渋谷の混乱
黒姫家屋敷、九十九月の館の玄関にて。
「大井さん、車の準備は出来ましたか?」
月彦がお手伝いさんの大井に問いかける。
「月彦様大丈夫です。家のことは平田さんにお任せしているので。二人を迎えにいきましょう。」
大井がそう答える。
「では向かいましょう。できるだけ急いでください。」
黒の中型のミニバンに月彦が乗り込む。運転は大井、目的地は渋谷だ。
「どれくらいかかりそうですか?」
「大体2時間かからないくらいかなと思います。寒川北ICから高速に乗って向かうので混んでなければそれくらいかと。」
大井が答える。
「わかった。それまで二人は大丈夫かな。」
車の中で月彦はそう思ったが渋谷の街は全然大丈夫ではなかった。
「はあ、はあ・・・。逃げても逃げても誰かがいるじゃない。その度に魔術で忘れさせたりしているけどキリがないわ。」
セレネが弱音を吐く。今いるのはさらに渋谷駅から離れた路地裏である。月彦と待ち合わせをするにも二人とも土地勘がないため場所を説明できない。スマホも操作が慣れないためあまり当てにできない。
「お嬢様!また誰か来ましたよ!」
ルナがこう告げる。
「あれもしかしてXでバズってるやつじゃね?」
「あの魔法のやつか?そういえばあの動画に似ているな。」
「捕まえれば大手柄じゃね?俺らで遊んでやろうぜ!」
やってきたのは明らかにチャラそうな男3人組であった。
「じゃあ俺から!」
男の一人がセレネに襲いにかかる。しかし、前にはルナが立ちはだかった。
「お嬢様には指一本触れさせない!」
「いいねー、どこまでその態度が持つかどうか。」
と言いながら男は襲いにかかる。だがその攻撃が通ることはなかった。
ルナが身長と同じサイズの魔術陣を地面と垂直に展開し盾として使ったのだ。黒魔術の防御法の一つ、黒盾術式である。
「何!」
驚く男。他の二人も驚愕する。
「次は私の番ですよ。」
三人の足元に巨大な1つの魔術陣が描かれる。
「「なんだこれ!」」
三人が叫ぶと同時に魔術陣が1秒ほど黒い光に包まれた。
「ぐえ!」
「なんだこれ心臓が痛い!」
「やばすぎる・・・。」
三人の男が倒れ出す。
魔術陣が消えると男たちの前にはルナが立っていた。ルナが使ったのは心縛術式であり心臓を魔力で縛り付けダメージを与えるものである。あまりやりすぎると相手を死に至らしめかねない危険な術式でもある。
「わかったでしょ。あまり舐めないで。」
そう言い三人の足元に新たな魔術陣を描く。
「やめてくれ・・・。」
男たちが懇願する。
「大丈夫、ダメージはないよ。ただ忘れてもらうだけだから。」
そう言うと魔術陣は3秒ほど黒い光を放ちその後消えた。
男たちは虚な目をしていた。
「今のうちですよ!お嬢様!」
ルナはセレネの腕を掴みその場から走り出した。
「はっ!今まで俺たちは何をしていたんだ?」
「分からない、路地裏に入ったところまでは覚えているんだけど。」
「あと胸が痛い。何があったんだ本当に。」
「さっきはありがとうだわ。でも心縛術式を使うなんてまた危ないことを。」
セレネがルナに話しかける。さらに渋谷駅から遠い路地裏に逃げ込んだようだ。
「仕方ないじゃないですか。短時間でしたら命に別状はありませんし。いきなり忘却術式は多分不可能でしたから、あの感じだと。」
「まあ確かにそれはそうだけどだわ。にしてもこのペースで逃げていたら体力も魔力も持たないわ。しっかり休まないと。しかし、休む場所がないわ。」
魔力は魔術師が魔術を使うのに重要である力である。魔術師自身が発する熱が変換されて魔力になっている。つまり体力を消耗すると魔力も消耗する形となる。
「プルル・・・」
スマホに着信が入る。月彦からのLINEだ。
「高速に乗って今急いで向かっている!」
「まだ神奈川県内でしょうから1時間以上は最低でもかかるわ。」
「マジっすか。まだ逃げ続けなければならないんですか・・・。」
絶望する二人であったが二人はまだ知らなかった。魔術師対策室が人物が動き始めたことに。




