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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
33/152

32話 状況が既に王手一歩手前

前回のあらすじ

・由美叔母さんは掃除が下手

・コンラ「通り道の邪魔だし、殺して良い?」

・ユウキ「だ、ダメだよ!!」

 ダンジョンの入り口前でたむろする四人組。

 彼らは昨日、少女一人を生贄にし、街を荒らした残虐な強盗犯たちであった。だからこそ、探索者である二人がやって来たことに少なからず動揺し、同時にマズいとさえ思った。


 なにせ、彼等は犯罪行為を行った。性懲りもなくこのダンジョンに来たのは、宝石類が高く売れ、まだ生贄(しょうじょ)が生きているだろうと思っていたからだった。

 生贄一人いれば、昨日のようにたくさんの財宝をリスクなしで回収できる。昨日吸ったあまりにも甘く甘美な密に逆らえるだけの精神力があるなら、彼等はそもそも生贄を立てて強盗を働くような真似をしていない。


 とにかく、まだ飽き足らずに強盗を働こうとする四人組は、少々焦ったようにユウキとコンラを見る。二人は明らかに探索者であり、このままだと昨日の蛮行が露呈してしまうかもしれない。

 そうなれば、探索者資格の剥奪どころの騒ぎではないのだ。昨日の行為が露呈してしまえば、場合によっては刑事告訴すらあり得る。それだけのことを彼らはしでかしたのだ。


 そう判断した四人は、二人の妨害を行うことを決めた。

 ……それが、コンラの逆鱗に触れるとは夢にも思わずに。




 レンガ造りの古い屋敷のエントランス。本来ならその奥には暖炉か扉があったと思われるようなその場所が、異界……ダンジョンへの入り口となったのだろう。

 古いエントランスには外から持ち込まれたらしい自動販売機やベンチが設置され、その付近にはゴミや放置された鉈などが雑然と転がっていた。幸いにも、鉈には血が付いていなかったことから、未使用のまま放置されたのだろうと予想できた。


 電子決済で開く金属扉の入り口でたむろする四人の男女。しかして、予定に五級ダンジョン【赤い靴】の探索を組み込んでしまったユウキは、コンラに対して『今日は止めておこう』となど口が裂けても言えない。道を変えればコンラのゲッシュに抵触してしまうのだ。


 ゲッシュを破ればデバフ程度の表現では収まらない『天罰』が下る。場合によってはそれが死因に直結しかねない。だからこそユウキは、何やらこちらを睨みつけるようにうかがう四人組に困ってしまっていた。


 気弱なユウキは、四人組に対し『どいてくれ』の言葉を告げることができない。それでも、早くこの四人を扉の前からどかさなければ、コンラが彼らに対し何をするかわかったものではない。


 頼むからどいてくれ、と、心の中で叫ぶも、当然口に出さなければ相手には伝わらない。双方無言のまま、ユウキたちと入り口前でたむろする四人組との距離が詰まっていく。


 先に声を出したのは、四人組の方だった。


「何よアンタら。キモイからこっち見ないでもらえる?」

「……は?」


 四人組のうち一人、髪の長い女が舌打ちをしながら言う。想定外の言葉に、ユウキは間の抜けた声を上げる。

 ユウキの反応が気に食わなかったのか、その女は座っていた地べたから立ち上がると、ぎろりと二人を睨みつける。その姿に、コンラはきょとんと首を傾げた。


「……? ユウキ(こいつ)はともかく、俺の容姿はそこまで悪くはないだろ。この女、目か頭が悪いのか?」

「ごめん、僕は君の自信の方が理解できない……」


 自己肯定感がとてつもなく高すぎる。ユウキは女性の非礼な言葉に表情を変えるよりも先に、呆れたようにコンラに対してそう言っていた。実際、コンラの容姿は悪くはない。おそらく彼自身は事実を事実のままに口に出しただけなのだろう。


 まるで悪意のかけらもなく煽られた髪の長い少女は、一瞬ポカンとした表情を浮かべた後、すぐに顔を真っ赤にして怒りを露わにした。


 しかし、コンラはまるで意に介さず、入り口前でたむろする四人に言う。


「邪魔だ、どけ」

「あ? お前らがあとから来たんだろうが!」

「道を塞いでおいて何を言っているんだ……? やはり、頭が悪いのか」

「……!」


 とんとん、と、人差し指でこめかみのあたりを叩くコンラ。その動作を見て、ユウキは頭を抱えた。アレはあからさまに煽っているようにしか見えない。……彼にその気がなくとも。

 コンラを睨む四人組は怒りで顔が真っ赤な顔になっている。ユウキは深くため息をつき、小声でコンラに言う。


「……コンラ、二時間だ。二時間の間、不殺を挑戦する。対価は、今日の晩御飯の決定権でどうかな?」

「わかった。四分の三殺しまでなら大丈夫だな」

「ダメだよ! っていうか、それほぼ死んでるよね?」


 あっさりと言うコンラに、ユウキは思わず突っ込んだ。思ったよりもコンラは道を塞ぐ彼らに怒りの感情を抱いているらしい。

不満そうに小さく舌打ちをするコンラ。まあ、女王メイヴに近い気配がするのなら、致し方ない……のだろうか?


格下相手に剣を抜くまでもないと判断したのか、それとも剣を抜くと殺してしまいかねないと判断したのか。

()()をユウキに預けたコンラは、軽く体を伸ばすと、金属扉の前でたむろする4人組に、最後通告とばかりに口を開く。


「そこをどけ。邪魔だ」


 ひりつくような殺気とともに放たれた言葉。女は小さく悲鳴を上げる。

 少しの間四人はもめたように目を見合わせたり、眉を顰めたりもしたが、ぎろりとコンラに睨まれた彼らは、苦々しい表情を浮かべてダンジョンの入り口前を明け渡した。


 道さえふさがれなければ、コンラとて戦う意味はない。彼は何もなかったかのように前を見ると、さっさと扉の方へと歩いていく。ユウキは、慌ててそんな彼の背中に声をかけた。


「ごめん待って! コレ、ちょっと重すぎる!!」

「……忘れていた」


 布でくるんだソレを持っていたユウキは、ギリギリ持ち上げることこそできるものの、持って移動するには少々重すぎた。


__台車持ってくればよかった……


 ユウキはそう若干後悔しつつ、荷物をコンラに任せた。

 背後から、四人組の視線が刺さる。


 居心地悪いと思いながらも、コンラのゲッシュの都合上、もはや引き返すことはできない。ユウキは少しだけ気まずい気分になりながらも、金属扉に探索者証明書を財布から取り出し、入場料の電子決済を行おうとする。


 その時だった。


「危ねえ!!」

「……へ?」


 割と遠くから、男の声が聞こえてくる。

 その次の瞬間、ユウキの背後で振りかぶられていたナイフが、赤色の槍によって打ち砕かれた。


 すさまじい勢いですっ飛んでいった朱槍は、何か固いものを砕くような音の後に、古い屋敷の木目の壁に突き刺さる。驚きと恐怖、そして、困惑で、ユウキは声を上げることすらできなかった。


 それは、何故かユウキを刺そうとしていた男も同様である。砕け散ったナイフの刃と手元を交互に見比べ、男は顔を真っ青にした。


 茫然と横を見れば、そこには荷物を振りかぶるコンラの姿があった。どうやらコンラも無言ではあったが召喚獣の義務としてユウキを下手人から守ろうとはしていたらしい。

 目が合ったコンラは気まずそうに荷物を抱えなおし、何もなかったと言わんばかりに目を逸らした。


 状況が理解できていないのは現状、ユウキだけだ。

 彼は困惑しながらも状況をつかもうとあたりを見回す。


 そして、この朱槍の持ち主が目に入る。


 両目の周りにそれぞれ七の宝石。長くしっかりと手入れされた金髪には琥珀のビーズをふんだんに使った髪結い紐。体を鋼のような引き締まった筋肉が覆い、瞳は少しの警戒心と四人組への軽蔑で冷え切り、こちらに向けられたものではないと分かっていても、底冷えするような気迫があった。


 ユウキは目を丸くしてつぶやいていた。


「クー・フーリンさん?」

「……? ああ! 誰かと思えば、ちょっと前に師匠と一緒に居たやつか! 一人で何やってんだ?」


 朱槍ゲイ・ボルグを投げたクー・フーリンは、きょとんとした表情を浮かべる。その言葉を聞いて、ユウキは思わず表情を凍り付かせた。


 ぎぎ、と、油がきれた機械のように、体が軋むような気がする。すさまじい怒気が、背後から感じられたのだ。

 ユウキは小さく息を飲み、覚悟を持って後ろを振り返った。


 黒目に開き切った瞳孔。拳は硬く握りしめられ、表情は何故か怒りも悲しみも驚きもない。ひたすらに、『無』だった。にもかかわらず、額には血管が浮かび上がっている。口角はかろうじて吊り上がっているものの、決して笑ってはいない。当然喜んでもいない。

 感情が削げ落ちたような表情のまま、コンラは喉の奥で小さく笑う。そして、吐き捨てるように言った。


「ハハ、ゲッシュを破りそうになった」

「……何かヤベエ気配はするが、見えねえな。どこだ?」


 コンラの怒気に警戒するクー・フーリン。見えずとも確かな殺意を感じ取ったのだろう。だがしかし、だがしかしだ。


__見えないことをわざわざ繰り返さなくったっていいだろ?!


 ユウキは心の中でそう叫ぶ。

 背筋を冷たい汗が撫でる。もはや、先ほど見ず知らずの少年に殺されかけたことなどどうでもよくなっていた。


 コンラはどこか、クー・フーリンを恨んでいるふしがある。コンラ自身の死因が父クー・フーリンに殺されるというものだから、仕方ないことは仕方ない。

 だがしかし、ここは法治国家日本。仇討ちも敵討ちも決闘さえも基本的には法律違反になる国だ。召喚獣であるコンラの監督義務が契約者であるユウキには存在する。


「……その、コンラ。抑えてくれ。君が怒るのはもっともなことだと思う。でも、手を上げちゃダメだ」

「……今はしねえよ。俺は挑戦を受けた。応えねえのは禁忌(ゲッシュ)に抵触する」


 腹の底から湧き上がる激情を噛み殺し、コンラは苦々し気に言葉を紡ぐ。


__不殺を挑戦しておいてよかった……!


 冷や汗がこめかみのあたりを伝う。

 そして、同時に理解した。【赤い靴】ダンジョンを二時間以内に探索終了させなければ、クー・フーリンとコンラが殺し合いをしかねない、ということを。


__不殺の挑戦終了(タイムリミット)まであと1時間55分

【挑戦に関する定義】

 召喚獣コンラのゲッシュの一つ、『どんな挑戦にも応えなければいけない』の『挑戦』の定義は、実のところ、相当曖昧である。

 基本的に『挑戦』は己ではなく相手が決めるものと定義されるが、相手からの反論や拒絶、否定さえなければ、一方的に相手の行為を『挑戦』と断じることができるためである。


 当然ながら、『挑戦』と『禁忌(ゲッシュ)』ならば『禁忌(ゲッシュ)』の縛りの方が強い。対価と合わせて『挑戦』することで、比較的破られたときの天罰(ペナルティ)の小さい擬似的な禁忌(ゲッシュ)を提案できるが、しかしてゲッシュは『どんな挑戦にも応えなければいけない』であり、挑戦に応じた結果失敗することはゲッシュを破ったということにはならない。


 つまり、積極的失敗はゲッシュに抵触するが、消極的失敗、もしくは事故や相手の策略による挑戦失敗は『どんな挑戦にも応えなければいけない』のゲッシュには抵触しないのだ。

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