東京逃避行
「さて、月彦が迎えに来るまで待たなければならないことになったわ。」
セレネの顔が曇る。
「しかもさっき顔写真を撮られてますからね。無闇に周辺を歩けませんよね。本当に申し訳ありません。」
ルナが謝る。ルナが不用意に魔術を使ったため事件の犯人にされてしまっていた。
「でも、私たちにはアリバイがあるわ。渋谷に来るまでは二人で電車に乗っていたし、その後もずっとカフェにいたわ。警察に堂々と言ったら・・・、いやダメだわ。魔術のことについて確実に聞かれるわ。これだけは隠さなければならないわ。」
セレネがこう言う。
「でも、これで魔術のことは確実に広がってしまいましたよね。」
ルナが言った。
「もう隠す必要もないってことかしら。」
はあとため息をつくセレネ。
「代々隠してきたのに、私の代で・・・。仕方ないわ、今はとりあえずどうやってこのピンチを切り抜けて屋敷に帰るかどうかを考えるわよ。」
セレネがこう言った。
「そうですね、今は何とかして切り抜けないと。」
ルナが答えた。
今現在渋谷の裏通りのビルとビルの狭い隙間に身を潜めている二人。今は見つからずに済んでいるがいつ見つかるかは分からない。正直時間の問題と思われる。
「とりあえず見つかるまではここで待機するわ。見つかったら魔術を使って相手の記憶を無くして別のところに逃げるわ。」
「そうしましょうお嬢様。」
とりあえずは作戦を立てる二人。黒魔術には相手の記憶を一部消去する魔術も存在する。今回それを使うとのことだった。渋谷では周りの人数が多く一度にまとめて記憶を消すのには無理があったためセレネは使わずに逃げるという選択肢を取った。また魔術を使うと余計に人々が情報を拡散すると考えたためでもある。
「しかし、魔術を使ったとしたら他の魔術師ということになるけど。私と同じ背格好なら絞られていくわ。」
「そうですね。他に私たち以外に魔術師がいれば話は別ですけれども。」
ルナがセレネの言ったことに答える。
「屋敷に帰ったら他の魔術師から話を聞きましょう。」
セレネがこう言った。
「あれ誰かいるぞ、あれあの二人さっき駅で見かけたような・・・、やっぱりそうだ!」
通行人がたまたまビルの隙間にいた二人を見つけた。
「見つかりましたお嬢様!逃げますよ!」
ルナが叫ぶ。そして二人は狭い隙間の奥へと消えていった。
「何、魔術師が事件を起こしたですって。ええ、わかりました私たちが動くということでよろしいでしょうか。」
「そうだ、全員保護の名目で確保してくれ。犯人はその後明らかにすれば良い。とにかく今まで秘匿にしてきたものがさらされたのだ。魔術師たちがどう行動するかこちらとしても分からない。」
警察庁警備局公安課魔術師対策室。詳細が伏せられている公安警察の中でも特に存在が伏せられている機関である。
正式には戦後警察庁成立と同時に誕生した組織であるが、前身は戦前に存在した内務省の内務大臣直轄組織である対魔監視隊であり、戦後もGHQ公認のもとの秘密組織として存在していた。そのため存在を知るのはメンバー以外には内閣総理大臣を含む内閣のメンバーや警察庁の一部上層部、防衛省の一部上層部などといった人物にしか知られていない。世界でも各国の国や軍のトップのみが存在を知る。
魔術師たちの監視、警戒、存在が公に知れるのを防ぐといった業務が主な任務であり、必要とあれば超法規的措置を取ることも辞さない。
電話を受けるのは魔術師対策室室長の大和大輔である。電話の先は内閣総理大臣である安田敏則である。魔術師対策室は兄弟の権力を持っており内閣総理大臣とも直接連絡を取れることになっている。つまりは内閣総理大臣が直接命令を下せるのである。
「対策室人員全員いるか。」
大和が声をかける。
「はい全員います。」
副室長の日向美香が答える。大和の前に8人が揃った。
「今渋谷で魔術師が殺人事件を起こした可能性があると連絡が入った。首相としては即座に魔術師全員を保護の名目で拘束し犯人を捕まえて欲しいとのことだ。あくまで保護だぞ。出来るだけ傷はつけるな。」
対策室のメンバーに緊張が走る。
「今から配置を説明する。長門、加賀、北見の三人は渋谷で魔術師の捜索だ。すでにSNSで顔写真は拡散されている。おそらく黒姫セレネと黒森ルナであろう。とにかくその二人を拘束だ。対魔術師用兵器群を使っても構わない。戦闘になるようならばな。」
「「はい!」」
長門、加賀、北見の三人が返答する。
「丹波と伊賀は今から関西に向かえ。赤川家と黄柏家を確保しろ。磐城と加賀は福島に向かえ。白神家を確保しろ」
「「はい!」」
「私と日向がここに残って指示を出す。総員出動だ。」
「「はい!」」
ついに魔術師専門機関が動き出す。




