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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
58/152

57話 宴問答

前回のあらすじ

・クー・フーリンの裏切り

・ユウキが代理でコンラの名乗り上げを行う

 コンラとクー・フーリンが戦闘を始めたころ、ユウキは食品の並ぶ宴の皮敷物の上を探索していた。


 敷物の上には、酒が入っていたり入っていなかったりするジョッキがいくつもころがり、特に大皿の上に乗せられた料理は目を引くような量である。こんがりと焼かれた肉の塊がレタスにも似た葉野菜のうえに乗せられ、ほとんどは葉野菜だけが残されているか、食いかけの肉の塊にフォークが突き立っているかの2択である。

 他にもいくつかの宴会料理が大皿に乗せられており、肉のたっぷり使われたパイや、羊の丸焼き、レモンの蜂蜜漬けの練り込まれた粉糖のかけられたケーキなどもある。甘いものはあまり好まれていないのか、レモンのケーキはかなり残されていた。


 料理を注意深く確認しながら、ユウキは焦りが増していくのを実感していた。ほしいものが、無い。必要なものが、無いのだ。

 宴の敷物の上に残る、強烈な酒の匂い。酒はエールや蜂蜜酒などの安物が中心で、宴の中心であるフェルグスのそばにはブドウなどの果物の大皿や空のワイングラスが転がっていることから、この宴の席にも序列があるのを察する。


「宴なら、あってもおかしくない……あってもおかしくないのに……!」


 ユウキは焦りを隠せずそう呟く。

 そんな彼の言葉が聞こえたのか、退屈そうにエールを飲んでいたフェルグスが首をかしげて声をかけてきた。


「ふむ、何かお探しかね、名乗り手殿?」

「ひえっ、あ、そ、その、贅をつくした素晴らしい宴だとは思うのですが、あ、あの、ひとつ、見当たらない食材があって……」

「ほう、宴を褒められるのは気分がいいな。何故そう思った?」

「えっ、な、なぜ、ですか……」


 機嫌よさそうに笑うフェルグス。まさか深く聞かれると思ってもいなかったユウキは、少しだけびくつきながらも、用意できていた答えを口にする。


「その、下の席である敷物の端にも、羊の丸焼きがあったので……お酒の詳しい価値まではわからないのですが、水割りエールだけじゃなく生の酒が多いですし、あと、一番はそのお皿です」


 そう言ってユウキが指さしたのは、みずみずしい果物の並ぶ大皿。甘いものは好みではないらしいコナハトの戦士らはさほど手をつけてはいないようだが、彼はこの大皿の価値を見抜いていた。


「北の地であるコナハトでは、果樹が育たないはずです。ですので、こういった果物は貿易で手に入れるか余程特別な施設で果樹を丹精に育てるしかないはずです。みたところ、この果物は砂糖漬けでも干してあるものでもないようですので、貿易してすぐこの宴に持ってこられた……いえ、この宴のために輸入したようにも思えます」


 震える声で言うユウキ。彼の回答に、フェルグスは腹を抱えて笑った。あたりの空気が震えるような大きな笑い声に、ユウキは思わず身をすくめる。


__もしかして、何か間違えた……?!


 フェルグスがあまりにも大笑いするために、ユウキの背に冷や汗が伝う。

 しかし、そんな不安を抱いたユウキとは裏腹に、巨体の戦士フェルグスの機嫌はずいぶんとよさそうだった。


「正解だ、名乗り手殿。何度か挑戦者に宴を褒められたことがあったが、誰もかれも羊の丸焼きやらケーキを褒めるやら、よくわからん的外れな賞賛が多くてな。価値もわからん男は気に入らんから、ついそこの焚火に放り込んでしまった」

「__!」


 フェルグスの言葉に、ユウキは声なき悲鳴を上げる。もしも、間違えていれば、今頃焚火に焼かれ消し炭になってしまっていたかもしれないのだ。

 おびえるユウキに対し、フェルグスは随分機嫌がいいのか、食事をのけると何匹かの獣の毛皮をつないで作ったらしい専用の敷物に座り、ユウキに問いかける。


「何か飲むかね?」

「あ、すみません。その、お酒はまだ飲める年齢ではなくて……」

「ふむ、そうか。外はおかしなゲッシュが流行っているのだな。酒を飲める年齢に誓いを必要とするなど」


 どうやら、ユウキの前にも未成年の挑戦者がいたらしい。フェルグスはあっさりとそう言うと、巨大なジョッキにワインをそそぎ、ゆっくりと味わいだした。ユウキは少しだけ迷った後、空いていた毛皮の埃を軽く払い、そこに座った。


「戦いは望まぬのか?」

「その、僕は貴方と戦えるほど強くないです」

「そうか。しかし、甥のクー・フーリンに啖呵を切ったところはなかなか見者だったぞ? 戦士の誇りというものをわかっているように見受けられるが」


 香りのよいワインを楽しみながら、そう言うフェルグス。そんな彼に、ユウキは首を横に振った。


「……僕のは、あくまでも知識(ほね)だけなんです。(じつりょく)は伴っていない」

「なるほどな。しかし、その知識が今、お前を助けているのだろう」

「間違いないですね。……できれば、みんな生きて帰れたら最高ですけれども」

「そいつはわからんなァ。宴から生きて帰れるかは実力次第だ」

「はは、そうですか……」


 フェルグスの言葉に、ユウキは乾いた笑い声をあげることしかできない。同時に、すさまじい後悔が胸に広がっていた。友人であるツバサやシンジをこのダンジョンへ連れてきてしまったのだ。

 ユウキは小さく奥歯を噛みしめ、フェルグスに問いかける。


「今からでも、宴の参加者として輪に入ることは可能ですか?」


 その質問に、フェルグスは怪訝な表情を浮かべて首を傾げた。


「うむ? 何を言うか。名乗り手殿たちは宴の参加者だろう? 肉を喰らい酒を飲む資格があるかは我々次第ではあるが……女王殿は血の宴を好むからなァ。新参者から先に死んでいくのだ」

「あ、そうなんですね」


 納得したように小さく頷き、ユウキは相槌を打つ。酒を勧められたあたり、ユウキは比較的参加者として認められてはいるらしい。が、生きて帰れるかは女王メイヴの気分次第でしかないのだ。


 そんなことを考えているユウキに、フェルグスは楽しそうに言う。


「何か食うか? 先ほどから言っているが、甥のクー・フーリンに代理とはいえ挑めた名乗り手殿はなかなか気に入っている。好きなものを食べるといい」

「あ、そうですか。ありがとうございます」


 そうは答えたユウキだが、正直かなり困惑していた。おそらく、これも試されている気がする。そして、答えらしい答えは用意されていないうえ、思考時間もさほど用意されてはいない。


 少しの間考えた挙句、ユウキは一番安全そうだと判断した羊の丸焼きの大皿を選ぶ。じっくりじっくりと火を通されたらしい羊の丸焼きは、内臓は取り出されていたため、パリパリに焼けた皮やジューシーなもも肉がとても美味そうであった。

 肉を切り分けるためのナイフは首筋に突き立てられており、皿に置かれていたフォークを使えば、この手の切り分けはしたことのないユウキでも、何とか丸焼き羊を切り分けられそうだ。


「ケルト……食文化……うーん……安牌はこう、かなぁ……」


 初めて使うナイフで丸焼き羊を2つの皿に切り分けていく。まずは背中のパリパリに焼けた皮を剥ぎとり、そして、脂ののった後ろ足の肉を切り取る。葉野菜を2つの皿にのせて、一つの皿には切り取った皮と足肉を乗せ、比較的油の少ない背肉をもう一つの皿にのせる。最後に削られた岩塩に刻んだ乾燥ハーブの混ぜられた小皿をとり、2つの皿をフェルグスの待つ席に持っていく。


「ほう、思ったよりもすぐに戻って来たな?」

「え、あ、はい。あの、これ、どうぞ」


 ユウキはそう言って、パリパリに焼けた皮ともも肉の乗った皿をフェルグスに手渡す。そして、背肉は自分の手元に引き寄せた。限界に説明を求める視線をユウキに向けるフェルグスに、彼は少しだけためらってから答えた。


「えっと、その、モモ肉はたしか、一番勇敢な戦士が食べるのでしたよね? 皮は多分お酒と合うと思って選びました」

「ははは、賢いなお前は!」


 フェルグスはそう言って大笑いすると、骨付きの後ろ脚をつかみ、がしりと大口で食らいついた。この巨体であるため、いかに大きな羊の丸焼きでも、一口で半分以上の肉が消えてしまっていた。

 そして、いたずらっぽく笑うと、フェルグスが持つとそれこそおもちゃのように小さく見える麻袋をユウキに投げ渡す。ユウキは間の抜けた声を上げてその麻袋を受け取った。

 袋は纏め売りのティッシュボックスがまるまる入るくらいの大きさであり、中身はかなり小さく切り刻まれているのか、ゴロゴロとした感触が手に広がる。


 袋を受け取ったのを見て、フェルグスは言う。


「賢いお前さんが欲しがるのは多分これだろう?」

「……これの、もう少し大きくて、古くなったのって、ありますか?」

「食糧庫にはあるだろうな。食うだけならそっちの方がいいだろうと思うが、名乗り手殿の目的は食用ではないだろう?」

「はい、そうですね」


 袋の中身を確認して、小さく頷くユウキ。そんな彼に、フェルグスはカラカラと楽しそうに嗤うと、切り分けられたモモ肉の残りを、一口で食べきった。そして、ユウキに言う。


「そうだな、俺はまたモモ肉が食いたい気分だ」

「あ、取ってきますか?」


 シンジのおかげでしみ込んだパシリ根性で、そう問いかけるユウキ。そんな彼に、フェルグスは苦笑いを浮かべて首を横に振った。


「いんや、違う。あそこまで火が通ったものではなく、血が滴り落ちるほどの鮮度のいいモモ肉が食いたい。本来なら戦士に頼むようなことではないが、名乗り手殿はあくまでも非戦闘員のようだからな。食糧庫前まで行く権利をフェルグス・マク・ロイヒの名のもとに与えよう

「……!」


 焚火の炎がぱちりと爆ぜる。

 スカサハかシンジのどちらかに屠られたケルトの戦士たちの断末魔の悲鳴が聞こえてきている。コンラとクー・フーリンの戦いはここからは見えないものの、まだ決着がついていないのは、聞こえる剣戟の音からも察せられた。


「とはいえ、食糧庫の中には女王殿の許可した人間しか入れてもらえん。食糧庫の門番は名乗り手殿がどうにかするのだな」

「ありがとうございます!」


 ユウキはそう言ってからすぐにフォークを手に取ると、「いただきます」と小さくつぶやいて、取り分けた背肉を一気に口に押しこむ。レタスのような葉野菜は、さほど品種改良の進んでいない何らかの野菜であったらしく、むせ返るような青臭さと苦みを持っていたが、それも背肉ごと食べ、空になった皿にフォークを置く。


「ごちそうさまでした。__敵である僕に、わざわざ料理をふるまってもらい、ありがとうございました」

「いい食べっぷりだ、客人。どうせならその袋のもので満足してくれれば、もう少し楽しめたかもしれんが……」


 取り分けた肉を喰らいつくし、食糧庫へ向かおうとするユウキ。そんな彼に、フェルグスは名残惜しそうに肩をすくめる。

 ユウキは苦笑いを浮かべ、フェルグスに言った。


「すみません、僕、探索者なので、女王を倒さないといけないのです」

「まあ、そうではあろうな」


 そう言ってフェルグスはジョッキに入ったワインを飲み干す。

 ユウキは知識でケルト人たちにとっては輸入でしか手に入れられないワインは高級品だったと記憶していた。そうとは思えないようなワインの飲み方に、ユウキは少しだけ不自然だと感じられた。

 酔いが少し回ったためか、フェルグスは機嫌よさそうにユウキに言う。


「そうそう、もしも、もしもの話だが、食糧庫に足を踏み入れることができたら、ついでに酒樽をすべて壊して来い。いい加減俺もこの気分の悪い宴を終えたいところでな。酒がなくなれば宴は終わる」

「は、はい!」


 気前よく言うフェルグスの言葉に、ユウキは大きく頷いて立ち上がる。そして、思い出したように彼に問いかける。


「すみません、ナッツとかってありますか?」

「ん? クルミならそこにあるが?」

「ありがとうございます」


 ユウキはそう言って、殻のとられたクルミをとり、フードの中に隠れた子ネズミに手渡した。子ネズミは嬉しそうに一鳴きすると、クルミをカリカリとかじりだす。


「使い魔か?」

「あ、いえ、違います。仲間で、命の恩人でもあるんです」

「命の恩人?」

「焚火に直行しかけてたところ、助けてもらいましたから」


 ユウキはそう言って赤茶色の毛並みの子ネズミをそっと撫でた。この子がいなければ、探索が始まるまでもなく死んでいた。機嫌よさそうに鳴き声を上げた子ネズミは、目の前にいるフェルグスにびっくりしたのか、フードの中に逃げ込んだ。


 炎爆ぜる焚火の前で、フェルグスは無言で酒を飲み始める。

 ユウキは敵ながらにフェルグスの心意気に感謝をして、食糧庫へ急いだ。

【ケルトの宴事情】

 ケルト人は宴会を好み、特に肉を喰らうのを好む。

 宴で好まれていた肉は、家畜である羊や豚の肉で、その肉の中でも質のいいモモ肉が好まれていた。しかし、モモ肉は家畜の限られた部位であるため、ユウキが解説していたように、優れた戦士たちのみが食べる資格を持ち合わせていた。

 なお、「俺も食べたかった!」という戦士がモモ肉を食った戦士と殴り合いの喧嘩を行ったこともあったという。うわぁ、蛮族ゥ……


 酒は当時、ワインは超高級であり、水で割っていない生のワインを飲めるのはもっぱら王族かドルイド僧、かなりの戦果を挙げた戦士のみで、平民は水で薄めた麦酒か蜜酒を飲んでいたという。美味しくはないと思う。

 ちなみに、砂糖は高級品ではあったものの、生の果物と比べれば賞味期限が格段に長いため、珍しさで比べると、ケーキよりも生果物の方が勝る。温室とかないから、輸入で手に入れるしかないからね、仕方ないね。

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