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マイナーズ:弱小探索者と下位互換召喚獣の楽しいダンジョン冒険譚  作者: ooi
一章 イレギュラー【英雄無きアルスター】
30/152

29話 子ネズミの嫁入り

前回のあらすじ

・ユウキが子ネズミに餌付け

・ユウキ「お、重い……」

・コンラ「下がってろ」

 竹藪を切り払い、道を敷いていくコンラ。ユウキはそんなコンラの後ろを重たい鍋を両手で持ってえっちらおっちらとついて行っていた。


「方向合ってるか?」

「うん、そのまままっすぐ。途中で通路に出るけど、気にせず切り進めて!」


 がたがたに切られた竹の切り株のせいで若干歩きにくい道を、ユウキは必死に歩き続ける。

 破壊された竹藪の通路は、お世辞にも歩きやすいとはいえない。しかして、ここを通り抜けさえしてしまえば、まっすぐ帰還用の術式に向かって歩いていくだけであるため、相当な時間の短縮ができる。


 転ばないように気を付けながら、ユウキはひたすら脚を前に動かし続ける。ネズミの襲撃がないか心配していたが、流石に竹藪を切り払うすさまじい音に、倒れる竹の折れ曲がりねじ切れる音に、わざわざ近づいてくるような奇特……もとい間抜けなネズミは存在していなかった。


 迷宮の特性として、破壊された通路は探索者がいなくなればすぐに再生してしまう。そのため、常に道を作っておくようなことはできない。逆説的に、ダンジョン内に一人でも人間が残っていれば、破壊して作った通路は残るため、他のダンジョン__とくに有名どころで言えば、特四級ダンジョン【ミノタウロスの迷宮】などがそれにあたる。


 【ミノタウロスの迷宮】は登場するモンスターだけを見ると三級帯にあってもおかしくはない難易度だが、たった一つ、欠点がある。

 それは、入り口から壁を三枚破壊してしまえば帰還用魔法陣にたどり着いてしまうというものだ。


 モンスターはモブにオオカミ、ボスはダンジョン内を徘徊するミノタウロスがでるが、入り口はセーフティーエリアであるため、モブもボスも近づきはしない。結果として、【ミノタウロスの迷宮】では探索者協会の職員がシフト制でダンジョンに居座ることで、【迷宮】の名前を冠していながらも直線でダンジョンクリアできてしまう状態となっているのだ。


 なお、しっかり探索すれば迷宮の財宝やら何やらがあるため、無茶な探索をした結果の死者も出てはいる。特に徘徊型のボスであるミノタウロスは、出会えばほぼ即死と同義と言われるまでの強さであり、討伐事例は大体が三級探索者のパーティか一級探索者が個人の趣味で討伐したというものばかりだ。


 とにかく、現在ユウキらが探索し、破壊している竹藪も、彼等が帰還用魔法陣に触れて帰ってしまえばひとりでにもとに戻ってしまうことだろう。ただがた準五級のダンジョンに職員を置いておけるだけの余裕は探索者協会には存在していない。


 コンラ自身もユウキがまとめた竹藪ダンジョンの基礎情報を学んでから来たため、それくらいは知っている。だからこそ、きっちりとした舗装を施すことなく、とにかく歩ける地面を広げることだけに注力した。


「20m切った。休憩するか?」

「いや、もう一気にいこう。お腹すいてきた」

「そうだな」


 コンラの提案に、ユウキはそう言うとしっかりと鍋を持ち上げる。重たく熱くて仕方のない鍋だが、このダンジョンに挑戦した目的はクリアとこのタケノコである。こんなところにまで来て努力を無駄にするつもりはなかった。


 竹の落ち着いた香りの広がるダンジョンを破壊しながら、二人はやがて入り口同様の広場に出た。

 広場の中央には、このダンジョンで唯一竹の葉の積もっていない円形の大理石の地面。大きさはユウキの身長よりも少し大きく、大人数人が集まっても十分なスペースがとれるだろう。


「ついたな」


 コンラはそう言って手元の剣を軽く布でぬぐってから納刀する。

 数十秒遅れて、ユウキもなんとか広場にたどり着き、重たい鍋を地面において荒く深呼吸を繰り返す。


「つ、ついた……ありがとう、コンラ」

「これくらいなんともない。……いやお前、疲れすぎじゃないか?」


 ぜえぜえと息をする今にも倒れそうなユウキに、コンラはあきれたように言う。運動量的にはひたすら竹藪を切り払って道を敷いていたコンラの方があったというのに、彼は息ひとつみだしていない。ユウキは乾いた笑い声をあげるほかなかった。


「うん、もう少し鍛錬するよ……」

「ああ、そうしておけ」


 せめて体力をもっとつけないと、とつぶやくユウキに、コンラは小さく肩をすくめた。戦闘方面でユウキを頼る腹積もりなど、コンラには一切なかったが、守られる人間の戦闘力が赤子程度なら、コンラとて護衛方法を考え直さなければならない。


__判断は悪くないが……


 行動に愚かしさはない。おそらく彼はうっかり神の怒りを買って馬鹿馬鹿しい呪いをかけられたりはしないタイプだ。主にするならなかなかいい人材だろう。……もっとも、体力のなさはダンジョン探索において致命的ではあるのだが。


 コンラは軽く体を伸ばし、ユウキに言う。


「さっさと帰るぞ」

「うん。お腹すいたね」


 ユウキはそう言って苦笑いしながら、再度力を込めて鍋を持ち上げる。腕は既に相当痛い。明日もダンジョン探索はあるが、筋肉痛になりそうだ。明日は戦闘を徹底的に避ける予定だが、それでも動きに支障をきたすようなら予定を組みなおさなければならない。


 そんなことを考えながら鍋を持ち上げたその時。


「ヂッ?!」


 困惑したような、驚いたような獣の鳴き声が聞こえてきた。

 コンラは即座にその瞳に警戒心を宿し、片手剣を抜刀する。どこから聞こえてきた……?


 鳴き声の主を真っ先に見つけ出したのは、意外にもユウキの方であった。

 ボロボロの麻袋が何故かひとりでに動いている。引っ張られている麻袋の先端に、それはいた。


「あれ、君、タケノコのところにいた子ネズミ?」

「チュウ!」


 ユウキの問いかけに答えるように、小さなネズミが鳴き声をあげる。赤茶けた毛並みが渇いた竹の葉に隠れ、まるで保護色のようになっていた。

 ユウキはコンラに武装解除を目で訴える。コンラはぐっと眉をしかめたが、小さくため息をついて右手に握っていた片手剣を再び納刀した。


 ユウキは目を丸くしながら、鍋を地面において小さな子ネズミの体よりもはるかに大きな麻袋を引きずる子ネズミの方へ駆け寄る。


「どうしたの、君?」

「チュウ」

「え? あの、どうしたの?」


 しきりに何かを伝えたそうに鳴く子ネズミに困惑するユウキ。子ネズミは小さく声を上げた後、引きずってきた麻袋をユウキに押し付ける。


「えっと、これをもらっていいの?」

「チュウ!」


 ユウキの質問に、子ネズミは頭を大きく縦に振り、麻袋から体を放す。はがきほどの大きさの麻袋は、思ったよりも重い。じゃらじゃらと小さなにかがたくさん入っているようだ。


「ありがとう。その、僕が君に渡せるもの、ないけどいいの?」

「チュ!」


 子ネズミは短く鳴いて、首を横に振る。そして、地面に置いていたユウキの左手に小さな手を重ねた。

 ユウキの方を見上げる子ネズミ。ユウキはしばらく考えた後、子ネズミに問いかけた。


「もしかして、一緒に行きたいの?」

「チュウ!」


 ユウキの問いかけに、子ネズミは嬉しそうに首を縦に振った。どうやら、当たっていたらしい。

 ユウキは少しだけ悩んだ。モンスターは基本的にダンジョン外に持ち出してはいけない。とはいえ、ダメだというわけでもない。かわいらしいモンスターはペットとして生け捕りすることもあるうえ、イレギュラーで仲間になったモンスターも契約を取り交わすことで召喚獣として扱うことが可能となっている。


 少しだけ申し訳なさそうにユウキは子ネズミに問いかける。


「その、ちょっと不自由になる契約を取り交わさないとだけど、それでもいいの?」

「チュウ!」


 ユウキの問いかけに、子ネズミは勢い良く首を縦に振る。どうやら大丈夫であるらしい。

 ユウキからの了承を得たと判断した子ネズミは、ユウキの左手から一気に体を登ると、かぶっていなかったフードの中にその体を隠す。どうやらそこにいるつもりらしい。


「お、おちないようにね?」

「チュウ」


 フードの中でもぞもぞと動きながら、子ネズミは同意を意味する鳴き声を上げる。ユウキは少しだけ不安そうにしながらも、おいていた鍋の方へ移動し、コンラの方を見る。


「ごめん、お待たせ」

「気にするな。さっさと行くぞ」

「うん」


 短い言葉のあと、二人は大理石の上に描かれた移動用魔法陣にあしを踏み入れる。次の瞬間、二人と子ネズミ一匹はダンジョン入り口の竹藪に戻っていた。


__リザルト

攻略ダンジョン:【竹藪ダンジョン】

討伐したモンスター:飢えたネズミ

総討伐数:不明(複数体)

採取物:タケノコの水煮(12個)、麻袋(中身不明)

死者数:なし

補足事項:餌付けした子ネズミのモンスターが契約を希望、長嶋裕樹の召喚獣になる

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 子ネズミが仲間になりましたね。おめでとうございます。ユウキくんちの食費は大丈夫かちょっと気になるところです。 [一言] テスト勉強が一段落したのでしょうか、更新…
感想一覧
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