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20話 ハイブの過去

 王座の前で呆然していた俺の視界に突然ハイブが現れる。彼は気付かない内に俺の横に来ていた。


「航太郎殿、王が返事を待っています」


「えっ、あぁ、だがいきなり過ぎて何がなんだが……それにハイブは何故此処に?」


 頭の中がグチャグチャで思考が纏まらない。そんな俺の様子を見かねたハイブが王へ進言する。


「王よ。航太郎殿は少々混乱している様子。少し時間を頂けませんか? 別室にて私が説明します」


「ハイブよ、ではお主に任せるとしよう」


 ハイブは俺を立たせると、手を引き王の間から程近い別室へと案内した。部屋に入るなり設置されている椅子に座るよう促すと、部屋の前に立つ兵士に声を掛けお茶を用意してくれた。


「さぁ航太郎殿、お茶を飲んで気を落ち着かせて下さい」


 ハイブに言われるまま、お茶を一気に飲み干す。


「ゴホッ。熱っ」


 入れたての熱いお茶が喉を通り、むせて咳き込んだがそのお陰で随分と落ち着く事が出来た。


「やっと落ち着かれましたか」


「あぁ、すまない突然の事で混乱してしまった。王が言った意味はやはり俺にあの地域を治めろという事でいいのか?」


「その通りです。王は貴方にサイパンの後を任せると言っているのです」


 ハイブの言葉を受けて顎を手で触りながら自分なりにジッ考えてみた。


「ん~やっぱり解らん。何故そうなる? 何故俺なんだ?」


 そんな俺を見てハイブは何やら楽しそうだった。何がそんなに可笑しいのだろうか?


「ハイブ、何か知っているのか?」


「知っていると言いうか、王にそう進言したのは私ですので……」


「ハイブが……ハイブが言った位で簡単に聞き入れられる事なのか? いや普通違うだろ! ハイブ……お前は一体?」


 ハイブは俺の向かいの椅子に座り姿勢を正した。 その真剣な表情に俺もハイブから目が放せないでいる。

 

「航太郎殿も私達に自分の秘密を話してくれましたので今度は私の番です。 

 私は昔、王宮へ出入りする商人でした。毎年開かれる献上会でも何年か連続で選ばれ王とも懇意にさせて頂いておりましたが、ある年の献上会の前日に妻が連れ去られました。途方にくれていた所、誘拐した犯人から連絡が入りました。

 献上会で献上品を王の前で壊せ、さもないと妻と子の命は無いと……私は指示通り、王の前で献上品を壊し、開放された妻と共に街から去ったのです。 王とはあれ以来会っていませんでした、今回は突然の訪問でしたが会って話を聞いてくれました」


「それじゃ、以前言っていた。チングに因縁があるって言ってたのが……」


「はい後で調べて解りましたが、チングが裏で手を引いていた様でした。だが私が王の信頼を裏切った事には変わりありません。ですからその後は何も言わずに身を引いたのです」


「でもハイブは今回、俺の為に……」


「ええ、貴方はこの世界に必要な人だと思いました。私の下らない拘りなど、どうでもいいんです」


 ハイブが深々と頭を下げたのは初めて会った時以来だ、あの時は前村長の不始末の為に下げたが、今回は違う。


(俺がハイブに頼まれて、断れる訳が無いじゃないか……だが一つだけ引っかかる事がある……それは王に直接聞いてみるか)


 俺はハイブに頭を上げるよう言葉を掛けた。ハイブは一心に見つめてくる。 俺はホッと息を吐き、諦めた仕草でハイブに告げた。


「俺はハイブが頼み事をした場合は絶対に断らないと誓っていた。だからアンタの頼みなら領主をやってみようと思う。だけど俺一人の力じゃ足りない。俺が領主になる場合はハイブが補佐として付く場合だけだ。どうだ?」


 今度は俺が見つめ返したハイブも意外だったのだろう。驚いた表情をしていた。だがそんなに時間も経たずにハイブの口元に笑みがこぼれる。


「クックック。これは一本取られましたな。仕方ない私が仕向けた結果ですので、私も微力ながらお手伝いさせて頂きます」


 俺が手を差し出し、ハイブが握り返す。そして俺達は互いに笑いあった。


「あっ、あの馬鹿も加えてやらんと、怒って来そうだな」


 俺の言葉にハイブも頷く。


「航太郎殿が言えば、彼は喜んで来てくれるでしょう」


 その後、俺達は王の間へと戻る。王は待っていてくれたようだった。 その事に恐縮してしまう。


「王よ、遅れてすみません」


 片膝を付き、頭を垂れた俺が告げる。


「良い。それで気持ちは決まったか?」


「はい、微力ながら受けさせて頂きます」


「良くぞ決心した。各領主達には此方から連絡しよう。任命式が終るまでこの地に滞在してもらう事になるぞ」


「王よ、伺いたいことがあります」


「なんだ? 言ってみよ」


「今回、ハイブ村長の陳情が在っての事と聞きましたが、それだけで私を貴族にされたのですか? ハイブが王の前で無礼を働いた事も聞きました。王はその件があるにも関わらず話を聞いたのは何故ですか?」


 俺の言葉を受け王は何も語らず、ジッと此方を見ていた。いやハイブを見ているのだろう。ハイブは頭を下げたままだが、額から汗を流している。まさか俺がこんな事を聞くとは思っていなかったみたいだ。


「ハイブよ……私はお前に謝らねばならぬ。献上会の真意は後の調査でワシの耳にも入った。だが貴族達の声を抑える事が出来ず、犯人を捕まえる事無くお主一人を悪者にしてしまった。ずっとハイブの事が気になっておった。今回お前が来てくれた時は本当に嬉しかった。

 

 だが今回、航太郎を辺境伯にしたのはお前が言っただけで決めた訳では無いぞ。切っ掛けはお前であったが、その後調査を行なった結果。私が判断した事だ。

 辺境伯よ、お主の元へマリアが行ったであろう。あれは私が行かせたのじゃ。

 マリアは若いが、聡明で人を見る目もある。村や村人の様子、お主の言動なども含めて、大丈夫だと言っておったわ。これが答えじゃ 良いか? 

 最後にハイブよ、私はまた昔の様にお主と酒を飲み合う仲に戻りたいと思っている。たまには顔を出してくれ」

 

 王はそれを伝えた後、王の間を立ち去って行った。ハイブは頭を垂れたまま、涙を流していた。俺は一人で王の間を出ると部屋へと戻っていった。その後ハイブが戻ってきた時には、何時もの落ち着いた感じに戻っていたが、目が真っ赤なのは黙っておいた。


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「任命式があるのか?」


「新しい領主になるのですから、当然でしょう」


「何だか気が重いな。新参者が行き成り領主になるって言われて他の領主が納得するのか?」


「確かに反発はあるでしょう……王はそれを解っています。きっと大丈夫ですよ」


「まぁ、あの王なら何とでもするか」


 それから10日後、俺達は再び王の間に来ている。俺達以外にも各貴族14名が揃っていた。 その誰もが、俺達を怪訝そうに見ている。その重苦しい空気の中で王はゆっくりとカーテンから姿を見せた。


 誰もが膝を付き頭を垂れる。そして王が王座に付くと威厳のある声で言い放つ。


「この度サイパン卿が起こした、犯罪行為については皆も知る所だろう。 サイパン卿は辺境送りとなる事が決定した。よって、サイパン卿が納めていた地の内フロアの街から東部分をこの度任命したフェリィ辺境伯に治めて貰う事になった。皆の物依存は無いな?」


 その重い言葉に最初誰も声を上げなかったが、一人の年配の男性が発言する。


「恐れながら王よ。フェリィ辺境伯という名前など今まで聞いた事も在りませんが、一体どういった経緯でその地位を得た者でしょうか?」


「うむ。辺境伯はサイパン卿の不正を暴き、半分以下の兵力で領主軍を撃破をなしとげた、そして死の大地であった南の辺境を豊かな場所へと作り変えた男。 十分資質はあると思うが……?」


「それでも、かの者には貴族の血は流れておりません。何の教養もない者が領地を治められるとは到底考えられませんが?」


「シシリー卿は王である私の目が節穴と申しているのか?」


 ギロリとシシリー卿を見る王の視線は全員が恐怖を感じるほど鋭い。


「いえ、そういう訳で言っているのでは……」


 シシリー卿の額に汗が浮かぶ、それを見た王は表情を崩し言い放つ。


「今回、辺境伯が治めるのはフロアの街を含む東側である。デンバーはシシリー卿、カストロの街はオーバイン卿が治めよ。サイパン卿から没収した資産及び財産は残りの領主達に平等に分配するとする。これは王命である」


 王の毅然とした態度に他の者もそれ以上言う者もおらず、その後始まった任命式も無事終了した。


「やっとフェリィに帰れるな」


「これからが忙しくなりますよ」


「だろうな。やりたい事は山の様に在る。だが今は早く帰ってリアの顔が見たいんだ」


 俺はフェリィの方角の空を見つめそう呟いた。

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