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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
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30話 ああ、靴が、そこに

前回のあらすじ

・竹藪ダンジョンの探索が完了

・子ネズミが仲間になった

 ダンジョンから出た二人と一匹は、予定通り竹藪ダンジョンの入り口で軽い昼食を済ませ、そしてすぐに家に向かった。


 メゾン・ラローズの扉をコンラに開けてもらい、ユウキは大鍋を何とか室内に持ち込む。そして、そのままえっちらおっちら台所の方へと向かった。


「今日はありがとう、コンラ。とりあえず、先に冷凍食品食べておいて」

「わかった。米はあるか?」

「冷凍庫に冷凍のなら」

「お前は?」

「僕はいいや」


 大鍋を台所のそばに置いたユウキは、深くため息をつき、ずっと酷使していた両手を軽く振る。ユウキがそんなことをしている間に、コンラは冷凍庫を漁り始めた。


 鍋は既に冷めている。おそらくタケノコの灰汁もとれたことだろう。コンラといつの間にかフードから出ていた子ネズミたちが追加の昼ご飯を食べ始めたのを横目に、ユウキはタケノコの残りの処理を始めた。


 鍋の中の皮つきタケノコを取り出し、シンクでぬかをさっと洗い流し、皮を剥ぐ。包丁でタケノコを食べやすい大きさに切り、そして、清潔な入れ物に茹で終えたタケノコをしまい込む。これで、叔母さんに渡す分のタケノコの処理は終了だ。

 ついでに少しのタケノコを刻んで浸水しておいた米に出汁と一緒にいれ、炊飯器にセットする。これで家に帰るころにはちょうどたけのこご飯ができるはずだ。


 手を洗いながら、ユウキは先にリビングのテーブルで子ネズミとともに追加の昼食を食べているコンラに声をかける。


「下処理できたタケノコ、ちょっとだけ食べる?」

「ん? いいのか?」

「もちろん」

「なら頼む」


 米に温めた冷凍唐揚げを乗せ食べているコンラ。若干栄養の偏りが気になるが、まあ諦めるしかないだろう。子ネズミはその体のどこに入るのか、小さめのおにぎりをもりもりと食べていた。

 ユウキはタブレットを開き、タケノコを使ったレシピを探す。そして、一番シンプルなものを見つけ、小さく頷くとそれを作り始めた。


 料理、といっても、工程はあまりにも簡単で、下処理を済ませたタケノコを薄くスライスするだけである。薄くスライスしたタケノコを皿に盛り付け、ワサビと醤油の小皿を添える。これでタケノコの刺身の完成だ。


「はい、どうぞ。緑色のやつはワサビで、辛いから気を付けてね」

「わかった」


 コンラは短く返事をして、少なめのワサビに醤油をかけた。モンスターと言えどもネズミである子ネズミには調味料なしのタケノコを渡す。

 まだ箸になれていないコンラは、フォークを使って刺身を食べる。柔らかい白色のタケノコにわさび醤油をかけ、口に含む。そして……


「……??」


 そして、コンラは首を傾げた。


「調味料の味しかない……?」

「あー……その、タケノコは歯ごたえとか香りを楽しむ食材だから」

「……そうか」


 少し残念そうに肩をすくめるコンラ。どうやら、タケノコはあまり好みではなかったらしい。おそらくコンラはわかりやすい味付けが好みなのだろう。

 それに対して子ネズミは茹でたタケノコを嬉しそうに頬張っている。こんな小さな体にどうやって入っているのだろうか?


 二人につられるように、ユウキもタケノコの刺身に箸を伸ばす。

 取った直後に処理をしたため、タケノコは香り高く、灰汁もない。コリコリとした歯ごたえは健在で、とても美味だ。


「うん、これなら由美叔母さんに渡せる」

「そうか」


 納得したように首を縦に振り、嬉しそうに微笑むユウキ。そんな彼に、コンラは少しだけ首をかしげながらも称賛の声を送った。


「ところで、明日のダンジョンの話をしても大丈夫か?」

「! もちろん。渡した資料には目を通した?」

「ああ。巡回ルートも頭に叩き込んだ。基本戦略は建物の中身かっぱらえるだけかっぱらって逃げる感じだろう」


 コンラはそう言って、カウンターテーブルに置きっぱなしだった書類を引っ張り出す。書類のうちダンジョンの地図となっているものをテーブルの上に広げたコンラは、入り口の地点をコツコツと指で叩く。


「【赤い靴】での人気収集品はルビーの首かざりだったな。一個盗むだけで一発警告らしいが」

「それなんだけど、一つだけ考えがあって。通用するかどうかわからないから、物品収集をする前にしたいのだけれども__」


 タケノコの刺身を囲んで始めた作戦会議。それは、由美叔母さんとの約束の時間数十分前まで白熱することになった。




__ここはダンジョン【赤い靴】の内部。レンガ造りのヨーロピアンな街並みの空間には、今、四人の男女が楽しそうに歩いていた。


 彼らの等級は五級。典型的な、新人研修を終えた直後の新米探索者であった。


「みっちゃんみっちゃん、これやっぱバエるよね?!」

「うんうん、サイコー! やっぱ噴水綺麗!」


 周囲の警戒もせず、けらけらと楽しそうに笑う女子二人は、ダンジョンの中央に位置する噴水広場で記念写真を撮っていた。男子三人は広場にほど近い場所にある呉服屋のガラスを破壊して、その中身を引きずり出している。


「帰還用魔法陣すぐ側だし、ボーナスタイムっしょ!」

「この宝石、いくらで売れっかな?」


 彼らは【五人で】ダンジョンをしに来ていた。……そう、五人で。


「やだ、やだやだやだやだやだやだやだ!! 助けて、助けてよ!!」


 噴水広場のほど近く。血と涙のにじむ絶叫を上げるのは、一人の地味な少女。その彼女の足には、()()()()()が履かされていた。


 呪われた赤い靴を履かされた少女は、ひたすら踊り狂う。足は己の意思に反して動き続け、念のため持ってきていた足を切り落とす用の手斧も、今は呉服屋に強盗を働いている少年たちに奪われ、逃げることさえも許されはしない。


 ボロボロと泣いて、必死に助けを求める地味な少女に、女二人はパシャパシャと自撮りをしながらけらけらと甲高く耳障りな笑い声をあげ、からかうように言った。


「バッカじゃないの、助けるわけないじゃん。ネットで見たのよね、【赤い靴】ダンジョンはおとり一人いれば無制限に盗掘できるって。アタシたちのお小遣いになれるんだから、感謝しなさいよ」

「そうそう、足切られちゃうと、靴は追いかけてくるからね。ずっとへたくそな踊り踊っておけば~?」


 そう。四人の男女に半ば引きずり込まれるようにして【赤い靴】のダンジョンに連れてこられた哀れな彼女は、靴への生贄として放り出されてしまったのだ。

 当然、これらの行為は探索者資格の剥奪どころか刑事告訴に発展する明確な犯罪行為である。しかして、四人の無邪気な加害者たちの行為を見とがめるものは誰一人としていなかった。


 __否、いないと分かっていたからこそ、このような蛮行を行ったのだろう。


 ぼろぼろと涙をこぼし、助けを呼ぶ少女の声。そんな声が煩わしいと思ったのか、強盗を働いていた一人の少年が舌打ちをして踊り狂う少女の方へ歩み寄ってきた。


「助け__」

「うるせえんだよクソブス! 黙って踊ってろ!!」


 少年に縋ろうとする少女の腹を、少年は容赦なく殴る。


「がふっ……?」


 容赦のない一撃に、少女はうめき声を上げる。あまりに突然のことで、少女はただただ目を丸くし、腹を抑えることしかできない。


 少女は、信じることができなかった。

 かくも、人が醜くなれることを。


 茫然とする少女に少年は面倒くさそうに眉をしかめると、面倒くさそうに言葉を吐きかける。


「てめえさ、生きてて申し訳ないとか思わねえの? 生きてて何か意味とかあんの? ねえだろてめえ。ならせめて死ぬときくらい俺の役に立てよ、クズが」

「……」

「返事しろよクズ」

「……何で」

「あ?」


 ぽつりと、少女が口を開く。そんな彼女の声に、少年は不愉快そうに舌打ちをした。しかし、少女は涙目で少年に問いかける。


「何で、そんなに嫌いなら、わざわざ私に干渉するの?」

「__ハァ?」

「嫌いなら、放っておいてください! 何で、こんな人殺しまがいなことをするんですか?!」


 血のにじむような少女の声。その声に、からかうような笑い声をあげたのは、自撮りをしていた少女だった。派手なインナーカラーで着飾った彼女は、心底少女を馬鹿にしたような笑い声をあげると、その質問に、あまりにも残酷な答えを返す。


「人殺し? 馬鹿じゃないの? アンタ人以下の癖によく言うね」

「……?」


 少女は、ピクリと表情を凍らせる。

 まるで、彼女の笑みは猫が捕まえた獲物をいたぶるときのような、あまりにも不気味で狂気的な笑みだった。


 派手なピンクのインナーカラーの彼女は、赤い靴によって踊り狂わされている少女に言う。


「可哀そうに。人間じゃないからこうなっちゃうんだよね。何だっけ、実家の方針でタブレット禁止なんだっけ? 一人だけ紙の教科書使ってて目立っちゃってるから、イキってるって思われてもしょうがないよね?」

「……!」


 嘲笑する彼女の声。そう、少女には何ら罪はない。ただ、運がなかっただけなのだ。


 赤い靴は、ただただあわれな生贄を踊り続けさせる。無遠慮な強盗犯たちが帰還用の魔法陣を踏んで帰ってしまっても、永久に夜の来ない薄暮れのこの街で、少女はただ、踊り続ける。


 __死ぬまで、ひたすら踊り続ける、はずだった。


「……さない」


 小さな声が、レンガの町に響く。

 零れ落ちる涙に、怒りが、慟哭が、混ざる。溶ける。


「ゆるさない……!」


 あまりにも理不尽な立場に置かれた、『人以下』だった彼女は、吠える。そして、その足元に散らばっていたショーケースの破片を見る。破片は薄暮れの柔い光を浴びて、きらりとその光を輝かせた。

 __ああ、運命は、彼女を見放しては、いなかった。

【赤い靴おとり案件】

 ダンジョン【赤い靴】において、追いかけてくる赤い靴に追いかけられたものは、強制的に赤い靴を着用させられる。例外は足がない人間や二足歩行をしていない召喚獣だけで、それ以外の二足歩行の生命体が靴を履かされた場合、死ぬまで踊り続ける羽目になる。


 しかし、逆説的に言うと、誰かが靴を履いてさえいれば、赤い靴は誰を追いかけるということはない。それを利用して、誰か一人を生贄として意図的に赤い靴を履かせ、その間に他の探索者が建物から収集物を回収するという手法が考え出された。

 当然、召喚獣に赤い靴を履かせるとしても、人間に赤い靴を履かせるとしても、法に抵触する上に探索者協会の定める倫理規定にも抵触するため、してはいけない行為である。

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