその後探索したダンジョン【戦士の揺り籠】で手に入れた採取物の売買のめどを立たせていく。大体が貴重品であるため、品物は既に探索者協会で査定を受けたあとだ。

 自己強化をできるような採取物ならともかく、ユウキはわざわざ派手で目立つような腕輪をつけたいとは思っていなかった。コンラも今回拾ったものは趣味に合わなかったらしく、欲しいとは言わなかったため、分配されたポーション以外は全部売り払うこととなっている。


 さらに、イレギュラー発生前の【アリババ】ダンジョンは特五級ダンジョンであるため、それをクリアした今、ユウキは昇級試験を受けることも可能となっている。その手続きと支払いを考えると、この二日間の休日は一切休める気配がなかった。


「コハクのご飯って経費にできたっけ?」


 己の名前を呼ばれた子ネズミ……いや、コハクは、窓際の巣穴から眠たそうに顔を出す。ユウキは苦笑いをして、眠たそうにこくんこくんと首を縦にふる子ネズミに「起こしてごめん」と謝った。


 あのダンジョンの探索の後、ユウキは子ネズミに名前を付けた。安直だが、炎を浴びたあの琥珀色の毛になぞらえて、コハクという名前である。女の子(?)であるため、もう少しかわいい名前の方がいいとは思っていたが、残念なことにユウキにはそこまで名づけのセンスがなかった。とはいえ、本人が嫌がってはいなかったため、暫定的に『コハク』が子ネズミの名前となったのだ。


 ユウキの質問に、しばらくタブレットの資料を読んでいたコンラは、首を横に振って答えた。


「俺の食事は経費にはならねえし、多分無理だろ。……ああ、そうだ。これからの備品はどうする? 追加するなら今のうちに申請書書いといたほうがいいだろ」

「うーん……講習追加でとって、拳銃とか買う? これだけ資金があれば、十分なのが買えそうだけど……」


 そんなことを言いながら、ユウキはタブレットを操作して拳銃の通販を検索する。不名誉にも俗称豆鉄砲などとも呼ばれる探索者協会公認の拳銃はともかくとして、市販の銃は結構なお値段と税金の代わりに、相当なリターンが保証されている。

 その点、現状のユウキの保有財産なら、安心して重火器を購入できる。今回の探索でも痛感したことではあったが、ユウキに戦闘の手段がないのがとにかく致命的であった。

 いくら知識で敵を看破しても、弱点を見抜けても、それに付け込んだ攻撃をできなければ、結局モンスターを倒すことはできないのだ。


 ユウキの言葉を聞いて、コンラは小さく肩をすくめる。

 コンラッハ(本来の彼)は幼少のころからスカサハに修業をつけられていたため、基本的にどんな武器でも使い熟している。そんなコンラッハの幼少のころの技量を持つコンラ(幼い復讐心)もまた、大体どんな武器も扱うことができる。


 とはいえ、当然古代ケルトの時代に拳銃などと言う歴史的に見れば比較的最近の武器を扱ったことがあるわけもなく。


「投石器なら教えられるが、拳銃となるとどうしようもないな。スカサハ叔母さんも多分使ったことないだろうし、自己練習するしかないな」

「とりあえず、講習会探してみるよ。武器の扱いが最低限出来ないと、四級はともかく、三級からは合格できないし……あとは、誤射が怖いんだよなぁ」


 そう言ってユウキは()()()()()()()()()()の講習会をタブレットで検索する。

 コンラは、基本的には剣を使い前衛を担っている。戦闘能力が皆無なユウキは後衛……というよりはむしろ護衛対象である以上、コンラの後ろから銃を撃つことになる。そうなった場合、もしも狙いが外れれば、後ろからコンラを撃ってしまうことにもなりかねない。


 つまり、一定以上の経験を積むか、単独で探索行為を行わない限り、ユウキは実践に拳銃を投入できないのだ。


「正直動画で見たあの速度の球程度なら回避できないこともないが、使い物になるまでどれくらいかかる?」

「わからない。広告にかいてある研修会だと『最短一週間』とか言っているけれども、正直そんな短期間の付け焼刃で身に着けた技術で、君の命を危険にさらしかねないことをしたくない」


 あっさりとそう答えるユウキに、コンラは深くため息をつく。


「避けれるって言っているだろ。俺を信用していないのか?」


 まっすぐな目で、試すようにユウキの目を見るコンラ。

 コンラッハの捨てた復讐心であり、己を殺した父の記憶を持ち合わせるコンラは、英雄願望というものを持たない。だからこそ、コンラはユウキと契約するにあたり、『無能で気に入らない主に付き従う気はない』とまで言って見せたのだ。父クー・フーリンが愚王コンホヴァルに死ぬその時まで忠誠をささげていたため、それに対する反発もあるのだろう。


 完璧な主であることを求めるコンラだが、残念なことに、ユウキはまだまだ未熟だ。

 コンラの問いかけに、ユウキは「うーん」と困ったように声をあげる。おそらく、この問いは間違った返答をすれば、反逆される可能性が高まる。だからといって簡単に「信用している」など返答してしまえば、コンラに丸め込められ、なれもしない段階で危険な武器を扱うことになるだろう。


 ユウキは、そっと目を閉じ、思考する。

 完璧な主なら、そんなに考えずとも答えるべき答えが口から出てくるものなのだろう。それでも、それができないなら、コンラの望む言葉を考えるしかない。


 一分。ほんの一分ほど押し黙り、考える。

 そして、満点ではないものの、回答を導き出した。


 そっと瞼を開け、ユウキはコンラの目を見返す。そして、口を開いた。


「避けれるってことは僕が誤射するってことだろ? それじゃダメじゃないか。敵を倒す以前に護身どころか護衛者の邪魔をしかねないってことだろ。それは君にも僕にもよくない結果にしかならないじゃないか」

「……まあ、そうか」


 及第点だったのだろう。コンラはそっとタブレットに目を落すと、一つの講習の案内を指さした。


「なら、きっちり修業して来い。どこぞの馬の骨とも知らないような師匠に教わるよりは、まだこっちのほうがマシだろ」


 そう言ってコンラが提示したのは、ユウキが意図的に避けていた探索者協会が主催する射撃訓練案内。ユウキは、そっとその案内の内容を確認する。そして、その見出しを見て、表情をひきつらせた。そして、同時にどうにかしてこの射撃訓練の案内から逃げなければならないと、理解した。


 背筋に、冷や汗が伝うのを理解する。どうすれば良い。どうしたらいい?

 必死に平静を装い、苦し紛れにユウキは口を開く。


「この講習会、社会人向けって書いてあるけど?」

「学生向け講習はなかったな。ああ、でも、副業探索者用の時間割ならある」

「……訓練の推奨等級、三級からってなっているのだけれども?」

「最終的には二級を目指すのだろう? あと、ここに初心者歓迎、等級不問って書いてあるぞ」

「…………うん、取り合えず、拳銃は四級探索者になってからにしようか」


 ユウキは全力でタブレットをコンラにつき返し、露骨に視線を逸らす。そんな彼に、コンラは理解不能だとでも言いたそうに眉をひそめた。


「何が嫌なんだ? お前、経理の講習会は社会人向けでも出てただろう?」

「そうだけどさ。いや、あのさ、コンラ。僕は姉さんを助けるまでは死ねないんだ。それは理解してる?」

「ああ、まあな」

「なら、ちゃんと募集要項見た?」

「あ? __探索者協会の保有するダンジョンで、実践を交えながらの講習だろう? ()()()()()()()()ってなっていたが、確か、一級は探索者の位で一番高いはずだ。なら、俺が知らん人間でも力量は保証された師匠なはずだが」


 あっさりと答えるコンラ。そんな彼に、ユウキは全力で首を横に振る。

 額に冷や汗を滲ませ、ユウキは手元の計算機をそっとどけ、必死に思考する。ここで説得できなければ、彼は間違いなくユウキを講習に参加させようとする。それだけは、全力で避けなければならない。

 必死に考えるあまり、気のせいか、瞳の奥がズキズキと痛んでいた。


 ユウキは、単語と単語を強調するため、言葉を区切りながら、コンラに言う。


「コンラ。考えてみてくれ。ダンジョンのボスには、人知を超えた怪物が多くいる」

「ああ、そうだな。クソ親父もダンジョンボスだったし」


 ここまでは大丈夫だ。

 ユウキはそう判断して、ぐっと目を細める。


「それで、一級探索者っていうのは、そんな怪物が徘徊するダンジョンを攻略出来たりする人たちばっかりだ。当然、才能も力量もある。コンラ、君の言っている通り、素晴らしい師匠になれる可能性はゼロではないかもしれない。……でも、日本国に在住する一級探索者に、教職免許を持った探索者はゼロだ。同時に、公的機関である探索者協会の職員もゼロだ」


 コンラを説得するため、ユウキは記憶の限り言葉を紡いでいく。そんなユウキに、コンラは不愉快そうに眉をひそめた。


「……回りくどいことを言うな。何が言いたい?」

「えっと……最悪の場合、スカサハ様よりも酷いかもしれない訓練に、戦士じゃない僕を放りこむつもり?」

「…………は?」


 ユウキの台詞に、コンラは怪訝な表情を浮かべる。


「……訓練をするのは、人間だろう? 指導者も人間のはずだ」

「コンラ、実はナチュラルにスカサハ様を人外扱いしているところあるよね……いや、そうじゃない。何て言えばいいかな……その、一番簡単な答えが、この定期訓練に対する感想欄だと思うけれども」


 ユウキはそう言って、そっとタブレットをスクロールする。タブレットを覗き込んだコンラは、その感想欄を見て眉をひそめた。


「……『初心者歓迎の文面をいい加減消してください』、『等級不問(なお教師問題外)』、『二度と参加しませんが、せめて途中でリタイアできる制度を作ってください』、『社会(に適合する可能性の限りなく低い超)人向け』、『日本探索者協会最大の狂気』? 何だこれは?」


 感想欄に溢れかえる低評価、罵倒、もはやネタと化したコメントの嵐。そう、そもそもの話なのだが、ユウキが何故最初に探索者協会の訓練ではなく、広告を確認したか、ということである。


 ユウキはそっと目を逸らして、言葉を紡ぐ。


「あのさ、探索者協会の講習の中でも、二級の人が講師の講習ならいいんだ。ただ、問題は、一級探索者が講師をしている講習でさ。__講習の内容だけど、一級探索者の人はみんな実力あるから、講習参加者が死ぬ前に何とかできて、奇跡的に死者はいないんだ。……うん、死者はいないんだ。いたら、こんな講習会存在しないんだ」


 頭を抱えたユウキは、カオスと化した感想欄をそっと閉じる。同時に、さりげなくコンラの手からタブレットをとろうとして、あっさりと躱された。

 コンラは聞き分けの悪い子供を叱るように言う。


「まどろっこしいのは止めろと言ったが?」

「__この講習に参加したら、僕は九割九分九厘死にかける。無理だ、せめてこれ以外にしてくれ」


 至極簡単な命乞い。ユウキのその言葉を聞き届けたコンラは、少しの間考えたあと、小さく頷き、言った。


「死なないなら大丈夫だろ。講習、応募しておいた」

「君は鬼か?!」


 ユウキの叫び声が、メゾン・ラローズの一室に響く。

 こうして、彼の重火器取り扱い講習会は始まった。

【重火器等取扱資格】

 2015年の銃刀法改正により、一般人でも免許さえ取得すれば過去の銃刀法を超越する重火器、刀剣類の取り扱いが認められた。

 当時の日本は各地に出没するダンジョンに自衛隊だけでは対処しきれず、一般法人向けにダンジョンを開放していた。そのために、十分な装備を手配できるよう、この改正が行われたのだという。


 なお、刀剣の取り扱いについては、講習のほかに剣道経験などがあると有利に免許が取れるという噂がある。また、最初から武器を持っている召喚獣に関しては、仮の国民でしかないため、例外的にこの法律の範囲外とされている。でも、免許があったほうが後々楽。

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