謎の手紙
202X年 5月1日午前7時。
「お嬢様起きてくださいー。朝ですよー。」
若く明るい女性の声が屋敷内に響き渡る。
神奈川県高座郡寒川町の寒川神社近くの屋敷。そこは現存する魔術師の家系の一つであり、代々黒魔術を継承する黒姫家が所有している。
この世界では魔術は空想の産物でしかないとされている。しかし、魔術と呼ばれる物理学を無視した力を操る魔術師が日本に存在し、現在確認されているだけでそれぞれ違う色の名前を冠する魔術を継承する5つの魔術師の家系が存在していた。
「今起きますわ。」
お嬢様と呼ばれた女性がベッドから起き上がる。この女性の名は黒姫セレネ(世玲音)。黒姫家の十五代目であり、17歳の若き現当主である。10歳のころに急性骨髄性白血病で母由梨奈を亡くし、2年前に父であり黒姫家先代当主である月政を謎の事故で亡くして以降黒姫家当主として生活している。
セレネは部屋で身支度をし、黒のロングワンピースを着用して1階のダイニングへと降りて行った。
「おはようございます。セレネお嬢様。朝食の準備はできていますよ。」
お手伝いさんの大井裕子が声をかける。黒姫家に約20年間住み込みで勤めているベテランである。
ダイニングとテーブルは黒を基調としており、中世ヨーロッパ風のデザインが施されている。
「姉さんおはよう。」
「月彦、おはよう。今日はあまり寝られなかったわ。」
月彦と呼ばれた若い男性はすでにダイニングテーブルについていた。
黒姫月彦、セレネの2つ下の弟である。
月彦は今日の朝刊を見ながらセレネに声をかけていた。
「そうなの、やっぱり今日は何かある日なのかな。」
「分からないわ、だけどそうやって朝刊を読んでいるところがお父様そっくりだわ。」
「そうかな、真似しているわけではないけど。」
「今日でお父様が亡くなって2年だわ。時が過ぎるのは早いわね。」
そう言いながら席に座り、コーヒーを口へと運ぶセレネ。今日の朝食はトーストとコーヒー、サラダ、スクランブルエッグとソーセージだ。
「お嬢様、私のことも忘れないでくださいね?」
「忘れてないわよルナ。ただもう少し声を小さくしてほしいわ。」
ルナと呼ばれた女性が少し拗ねながら席へと座る。
黒森ルナ(瑠奈)、19歳。先ほどセレネを呼んだのは彼女だ。
セレネの六代前の当主の弟が江戸時代末期に興した家である黒森家の六代目当主である。魔術師の家系では本来なら次期当主の子供のみ魔力を受け継ぎ、次期当主以外の子孫は魔力を受け継がない。しかし黒姫家三代目の次男以降初めて次男として魔力を受け継いでいくことができた。それ以降黒姫家分家として黒森家と名乗り本家の補助にまわっている。
黒姫家の家事全般をお手伝いさんと共に全て行うとの条件で黒姫家に居候している。
セレネは魔術師の家系の当主である以上、人目につかないようにしなければならないと言う理由であまり外に出ないが、ルナはそれ以上に外に出たがらず、高校もセレネが現在通っている通信制高校である日本通信学園高校を単位ギリギリの状態で何とか卒業。卒業後は黒森家が所有する黒姫家のそばの屋敷から近い大学に入り、館で一人暮らしをする予定だったが志望校に全て不合格。さらにはこれ以上勉強したくもないし外にも出たくないと駄々をこねた結果黒姫家の居候となった。
「お嬢様は私のことをもう少し構ってくださいよ。」
「あら、邪険に扱っているわけではないわよ?ただ少し声が大きいから小さくしてほしいだけで。」
「声が大きいのは生まれつきなんです!」
「お前、静かにして。」
「そんな月彦様まで・・・」
明らかにショックを受けるルナであった。
そんな一幕もありながら朝食を食べていく3人。
「セレネお嬢様、朝ポストを見たらこのような手紙が入っていたのですが。」
もう一人のお手伝いさんである平田早紀が食事中のセレネに声をかける。住み込みではないが約10年間黒姫家に勤めている。
「あら、何かしら。」
セレネが横書きの封筒を手に取る。宛先には住所しか記載されておらず、差出人は記載されていない。
「おかしいわね、差出人が書いていないなら何も分からないわ。」
そう言いながら封筒を開けるセレネ。
中には1枚の便箋が入っていた。
「1枚だけ、何が書いてあるのかしら。」
そう言いながら便箋を読むセレネ。
「「2年前の惨劇の真相を話したい。5月7日15時、以下の場所で待っている。」
便箋にはこう殴り書きで書かれており、その文章の下には渋谷のカフェの名前と住所が記されていた。
「何これ、どう言うことかしら。2年前の真相ってまさか。あの男からの手紙かしらこれは。」
「姉さん、そうだとしたらどうする。この手紙の差出人があいつだとしたら。真相知っているのはあの男しかいない。会って話を聞くべきだよ。」
月彦がそう言う。
「おじさまの死の真相ですよね!そのことを知っているのはあいつだけですよ!2年前から行方をくらまして何も喋ろうとしない。いいじゃないですか、直接乗り込んで話を聞きましょうよ。」
ルナもそうセレネに声をかける。
「そうね、私もそう思うわ。たぶんこれは黒姫家当主である私に宛てられたものだわ。なら私が行かなくては。」
「ごめんけど、その日俺は高校に行かなきゃだから姉さんに任せることになるけど。でも姉さん一人で行ける?普段ほとんど出歩かないから」
月彦は普通の高校に通っている。県立相州平塚高校、地域のトップ校である。
「大丈夫よ、月彦。ルナも一緒に来てもらうわ。」
それを聞いたルナが吹き出す。
「私もですか!?」
「そうよ、流石に1人で出歩くわけには行かないわ。私よりも年上でしょ。道案内任せるわ。」
「そんな〜、私外に出たくないです!この豪邸から出たくないです!」
駄々をこねるルナ。ただそんなルナに月彦は容赦しなかった。
「お前。」
「はい!」
「一緒に行きなさい。」
「わかりましたよ〜・・・」
「月彦の言うことは素直に聞くのよねー。」
呆れるセレネ。それに対して顔を真っ赤にするルナ。
「とにかく7日に渋谷に2人でいくわよ。あれだけ分からなかった父の死の真相を知るために。」
初めまして!
初連載です。何卒よろしくお願いします。




