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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
57/152

56話 親子≒怨敵

前回のあらすじ

・女王メイヴ

 ユウキは小さく歯噛みをして己のすべきことを思考する。

 状況は、限りなく詰みに近い。それでもまだ、打つ手はあるはずなのだ。


「……ボスは女王メイヴで確定……となるとレアモブはフェルグス……フェルグスはスカサハに頼むしかない……」


 状況を振り返り、対応できる人間を考える。しかして、現状はとにかく戦える人間に対して戦えない人間が足を引っ張っているのだ。

 確定で相手をしなければならないのは、フェルグス、裏切ったクー・フーリンの二名。そして、その二人の戦闘を邪魔されないよう、対モブの人員も必要になってくる。単純に、頭数が足りない。


「どうすれば良い……どうしたらいい……?!」


 思考をする。思考を、する。

 そんな時だった。


「ユウキ!」


 コンラが、ユウキの名を呼ぶ。

 次の攻撃が来たのかと慌てて身構えるユウキに、コンラは淡々と言った。


「俺が、クソ親父……いや、クー・フーリンを相手する。お前は、メイヴをやれ。女王アリを失えば、フェルグスとコイツ以外有象無象だ」

「待って、君は__」


 座った目のコンラ。自然体に開かれたその左手の中指のシンプルな金の指輪が、きらりと輝く。彼の瞳はただ純粋な怒りに満たされ、刺すような鋭い視線を敵対者に成り代わったクー・フーリンに向けていた。


「俺は! こいつをぶん殴らないと、気が済まない!! ああ、今誓ってやるよ、【俺は、クソ親父をぶん殴るまで死なない】!!」


 奥歯の擦れ合う音が、小さく響く。剣を握っていないコンラの左拳がこきっと関節の擦れ合う。本気で殴るつもりなのだろう。

 感情をあらわにしながら禁忌(ゲッシュ)を立てるコンラに、ユウキは小さく息を飲む。そして、今にもクー・フーリンに殴り掛かろうとしていたコンラに向かって言った。


「ごめん、五分待って」

「……くだらない内容ならクソ親父を殴り倒した後で殺す」


 突き刺すようなコンラの殺気が、ユウキに向けられる。失神してしまいそうなほど強烈なその気配に、ユウキは軽いめまいさえ覚えながらも、何とか耐えきる。ここで引き下がってはいけないと、直感したのだ。


 口の中に沸いていた唾液を胸の中の恐怖ごと飲み干し、そして、大きく頷いて、まっすぐコンラの目を見て、言った。


「うん、それで構わないよ」

「……なら勝手にしろ」


 短いコンラの言葉。わかっている。それでも、ユウキのこれからの行動如何では、若き戦士の右手に握られている剣がそのまま死神の鎌に変わり、彼の首を軽く刎ね飛ばすことくらい。

 それでも、この若い戦士の……コンラの主として、どうしても、引き下がれないことがあった。


 バクバクと、心臓が緊張で跳ね上がる。ユウキは、おそるおそるクー・フーリンに目を向け、口を開いた。


「……アルスターの英雄、クー・フーリン。僕のパートナーのコンラが、貴方に挑戦しました。見えてはいないとは思いますが、彼は正々堂々と剣と拳で戦います」

「へえ、なかなか根性あるやつだな。挑戦内容を俺に伝えたのは、そいつのゲッシュか?」

「……半分違います」

「は?」


 ユウキの言葉に、クー・フーリンは間の抜けた声を上げる。たしかに、ユウキはコンラのゲッシュの内容は聞いていた。しかし、「どんな挑戦にも応えなければいけない」のゲッシュには、今回の場合抵触してはいない。クー・フーリンはコンラに挑戦はしていないのだから。


 それでも、言葉を紡ぎ続ける。弱気で意気地もない彼だが、この時ばかりは、コンラのために……いや、コンラの主であるために、戦士の発する確かな殺気を、冷たい視線を、必死にこらえて喉を震わせた。


「コンラは、遠距離武器が得意ですし、本人は卑怯だろうが勝てばいいっていうかもしれない。出会った当初から、英雄願望はないってはっきり否定していました」

「……よくはわからねえが、見えねえ上に英雄願望なくて遠距離武器でだまし討ちもするのか? 気に入らねえ野郎だな」


 舌打ちの音が響く。白兵戦を好み、正々堂々とした一騎打ちを好み、誇りある戦死を遂げた彼にとって、ユウキの説明するコンラの人格は、好ましいものではなかった。

 ユウキの額に冷や汗が滲む。目の前の戦士が恐ろしい。わかっていた。クー・フーリンと己が敵対すれば、逃げる間も抗う間もなく瞬殺されると。気に入らないと思われて彼の手に握られる朱槍が一振りされれば、その時には己の心臓はぶち抜かれ、この命は終わることくらい。


 コンラの剣か、クー・フーリンの槍か。

 それでも、ユウキは、言葉を紡ぎ続けた。


「__それでも彼は、絶対に貴方になら、挑むはずなんです。正々堂々と」

「はぁ?」


 間の抜けた声が、クー・フーリンの均等のとれた口元から発せられる。その眉は「不可解だ」と言わんばかりに曲げられ、言外の説明を要求していた。

 今すぐ逃げだしたい恐怖を飲み下し、ユウキは深く息を吸い込む。そして、腹から声を出した。


「彼は決して臆病者ではない! 何故だかわからない理由であなたの目に映らず耳に彼の声が届かないだけで、彼は確かに誇り高い戦士だ!

 だから、僕、長嶋裕樹が戦士コンラに代わって名乗りを上げる! 影の国の女戦士オイフェの息子、コンラが貴方に挑む!」


 まっすぐ前を見る。震える膝をそのままに、それでも、はっきりと、声を出し切る。コンラは、ゲッシュで名乗れない。そして、何よりも彼の声はクー・フーリンには……声を一番届けたいその男には、届かない。

 だからこそ、見えないコンラが不意打ちをしかけたなどと言う汚名を着せないために、彼のプライドを傷つけないために、ユウキは代理で名乗ったのだ。


 コンラはニッと不敵に笑むと、軽く左手を振った。どうやら、合格らしい。


「代理助かる。これで正々堂々と親父をぶん殴れる」

「いや、うん、その、本名名乗らせちゃってごめん」

「別に問題ねえ。ゲッシュが無きゃ名乗っていた。__俺は誇り高きケルトの戦士だからな」


 澄んだ鋼の輝き。英雄願望を否定していても、コンラは彼自身の誇りを持ち合わせていた。そんな彼の主として、ユウキは見事役割を果たしたのだ。


 そして、名乗りを上げられたクー・フーリンは……


「へえ……」


 流石は親子と言うべきか、目の細めかたがコンラそっくりだった。

 笑っていない瞳で口元だけ笑顔を浮かべ、そして、ユウキの代理した名乗りに受け答える。


「いいぜ。影の国のコンラ、その挑戦を戦士クー・フーリンが受けてやろう。見えねえが、多分その辺にいるんだろ?」

「いるぜクソ親父。耳遠くて聞こえてなさそうだけどな」

「……何か腹立つこと言われた気がするな」


 聞こえていないにもかかわらず、雰囲気だけでコンラの言動を感じ取ったクー・フーリンは、渋い表情を浮かべて言葉を吐いた。敵と認めたために注意を払い始めたのだろう。

 そして、役目を終えてその場をこっそり後にしようとしていたユウキに向けて、言葉を投げかけた。


「ああ、そうそう。お前は気に入ったから、てめえのところの陣営全滅したらお前はサクッと殺してやるよ。拷問死は流石に嫌だろ?」


 突然声をかけられ、ユウキはびくりと肩を震わせる。

 ニッとすがすがしい笑顔で言うクー・フーリン。おそらく、完全なる善意だろう。女王メイヴの言動からしても、おおよそ降伏したところで待つのは死だとは分かっている。それでも、ここまで明け透けに物を言われてしまうと、流石のユウキもどうしようもなかった。


 ユウキは困ったように「うーん」とうなってから、ぺこりと頭を下げて言う。


「いいっていう人はいないと思いますけど……その、せっかくの申し出ですけど、大丈夫です」


 ユウキのその言葉に、クー・フーリンはガシガシと頭をかいてそっと目を逸らしながら言った。


「あ? あー……その、性癖は人の勝手だとは思うが、軽度のマゾなら普通に後悔するだけだと思うぜ」

「いや、ちがっ、違います!」


 不名誉すぎるクー・フーリンの勘違いに、ユウキは少しだけほほを赤くしながら全力で首と手を横に振った。童貞丸出しのその反応に、コンラはあきれたように額に手を当てた。

 首をかしげて、赤槍の戦士は問いかける。


「なら何でだ?」

「僕らが負ける前提で話を勧めないでくださいってことです!! 僕がしょっぱなに死にかねないのはともかくとして、他の人たちはそれなりに実力があります。もしものことがあったら、草薙さんは確実に的確な撤退指示を出してくれると思ってます。なので、全滅はしない……と思いたいからです」

「そこは言い切ろうぜ、名乗り手」


 最後の最後で自信を失ったユウキに、クー・フーリンはあきれたように言う。そして、もう特に言うべきことも無くなったのか、軽く左手を振ってここから離れろと言外に伝えた。


 数分後には確実に始まるだろう死闘を予期し、ユウキは急いでその場を離れた。





 ユウキがある程度の距離離れたところで、クー・フーリンは朱槍ゲイ・ボルグを片手に、コンラのいそうなあたりに声をかけた。


「心当たりはねえが、お前さん、俺の息子を自称してんだろう?」

「自称じゃねえよ!! 謝れ、主に母さんに!!」


 失礼な口切に、コンラは額に青筋を浮かべて怒鳴る。突然の殺意を軽く受け流し、クー・フーリンはニッと不敵に笑みを浮かべて言った。


「案外気概ある、いい主君じゃねえか。主君の運だけは俺よりも上だぜ」

「……ああ、うん、まあ、そうだな。というか、比較対象が酷すぎて、そんなにユウキの奴を褒められてはいねえぞ、それ」


 コンラがそう言い切った瞬間、彼の頭蓋めがけて的確に朱槍の突きが飛んでくる。寸前でかわしきることに成功するも、コンラの染められた金髪が数本、篝火に向かって吹き攫われていった。


「……生意気を言われた気配がしたな」

「……!!」


 もし、姿かたちが見えていたら。もし、声だけでも聞こえていたら。コンラは、この一撃で確実に命を奪われていた。

 隔絶した実力者に対して、与えられたハンデは認知不可能という法外なもの。それでも、コンラは、父クー・フーリンと対面して、確信した。


「もう少しハンデがあってもうれしいくらいだな……!」


 ケルトの大英雄が、今、戦闘態勢に入った。

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