19話 王国の王
フェリィの村から王都までは馬車で7日程度掛かる。日中は馬車で移動し、日が落ちる前に街の宿で休む、その繰り返しだ。最初は景色をみて感動した場所もあったが、何日も見ていると景色はどうでも良くなっていく。
馬車の中は俺とマリア王女とハンス執事の3人だけで、最初はマリア王女に気を使っていたが、ずっと一緒にいると少しづつ相手の性格も解って来る。彼女はメリハリのある少女で小さな事など気にしない。また見た目に寄らず博識であった、やはり王家に連なる者としての教育を受けているのだろう。
幾ら高度な教育を受けていると言っても、10歳の少女には変わりは無く俺がアメ玉を代価に質問すると色々と教えてくれた。
「ほら、約束のアメ玉だ。 さっきの質問に答えてくれ」
「解ったわよ。領主はこの国に15名程いるわ。各々が航太郎も知っているデンバーやフロア規模の街を3つ程度管理しているわ。一般的に貴族と言われる者は領主の事を言うのよ」
そう告げるとマリア王女はアメ玉を口に放り込み至福の表情を浮かべる。
「へぇ~、そうなのか。街を3つも管理するのが領主ならサイパンの私兵が600名って言うのは少なくないか?」
「もぅ、人が幸せに浸っている時に邪魔して。ハンスもそう思わない?」
「左様で御座いますな。マリア様」
ハンスさんは寡黙な方で必要じゃない事以外は余り喋らない。マリア王女が問いかけた時はいつも彼女に同意している。執事がこれでいいのだろうか?
「ホイル地方ならそんな物じゃない? あそこは貴方の村の後ろには灼熱の大地が広がり、誰も渡って来る事が出来ないわ。それに隣国との国境沿いに断崖絶壁のアイル山脈があるから、自治領さえ鎮圧出来る兵が居れば十分よ。意外と兵を養うのにも経費が掛かるものよ」
「じゃあ、アメ玉追加でもう一つ頼むよ。国はサイパンの行方を知っているのか?」
サイパンの顔を思い出し、俺は怒りに満ちた表情を浮かべた。俺にとってサイパンはリアに手を出し、更にフェリィを潰す為に攻めて来た男だ。許す事が出来ない相手で、もし何処かで隠れてのうのうと生活をしているならば何としてでも罰を与えてやりたかった。
「その質問には答えられないわ。でも心配しなくてもすぐ会えるわよ」
(国はサイパンの行方を知っているか、既に確保しているって事か……それなら王に会った時にでも聞けばいいかもしれないな)
それからも色々と話をしている間に時間は過ぎ、俺達は王都ザイオンへ到着する。
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流石は王宮だ建物も大きいが広さが半端無い、10m程の高さの城壁に囲まれた敷地内には美しい建物が幾つも建てられている。それぞれが各式典で使われるのだろう。通路以外の場所には芝が敷かれ美しい花も咲き乱れている。
俺のイメージでは街の周りに壁があり、街を守る感じだがこの国は違うようだ。城壁の周りに見渡す限りの家が立ち並び人々が暮らしている。
街に到着した馬車は何処に寄る訳も無く馬車は城門の中へ入った為に、ゆっくりと見れなかったが街も活気があり人が溢れていた。
「さぁ、帰って来たわよ。航太郎は彼が案内する部屋で過ごしてもらうわ。明日か明後日には王と会える筈よ。じゃあ頑張ることね」
王女はそう言うと楽しそうに俺の元から離れて行く。俺は案内役の兵に先導されながら王宮内の客間へ案内された。客間は20畳程の広さがあり、外国の高級ホテルの様に煌めいている。ベッドはふかふかで座ると体が沈み込む、そんな客間に設置されている高そうな椅子に座り明日の事を考える。
王との謁見で俺自身がどうなるのかは解らない、捕まったとしても指輪を外せば一時的に避難も出来るだろう。その場合でもリアの為に何としてでも此処へ戻ってこなければいけない。
重いため息が出るが、今考えても仕方ないと割り切り俺は謁見の時を待った。
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コン、コン、コン ドア叩くの音と共に一人の男性が顔をだす。
「航太郎殿、これから王間へご案内します。ご準備を」
俺は昨日、城の者に用意してもらった上等な服に着替え男の後に付いて行く。 長い通路の先には大きな扉があり、その両側には武器を携えた兵がたっている。 きっとこの先に王が居るのだろう。
部屋の中には幅3m程の絨毯が王座に向かい敷かれている。その絨毯を進むと途中で途切れており、その場所で片膝を付き頭を下げた。作法は昨日の内に教えられていたので大体は大丈夫だろう。
すると王座を遮るカーテンが開かれ王座に座る男の声が聞こえた。
「顔を上げよ。お主が航太郎か?」
王の指示に従い顔を上げる、王は60歳位に見える初老の男であった。王というからオーラの様な物でもあるのかと思っていたが、普通の優しそうなおじさんと言うのが第一印象だ。
「はい、私が航太郎です」
質問に対してのみ答える様に教えられていたので、そう答えた。
「お主に問う。 サイパン卿と何故戦ったのだ?」
「お答えします。サイパン卿は私の村に重い税を払うように言いました。 言われる通りの税を払うと村は生きて行けません。さらにサイパン卿は私の家族にまで手を出したので戦うしか在りませんでした」
「ふむ、税の事は隣村のハイブから陳情が上がっており理解している。お主は国と戦う事に恐れは無いのか?」
「確かに私一人では無理だったでしょう。ですが私には信頼して付いてきてくれる友人や村人がいます。彼等の為に恐れる訳には行きませんでした」
ただ正直に思った事を口にする。やはり王という事だろうか? 不思議と嘘や言い訳を言う気持ちにはなれなかった。
「そうか……一旦下がりなさい。次の者に話を聞こう」
俺の後方に従う兵士に誘導され、部屋の隅で立っている。すると再びドアが開き両手を縄で括られたサイパンが入って来た。サイパンは王の前で土下座の様に頭を下げる。
「サイパン卿、そなたには失望したぞ」
「王よ。王よ。私は王の為に、いや国の為に今まで尽くしてきました。確かに多少きつい税を取っていたかもしれませんが、これもみな王国の為に……」
「貴様は国が決めた規則も守らず、重税を敷き私腹を増やす為に国民を苦しめた。これは極刑に値する……だが、今まで国に尽くしてくれた功績も確かにあろう。よって私財・領土の没収、及び10年間の辺境送りとする。サイパン卿…… お主はやりすぎたのじゃ。
辺境でお主の身勝手な行いで死んで行った兵達に対して詫びるといい」
サイパンは床に土下座したまま、呻き声を上げ泣いている。今までぬくぬくと暮らしていた男だ。僻地での生活は苦しいだろう。涙や涎を垂らしたサイパンが無理やり部屋から引きずり出されるのを目にし俺の溜飲も下がっていった。
サイパンが退出した後、再び俺が王に呼ばれた。
「航太郎、次にお主に罰を与える。幾ら領主が悪いと行っても武器を手に取り戦う事は反逆と見なされても致し方あるまい。だが村の者達には処罰はせんから安心しなさい」
(俺もサイパンと同等に処罰を受けるのか……最悪なら一度日本に逃げるしか無いかもしれない)
片膝を付いたまま処罰を告げる王の言葉を待つ。たった数秒の沈黙が何分にも感じた。
「航太郎よ、お主もサイパン同様に辺境での労働を命ずる。何十年掛かっても辺境が豊かになるまで、その罪は消えないと思え!」
全身に鉛を付けられた様に体が重く感じる。俺は生唾を飲み込む、これが王の威圧なのだろうか、先ほどまで感じる事の無かったオーラを今はヒシヒシと感じていた。
「解りました」 それしか言えなかった。
「航太郎よ、お前に行ってもらう辺境はフェリィじゃ。かの地は今まで人が住める場所では無かった。 そこでお主は力を注ぎなさい」
その声を聴きハッと顔を上げた、目の前には当初目にした初老の男が優しそうに座っていた。
「それじゃ、俺は……いえ私はフェリィに戻れるのですか?」
「そういう事になるな。ただフェリィだけでは罪が軽かろう。よってこの連判状に書かれてある全ての村や街も豊かにするまで罪は消えない事としよう」
王は俺が見た事のある連判状を手にしていた。あれはハイブが俺に見せてくれた物であった。
「お主の事やフェリィ近辺の事情は調べさせて貰った。少しの期間であの地をあれ程まで復興させた手腕は大した物。サイパンが治めていた領地では、どの村も貧困で喘いでいる。お主の力で皆を豊かにするのじゃ。今後かの地をフェリィ地方と呼ぶがいい。良いな辺境伯!」
俺には意味が全く解らなかった。思考が付いていかず、ただ呆然とその場で固まっていた。




